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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第二章 ヴァンダルベルク王国と最強の王
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第32話 会議と第一王子フィリップ(2)

中に入ると、大きな円卓のテーブルが相変わらず鎮座していた。

会議場はもう皆退出してしまい、誰もいない。


一番手前の席から三人は座った。



フィリップに何枚かの紙を渡された。

緊急で作られた資料のようだ。



見ると、会議の議題は四つ。

一、誰が、何のために暗殺したのか。

二、ドレアーク王国の関与は。

三、レガリア国への影響。

四、ヴァンダルベルク国王以外の被害者はいるのか。



「あ、あの・・・兄さん・・・」

下を向いたまま、レオンハルトが口をひらく。

フィリップは訝しむ。

「どうした、何か言いたい事があるのか。遠慮せずに言え」


そうは言っても、いざ兄たちを前にすると、億劫になる自分がいる。

(でも、大事なことを訊くんだから。そう、大事なこと)

こういう時にかぎって、ロベールは黙っている。

ひざの上に乗せた両手をぎゅっと握り拳を作った。

「王子は・・・、シュヴァルツ王子は・・・」

そう、それが一番今知りたい事。


フィリップもようやく合点がいった。

「――――――ああ。お前の友人だったな」

「うん」

「もちろん無事だ。特務部隊が生存を確認した」

「――――――――っ!!」



それを聞き、ヘナヘナと机に突っ伏する。

「よ、良かったあ~~~~」


(生きてた・・・!)




レオンハルトはガバッと顔をあげ、フィリップの顔を見る。

「い、いや、良くないよね!・・・暗殺って、ほんとなんだよね・・・?」

「ああ、事実だ」

ヴァンダルベルクの国王であり、シュヴァルツの父だ。

国王は、とてもおおらかな人で、遊びに行くといつも良くしてもらっていた。


シュヴァルツの悲しみは尋常ではないだろう。

シュヴァルツは母親を亡くしていて、兄弟もいない。だから今、彼は一人ぼっちなのだ。


誰か――――――そう、アラムがいる。彼がそばについていてくれたら。

どうか、お願い。





「死因はわかりますか」

ロベールが静かに口をひらく。

フィリップがチラリとロベールの顔を見て、目を伏せる。

「剣で急所を一突き、だそうだ」

「―――――――っ」

ロベールが腕組みをしてうなる。

「うーん、かなりの剣の使い手か、はたまた国王が気を許せるものの犯行か」

「国王が気を許せる・・・?」

レオンハルトは目を点にする。


フィリップが頷いた。

「ああ。その可能性も否定できない。その剣は、国王のいつも所持している剣だそうだ」

え?どういうこと?

「なるほど・・・、内部犯、か・・・」

「?」


ロベールが急に机をダン!と叩いた。

「一体、ヴァンダルベルクの内部はどうなっているんだ!」

めずらしく怒りをあらわにする。

レオンハルトも疑問に思う。

ヴァンダルベルク王国は、自他ともに認める平和主義を掲げ、その理念を貫いていた。

その国が。

「内部事情は知りませんが、陰謀や策略とは無縁の国だと思っていました。にわかには信じがたいですね」


フィリップは黙る。

そしてテーブルに両肘をつき、手を顔の前で組む。

「まったく予想外、というわけでもないんだ、ロベール君」

「え・・・」

「どういう事ですか」

ロベールが厳しい顔つきになる。


「ヴァンダルベルクに不穏な動きがある事は、前から聞いていた」

「それは・・・知らなかったな・・・」

ロベールが絶句する。

(ロベールでも知らない事があるんだ・・・)

レオンハルトは思わず変な部分に驚いてしまう。



「まあ、知っているのは限られた人間だけ・・・あとは特務部隊の諜報班だ」

「諜報班ですか・・・」

フィリップが頷いた。


(諜報班・・・)

普段、いつどこで何をしているのかはまったく誰にもわからない。

秘密裡に行動し、他国の情報を収集し、逐一知らせる。


勿論レオンハルトにもわからなかった。

(しかも、どんな人がこの仕事をしているのかも知らないよ、僕・・・)

ふと、脳裏をかすめる。

(限られた人間だけ・・・)

その中に、他の兄弟も入っているのだろうか?

父さんが、それを決めているのだろうか?


レオンハルトはぶんぶんと頭を振った。

今はそれを考える時では無い。




ロベールが難しい顔をする。

「しかし内部犯なら、次の一手として次期国王も殺し、自分がその国王の地位に就く、というシナリオを描いているのではないでしょうか。だとしたら、王子は邪魔になるはずだ。しかし、王子は生きている。無傷ですよね?」

フィリップが頷く。

「ああ。諜報班が確認した限りでは、だが」


「・・・・・・」

(まさか・・・)

レオンハルトの体から血の気が引いていくのがわかった。

いやいやそんな事はあり得ない。



ロベールがレオンハルトをチラリと見た。

少しためらったが、フィリップの方を向いて口をひらいた。

「―――――――()()()()()、ということも考えられますね」



ガタン!



レオンハルトの座っている椅子が大きな音を立てる。


「ロベール!!」


思わず立ち上がっていた。



怒りでわなわなと震えだす。




目をつぶってロベールがレオンハルトに片手をあげた。

「悪い、レオンハルト。でもな・・・」

ロベールが言うのを制し、フィリップが話しはじめた。

諭すように、ゆっくりと。

「レオンハルト。実際、過去にそういう国もあるんだ。理由がはっきりしない今、考え付く事はすべて出しておかないといけないんだ」

「でも、だからって、口にしなくても・・・!」


(だって、シュヴァルツが国王を――――――なんて、考えられないし、考えたくもない!)


「もちろん、あの王子が国王である父を殺すなんて酷い人物であるとは思えない。だが、謀反を起こそうとしている人物にそそのかされた等、そういった場合もある」


「そんな・・・」

レオンハルトは崩れるように座った。



フィリップは大きくため息を付く。

「国王以外は誰も少したりとも被害を受けていない。可能性として高いというだけだ。しかし今後の展開でどう変わるか」


ロベールは腕を組みなおす。

「もう、これ以上考えても埒が明かないですね」


「ああ。すべてが憶測に過ぎない。暗殺理由も、だれがやったのかも、まだわからないんだ。私たちがここで議論していても仕方が無い」


ふとロベールが気づく。

「では、この議題の二、ドレアークも関与は否定しているのですね?」

「ああ。もうドレアーク側とも話はついている」

「まあ、関与していても関与していないとウソはいくらでもつけますよね」

ロベールが皮肉って言う。

フィリップが苦笑した。

「そうだな。しかもドレアークはアラザスへの攻撃のみを公言している。三国間会議でもそう取り決めているのだから、そうなると違反行為となる」


「うーん」

ロベールがうなった。

フィリップがそれを見て笑う。

「まあ、今ここで答えが出るものでもない」

そして書類に目を通した。

「では、まだ上がっていない議題三、についてだが」

(議題三、レガリア国への影響・・・)


フィリップがおもむろにロベールを見る。

「王宮の警備に関しては、さっき執事長が言っていたとおりだ」

「あー・・・」

ロベールは少しバツが悪そうだ。

フィリップが苦笑する。

「それと、王宮は勿論、今後の戦争の事も踏まえて、辺境の警備も増やす事にした。あとは各地にいる傭兵だ。彼らとのつながりも強化する」

「そうですね、それはいい」


(辺境・・・)

あのフラープファンネの辺境伯のおじいさんのところもだよね、きっと。

ヴァンダルベルクと隣接しているんだもの。




「そんなところだ。また何かあれば執事が呼びにくるだろう」

フィリップが立ち上がった。

二人もそれに倣う。


「おまえたちももう休め。今日は先遣部隊として疲れただろう」

「兄さんは?」

「私は、国王がいない間は国王代理なんだ。寝ていられないよ」

「そんな・・・」

「私の仕事だ」

そう言ってほほ笑んだ。






****



「兄さん、大変そうだな・・・」

レオンハルトはシュンとなる。

「第一王子なんだ。いつもそういう覚悟でいるんだろう」

「・・・そっか・・・」


兄さんは意思が強い。

どうしたらあんなかんじになれるのだろう。


レオンハルトには、全くわからなかった。





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