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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第二章 ヴァンダルベルク王国と最強の王
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第31話 会議と第一王子フィリップ(1)

王宮に戻った時には、すでに陽が落ち、暗くなっていた。

しかし王宮の窓は、両翼塔以外は煌々と明かりが漏れている。




「ただいま戻りました」



レオンハルトとロベールが正面入口から入ると、エントランスホールでは、こんな時間でも魔石ランプが何個も点灯し明るく、忙しなく人が動いていた。


忙しそうなので静かに帰りを告げると、若い男性がひとり、レオンハルトに気づき駆け寄ってきた。


「王子、おかえりなさいませ。もう皆様会議場で会議を行っております」

早口で伝える。

「うん」


執事の中では一番年下だ。

彼らも事の重大さに焦り怯えているのか、顔色が悪い。

「君はちゃんと休んでいるのか?体調がすぐれないのでは?」

レオンハルトは、たぶん自分と同い年くらいのその若者を気遣った。


すると言われた執事は首をぶんぶんと大げさに振る。

「め、滅相もございません!王子の方こそ、倒れられたと聞いたのですが、大丈夫なのでしょうか・・・?」

「あ・・・」

もう、話が伝わっているのか。

(恥ずかしいなあ)


ロベールが後ろから執事の肩にポンと手を置く。

「ああ、もう大丈夫。時間が無いから会議場へ向かうよ」

一応、執事と従者では、執事の方が位は高いが、この若い執事が年下ということで、ロベールは日ごろから彼に対して敬語は使っていなかった。


「は、はい!では、私もこれで!」

若い執事は駆け足でその場を立ち去る。


ロベールに促され、レオンハルトも歩き出す。

歩きながら、遠ざかる執事の方を振り向き、声をかけた。

「心配してくれてありがとう」


「い、いえ!」

一際大きい声がホールに木霊した。








「え・・・」

会議場へ着くと、すでに会議は終わったのか、まばらに入口から人が出てくる。


「どうやらもう終わったようだな」

ロベールがため息をつく。

(そんなあ・・・)

ガッカリしていると、


「あ、兄さん」


兄たちも出てきた。

ギルベイルはレイティアーズと話しをしながらどこかへ行ってしまった。

フィリップは、執事長やアレクシスと話しをしながら歩いてくる。

横ではロベールが行き交う人たちに丁寧にお辞儀をしていた。



その兄たちがレオンハルトたちに気づく。


執事長がこちらへやって来た。

アレクシスだけはこちらをジロリと一瞥し、スタスタとどこかへ行ってしまった。


「か、会議は終わったのですか?」

いつもは柔和な風貌の執事長だが、今はとても威圧的なオーラをまとっていた。

暗殺の件が、どれほどの事なのかがわかる。

その様子に少し尻込みしながらも、レオンハルトは訊いた。


「ええ。会議の内容を説明いたします」

(お。執事長直々?)

少し予想外だ。



すると、

「私が説明します」

フィリップが執事長の横に来た。

(え・・・?)

そしてレオンハルトたちに小さい声で伝えた。

「国王がこれから仮眠を取られる。執事長は国王へ付いていなければならない」

「ああ、そうか・・・」

(父さんもずっと落雷現場にいて、疲れているだろう。少しでも休まなければ・・・)


フィリップが執事長を見る。

「執事長は国王の方へ。あとは私が」

「わかった」

執事長は納得し、歩き出そうした。



「執事長、お願いしたい事があります」

突然、ロベールが執事長の背中へ声をかけた。



ジロリ、とロベールを振り返る。

「・・・なんだ」



「国王が仮眠を取られるという事で、()()、国王の寝室周辺の警備は万全だと思いますが、」

「・・・何が言いたい」



「この王宮()()()()()を見直した方がいいのではないかと思いまして」


「なに――――!」

執事長の顔色が怒りの表情へと一気に変わった。




「ろ、ロベール!」

レオンハルトは悲鳴を上げそうになる。

隣にいたフィリップも、片眉を吊り上げる。


そりゃそうだ。

国の中枢にいる人物に向かって、王子の従者とはいえ、執事長より圧倒的に地位の低い従者が、国の政治に口をはさみ、苦言を呈するようなもの。


・・・そりゃ、王宮の警備体制が抜け穴だらけなのは、立入禁止書庫に潜入した時に実証済みだけどね。

ロベールがそれを進言する理由は、きっと、立入禁止書庫に入れてしまった事でそう思ったのだろう。




ロベールを見ると、彼は眉ひとつ動かさず、平然とした顔をしている。

(ロベールぅぅ)

うう、変な汗が出てくるよう。

(頼むからもう変な事は言わないで!)




「ほお。では、見直さなければいけないような理由でもあるのかね」

執事長が憮然とした態度に戻る。

「理由・・・」

ロベールは顎に手をおき、少し考える。

(ロベール!立入禁止書庫の件は言っちゃ駄目だよ!)

レオンハルトが心の中で叫ぶ。

思わずロベールに熱視線を送ってしまう。


そして口をひらいた。

「今回の暗殺の件、ですね」

(そ、そうそう。そうだよ)

レオンハルトはホッと胸をなでおろす。

大体、ロベールが立入禁止書庫に無断侵入した事なんて、言うわけが無いんだ。


「それだけか」

「はい。敵はどこから侵入してくるかもわかりません。念には念を入れて、警備を強化した方がいいのではないかと思いまして」


「ふん。警備の強化に関しては、今の会議で話し合った。心配には及ばん」


「そうですか」

ホッと安堵するロベール。


執事長が大きなため息を吐く。

「ロベール。私は前も言ったつもりだ。一介の従者が、そんな事まで口をはさむものでは無いと」

「はい。申し訳ありません」

謝っている割には、悪びれていないように見えるのは、レオンハルトの思い過ごしだろうか。


「ふん」

そんなロベールを一瞥し、執事長は行ってしまった。



「ロベールぅぅ!!」

「おわっ」

レオンハルトがロベールに抱きつく。

「もうっ、変な事言っちゃダメだよう~!」

「変な事じゃないだろ。正しい事を言ったまでだ」




「・・・ロベール君、今のは穏やかじゃないね」

「へ?」

(兄さん?)

隣で事の成り行きを聞いていたフィリップが難しい顔で口をひらく。


「そういった発言は控えた方がいい」

「はい。王子」

ロベールはそう短く返した。



するとフィリップが肩をすくめ、ふっと微笑んだ。

「いや、私は、執事長とは別の意味で、だけどね」

「え?」

めずらしく、ロベールが意表をつかれた表情になった。



「君のような若くて頭脳明晰な人物が、今、上に立てつき、それこそ職を失ってしまいでもしたら、私も困るよ」

そう言って片目をつぶる。

「はあ・・・」



(そういう意味か)

久しぶりに茶目っ気な言い方をする兄さんを見た。

「そ、そうだよね!兄さん!もっと言ってよ!」

レオンハルトは急に強気になる。


ジロリ、とロベールに睨まれた。

「お前まで加担するなよ」

「だ、だってぇ・・」

ゴメンナサイ、チョットチョウシニノッテマシタ。

(フィリップ兄さんが言うように、もしロベールの地位が危うくなれば、僕だって困る・・・)


「とにかく、従者らしく控えめに、ね」

フィリップの発言に、ロベールが小さくつぶやく。

「従者らしく、ね」




「話は変わるが、レオンハルト、体調は大丈夫なのか?」

「え!?ああ、もう、ぜんっぜん大丈夫!!」

そう言って身振り手振りで体調回復を示した。

「・・・・・・」

それを冷ややかな目で見るロベール。

(だ、だって嬉しいんだもん)

めずらしく、フィリップと長い時間話しをしているし、体を心配されたので、嬉しくなって大げさなリアクションをしてしまったのだ。



フィリップは腕組みをして微笑む。

「そうか。それはそうと、魔法が使えるようになったんだってな」

「う・・・」

その話ももうみんなに通ってるの?



魔法・・・。



(フィリップ兄さんは、もしかして、魔法が使えるようになったから、僕に話しかけてくれてるのかな・・・?)

そう、変に勘ぐってしまう自分がまだいる。


少し沈んでいるレオンハルトを見て、ロベールが口をひらく。

「まあ、あとは、練習すれば、なんとかなるんじゃないですかね」

「ちょ、ちょっと!」

(期待させるような事は言わないでほしい!)

魔法ったって、まともなものはまだ一回しか発動していないんだから・・・。

「ほう、そうか。頼もしいな」

「に、兄さん!あまり期待しないで!」

「成人をむかえたから、かな」

「ど、どうでしょうねえ」

レオンハルトはもう適当に答えるしかない。

(だって、僕にもなぜ今頃魔法が発動したのかわからないし)



フィリップがふと何かに気づく。

「レオンハルト、【フォルスネームの儀】、まだやっていないだろう」

「え」

思わずギクリとする。


「ああ、そういえばまだだな」

ロベールも思い出したように言った。

「申し訳ありません、僕もすっかり忘れていました」

「いや、こういった事は上層部が・・・、まあ、戦争の話などで忙しかったから、仕方ない事ではあったんだが・・・」

(僕は、覚えてたけどね・・・)




【フォルスネームの儀】とは、ひとつの儀礼だ。


【フォルスネーム】とは、自分で持つ事の出来るもう一つの名前。

もう一つ名前を持つ理由として、身分を隠し行動しなければならない時、また、戦で敗北した人間が本来ならば捕虜になるところを逃げ延び、別の人物として生きていく為に使用することもしばしばある。

そういった様々な理由の中で、身分を隠さなければならない時がある王族は特に、フォルスネームを設定している。


元々フォルスネームは、出生時に、両親などから本名と一緒にもらう名前である。

当然、その名前は自分と、その名づけ親しか知らない事になる。

そして、成人する十八歳の年に、そのフォルスネームを自分の意思で変える事が出来るのだ。

勿論、その名前に不服がなければ、生まれた時のフォルスネームをそのまま継続して使う事ができる。


そして、今年成人したレオンハルトは、まさに今がその【フォルスネームの儀】をやらなければいけない時期なのだ。

特に王族では、この儀礼を、神聖にきちっとしたものとして執り行う風習があった。




フィリップがレオンハルトの方を向き、目をしっかりと見つめる。

「【フォルスネームの儀】、後日執り行おう」

「―――――――っ」

レオンハルトは言葉に詰まった。

その心が、とても複雑だったからだ。

嬉しさと、悲しさと、相反する感情が押し寄せる。



「でも、ヴァンダルベルクの件は・・・」

無言になってしまったレオンハルトの代わりに、ロベールが言った。

「もちろん、暗殺の件以降、何も起こらなければ、の話だ」

「ええ・・・」

チラリとロベールがレオンハルトを見るが、まだ無口のままだ。


「その話はまた。早速会議の話をしよう」

立ち話もなんだから、とフィリップに会議場に入るよう促された。

レオンハルトとロベールは、会議場から出てくる人々に逆行し、その間を縫うように入っていった。




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