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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第二章 ヴァンダルベルク王国と最強の王
30/95

第30話



『そっか。おまえも、平和を願うのか』


『僕たち、同じだね』




『じゃあ、誓いを立てよう!』


『・・・誓いを立てる?』




『名前を、こうして、紙に書いて』


彼はどこからか一片の象牙色の紙を持ってきた。

そして、拙い字で一生懸命書く。


『あ、でもこれだとバレるとまずいから、名前は【フォルスネーム】で書こう!』


『【フォルスネーム】・・・?』


『フォルスネームだよ。・・・持ってないのか?』

彼が驚く。

レオンハルトは頷いた。

僕、おかしな事言った・・・?


『いや、持ってるはずだぞ、特に、王族は』

特に、王族は・・・?


『じ、じゃあ、あれだ!お前の好きな名前でいいよ!あ、本当の名前じゃなくてだぞ?』

彼はそう言って、自分の()()()()()()()を紙に書いた―――――――。

それを見つめながら、考える。


『僕の、名前――――――――』








『おまえは、本当に王族なのか!』


飽きる事のない、罵声。

第二王子の端正な顔がゆがむ。

『魔法も使えない、王子としての品格もない、それでも王族か!!』



ああ、僕は、


僕は、




()()なの――――――――!











「・・・ハルト」



「レオンハルト!!」



「――――――あ」

ロベールの顔が目の前にあった。

ただ、視界がぼんやりとしている。



「おい、大丈夫か?」

その顔はとても心配そうだ。


「え?あ、あの・・・僕・・・」

レオンハルトは状況が把握できない。


はーっと大きなため息が聞こえた。

ロベールはドサっと勢いよく座る。


(あれ・・・ここは?)

辺りを見渡すと、見知らぬ場所だった。

レイティアーズや国王たちがいた民家のつくりに似ている。


そして僕はどうやら、横になっているようだった。

「僕、どうして・・・」


「お前は倒れたんだよ。それで、近くにいた騎士団団員と一緒に、この民家まで運んだ」


「そ、そうだったの。ありがとう。・・・じゃなくて、ええ!?倒れた!?どういうこと・・・」


「こっちが聞きたい台詞だよ!!」

ガンガン叫ばれて耳が痛い。


「ひえっ、ごめんなさいっ」

身をちぢこませた。




「そういえば、大丈夫なのか?さっきうなされてたみたいだけど」

「え?」

うなされてた?


(そういえば、夢を見てた)

(なぜか、小さい頃の夢だったような・・・)

でも、おぼろげで思い出せない。

「大丈夫なら、それでいい。寝床を借りてるんだ。どこもなんともないなら、早いうちに出るぞ」

「うん」

キョロキョロ見渡すが、レオンハルトとロベールの他に人がいない。

「ここの家主は外出中だよ」




「そうだ、ヴァンダルベルク王国のことだが・・・」

レオンハルトに説明しようとしたが、ふと、動きが止まった。

「・・・ロベール?」

「おまえ、どこまで記憶があるんだ」

「へ?」

「・・・ヴァンダルベルクの国王の話は、覚えているか」


「ヴァンダルベルク・・・?」

ええと、特務部隊の人が馬に乗ってきたのが一番新しい記憶のはず。

そして、その人が国王の前まで行き、


そして・・・、



「―――――!」

体が震えた。



「思い出したか」


そうだ。

ヴァンダルベルクの国王が――――――――。



「・・・そんな、信じられないよ」

いまにも泣きそな表情になった。


「僕もだよ。だが、うちの特務部隊は優秀だ。誤った情報であるとは思えない」

「・・・・・・」

・・・なんと残酷な優秀さなんだ。



「そうだ。シュヴァルツは!?・・・彼は、無事なんだろうね・・・?」

本当は聞きたくない。

考えたくもないが、でも、聞かなければならない。

心臓の音が早鐘を打つ。


ロベールはひとつため息を落とし、

「それは、まだわからないんだ。今確認している最中だろう」

「そっか・・・」

ぎゅっとこぶしを握る。

大丈夫。

きっと、大丈夫。




ロベールが立ち上がった。

「王宮へ戻るぞ。おい、立てるか?」

「え?う、うん。大丈夫だよ」

ゆっくりと立ち上がった。

「・・・っ」

頭が少しズキリとした。

「おい」

「だ、大丈夫だよ!」

(ああ、僕なんで倒れちゃったんだろう・・・)

自分のふがいなさに嘆く。




少しふらつくが、なんとかロベールについていった。

「ここの後処理はもう終わったの?」

「まだ終わってない」

「え、大丈夫なの?」

「数名残るようだ。本当なら、もっと大人数で作業するところだが、緊急事態が発生したから、予定変更になった」

「そ、そうか・・・」

それなら仕方ない、か・・・。


「さあ、急ぐぞ。お前が寝てたせいで、僕らは一番最後だよ」

「え・・・。ご、ごめんなさい」

本気でシュンとするレオンハルトに、ロベールが苦笑する。

「冗談だよ。一番最後の部隊は今出発したところだ」

「な、なんだ・・・」

ああ、でも、こんなとこで倒れてる場合じゃなかった・・・。




ロベールが戸口の扉に手をかけ、ふと動きが止まる。

そして振り返った。

「・・・大丈夫なのか、レオンハルト」

レオンハルトの目をまっすぐ見た。

「なにが?」


「ヴァンダルベルクの国王の件で倒れてるようじゃ、今後もしもシュヴァルツ王子の身に何かあったら―――――――」

「だ、大丈夫だよ!!」

ムキになり大声を張り上げた。

「――――・・・そうか」



「心を強くもて、それしかない」

「うん・・・」

あれ。これ、誰かにも言われたな。

そうぼうんやり考えた。

(そうだ・・・レイティアーズだ・・・)

大事なものを護るため、気を強くもて、と。






二人は民家を出た。

レオンハルトは草原をぐるりと見渡す。

「・・・この集落にも、また来なきゃだね」

また、彼らの力になれるように。


ロベールはチラリと落雷現場の方を見遣り、その目を伏せた。

「ああ」

そう、短く答えた。





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