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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第一章 レガリア国と最弱の王子
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第28話 最弱の王子(8)


レオンハルトは、ようやく言い合いが終わったロベールに声をかけ、一緒にヴィクトールのいる火災現場へ向かった。



その途中、ある民家を通り過ぎようとした時、国王らしき声が聞こえた。

(父さん、住民と話しをするって言ってたな)

王宮の警備兵も一人、玄関前に立っている。

「おい、レオンハルト」

ロベールがたしなめる。

警備兵も不思議そうな顔をして何か言いたそうだったが、レオンハルトがシーっと指を手元にあてたので、そのまま黙った。


扉を少し開け、のぞいてみた。

「ちょっとだけだよ」

単純に、何を話しているのか興味があった。






「はい、家の立て直しなどの補償はします。それはあとで詳しくお話しします。それまで、お気持ちを確かにお持ちください」


(やっぱり父さんの声だ)


そこには立派な軍服と軽装備に身を包んだ国王がいた。

近くには何人か王宮の人とアレクシスとギルベイルがいた。


「それまで?いつまでじゃ」

住民だろうか、一人の白髪のおじいさんがジロリと睨む。


「それは、迅速に致します」

アレクシスが国王に代わってすばやく答えた。


「聞けば、近々戦争になるそうじゃないか」

別の青年が言う。

国王がうなづいた。

「はい。ただ、我が国の同盟国の単独での戦ですので、まだどうなるかは」

「同じことじゃ!」

おじいさんが声を荒げた。


辺りがシーンと静まり返った。


(うわあ・・・)

レオンハルトはごくり、と唾を飲み込んだ。




「・・・わしは、二十年前の戦争を知っている」

「・・・」

国王も沈黙した。

「だからこそ、戦争などしたくない」


彼らの言葉には、経験者ならではの重みがあった。

誰も、何も言えない。

国王が口をひらく。

「その事に関しては、本当に国民の方々にご心配をおかけしていて、申し訳なく思っております」

そう言って、深々と頭を下げた。

国の王が直接国民に謝罪するなど滅多にないことだ。

だからこそ、そこにいた皆がただならぬ事であるとかんじた。


張りつめた空気が漂った。



そして国王は顔をあげる。

「出来る事なら我々も回避したい事です」

その表情は堂々としている。

「ですが、ここは我々を信じてください。我々が国民の皆様を守ります」

「・・・・・・」


(さすが、威厳あるなあ)

国王の風格。

そういうものが自然と体から溢れている。


(ああ、そうか、そういうことか)

レオンハルトはひとり納得した。

勿論、多くの人物の前で、今までも国王の演説などは見たことがあった。

(兄さんたちが言う『王族』としての品格は、こういう事も言うのかもしれない)

だとしたら僕には到底無理じゃないか。



住民たちは、まだ納得していない様子だったが、ひとまず話はつき、終了した。







踵を返し、民家を後にしようとしたその時。

玄関前にいた警備兵も気づいたが、遅かった。



ドオン!


誰かがレオンハルトたちにぶつかってきた。


「いてっ」

「いてっ」


同じような声をあげて、尻餅をつく。

同じくぶつかったロベールは頑丈なのか微動だにしなかった。

「大丈夫か、レオンハルト」

そう言って手を差し伸べる。

「う、うん・・・」




そしてぶつかってきてレオンハルトと同じく尻餅をついた人物を、二人で見た。



「カリム!」


「!」


レオンハルトは笑顔になった。



それは見知った顔であった。




「レオンハルト!」


カリム、と呼ばれた少年も、途端に破顔した。








****



「レオンハルト、いや、レオンハルト王子、どうしてここへ?」

「『王子』はいらないよ、レオンハルトでいいよ」

レオンハルトは苦笑した。

「いや、そんな恐れ多いって」

そう言ってカリム、と呼ばれた少年は焦る。

するとレオンハルトがむくれた。

「今更そんな、友達だろっ」




カリム=チェザーレ。


身長はレオンハルトと同じくらいで、無造作な茶色い髪。

少年のあどけなさを残した、十八歳。

レオンハルトと同い年である。


彼はレオンハルトが引きこもっていた時期に、ロベールが町へ連れ出し、そこで出会った友人であった。

しかし、もう何年も会っていなかった。



三人は、警備兵のいる玄関前から少し横に移動した。

「久しぶりだね、カリム」

「・・・うん」

さきほどの笑顔とはうってかわって、消沈した面持ちだ。

「カリム?」


「おじいちゃんの家が、半分焼けちゃって・・・」


「あ!」

ロベールと顔を見合わせた。

もしかして、延焼した家の?

ほとんどの家が全壊してしまい、最後の一軒だけは半壊だった。


「カリムのおじいさんの家だったんだ・・・」

そういえば、昔、カリムの母親の実家がこのサージュ草原だと聞いていた事を思い出した。

「大変なことになったね・・・」

(なんて、声をかけたらいいかわからない・・・)

カリムの悲痛な表情。

ああ胸が痛い。

ロベールも、沈痛な面持ちになる。


(あ。さっきの声を荒げたおじいさんはもしかしてカリムの・・・?)




「ここの家が修復されるまで、しばらく町の俺の家で一緒に暮らすんだ」

「そっか・・・」


(家の修復は、国が補償してくれる)

「国が補償してくれるから、気を確かに持って」

国王と同じ事だけど、言ってみた。

「あと、僕になにか出来ることがあったら言って」

「ん・・・、ありがとな」



俯いていたカリムだが、ガバッと顔をあげた。

「しっかし、変わらねーな、お前。まだまだおこちゃまじゃん」

「ムカムカ!!そういうカリムもねっ」

「ふっ」

二人は顔を見合わせて笑った。



――――――懐かしい。

あの頃に戻ったようだ。

(また一緒に遊べたらいいのに)

それは、胸の中だけにしまっておいた。

レオンハルトの身分がバレて、無理矢理引き離されてしまった当初は、本当に泣いて喚いた。

今は、そんな振る舞いは出来ない。




「レオンハルトも入るのか?」

「え?」

家に、と指差す。


「いや、あの・・・」

覗き見してました、なんて言えない。

ロベールがくすくす笑った。

「あ、もしかして、うちのじいちゃんまた何か言ってた?」

「え?」

「いや、最近ますます頑固になっちゃってさ、時々困るんだ」

「そうなの?」

「・・・・・・」

カリムはレオンハルトをチラリと見て、うつむく。


「・・・どうした?」

ロベールが穏やかな声できいた。


「・・・特に今、戦争の話が出てるだろ。だから、余計に怒りっぽいっていうか・・・」

「ああ」

「じいちゃんは戦争経験者だからさ」

「そうか」

「・・・」

レオンハルトもうつむく。


「あ!でも!大丈夫なんだろ!?レガリアは戦争しないよな!?」

「――――――!」

レオンハルトは胸に強い衝撃を受けたような感覚になった。

ロベールは眉間にしわを寄せて目をつぶる。



レオンハルトはかぶりを振る。

かなり動揺していた。

「ご、ごめん、わからないんだ」

「・・・そうか、そうだよな。お前に戦争の話だなんて・・・ごめん・・・」

「僕も、ごめん・・・」

(言葉が、見つからない・・・)

「じいちゃんの話きいてるとさ、やっぱ戦争ってイヤだなって、思ってさ」

そう。

きっとそれが、普通の国民の感情。


「・・・」

僕らは、うなづく事しかできない。

「ま、実感無いけどさっ」

「うん」


―――――――僕は、彼になんて言ってあげればよかったんだろう・・・。





「僕たちはこれから作業があるから、行くよ」

「今日は会えて嬉しかったよ」

「うん。俺も、もう会えないと思ってなかったから、びっくりしたけど、嬉しかった」

――――――もう、会えないと。

泣きそうになる。

「・・・うん。じゃあ、またね」

二人はしっかりと目を合わせ、別れの言葉を告げる。


カリムがロベールに向き直る。

「ロベールも、ありがとな。あんたには色々昔助けてもらったしな」

「え?」

レオンハルトは驚く。

聞いたことの無い話だ。

ロベールを見やるが、彼は飄々とした表情をしていてよくわからない。

「お前が王子だってバレて遊べなくなる前までは、怪我した俺の弟を、わざわざ王宮の救護室まで連れてって、まあ、こっそり、だけど、無償で治療してくれたり、レオンハルト、お前が遊びに来るたびに、お菓子とか、持って来てもらてたんだぜ」

「そ、そうなの、知らなかった・・・」

レオンハルトが絶句する。


レオンハルトが町の住民と遊んでいたのは勿論お忍び。

だから、ロベールが一人で考えて行った行動という事だ。

ロベールだってその頃まだ十代半ばなのに、そんな事ができちゃうんだ、すごい・・・。

その頃から、ロベールは優秀だったんだな。


「・・・なんか、僕が餌付けしたみたいな言い方に聞こえるけど」

ロベールが苦笑する。

「おう!そうだよ餌付けだよ、え・づ・け!すっげえ美味しかったんだぜ、そのお菓子」

屈託なく笑った。

カリムは裏表の無い人物で、本当に良い友人を持ったと思った。



「あ、誰か出てくる」

カリムが戸口を見る。


(や、やばい!)

国王やアレクシスだったら、やばい!

(いや、やましい事なんてしてないんだけどね・・・)

「じゃ、じゃあね!カリム。また!」

「おう!またな!」


カリムは民家へ入って行った。



(また、会おう)




夕日の光が、草原を照らそうとしていた。







****



後ろを振り向くと、国王やアレクシスたちがぞろぞろと民家から出てきているのが見えた。

話し合いも終わったので、これから王宮に帰るのだろうか。







「国王!」



するとそこへ、馬に乗りかけてくる人物たちがいた。


(あの恰好は・・・)

――――――国王直属の特務部隊の伝達兵だ!


(なんだろう)

レオンハルトは気になって立ち止まる。

特務部隊は、戦闘はせず、伝達や諜報活動などの特殊任務に従事する。

伝達兵は遠くにいる部隊に情報を逐一伝達する兵士。

飛行の時もあるし、こうして馬に乗って駆けてくる事もある。



「どうした?」

ロベールも振り返ってみる。

「!」

ロベールも特務部隊だと気づいたらしい。

「なにかあったのか」

すぐに険しい表情になった。




伝達兵は馬を降り、国王の前まで走る。

そうとう急いで馬を走らせたのだろう、息がかなり上がっているのが見て取れた。


それを見て国王の顔色が変わる。

「なにごとだ」



はあ、はあ、と息が荒い。

一度、つばを飲み込んだ。

そして。




「ヴァンダルベルクの」


「なに?」






「ヴァンダルベルクの国王が亡くなりました!」



「―――――――!」



(な・・・に・・・?)

レオンハルトは全身から血の気が引いていくのがわかった。




伝達兵は声を潜めて付け加える。

「暗殺された可能性があります」




(あん・・・さつ・・・?)



レオンハルトの視界が闇に呑まれた――――――――。


足もとから、崩れ落ちる。




(そんな・・・)



彼、



彼は・・・?





シュヴァルツ――――――――!




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