第24話 最弱の王子(4)
レイティアーズは王宮の大広間へ来た。
そこには国王をはじめ、各大臣など幹部たちが集まっていた。
勿論、指示を仰ごうとしている軍務大臣もいて、彼らは各々立ち話をしていた。
三人の王子もいた。
国王がレイティアーズに気づく。
「おおレイティアーズ、こちらへ」
レイティアーズは一礼し、国王の近くへ行った。
「落雷による火を消してくれたそうだな、感謝する」
「いえ」
目を伏せ、短く言う。
国王がレイティアーズに近づく。
声をひそめる。
「どうだ、あやつは使えるか」
「・・・あやつ、とは?」
「レオンハルトだ」
「ああ」
「戦力にならんだろう」
「・・・は?」
レイティアーズは一瞬、何を言われているのかよくわからない顔をした。
「まあ、国の体面のため役職をつけてやったが、使えないようであれば、おぬしの判断で戦争時にははずしてよい」
「な―――――――」
レイティアーズは信じられないという目で国王を見る。
何を言っているのだ、この人は――――――。
レイティアーズの肩をポンポンとたたき離れる。
また別の人物と話し始めた。
(それが、本音か――――――)
ギリ、と歯噛みした。
ついさきほど、レオンハルトは国王から貰った剣を、大事そうにしていたのだ。
レイティアーズは足もとに目を落とす。
(私は、勿論、国王を尊敬してきたし、これからも騎士団員として国を守っていくつもりだ)
しかし。
(果たして、これでいいのか―――――?)
ロベールが悲観するのもわかる。
「それにしても異常です。王宮にまで落ちるとは」
誰かが言った。
ハッとレイティアーズが顔をあげる。
そうだ、今はこうしてなどいられないのだ。
それを契機にみな口ぐちに言う。
「今までに無いことだ」
それを聞きながら、軍務大臣の元へ向かった。
「戦争が起き、自然が破壊されたりすると、マギアスが乱れ、異常気象などになったりするというのを聞いたことがあります」
「ああ、それはよく言われるな。遠い西の国では川が氾濫したと」
(異常気象、か・・・)
会話している幹部たちを横目でチラリと見る。
では戦争になったらもっと異常な現象が起こるのでは?
また別の話になった。
「この戦争が起きようとしている今、落雷の消火活動なぞに時間を割いている暇は無いのだぞ」
「もし今敵に攻め込まれでもしたら・・・」
「だから私は前々から軍備を増強しろと言っているのです」
国王の周りで幹部たちが次々に不満を口にする。
当の国王もそれを言われれば、黙って聞いているほか無いようだ。
「軍務大臣」
ようやく目当ての人物の元へたどりついた。
今までも災害などで騎士団が借り出される時は、いつも軍務大臣の指示を仰いでいた。
体格の良い軍務大臣は、軍服を着て、その上に軽装の装備をつけているのでますますガッシリとした体付に見える。顔もイカツイので女子供には怖がられるらしい。
彼は常日頃から王宮であろうが町の中であろうが剣を腰に差している。
現場には出ないで指示を出す役目のはすだが、いつでも何が起こってもいいようにしているのだろう。
「レイティアーズ、被害状況を確認する」
「はい」
軍務大臣はとても真面目な性格で冗談など言わないので、すぐさま仕事の話に入れるところが気に入っている。
「落雷の状況だが、王宮に落ちたのは、お前が遭遇した中庭だけだ」
「そうなんですか」
王宮に落ちたのはあの中庭だけ。
なんと運が悪い。
レイティアーズは心の中で苦笑した。
「あとは王都の東はずれのサージュ草原に落ちた。民家五棟、木が数本が現在も燃えているとのこと」
「民家も・・・」
「人的被害は無い。みな避難している」
「あの地域に住んでいる兵士などが消火活動をしているようだが、人員が足りない。今すぐ騎士団員を派遣したい」
「はい、早急に」
「水属性魔法を使える者と、力仕事のできる者を」
「はい」
「ただ、戦争がある状態だ。あまりそちらにばかり人員を割いていられない」
(となると、少ない手数で広範囲に消火できた方がいいな)
レイティアーズは考えをめぐらす。
「では上級魔導士を十名ほど、あとは体力のある者を」
「ああ。我々もすぐに出発するが、この雨だ。到着が遅くなるかもしれん。現地につき次第、消火活動を頼む」
「了解しました」
「では、よろしく頼む」
深々とお辞儀をし、レイティアーズは身を翻した。
****
レオンハルトはすっかり体があたたまり、髪も乾いた。
ロベールが温かいお茶を宿舎にいたみんなに配ってくれた。
(あったまる~)
そんな束の間の休息。
宿舎の扉が勢いよく開いた。
「団長だ!」
レオンハルト以外の皆もすっかりくつろいでしまっていたので、皆が起立し姿勢を正した。
「落雷現場へ行く」
入ってきた途端レイティアーズが早口で伝えた。
早足で歩きながら自分の定位置へドカッと座った。
そしてダンダリアンと話しはじめた。
すると、各部隊隊長を集め始めた。
隊長は全員会議室にそろっていたので、みんながレイティアーズたちを囲むように集まった。
勿論、まだ隊長職を解かれていない第七部隊隊長のレオンハルトも。
第一部隊隊長のヴィクトールもいつのまにか会議室へ来ていた。
レイティアーズは後ろの地図を見た。
「場所は王都の東はずれのサージュ草原」
「そんなに遠い場所じゃないですね」
ダンダリアンが眼鏡をかけ直す。
王都の中にあるが、はずれにあるため王宮の周辺にあるような町の賑やかさは無く、農家が集まっている地域だ。
馬なら一時間ほどで行けるだろう。
「民家と木が燃えているそうだ」
周囲がざわついた。
レイティアーズは軍務大臣からの情報を伝えた。
(人的被害が無いのが救いだな・・・)
レオンハルトは少しホッとする。
しかし、家が無くなるのも大変だ・・・。
(ん?あれ、サージュ草原・・・?)
どこかで聞いた事があるような・・・。
「先発隊は水魔法が使える上級魔導士十名と、体力に自信のある者二十名ほど」
「ふーん・・・。うちの部隊からは二名だな」
ヴィクトールが言う。
そうして各部隊からの適任者を皆で話し合い、なんとか人数調整した。
レオンハルトには誰が適任かよくわからないので、口を挟まない事にした。
(うーん、やっぱりこういうのって難しい)
それとも、みんなの力量がわかるようになって、もっと経験を積めば、会話に参加出来るようになるのだろうか。
「そんなに時間はかからずに行ける場所だろうが、雨なので馬だと地面がぬかるんでいるかもれん。気を付けて行け。それと、各自装備をよく整えて行け」
「はい!!」
一斉に準備に取り掛かかりはじめた。
「あ、あの、僕は・・・」
レイティアーズに聞いてみた。
レオンハルト的には、さきほどレイティアーズが言っていた先発隊のメンバーの条件は満たしていない。
魔法も使えないし、体力にも自信が無い。
待機、でいいのかな。
レイティアーズはレオンハルトをチラリと見る。
三人の王子のうち、ギルベイルと二男アレクシスが現場へ行くらしい。
・・・レオンハルトは特に何も言われていない。
「王子、お前も来い」
有無を言わせぬ強い口調だ。
「えっ!?あっ、はい」
とまどいながらも、レオンハルトは出発の準備に取り掛かることにした。