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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第一章 レガリア国と最弱の王子
20/95

第20話 騎士団第七部隊


その頃、ドレアーク王国内のどこか―――――――――。



「なに、あやつが?」

「はい、そうです」

仄暗い室内。

数人がひそひそと内密に話しをしている。


「確信が無い事をする事など、リスクしかないだろう」


「そうです。我が国で手を貸すとなると、めんどうな事になりかねない」

「なんのメリットがあって」

「アラザスにはまだ攻撃を仕掛けていない。あやつがアラザスの同盟国であるからして、我が国で手を貸したのが明るみなればめんどうな事になる」

「ですが断れば――――――」


話しの中心人物が、苦渋の表情を浮かべる。

「ええい、わかった。ではお前達にまかせよう」

「御意。では、そのように」










****


「レオンちゃんも来たのかい」



「わっ、バイオレットさん!」

椅子に座って上目使いにこちらを見る。

バイオレット=ポドワン。


レオンハルトは驚く。

そこにある巨乳に驚いたのではなく――――――いや、確かに見慣れていてもドキリとする事はあるが―――――――今は、その右手に赤い大剣を持っている事に驚いた。


はじめて見るものだった。

「これは、バイオレットさんの・・・?」

「ん?ああ、この剣かい?そうだよ」

テーブルに置かれた鞘の横に道具がいくつか置いてあり、剣の手入れをしているようだ。

全長がバイオレットの体の半分以上はあり、柄に比べて剣の幅は三倍はある。

なんといっても、大剣の全長の半分以上が刀身であり、よく手入れされているのか赤く輝き、見る者を魅了する。


(こ、こんなのをバイオレットさんが持ってるの・・・?)


「持ってみる?」

「うえ!?い、いいいいいいです!大丈夫です!」

(見た目からして持てるわけがない!)

あまりのうろたえようにロベールが苦笑した。

(よくこんな重そうなもの扱えるな・・・)

ますますバイオレットを尊敬してしまいそうだ。



「レオンちゃんは第七部隊だったね」

「はい」

「あたしは第二部隊の隊長だよ、よろしくね」

(うわっ!僕って騎士団の階級的にはバイオレットさんと同じ立ち位置!?)

や、やばい。有り得ない!

「こ、こちらこそ!」

思わず声がうわずると、ロベールとバイオレットが顔を見合わせて笑った。





レオンハルトとロベールはバイオレットと別れ、第七部隊員たちが集まっている方へ歩き出した。


「・・・バイオレットさんの剣、凄かったね」

ぼそりと呟く。

まだ驚きを隠せない。

王宮にある剣でも、あんなに大きいものは見たことが無い。

「お前のもあるからな、装備」

「そうなの?僕専用?」

「基本的には、騎士団で支給される装備は皆同じものだ」

「そうなの」

「しかし、魔導士としてレベルの高い者や、騎士団で地位の高い者は、自分で好きな装備をすることができる」

「じゃあ、もしかしてバイオレットさんのも専用!?」

(あんなの皆が同じの持ってるなんて、有りえないもんね!)

ロベールが頷く。

「あれは彼女が自分で調達した剣だ。騎士団での訓練の時に使用している愛用品だ。あれを使えば敵をなぎ倒せそうだ」

「うんうん」

日頃から鍛錬している強いバイオレットが使うからこそ、使いこなせるのだろう。






「キャー!」

突然、悲鳴が聞こえた。

何事かとレオンハルトが驚く。

そこは、ちょうど向かおうとしていた、窓際付近。

第七部隊の隊員たちが集まっているところだ。


(あれ?)

レオンハルト以外は誰も悲鳴に気づいていないのか?


いや、気にしていないのだ。


それでもレオンハルトは声の方へ駆け寄った。

「ど、どうしたの?」

「あ!レオンハルト王子!こんにちは」

皆が一斉に挨拶してくれた。

(嬉しいなあ~)

人数は約十名くらいだろうか。

「はい、こんにちは!・・・じゃなくて、い、今悲鳴が・・・」

「ああ」

隊員の一人が、そう言うと顔を下へ向ける。

そこには、小柄な女性がいた。

床に置いたカバンの中を、ひざを付き何やらごそごそと探している。

何か小さく叫びながら。

「ああっ無いっ」

「えっ、な、何が無いの・・・?」

その女性が探すのに夢中で声をかけずらいので、レオンハルトは近くにいた赤い髪の男性に声をかけた。

男性はポリポリ頭を掻きながらポツリと言った。

「たぶん、ポーション」

「・・・ポーション?」

「回復薬のポーションだと思われる」

ぶっきらぼうだが教えてくれた。


ポーションとは、魔法のかかった飲み薬の事である。

様々な種類の薬が存在し、主に回復薬として、傷の治癒などに用いられる。

いつどこででも使用する事ができるように小瓶に入っており、持ち運びに便利だ。

魔法を使えない者でも、それを飲めば治癒できる。

逆に毒性のあるものなども作られる事もあり、これは魔物や敵を倒す時に使用される。

調合士などが調合し、作成する。

直接調合士から買うか、道具屋などでも販売されている。

しかし残念ながら、レオンハルトが求めるような、エミィロリンの病気を治すような薬は無い。




カバンの中をのぞいてみると・・・

「うわっ、いっぱい!!」

カバン中、ポーションだらけだった。

小瓶だらけで、割れないのだろうか。

「いったい何個入って・・・」

すると女性がこちらを振り返って声を張り上げる。

「九百九十九個です!!」

「きゅ、きゅう!?!?」

レオンハルトの声が思わず裏返る。

カバンの中に999個のポーション。

(う、うそだろー)

しかし、とてもそんなに入っているようには見えない・・・

レオンハルトはもう一度中をのぞいてみた。

どこにでもあるような焦げ茶色のカバン。

見た目はポーションの小瓶を縦に十個ほど並び入れたらいっぱいになりそうだ。

使い古されたようなかんじで、ところどころ色あせたり剥がれたりしている。

こんなカバンでポーションを入れたら、底が破れて穴が開くのでは?と心配になるぐらいだ。


ロベールも隣にしゃがみこみ中をのぞく。

そして彼女に問いかける。

「【空間魔法:アイテム収納】か?」

「はい」

彼女は当たり前のように頷いているが、中々習得できる魔法では無いはずだ。

レオンハルトは魔法の授業での勉強を思い出した。

七大属性の中の『無』属性。

その無属性の中で一番難易度の高い『時空魔法』系統の中の【空間魔法】。

その名のとおり空間を操る魔法。

空間魔法にも様々な種類の魔法がある。

彼女の場合、ロベールが【空間魔法:アイテム収納】と言ったのだから、何も無い場所に空間を作り出し、そこにアイテムを入れる事ができるようだ。

ただ、入れられる物の制限はある。

アイテムの出し入れは自由自在だ。

彼女の場合、カバンの中に空間を作っているのだろうか。

空間の大きさはその魔導士の魔法能力に依存し、能力によっては無尽蔵にアイテムを収納できる可能性もある。


彼女の空間魔法はどの程度のレベルなんだろう・・・。

「私はまだ覚えたばかりで、ポーション999個程度しか入りませんが・・・」

申し訳なさそうに彼女がうつむいた。

(いやいやそれだけ入ってれば十分です)

しかしすぐに顔を上げる。

「でも!この999個ぎっしりみっちり入っているのがちょうど良いんです!!」

なぜか力説した。

「え・・・?」

(なにが丁度良いの・・・?)

彼女が何を言いたいのかわからない。

その彼女がレオンハルトに顔を近づける。

「ぎっしり!!」

「は、はいっ」

思わず後ずさった。




「999個もあるなら、少しくらい無くても大丈夫なんじゃない?」

気を取り直して、事を荒立てないように、つとめて穏やかに言ったつもりだったが・・・

「一個でも足りなくなるとダメなんですぅ~」

半べそだ。


(どうして駄目なんだろう)

それに、せっかく【何個でも入れられる空間】を作っているいるのに、ぎっしり入れたら空間が無くなってしまうではないか。


「うーん、どうしよう」

レオンハルトが困っていると、横でさっきの赤い髪の男性が言う。

「いつもの事だ」

「え!そうなの!?」

「彼女と俺は前から騎士団に所属していて、よく知っている」

「あ・・・」

そっか、だから誰も驚かなかったのか。

(って、いつもあんな悲鳴上げられたらたまったもんじゃない・・・)



「そ、そろそろ自己紹介したいんだけど・・・」

レオンハルトがロベールにこそこそと話す。

下でごそごそと探しているのを、腕組みをしながら見ていたロベールも、さすがに苛立ちを隠せないようで、ムッした表情だ。

「ああ。構わずに先を進めよう。これでは日が暮れる」

と、二人で話していると・・・、


「あ!ありましたあ~」

どうやら見つかったらしい。

「え!どこにあったの!?」


「ポケットの中ですう~」

「・・・・・・」

「うっかりでしたあ~」

てへへ、と笑った。



「は、はあ・・・」


脱力・・・。







「第七部隊のみなさん!隊長のレオンハルトです、よろしく!」

レオンハルトはなんとか気を取り直して、自己紹介をはじめた。

隊長の役割などは、勉強したりロベールに聞いたりはしたのだが、実戦となると別だ。

(あとでバイオレットさんに聞こう・・・)

なんとも頼りない。

(とりあえず、隊員の顔と名前を覚えよう・・・)

大体は顔見知りであるが、さきほどの空間魔法の女性のように知らない人物もいる。



空間魔法の女性が元気よく自己紹介した。

「レン=レインです!回復魔法と空間魔法が使えます。よろしく!」

その元気の良さに呆気にとられる。

(彼女も戦闘員なんだよ・・・ね・・・大丈夫なの?)

自分の事は棚にあげ、レオンハルトは思った。

日頃鍛錬しているのだろうかと思うほどの細見の体つきだ。

まあ、戦闘になった時に、遠くから回復魔法を放つ、という事もできるだろうけど。


レン=レインは、金碧色の後ろ髪を襟足あたりまで伸ばし、綺麗にまっすぐに切りそろえられている髪が特徴的な女の子だ。

年齢は十七歳。

服装も変わっていて、薄いシンプルな白い長袖シャツ、サスペンダーの付いた膝より少し短い丈の藍色のズボン、といった動きやすい服装をしていた。

(こ、これは私服・・・?)

なかなか見かけない服装だ。

特に女性がズボンをはくのはあまり見た事が無い。

(変わった子だなあ)





(な、なんとか終わった・・・)

ひととおり自己紹介が終わると、隊員たちは各々の仕事に取り掛かった。

(レン=レインさん以外とは、うまくやっていけそうな気がするけど、部隊をまとめるとなると、僕なんかが出来るのか・・・?)

不安が大きくレオンハルトの心にのしかかかるが、とりあえず今は、ロベールに教わりながら隊長としての雑務をこなした。




ある程度仕事が終わり、隊員たちもまばらになってきた夕刻。

騎士団長がレオンハルトとロベールの方へ近づいて来た。


「レオンハルト王子」

「あ、レイティアーズ」

相変わらずビシッと乱れの無い出で立ちだ。

背筋がピーンと伸び、仕事で疲れているだろうに、それが微塵も見られない。

レガリア国議会などを通して、少しレイティアーズと仲良くなれた気がするが、やっぱり騎士団にいるとどこか遠い存在に見える。




「今、時間はあるか?」

「え?う、うん」

なんだろう・・・。

「では、訓練場へ」

(訓練場?)

「行こう」

ロベールもレオンハルトの背中を押した。

(何かやる事あったっけ・・・?)





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