第2話
ここ数十年、プラネイア大陸はあちこちで戦争が起こっていた。
そんな中、活躍するのが『魔法』であった。
プラネイア大陸には『魔法』の力が存在していた。
『マギアス』という自然界にあたりまえに存在するエネルギーが体内に自然に蓄積されるので、それを魔力に換え魔法を使用する。
ほとんどが体に自然に蓄積されているが、強大な魔力が必要となった場合は、特に大量に体内に取り込む必要がある。
そしてマギアスは、七大元素に基づき七つの属性で構成される。
それぞれ『火』、『水』、『風』、『地』、『闇』、『光』、『無』である。
しかし、『無属性』の『時空魔法』系統は現在使えるものはいないと云われるほど難易度の高い魔法である。
その魔法を使う人間を「魔導士」と呼び、修練すれば新しい魔法を覚えたり魔法を強くすることができる。
魔導士は魔力や技術により、ランク付けがされ、上級魔導士、中級魔導士、初級魔導士と三つの階級で呼ばれる。
マギアスはあたりまえに存在するが、魔法がほとんど使えない人間もたくさんいる。
力でいえば、初級魔導士よりも下にあたるが、それは『魔導士』という言葉は使わない。
どのくらいたくさんいるのかというと、大陸の人口の割合の40%が魔法がほんの少ししか使えない人間、残りの5%が上級魔導士、20%が中級魔導士、35%が初級魔導士という構成である。
昔魔法は、魔物退治にしか使われなかった。
マギアスなどによって突然変異で巨大化した魔物などがはびこり、時に人間のいる居住地に出没して被害をもたらした。
それらを退治する為、魔導士たちはより高度な技術を求められ、人々は日々魔法の修行に励んでいた。
その甲斐もあり、現在では魔物はある条件の整った場所でしか活動しなくなった。
魔物が町にいなくなって安心したのも束の間、現在の魔法は『戦争』というものに使用されることが多くなった。
戦争以外では、主に普段の生活の中で活躍する。
例えばランプに火を灯したり、軽い物を浮遊させたり、これらはほんの少しの魔力でも発動する。
皆あたりまえのように使用しているので、レオンハルト達が魔法禁止の場所へ来て魔法が使えないのを嘆いていた事は、当然の事といったら当然になる。
そして、戦争時の「戦力」としての魔法を使えるのは、100人に一人と云われ、数はそう多くない為、この大陸のほとんどの人間が、生活の中だけでのみ魔法を使用しているといってもよい。
「ここから先は現在は王侯貴族しか入れない場所らしいぜ」
ポツリと入口の門を見ながらロベールが言った。
祈りの場所、「ステラティアの丘」のある区域。
門の前は人だかりができていた。
ここから先は、入場制限されるらしい。
警備員だろうか、それともこの国の軍隊だろうか。それらしいゴールドローズの国の紋章をつけた黒い服装の男二人が門の両端に立っていた。
「えっ、でも・・・そうでもない気がするけど・・・?」
キョロキョロと辺りを見回す。
待っている人たちの身なりは普通に見えるが。
現在戦争があちこちで起きているので、特に国の上層部などは身元が判明されると、不利益になる。
こういったお祭り騒ぎの場所では、特に身分を隠してお忍びで来なければならない。よっぽどの大義名分でもないかぎり、一般市民に混じって堂々と歩けないだろう。
いくら「永世中立国」の国といえど。
だからこそ、レオンハルトたちも暑くてもローブを頭から下まで纏っていたのだ。
それに、レオンハルトの国の一般市民でも、期間中にここへ来た事のある者はたくさんいたはずだ。
「ああ、今はな。流星群の期間だけ、特例で一般市民もこの先の祈りの場所へ進めるんだ」
「そうなんだ」
ロベールによると、戦争により永世中立国になって以降、この保護区ゴールドローズではこの先は一般市民が立ち入る事を禁じられている区域になっているらしい。
しかし特例で、流星群の一カ月間だけすべての人間に門が開かれている。
この魔鉱保護区ゴールドローズは、数年前まで戦争をしていた。
戦争の火種は、『魔鉱石』をめぐる争い。
『魔鉱石』とは、長い年月を経てマギアスが蓄積されて岩石等と同化して出来た魔力のある鉱物である。
主に鉱山で発掘される。
魔鉱石自体ではそのままだと力を発揮できないので、専門の職人が精錬して『魔石』にする。
魔力が微量のものや見た目が美しいものなどは、主に加工して護身用や装飾品として店で売られる。
武器武具に装備するとその能力を高める事ができる。
また、伝達媒体としても使われる。
魔石を伝達媒体である物体へセットし、魔導士がその物体へ魔法を注ぎ込むと、一定時間その物体は魔法を発動し続ける。
ランプを例にとると、魔石をランプへセットし、魔導士が火を灯す魔法を唱えると魔法が発動され火が灯る。
その為、魔法がほとんど使えない人たちに特に需要がある。
ただ、鉱石にも属性があるので、同じ属性同士の魔法でなければ魔法は発動しない。
また、効果が切れた後も、魔法を注ぎ何度も使用できるが、ある程度消耗されると、鉱石は消滅してしまうので使用頻度にも気を付けなければならない。
消耗品なので尚更に需要が途絶える事は無い。
だから魔鉱石をめぐって争いが絶えない。
だがすべての鉱石がそうでは無い。
上質な鉱石ほど、耐用年数が長く、中には半永久的に使用する事ができるものある。
ゴールドローズは、戦争により勝利した側の国の属国となっていたが、その国がまた別の戦争で敗北。
国が破綻し、ゴールドローズを手放した。
また、ほとんど防戦一方で、攻撃にさらされたので、ゴールドローズの土地は荒れ果てていた。
有史以来例を見ないほど壊滅的な惨状であったらしい。
それもあった為、プラネイア大陸の各国の有識者たちが会議をし、戦争を二度としない国、どこの国とも同盟を結ばない国、の宣誓を掲げ、この国を『永世中立国』として設立させた。
そして有識者たちがこの国の代表に就いた。
残った数少ない一般市民は他の国へ脱出した。
しかし残る民もいた。港町の店をしている者たちがそうだ。この地でずっと暮らしていきたいと、国を出る事は無かった。
『魔鉱保護区ゴールドローズ』の『魔鉱保護区』と云う名前は、元々は国では無かった頃から、魔鉱石が良く採れる地域として『魔鉱保護区』と名付けていて、それをそのまま使い、代々受け継いでいたせいだ。
『永世中立国』ときくと、世界一平和な国に聞こえるが、実は案外ここも安全では無かった。
それは『危険な区域』があるからだ。
戦争以後立ち入りを禁じられている区域は『ステラティアの丘』の他にも有り、ヴァズ罪人居住区、ヘイムスタルダル監獄であり、こちらも立ち入りを禁止されている。
ヴァズ罪人居住区、ヘイムスタルダル監獄。
永世中立国にする会議の際に話し合われたのだが、世界各国の罪人をこの国に一手に集めこの二か所に収監する、という取り決めをした。
理由は永世中立国という事で攻撃されない、魔法禁止なので罪人も魔法は使えない、という利点があったためだ。
「じゃあ、戦争以前は?」
レオンハルトは、戦争以後の話ばかりでなくもっとこの国の事が知りたくなった。
ロベールは冷ややかな視線を送った。
「・・・ちゃんと勉強しとけよ、だから家庭教師つければいいって言ってんだ」
あ~あ、疲れた。と大袈裟に言ってロベールは皮製の茶色いトランクを下へ置いた。
「うっ。魔法学校だってこの前ちゃんと卒業したし、でも、魔法学の家庭教師ならつけてもらったよ!」
「・・・最近だろ」
プラネイア大陸の国々のほとんどの学校が『魔法学校』であった。
魔法学に重点を置いて勉強する。
「うん。でも、最近やっと回復魔法を完璧にできるようになったんだ!」
誇らしげな表情だ。ロベールが眉を寄せる。
「・・・回復魔法?」
「『癒しの光』だよ!」
「・・・!・・・おま、それ初歩中の初歩・・・」
すりキズも手当できねえよ、とガックリとうなだれた。
一体魔法学校で何覚えてきたんだ、と嘆いた。
待っている間、レオンハルトはふと、後ろを振り返り、さきほどまでいた様々な店が軒を連ねる通りに目をやった。
(あそこは賑やかで、復興が早かったのかな)
賑やかだった通りを離れると、道路が整備されていないあぜ道が急に現れる。
「ねえロベール、まだ復興していない場所もまだあるのかな」
「・・・。そうかもしれないな」
勿論、ステラローズの港町のように、以前の賑やかさを取り戻す場所もある。
しかし、政府や町が手を回す事のまだできていない地域も多々あるようだ。
戦争の爪痕が、あちらこちらに残っていた。
戦争の悲惨さを目の当たりにしても、僕たちはまた戦争をしなければいけないのだろうか。
そう。だからこそ。
僕はここへ来た。
祈るために。
願いを叶えるために。
祈りを終えた人々が向こう側の出口から出てきたようだ。
(みんな、願い事があるんだ。僕だけじゃない)
叶う?
みんな信じてるのか、
自分の願いが叶うなんて。
ただ、祈っただけで。
相反する自分がいた。
レオンハルトが前を向こうとしたその時。
(ん・・・?)
一瞬見覚えのある風貌をした人物を見た気がした。
しかし、順番が来て先を促されたので、見失ってしまった。
(あいつだったような、気がした)
でも、まさか。
気持ちを切り替えて中へ入った。