第18話 レガリア国議会(2)マギアス・ファウンテン
「その領土には、【マギアス・ファウンテン】が含まれています」
外務大臣が告げる。
再び議場がざわり、とした。
「ドレアークはやはりあそこを取りたいんだろう」
誰かが言った。
これも、周知の事実だった。
「マギアス・ファウンテン・・・」
ポツリとレオンハルトは呟く。
すると隣のレイティアーズが
「マギアス・ファウンテンの知識は?」
と、訊いてきた。
(む。僕が知らないと思ってるな!)
「知ってるから!」
ついムキになってしまった。
「ほう」
レイティアーズが見透かすような意地の悪い笑みを浮かべた。
(もうっ、馬鹿にするなよな!)
【マギアス・ファウンテン】とは、自然界に存在するマギアスが大量に凝縮されて、泉のごとく湧き出る場所の事。
マギアスが蓄積されるのは主に鉱山だが、これは何らかの理由で地上に現れてしまっている現象。
そして鉱山よりも圧倒的に数が少ない。
利点としては、マギアス・ファウンテンは常に凝縮された大量のマギアスが流れ続けていること。
勿論、そのマギアスを体内で魔力に変換しなければいけない作業があるが、早急に、大量の魔力が欲しい人にとって――――――――とりわけ魔導士にとって喉から手が出るほど欲しい場所である。
また、戦争などで有効活用しようと考えるものもいる。
欠点としては、危険な事だ。
ファウンテン周辺には、大量のマギアスの影響で生物が魔物化し、数多くの魔物がファウンテン周辺に生息しているので、近づく事すら危険なのだ。
ファウンテンが見つかれば、大体はその国で管理されている。
レガリア国ではまだファウンテンは見つかっていない。
いない、というか、北部にそれらしいものがあるとの情報により、マギアスファウンテン探索隊なるものを発足し調査に行ったが、結局、探せずに終わっている。
レガリア国同様、【ファウンテンがあるかもしれない】という情報はあるが、実際は探しても見つからなかったり、大量の魔物に行く手を阻まれたどり着けない、といった事ばかりであった。
そして、ドレアーク王国とアラザス公国の国境をまたいで、マギアス・ファウンテンが存在していた。
アラザスと分離するまでは、勿論ドレアーク王国の所有するところであったが、現在はファウンテンの半分づつをそれぞれの国が持っている状態である。
「それも、ドレアークがアラザスを取りたい理由のひとつとされます」
「まあ、あれを完全に取得できれば大きい」
「しかし、魔物があまりにもいるので、両国は未だ有効活用できていない」
「そのうちなんとかなるさ」
あちこちで声が聞こえる。
「ええ、勿論、マギアス・ファウンテンをドレアークが全権取得できれば、うちにも恩恵があるでしょう」
外務大臣が答える。
そして、姿勢を正す。
「この何点かをふまえ、国王はじめ昨日の会議に参加した者は、もしも援護の要請があれば応じたいと考えております。賛成か反対か、議決をとりたい。この意見に反対の者はいますぐ挙手を」
シーン、と議場が静まり返った。
(・・・とても反対できる雰囲気ではないと思うんですけどー!)
だって、そんな、反対だなんて言ったら何て思われるか・・・、
しかし。
「どうぞ」
誰かが手を挙げている。
(反対する人いたーーー!)
国民代表者だ。
皆がいっせいに彼を見た。
五十代の少し白髪まじりの痩身の男性。
レイティアーズ情報によると、彼は町で食堂を営んでいる。
どんなに熱い思いを語るのかと思いきや、表情を変えず実に淡々とした口調だった。
「同盟破棄、はできないのですね・・・?」
周囲がざわつく。
「どういうことだ?」
内務大臣が眉をひそめる。
「私は国民代表でここに来ました。その国民ですが、この戦いに疑問を呈する者もいます。不安にかんじる者も多数・・・」
(国民の声・・・そう、彼らがいなければ国は成り立たない。彼らの声こそが大事なんだ)
国民代表の男性の話しを聞いて、レオンハルトは気づかされた。
レオンハルトもよく町へ遊びに行く。買い物もする。
馴染みになった人もたくさんいる。
(その彼らが不安に思っている・・・)
僕も直接彼らの声を聞きたい。
ふと、そう思った。
国王がうなづく。
「勿論、それはわかる。しかしいつかは戦争に巻き込まれていしまう世の中だ。しかし望んで戦争をするわけでは無い。そこはわかってもらえるよう説明に時間をかけようと思う。ドレアークを援護すれば兵力は増強でき、国民を守ることにもつながる。今同盟破棄などしたら、今度は我々が危ない。ドレアークの反感を買うかもしれんし、今から他の同盟国を探すのも困難だ」
国王が立ち上がり、声を張り上げる。
「今回のドレアークの件は、国を、国民を守るためのものである」
「我が国も、もう対岸の火事ではない。暢気に身を任せていれば、いつ火の粉が落ちてくるかもしれん」
「私が言いたいのはそれだ。それでも駄目なら、反対してもかまわない」
と、父さん!
(そ、それって反対するなって言ってるようなものじゃないか~)
「・・・わかりました。国民への説明、お願いしますよ」
国民代表の男性は、あきらめたかのように、ため息をつき着席した。
「ああ、必ず」
国王が力強い笑みを浮かべうなづいた。
****************************
反対者無し、ドレアーク王国が劣性になった場合、援護するという結論が出て、議会は終了した。
「結局、反対する者なんていちゃ駄目なんじゃないかー」
会議場を出て、レイティアーズと歩いている。
思わず本音が出る。
「そういう事はあまり大声で言わない方がいい。誰かに聞かれたらどうする」
「ええ!?レイティアーズまでそういう事言うの!?」
「そういう事とはどういう事だ」
本当にわからないらしい。
「だからー、自由に意見言ったりすることー」
「ああ」
「だが議会では自由に皆が話していたではないか」
「え!?でも国民代表の人の意見に対して、あの対応でいいの?」
「別に国民代表者は『反対します』とは言っていないだろう。国民が不安がっている、とは言っていたが」
「うーん・・・なんだか、国民代表者って、あの場にいてもいなくても同じじゃないの?ってかんじに思えたけど・・・」
「それは違う。まあ、国王の意見が最優先だからああいった形で終わったが」
「それじゃあ他の悪い国と同じになっちゃうよ!」
「他の悪い国って・・・」
レイティアーズがあきれる。
(ああ、自分の文章力の少なさに悲しくなる)
「しかし、お前も言うようになったな」
「・・・へ?」
「以前私が馬術を教えていた時などは、何も喋らずおどおどしていた気がする」
「う・・・」
(だって、レイティアーズが怖かったから)
・・・なんて口が裂けても言えない。
(でも、今回の議会で、僕なりに色々感じたから言いたかったんだ)
「国民のみんなの意見、大事だなって・・・思って・・・」
最後らへんはごにょごにょと恥ずかしそうに言った。
「そうか」
レイティアーズは少し目を細めた。
「私は明日の騎士団会議の準備をするのでここで」
「ああ、うん。じゃあまた、騎士団会議で」
「ああ」
レイティアーズは早足で行ってしまった。
すると、
「レオンハルト」
後ろから声をかけられた。
振り向いたレオンハルトは思わず身構える。
「アレクシス兄さん」
二番目の兄が立っていた。