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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第一章 レガリア国と最弱の王子
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第14話 立入禁止書庫(2)


王宮内地下への階段。


王宮の南側の窓に眩しいくらいの陽の光が差し込み、まだ十分明るいのだが、窓の無い地下階段は当然薄暗かった。


地下階段の入口まで来る途中、何人もの人とすれ違うのでドキドキした。

やっぱり夜の方がいいのでは~とレオンハルトは思った。


しかしロベールが言うには、日中、しかも今三国間会議をしている現在が一番いいらしい。


「会議にある程度警備の人員を割くだろう。そうすれば王宮の警備兵は手薄になる。会議は夕刻までには終わるから、夜にはまた警備が通常に戻る。そうだろ?」

と・・・。


―――――――う、うーん。まあ、たしかにそうだ。

さきほど階段を下りる前、ひと仕事あったから。



時間は少し遡る。

地下階段の入口。

三人はそこから少し離れた場所で立ち止まり、入口の方を見ていた。

地下へ下りる入口では、警備兵が一日中見張りをしている。

警備兵の人数は常時二人だが、今日は会議も有り、やはりロベールが言うように警備が多少手薄になっているようだ。

今は警備兵が一人だった。

ロベールは腕組みをする。

「あんたはどうやってここを突破したんだ?」

「企業秘密、と言いたいところですが・・・実は私も警備が一人の時に入りまして」

「で?」

「私は当時、図書館勤務でしたので、ある程度の信頼はありましたし。地下への入口はどうとでも理由づければ通れました。ちょっと警備ゆるいですよね。あ、脱線しました。えー、そして立入禁止書庫の担当の図書館職員が休みの日にその・・・ちょっと、鍵をお借りして・・・」

「お借りして?」

ロベールとレオンハルトは同時にダンダリアンへ冷ややかな視線を送った。

「ああっ。そんな目で見ないでくださいっ。と、とにかく、この入口の警備兵は、許可証無しでも図書館員である私には、厳しくありませんでしたっ」


拍子抜けだ。

ずいぶん簡単なものだ。

この王宮の警備大丈夫?とレオンハルトでなくとも思うだろう。

それでバレずに地下へ入れたのか。

まあ、これから難関がいくつもあるからまだ簡単とは言い切れないけど。

ロベールも難しい顔をした。

「なるほどね。たしかに、警備が甘すぎるな。これではいけないな、どうにかしないと」

まあ、今はこれはこれで好都合でいいけどね、と付け加えニヤリと笑った。


ダンダリアンが首を横に振る。

「ですが、もう私は図書館員では無い為、そのような特権は行使できません」

「あ、ああ、そうかー」

レオンハルトはがっかりした。

では、どうしよう。


すると、口元に手をやり、何か考えをしていたロベールが、急に歩き出した。

「僕が話をつけてくる。その間に行くんだ」

「え・・・?」

「・・・わかりました」


そしてロベールは入口の警備兵の元へと向かった。

「さあ、行きますよ、レオンハルト王子。今はここを誰も通らない。今しかありません」

ダンダリアンが促す。

「は、はいっ」

ロベールがその警備兵と何か話をしている間に、レオンハルトとダンダリアンの二人が階段へ下りて行った。

警備兵は話しに夢中なのかこちらに気づかない。

そしてロベールが何やらその警備兵に頼んだのか、彼はどこかへ行ってしまった。

警備兵がそうした行動を取ったのは、ロベールが日頃信頼を置いているからこその結果だろう。

そしてその隙にロベールも階段へと向かった。

幸い、ロベールが階段へ向かうまで、入口付近は誰も通らなかった。

なんともスリル満点で冷や汗ものである。



ロベールも合流し、三人は階段を下りた。

「も~僕心臓が爆発しそうだったよ~」

するとダンダリアンに睨まれた。

「これからもっと爆発します」

(ギャア!)


「・・・地下から出る時は、どうするつもりです?」

ダンダリアンがロベールに訊く。

ロベールは眉一つ動かさず答えた。

「話はつけてきた。あとは手筈どおりに進めば問題ない」

「む・・・」

凄いな。

地下から出るのも安心って事だ。

レオンハルトは脱帽した。

ロベールは瞬時にそういう事を考えられる。

一緒にいても、いつも機転をきかせて行動してくれる。

本当に頼りになる存在だ。




レオンハルトは階段を下りながら、前を行くダンダリアンに小声で言った。

「でも意外だなあ~ダンダリアンさんがこっそり書庫に忍び込んでたなんて」

「人聞きの悪い事を言わないでもらいたい!!」

ダンダリアンが振り返り、噛みつきそうな程凄い剣幕で怒った。

(うう恐ろしい)

だ、だってそうじゃないか。

と、反論したかったが怖いのでやめた。



ダンダリアンがその怒りのままムスムスしながら話した。

「だいたい地下への入口は突破できても、書庫には一日中守衛が入口に立っている。地下へ入るだけでも許されない事なのに、許可無しに入れるわけないでしょう」

丸い眼鏡をクイっと上げながら言った。


「じゃあどうやって入ったんだ。さっき僕が警備兵に話をつけた件は、この書庫の警備兵には通用しないと思う」

「だからそれも、以前入った時は私が図書館員だという事で通されました。地下への入口を通してもらった人間が、書庫へ入れないということは無いでしょう」

本来なら地下への入口でも許可証が必要なのですから、と付け加えた。

「な~んだ、簡単に入れたんだね」

「ですが、今回はそう簡単には行かないと言ってるでしょう?」

「ど、どうするの?」

レオンハルトはロベールを見る。

「―――――。・・・まあ、なんとかなるだろ」

一瞬の間があった。

(もしかしてロベール、何の策も無いんじゃあ・・・)

怖くて聞けなかった。






そして地下へ到着した。

地下は少し薄暗く、体感でもわかるくらい気温が下がる。

日中でも人の通りは無いようだ。

レオンハルトでさえ、地下には立ち寄らない。

というか、国の重要なものがあるので、あまり行かないように、と子供の頃から言われていた。

だから昔から謎な場所だった。

では一体誰がこの地下へ入る事が許されているのだろ。

僕だって十八歳になったんだし、そろそろ許可されてもいいはずだ。

・・・兄さんたちは、どうなんだろ。

ふと、嫌な気持ちが頭をもたげはじめる。

レオンハルトはそれを首をふって打ち消した。



階段のすぐ右手のこちらから見える位置に、立入禁止書庫の扉が見えた。

扉の前には一人、警備兵が立っていた。

警備兵は持ち回りで王宮のあちこちを警備しているのだろう。

レオンハルトは、この警備兵が別の場所で警備しているのを見た事があった。

(ひ、一人ならなんとか・・・なる?)

しかし、軍服を着こなした警備兵は、武器らしきものを横に持っている。

(どうするんだろう?)

レオンハルトには策がまったく思い浮かばないので、二人にまかせるしかない。

ドキドキしながら二人を見ると、静かに様子をうかがっているようだった。


(ああそれに、今誰かが階段を通ればヤバいよね?)

――――――誰も来ない事を祈るしかない。








「守衛を眠らせます」

いきなりダンダリアンがとんでもない事を言った。

「え!」

レオンハルトは思わず声を上げ、二人が口元に指を置き、シーと注意される。


ね、眠らせる?

「それしか方法が無いですね」

ロベールも頷く。

「まあ、妥当だな。他に色々考えてる時間は無いし」

だ、妥当!?

「何か睡眠薬のようなものを飲み物に混ぜる、とか?」

レオンハルトにはそれしか思い浮かばない。


「いえ、魔法です」

さらりと言う。


「催眠魔法か」


催眠魔法は七大属性のうちのひとつ、「闇」魔法の中の上位魔法だ。


「私はこの魔法を習得したわけではありません。魔法だけではもって数十秒。魔法を持続させるにはもう少し工夫が必要です。それに、警備兵さんが起きた時、自分が魔法にかかってしまったとわかるとマズイですので、そこらへんも少し施さなくてはなりません」

「どうするの?」

「魔法にかかったのをわからなくするための、これです」

と言って服の中から何かを取り出した。


「念のため、ここへ来る前に持ってきました」

それはとても小さく親指ほどの透明なガラスドーム。

上部がドーム状になっていて、よく魔法道具店や雑貨店で売られている一般的な形だ。


その中には綺麗な紫色の小さな魔石らしきものが入っている。

「この中に入っているのは闇属性の魔石です」

「そうか、催眠魔法が闇属性だから、そこに魔法を入れるのか?」

魔石にも属性があり、同じ属性同士でなければ魔法を魔石に入れる事はできない。

「はい、ご名答です」

ダンダリアンがガラスドームのドーム状になった蓋をカパッと外す。

ロベールは難しい顔で腕組みをする。

「ガラスドームに入れれば魔石の効果で魔法は持続する。しかし、魔法の対象は奴だぞ?」

そう言って警備兵を見る。

ガラスドームに魔法を入れたとして、魔法が発動しているのはそのガラスドームの中のみ。


「はい、勿論わかってますよ。・・・このガラスドームのガラスには闇属性を付与し、ある釉薬を塗布してあります。あ、特に触っても問題ないですよ?」

「釉薬?」

レオンハルトが触ってみる。

表面はツルツルしていて、ひんやりとしている。

普通のガラスだ。

「ええ。幻覚作用のある釉薬です。これで目覚めた時魔法にかかった事に気づく事はありません」

「たいそうな代物持ってるなあ」

ロベールがあやしむ。

「馴染みの店から購入しています。植物や魔石を砕き混ぜ調合してもらうんです」

と、ダンダリアンが説明していると・・・、

「ねえそれってどこの店?病気を治す薬とか売ってないかな!?」

「え、ちょ、ちょっと、」

レオンハルトが思わずダンダリアンに詰め寄る。

「レオンハルト」

それをロベールがたしなめた。

「あ、ご、ごめん、つい・・・」

薬の事となると、ついエミィロリンの病気の事を考えてしまう。


「・・・ですので、これは特注品でして。・・・あとで請求しますよ?」

「守銭奴かよ!」

・・・というツッコミがロベールから入ったのは言うまでもない。


「魔石に塗布はできないのか?」

「できますが、この釉薬には様々な魔力の効果が入っているので魔力は混乱をきたします。だから魔法は半減してしまいます。だからこのガラスドームに塗布するのが最適でしょう。ガラスに闇属性を付与してありますので、中の魔石と融合し、魔力を外に放出する事ができる。そしてこのガラスドームの特徴は、このドーム状の形です。魔法の能力を上げる効果がある」

「なるほど」

二人が頷く。

やはり彼は頭が良い。

様々な知識を持っているようだ。

「そうそう、魔法の対象の話の続きですが、このガラスドームを七個、彼の周囲に置く事により、彼にだけ魔法が効き、他に漏れる事はありません」

「置くだけ?」

「いえ、あと、魔法陣です」

「魔法陣!?」

また魔法陣の話が出てきた。

レオンハルトはゴールドローズでの事を思い出す。

「魔法陣を敷き、その上にガラスドームを置きます」

「あ!これってゴールドローズと同じだ!」

レオンハルトは思い出した。

ロベールが教えてくれた、魔法陣の上に魔石をいくつか置き、巨大な魔法陣を創り魔法を打ち消すというやり方。

同じやり方を聞いたばかりだから、少し興奮した。

レオンハルトの発言に、ロベールが頷く。

「ま、あそこのものとは規模が違うけどな」



「ゴールドローズ?」

ダンダリアンが訝しむ。

「あ、な、なんでもない」

(あ、そうか。ダンダリアンは僕たちがゴールドローズへ行った事を知らないんだ。あまりこの話はしないほうがいいな)


「魔法陣を一緒に使うやり方は、最近知った手法なので成功するかどうか・・・」

「色々と研究されている分野だからな」

「ええ。そうみたいです。魔法の書物もいくつか出てました」

「へえ。今度読んでみよう」

「ちょ、二人とも、読書の話になってるよ!!」

と、めずらしくレオンハルトが突っ込みを入れると、

「別にいいだろ?」「別にいいでしょ?」

と、同時に反論された。




「少し、下がっていてください」

黒縁の眼鏡をかけ直し、少し緊張した面持ちでそう言った。

ロベールはレオンハルトの腕を持ち階段を上がるよう促す。自身も階段を少し上がった。

「こういう攻撃魔法は、危険だからな」

「う、うん」

確かに、これは難しい魔法であり、眠らせてしまうという危険なものであるため、魔法が創りだされた初期の頃は魔物相手に使用するためだったが、対人間となると使用する際は注意が必要だ。



ダンダリアンが階段から少し身を乗り出しながら、対象となる警備兵を見る。

後ろからでも彼が集中しているのがわかった。

魔力を扱うには、精神力(メンタリティ)、そしてとりわけ集中力が大事になってくる。

魔力が体からオーラとなって溢れた。

かなりの魔力を使うようだ。


そして、すばやく手をかざした・・・!


その途端、警備兵の体がぐらりと揺れた。

防御する暇も無く、魔法攻撃を受けたようだ。

頭を打ち付けないように、ダンダリアンが急いで警備兵の体を支える。

しかし、ダンダリアンは体が細く体力があまり無いようで、大柄なその警備兵を支えきる事ができず、ずるずると自分まで倒れてしまう。

なんとか警備兵が頭を打つ事は無かったようだ。

「ダ、ダンダリアンさん・・・!」


レオンハルト達は急いでダンダリアンの元へ駆け寄る。

「大丈夫か」


「は、はい、なんとか・・・」

警備兵と一緒に倒れ、かけている眼鏡はずり落ちている。

なんとも間抜けな状態だ。

「もっと体を鍛えろ」

ロベールは顔をしかめて言った。

言われたダンダリアンはムスっとした。

「別に、必要無いですから」



レオンハルトが見ると、倒れて横になった警備兵はすうすうと寝息を立てている。

眠りに入ったようだ。




その時。


カツカツカツ



向こうから足音が聞こえた。


(え・・・)

レオンハルトの体から一気に冷や汗が吹き出る。

「やばいよ、誰か来る!」



ダンダリアンが振り向かずに静かに言った。

「ロベールさん、あの魔法は使えますか」

「・・・。『防御壁』か?」

ダンダリアンが頷く。

(防御壁・・・?)

レオンハルトとは違い、二人はいたって冷静だ。


ロベールは次の瞬間、足音の方へ向かう。

「ちょっ、ロベール・・・っ」

一体どうしたというのだ。


そして。



ロベールが短剣(レガリアコルテージュ)を取り出す。

それを床に振りかざす。


「『防御壁』」



(あ!思い出した!無属性中級魔法の防御壁!)

初めて見る!

レオンハルトは少し興奮した。


キイインという高音が周囲に響く。

異変に築かれたのか、足音が早くなる。



「は、早く!」

思わず小声でせかす。


ロベールは気にせず魔法を発動し、防御壁を創り出した。

周囲縦横大人二人分くらいの大きさの防御壁ができた。

書庫の入口の周囲は防御することができるだろう。

淡く黄色く発光しているが、ほとんど透明だ。


文字通り防御の壁を創り出す魔法だ。

これは周囲のマギアスを瞬時に集め、それを魔法に変換して防御の壁を作成。

体内に取り込まれたマギアスを消費せず外にあるマギアスをかき集めなくてはならないため、多少時間はかかるし、壁がほどけるのが早いのが難点だ。

それに、多少の発光はあるものの、しかし、そのままだと透明、丸見えだ。

主な使用方法としては、戦闘時に敵の攻撃を受けた時、それを防御する為に使うのだが・・・。



ひゅんっ


(何っ!?)



光る何かが飛んでいった

防御壁へ向かって。




すると、

防御壁が一瞬にして地下の壁と同じ色になった。

というか、『地下の壁に擬態』した。

壁そのものだ。


光の出所を見ると、ダンダリアンだった。

彼がロベールの防御壁魔法に、擬態魔法を付け加えたのだ。

しかもまたしてもダンダリアンは武器も使わず、無詠唱だった。


擬態魔法。


この魔法は無属性の上位魔法だ。

こんなに色々な魔法を使えるという事は、彼は上級魔導士なの?


しかも魔法に魔法を重ねるなんて、教科書では読んだ事あるけど、実戦練習でもやったことなかった。




かくして『もう一枚』の地下の壁が出来上がったのである。



足音の主は他の警備兵だった。

こちらで眠っている警備兵に気づきもせず、勿論、僕たちにも気づかずに向こうへ行ってしまった。

ここに書庫があるのに、それすらにも気づかない。

なんともおそまつな警備兵、と捉えるのか、ダンダリアンの魔法が凄いと捉えたらいいのか。

もしも敵がダンダリアンと同じ魔法を使ったら、この城内に忍び込まれて倒されてしまうのではないかとぼんやりと思った。

先ほどの地下階段への入口の警備兵同様、警備の甘さが問題有り?それとも警備兵の能力に問題?

国王に言った方がいいのか?

しかし、僕たちの行為もバレたらマズイので、それはできない。



ダンダリアンの眉間から汗が滴り落ちる。

「もってあと数秒です」

「え」

そう言ったそばから、景色が変わった。

あっという間に透明の防御壁に戻ってしまった。



そしてロベールも魔法を解除し、短剣をしまう。



「すごいね、二人とも」

レオンハルトが暢気に目を輝かせ拍手する。

こんなに立て続けに魔法を見せられると興奮してしまう。


「攻撃魔法以外はあまり得意では無いから、難しいな」

ロベールが肩で息をしながらホッとした表情をした。

「でも凄いよ!」

「・・・お前も覚えろ。戦闘で有利になる」

「は、はい」

思わぬところで説教をくらった。





ダンダリアンは魔法陣を描く作業に入った。

服の中から杖を取り出し、杖を上へ高く上げる。


「ちょっと待て」

ロベールがダンダリアンを制した。

「どうしました?」

ダンダリアンが訝しみながら杖を下げる。

「ここに魔法陣を置くなら、誰かが通ればまずい」

「あ、そうですよね。うっかりしてました」

ダンダリアンが杖をしまい、頭を掻く。

「そっか、眠っている警備兵と魔法陣があれば、誰だって気づくね」

さきほどの防御壁と擬態魔法でもあれば問題無いのだが、持続時間が少なく、それでは魔法を使うダンダリアンとロベールが書庫の外にいなくてはならなくなる。

ダンダリアンは顎に手を当て考える。

「では、書庫の中に彼を入れてから魔法陣を描きますか」

「ああ、そうしよう」




ロベールがしゃがみこんで警備兵の服のポケットをごそごそと探る。

「鍵はこの警備兵が持っている・・・わけないか」

が、無いようだ。



「鍵は書庫管理者が保管しています。それ以外はありません」

「じゃあ魔法しかないな」

ロベールがそう言うと、ダンダリアンは大袈裟にため息を付く。

「この前入った時は、この扉を開ける鍵が三個も有りました。二重三重にも鍵がかかっていて突破するのは至難の業だと思います・・・」

「え・・・」

レオンハルトが凍りつく。

「おまえなら大丈夫だって」

「またあなたは根拠の無い事を・・・」

ダンダリアンはあきれ顔だ。



「だいたいなんで私が・・・」

鍵穴に手をかざしながら、ぶつぶつ言っている。

「まだ言うか」

「もし見つかったら、末代まで呪ってやりますよ」

「はっはっは、安心しろ。そんな事にはならない」

ロベールは少し面白がっているようだった。

(ロベールの以外な一面)

ロベールを横目で見ながらレオンハルトは思った。

(いつも慎重な彼だけど、この王宮の中で従者という立場上、しっかりしなくてはならないから、きっとどこかで羽目を外したかったのかもしれない)

だって、僕と二つしか歳が違わないのに、しっかりしすぎなんだもん。

この意外な一面も、本当のロベールなのかもしれない。




「よし、開いた」

ダンダリアンが扉の鍵を開けたようだ。


「え!開いたの!?」

「さすがだな」

ロベールが満足そうな顔をした。



ギ、ギイィ


重そうな音とともに開く。

それはとても分厚い扉だった。




(凄い本当に開いた!)

さっきから凄いしか言ってないな、僕は。

(ってか、僕、何の役にも立ってない・・・!)

―――――ああ、情けない。

「何ボーっとしてる、早く入れ」

「う、うん」

ロベールに促され、ダンダリアンの後に続いて足を踏み入れた。




そしていよいよ、立入禁止書庫へ入ってしまったのであった。



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