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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第一章 レガリア国と最弱の王子
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第13話 立入禁止書庫(1)

「ねえロベール、どこへ向かうの?」

ロベールは相変わらずとスタスタと先を進む。

レオンハルトはよくわからないまま彼の後ろをついていた。


「騎士団宿舎さ」

前を向いたままそう言った。



「え?宿舎?騎士団会議はまだだよ?」

「いや、さっきの話の続きだけど、立入禁止書庫を開けてもらうのさ」

「えええ!?どういうこと・・・」

訳が分からない。


「国王に頼むのは無理そうだから、他の適任者に頼む」

「て、適任者・・・?」

そんな人いるの?

なんだか急に不安になってきた。





****


騎士団宿舎のある隊員の部屋。



「ど、どうして私が・・・」


自室の椅子に座り、思わぬ珍客の要求に狼狽えている。




ダンダリアン=キュベル。

騎士団書記官である。

レオンハルトはついこの間騎士団会議で会ったばかりである。





レオンハルトはロベールの横で心配そうに二人を見ていた。

(意外な人物のところに来ちゃったよ・・・)


ロベールは前から彼を知っていたのだろうか。

「ねえ、二人は知り合いだったの?」

「ああ。王立図書館に行くとよく会うんだ」

接点が無いと思っていた。

ダンダリアンは伯爵家であるため、たまに王宮で会う事もある。

しかし、レオンハルトに直接の用事があるわけでは無いので、会っても会釈したり軽く会話したりする程度だった。

勿論その時は一緒にいるロベールも同様にそうしていたはずだ。


「で、彼は王立図書館に勤務していただろ?」

「あ・・・」

ああ、そうか。

それで納得した。

(本好きのロベールなら、図書館に行けば勤務しているダンダリアンと会う事もある)

王宮以外で、しかもレオンハルトの寄り付かない図書館となれば、どうりで知らないわけだ。



そのダンダリアンは、まだムスっとしている。

しかし不機嫌な顔のまま、どうぞソファに掛けてください、と言うあたり、礼儀正しいというか、律儀な人物である。

しかも立ち上がり、お茶まで淹れてくれている。



二人はソファに座った。

他の部屋にはこういった来客時にも座れるような大きいソファは無い。

お客を招き、話し合ったりすることもあるだろうし、上層部だけの特権なのだろう。

お茶を淹れ終ったダンダリアンは、自分の椅子をレオンハルト達の近くへ引き寄せ座った。


ロベールがすぐに話をはじめた。

「僕がダンダリアンの知らない書物を見せた事があってね、とても喜んでくれてね」

知り合いになった経緯をレオンハルトに教えてくれているようだ。

「ええ。あれは貴重な一冊でした」

黒い切れ長の瞳を細めた。

「だろ?」

「目からうろこが剥がれるほどの情報が詰まっていました」

お茶をすすりながらダンダリアンが思い出して笑みを浮かべる。

ロベールも嬉しそうだ。

レオンハルトは本好き二人の会話にはついていけないので、ただ黙々とお茶を飲んだ。


「あんたが図書館勤務になったのは天職だったな」

「ええ、ほんとに」

レオンハルトはふと気づく。

「でも、騎士団に所属になっちゃって、嫌だったんじゃないの?」

「うん。かなり不満だろうね」

腕組みをしてうんうんと頷くロベール。

「あなたが言わないで下さいよ、ロベール」

少しムッとしながらダンダリアンがお茶のカップをテーブルへ置き、座り直す。

「・・・ロベールには感謝しています」

「へ?」

意外な発言にレオンハルトは驚く。

「私は今、騎士団の仕事が手いっぱいで、今は図書館に通う事もままならないんです」

「はあ・・・」

「だから、彼に図書館の本を届けてもらっているんです」

「え!?」

ロベール、そんな事もしてたの?

思わずロベールの顔を見る。

当の本人は飄々とした顔をしていた。


「ロベールが従者という仕事柄忙しいのはわかっていますので、一度この話は無かった事にしたんですが・・・」

遠慮がちにそう言う。

確かに、仕事が忙しいのは一緒だ。

こういう話を聞くと、今更ながら、自分のゴールドローズへ付いて来てくれたこと、本当に申し訳なく思った。

「でも、持って来てくれましてね。では新しい本が入荷した時にだけ、とお願いしたんです」

(うーんロベールはいい奴だなあ)

僕には厳しいけどね。

と、思いながら隣を見る。



ロベールがダンダリアンの目を真っ直ぐ見た。

「で、本題だ。そんなに僕に感謝してるなら、僕の頼みを聞いてくれ」

さらっと言った。

「ずいぶん平然と言いますね」

ダンダリアンが眼鏡をクイっとあげる。

(たしかに。あまりに当たり前のように言い過ぎてかえって面白い)

レオンハルトは思わず笑いそうになるのを堪えた。


というか、たとえ気の知れた知り合いであろうと、七歳も年上の人物に言う話し方ではないような、くだけた口調だ。

これではどっちが年上かわからない。

少しハラハラしたが、ダンダリアンは特に気にしている風でも無いし、本好きという趣味を持つ共通点が、彼らの関係をそういうものにしたのだろう。



ダンダリアンがふーっと長い溜息を吐く。

「さっきもいいましたけど、何故私?大体私はもう図書館勤務でもないし、立入禁止書庫の管理者でも無い」


ロベールの云う頼みとは、立入禁止書庫を開けて欲しいとのこと。

そこで白羽の矢が立ったのが、以前王立図書館で働いていたダンダリアンだ。

(でも、確かに彼は図書館の職員だけど、役職は無かったはずだ。立入禁止書庫を開けられる権限は無いはずでは?)


「それに、一職員であった私には、書庫の担当は出来なかったし、入室する事も出来ませんでした。大体、国の王子でも入る事の出来ない場所ですよ?私が入る事ができるわけが無い」

かぶりを振る。

(ほらやっぱり無理だよ)

レオンハルトは横目でロベールをジロリと見る。



「―――――――いや。入った事あるだろ」

鋭い目線がダンダリアンを射抜く。

「え」

ダンダリアンは目を見開き、一瞬にして青ざめた。


(え?)

レオンハルトも驚く。



「書を愛する者なら、あの王立図書館の本を全て読破した者なら―――――――次に目指すのはあそこだ」


「――――――――っ」

思わず顔をそむけるダンダリアン。

意外な反応に、レオンハルトは驚きを隠せない。

(え?図星なの?ダンダリアンさんっ。すごくわかりやすい反応っ)


(っていうか、全ての本を読破って――――――!!)

思わずダンダリアンを二度見する。

(僕、さっき図書館で二十ページ読むのに一時間かかったけど―――――?)

そうか、だからさっき『新しい本が入荷した時だけ本を持ってきてもらってる』と言ったのか。

なんとも、想像を絶する世界だ。


「あんたが立入禁止書庫へ入れたのは、それは正式な許可を取って入ったのか、それとも・・・」

ロベールが少し声色を低くする。


「あああああ!」

「!?」

突然ダンダリアンが叫んだ。

思わずレオンハルトはビクッとする。


ダンダリアンは立ち上がり後ろを向いて大声で言った。

「わかりましたわかりましたとも!その頼みとやら、聞いてあげますよ!」


ロベールはにっこりと笑った。

「お。ありがとう」

(なんだか脅しのようだよ、ロベール)

レオンハルトはダンダリアンが不憫になってきた。


ダンダリアンはその後ろ向きのまま言う。

「ただし、成功するかどうかはわかりませんし、バレたら大変な事になりますよ」


「え!や、やめようよ~ロベールぅ~」

「じゃあ、お前は来るな。僕だけで行く」

(ええ!冷たい!それはそれでイヤだなあ~)

「う~じゃあ行くよ~」

結局こうなるのだ。

ああ優柔不断な僕。





****



三人は騎士団宿舎を出て王宮へ入った。


「ところで、何の本を見ようと?」

ダンダリアンが訊く。

「魔法陣に関する本だ」

(ちょ、そういうのは話さない方が・・・)

怪しまれてバレたら終わりだ。

父に内密にと言われているのに。


すると。

「ほほう。今後の戦のための予習ですか」

(おや)

意外にもダンダリアンは勘違いしてくれたようだ。

これは好都合。

思わずロベールと顔を見合わせてニヤリとする。

しかし・・・、

「それなら国王に直接言った方が、許可してくれるかもしれませんよ」

(わ!ややこしい話になっちゃった!)

ロベールが髪をぐしゃぐしゃしてめんどくさそうに言った。

「だから、今国王はそれどころじゃないだろ?今日書庫に入りたいんだよ。今日!」

「まったく。せっかちな人ですね、あなたがたは。わかりましたよ」

ダンダリアンはぶつぶつと何か文句を言っていたが、ロベールの発言を真に受けてくれたようで、これで一先ず安心だ。

レオンハルトはホッと胸をなで下ろした。






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