ss―休日―
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「ケーキ、買ってきたんだっ」
素敵に綺麗に晴天のある休日。
雲ひとつない晴天、ってゆうのは日のことを言うんだろうなぁ、なんて思いながら。
私は、彼氏―――康介の自宅に赴いていた。
「幸福堂のケーキ。食べるでしょ?」
「おお、いいな。じゃあ食うか」
そう言って奥の部屋に移動した康介。
彼が用意したものは―――。
「なに、コレ……」
グローブだった。
「知らないのか? これはグローブって言ってな。
野球とかするときにボールをキャッチするもので―――」
「それくらい知ってる!
そーゆーことじゃないの!」
私たちはいつの間にか家の前の道路に出ていた。
彼の家の前は、横幅のある住宅街の中の道のひとつ。
いつも、近くにすむ子供達が遊んでいるのだが……。
今日は私たち以外は誰もいないようだ。
「美味いものをよりうまく食いたけりゃ―――」
白球をぽんぽんと宙に放りながら彼は言う。
「…………?」
「汗水たらして遊んだ後が一番だろ」
「──……っ…」
にっこりと微笑まれ、私は返す言葉を失った。
……そんな顔されたら反論なんてできないじゃん。
そんな胸中を知ってか知らずか、彼は満足そうにひとつ頷くと。
「じゃ、始めるか!」
腕を振り回し、大きな声で言った。
* * * *
至って単純なことの繰り返し。
この上なく分かりやすく、比較的シンプルなルール。
それは
『相手にボールを投げ、相手の投げるそれを捕る』。
たった、それだけ。
だけど。
「あぅっ」
たったそれだけなのに。
「ひゃぁ!」
それが、できない。
「……なぁ、みゆ。球、避けてたら話にならない」
「……だってだって」
怖いんだもん。
だけど そんなことを言い訳にしている暇もなく。
数十分もすれば私は、ボールをしっかりキャッチできるまでになっていた。
「えへへ〜。ほめてほめて〜」
「はいはい。あとでケーキのいちご、やるからな」
笑顔でボールを投げる彼。
…何だかいつもより、輝いて見えた。
ってゆうか康介って、こんなに野球うまかったっけ?
「球投げるだけなら野球の上手さは関係ないぞ」
言いながらも彼は満足げな表情を浮かべていた。
―――…だけど人間とは、至って不思議なもので。
慣れた、と思った時期が。
一番ミスをしやすいのだ。
「わっ」
笑顔もつかの間。
彼の投げた白球は、私のグローブを弾き。
背後の垣根を越えていく。
がしゃん、と派手な音があがった。
聞いただけで明らかに何かが割れた音だと分かった。
「…ど、どうしょう……」