出会い2
すみません…遅くなりました……。
「そう!せ・ん・り・ひ・ん!」
そう言って少女は、手に持っていたポリ袋の中をまさぐり始めた。
「ゲーセンの景品か?おい今それどころじゃ…」
「いやいや待たれえぃ!素晴らしいでしょ、このおぱんつ!こっちのくたびれたTシャツもステキなんだけど、やっぱりおぱんつが一番好きというか…正直迷うところなんだけど……うん!やっぱり私はおぱんつ派かな!君はおパンツ派?それとも、くたびれたTシャツ派?」
急に人を呼び止めたと思ったら…何を言っているんだ、この少女は。
「………」
「もうっ!おぱんつ派か、Tシャツ派かって聞いてるの!……はっはーん?さては君、ストーキング初心者だね!しっかたないな~。ここは先輩として、手を取り足をとり!ストーキングの何たるかを教えてあげようじゃないの!」
「ちょっと署までご同行願おうか?」
「え………?」
瞬間、少女のにやけ顔が固まった。
「う、うそーん!君、警察官だったの?だったら駄目だよ、ストーキングなんてしちゃあ。<二兎を追う者は一兎をも得ず>だよ。警察官のままでいたいのなら、ストーキングはやめるべき。何事も、中途半端が一番いけない事だと、私は思うよ?」
「おい話聞いてたか?まず大前提が間違ってるんだよ!」
「大前提…?」
言っている意味が理解できないとでも言いたげに、小首をかしげる少女…この際、もう変態でいい。
「だから、俺はストーカーではないし、なる予定もない!」
「ストーカー…『同志』じゃ、ない……?」
「そうだ」
うちひしがれた様子の、変態の手に手錠をかける。
カチャリ、と乾いた金属音が、しんと静まり返った路地裏に響き渡った。
「時刻午後一時三十三分二十一秒、逮捕」
ああ、ほんとあのまま(潰れたカエル状態のまま)放置して帰るべきだった……。
「けーいーじーさーん!被疑者が家から出てきましたよー!!」
そんな能天気な声によって、俺は強制的に現実へと引き戻された。
「……」
双眼鏡で見てみると、確かに被疑者は家から出てきた。
………派手な赤いワンピースを着た女性と共に。
女性は身長が百五十六~百五十八センチぐらい。
歳は…三十代前半といったところで、腰まである長い黒髪を持っている。
色白、といえば聞こえはいいが、女性の肌色は病的なほどの白さだ。
外見的特徴はこのぐらいだな。
「けーいーじーさーん?聞こえてますかー?」
…いつまでたっても返事をしない俺にじれたのか、再度呼び掛けてくるストーカー。
無視。無視だ。変態ストーカーなんてここにはいない。
「けーーーーーいーーー…」
いない…いない……い、いな………。いな…………。
「あああああ!聞こえてるからちょっと黙れ!」
無視できなかった。それにしてもうるさい。こいつ酒でも飲んで酔ってるんじゃないのか?シラフでこれとか怖……。
「まろを無視するとは何たる狼藉!」
「虫は無視って言うだろ…つかちゃんと被疑者ら見張ってんだろうな?」
「ワタシは虫ってか?いやーん。啓司さんったら毒舌!それと被疑者とおねーさんから、目離してないからね。そう言う啓司さんはどーなのさ?双眼鏡から目、離してないよね?」
「当たり前だ」
「けどさー。このおねーさんで四人目だよ。まさかの四股…一人の男をめぐる、四人の女達が繰り広げるドロドロの愛憎劇…ここに、開・幕ッ!」
「開幕せんでよろしい」
あほなストーカーの頭が直るよう、手刀を脳天めがけて振り下ろしておく。
……機械なら叩けば直るというが、人間の頭はどうだろう。いや、普通に考えて直るわけないのだが。
「いっ今のはまさか…伝説の大技、knifenandstrike!?」
「いや、なんだそれ」
今思ったんだが、この変態英語の発音すごく良いな…。
「空手や柔道、拳法、合気道、プロレスなんかで使われる、手刀の一種だよ!」
「詳しいんだな…つか全然伝説の大技じゃないな?」
「いやーあの肉体美がたまらな……むぐぅ!?」
「会話になってないと言いたいところだが、ちょっと黙ろうか?」
取りあえず、余計なことを喋る口を右手でふさぎ、再び被疑者の方へと視線を移す。
そこには…女性からお金を受け取っている被疑者の姿があった。心なしか女性は震えているように見える。
「おい、写真ー…」
撮っとけよ、と言うつもりだったがやめた。
なぜなら、もうこの変態はうひょー!とかあひょーっとか言いながら、
いかにも高そうな一眼レフをどこからともなく取り出して写真を撮りまくっていた。
たぶん今、俺は凄く遠い目をしているのではないだろうか。
はは…あの頃……こいつと出会っていなかった頃の、平穏な日々に戻りたい………。
帰ったらチョコケーキでも食べよう。
………………とびきり甘いやつを。
ちなみに、平穏な日々=パンツが盗まれる心配などがない日々のことです。
主人公の名前はもうしばらくすると姓名セットで出てきます。
ヒロインのストーカー少女の名前は鳴竹 かぐやです。