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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第三部

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休暇 2

 先生とのお出掛けの出発を明日に控え、荷物の最終確認をする。ベッドの上に荷物を並べ、一つ一つ指差し確認。洗面用具一式、よ~し。替えの下着、よ~し。宿題の魔道書、よ~し。筆記用具、よ~し。お休みセット、よ~し。イェガーさん特製お茶菓子、よ~し!


 荷物をラッセルボックの背負いカバンに詰め込み、それをテーブルの上に置く。離宮に行く前の日、クローゼットにカバンを入れちゃって、危うく忘れそうになったから、今回は目に付きやすい所に置いておくことにした。同じ失敗はしないんだもん!


 いそいそとベッドに潜り込み、目を閉じる。明日の夜に出発して、明後日の朝に到着かぁ。泊りがけで出掛けるなんて、離宮に行った時ぶりだから楽しみだなぁ。どこに連れて行ってくれるのかな? 行き先を聞いても、先生ってば、教えてくれないんだもんなぁ。「楽しみにしていて下さい」って。先生とたくさん遊べる所が良いな。離宮で出来なかった事、全部するんだもん! ……あ。時期的に、木の実拾いとキノコ狩りは出来ないな。う~ん……。お魚釣りだけじゃ、飽きちゃいそうだなぁ。でも、先生とゆっくり過ごすのも悪くないな。そんな事を考えながら、この日は眠りに付いた。


 次の日、いつも通りにお仕事と勉強をし終わると、急いで部屋に戻った。お風呂に入っておかないと、明日まで入れなくなっちゃうもん! 湯船に水の魔石と火の魔石を放り込み、ウロウロしながらお風呂が沸くのを待つ。まだかなぁ。ん~。まだだなぁ。早く~。もう良いかなぁ? ん~。まだだなぁ。


 お部屋とお風呂を行ったり来たりしていると、扉をノックする音が響いた。誰か来るなんて思ってなかったから、飛び上がるくらいビックリした。けど、誰にも見られていないからギリギリ大丈夫! そんな事を考えながら扉を開く。と、その先には先生が立っていた。どどど、どうしよう! まだ準備出来てない! 先生、早すぎ! アワアワと慌てる私を見て、先生がクスッと笑った。


「準備を始める前に、これを渡しておこうと思って」


 そう言って、先生が大きな包みを差し出す。私は差し出された包みと、先生の顔を見比べた。


「これ、何?」


「着替えです。せっかくの休暇を、メイド服で過ごすのはどうかと思ったので」


 着替えなんて全然頭に無かった。と言うか、メイド服で過ごす気、満々だった。私が包みを受け取ると、先生が優しく微笑んだ。


「準備が出来たら執務室に来て下さい。急がなくて良いですからね」


「ん。着替え、ありがと」


「いえ。どう致しまして」


 隣の部屋に戻る先生を見送り、私は急いで部屋に入った。そして、ベッドの上に、もらったばかりの包みを広げる。中身は真っ白いブラウスが二枚と、紺色のロングスカート、黄色いカーディガンだった。ブラウスにはフリフリの飾りがあって、とっても可愛い! これ、普段から着ちゃおっと! あ。靴まで入ってる! 黒いから、これも普段から使えそう! いつも履いてる靴、ちょっとくたびれてきちゃってたから、これを機会に交換しよう。そうしよう!


 ルンルン気分でお風呂に入ると、先生からもらった服に着替える。今日は特別だから、お披露目の時にもらった髪飾りも付けちゃおっと! 問題は、髪を下ろして部分的に留めるか、一つに結うかだ。どっちにしようかなぁ。う~ん……。悩むなぁ……。あ。そうだ! 今日は下ろして、明日は一つに結って、明後日は下ろして、帰って来る日は一つに結っておけば半分半分だ! 早速、髪飾りで髪を留める。


 むふふ。準備は完璧! 完璧だと思う。完璧だよね? 完璧、なのかな……? 忘れ物、無いかな……? 背負いカバンを背負い、部屋の中をぐるっと見回す。……うん。大丈夫! 私は一つ頷き、部屋を後にした。


 隣の部屋の扉をノックすると、中から先生の返事が聞こえた。そっと扉を開き、中を覗き込む。すると、先生はお仕事をしていたみたいで、お仕事机の前に座っていた。少し髪が湿っているように見えるのは、お風呂に入った後に乾かさなかったからかな? いくら暖かくなったからって、風邪ひいちゃうよ?


「その服、似合ってますね。髪型も。いつもと雰囲気がずいぶん違って、驚きました」


 褒められた! 嬉しくなって、満面の笑みで頷く。


「ありがと!」


「出発しても大丈夫ですか? 忘れ物は無いですか?」


「ん~……。その前に、先生の髪、乾かす!」


 お仕事机の椅子に座る先生の元にタタッと駆け寄り、腰のホルダーから杖を引き抜いた。そして、髪を乾かす魔法陣を展開する。


「先生、髪伸びたね」


 離宮で寝癖を直してあげた時は首筋が見えるか見えないかくらいだった先生の髪は、いつの間にか肩下まで伸びていた。前髪も、最近は、見えない左目側に寄せている。毎日見ているせいで、改めて長くなったとは思ってなかったけど、こうしてよくよく考えてみると、あの時よりずっと髪が長くなっている。


 色んな方向から風を当て、先生の髪を乾かしながらそう言うと、先生がクスッと笑った。


「アイリスと約束しましたからね。髪を結う練習台になる、と」


「ん! この後、簡単に結ってみても良い?」


「ええ。もちろん」


 やったぁ! 髪紐は、いつも私が使ってるので良いか。背負いカバンから髪紐を一本取り出し、先生の髪の毛を後ろで一つに結ってみる。そして、正面に回って、その出来栄えを確かめた。うん。髪を結ってるのって初めて見たけど、なかなか似合ってる!


「どうです?」


「とっても似合ってる!」


「そうですか。上手に結えたようですね。では、そろそろ出掛けましょうか?」


 そう言って、先生が椅子から立ち上がった。そして、小さなカバンを肩から掛けると、部屋の戸締り確認をする。それが終わると、私達は手を繋ぎ、部屋を後にした。


 今日の出発も、離宮に行った時と同じように空中庭園だ。今回も先生がドラゴン姿になって飛んで行くらしい。先生の荷物を預かって、遠巻きに見守る。すると、先生の足元に白い魔法陣が広がり、その姿が光に包まれた。みるみるうちに光が膨らみ、光が弾けると、先生の姿はドラゴンになっていた。


 いつ見ても、不思議な光景だ。普段は私達と変わらない姿をしているのに、こうして全然違う姿にもなれるんだから。どういう仕組みなんだろう? まあ、こんな事、気にしてても仕方ないか! 私はドラゴン姿の先生の元に駆け寄った。


 先生の背中に乗せてもらい、星が煌めく夜空を翔る。仰向けに寝転がって星空を見上げていると、吸い込まれそうな不思議な感じがする。いつまでも飽きずに見ていられそう……。


「アイリス? 起きてます?」


「ん。起きてるよ。お星様見てるの」


「そうでしたか。少々、聞きたい事があったのですが……」


「なぁに?」


「その……。以前、バルトから香油をもらった事がありましたよね?」


 香油……。バルトさんからもらった香油……? ……あ。あれか。メーアのお世話した時に、お駄賃でもらったやつ!


「ん。あの香油ね、お風呂に入れたらとっても良い匂いだったんだよ。それにね、とっても身体が温まってね、ポカポカ――」


「そういった事は、頻繁にあるのですか?」


 私の話を遮り、先生が問う。私はうつ伏せに寝返りを打つと、前にある先生の顔を見た。先生は真っ直ぐ前を向いたまま。飛んでる時も、余所見禁止らしい。


「そういった事って?」


「誰かに贈り物をされる事です」


「ん~……。お茶菓子ならよくもらうよ。イェガーさんとかに」


「それは僕も知っています」


「そっか。他にはねぇ……」


 う~んと頭を捻って考える。お茶菓子以外に物をもらう事なんて――。あ! あった!


「色んな物、くれる人、いた!」


「誰です?」


「先生!」


 叫んだ瞬間、ガクッと高度が落ちた。慌てたように、先生が翼を羽ばたかせる。一瞬、身体が浮き上がったように感じたのは、私の気のせいじゃ無かったと思う。ビックリしたぁ!


「アイリス。そういう事では無くて――」


「あのね、あのね! 先生がくれたのね、全部、とっても大事にしてるんだよ!」


 お部屋にある生活用品。魔力媒介の杖に、初級魔術教本。欲しいと言ったら用意してくれて、定期的にくれる香油。向こう側が透けて見える綺麗なリボン。ブローチとして毎日付けている石化の護符。お披露目の時のドレスと髪飾り。どれも私の宝物。今日もらった服だって、大切な宝物だ。


「と~っても大切な宝物なんだよ!」


「……ありがとうございます」


 お礼を言うのは私の方なのに。変なの。まあ、良いか! 私は再び仰向けに寝返りを打つと、夜空に煌めくお星様を見つめた。




 先生の背中の上で一眠りし、目を覚ますと、周囲はもう薄明るくなっていた。まだ眠いな……。う~ん……。せっかくのお休みだし、もう少し寝てようかな……。と、その時、ぐぅっと私のお腹が鳴った。お腹空いた……。そう思い、むくっと起き上がり、背負いカバンを引っ張り寄せる。


「アイリス? 起きました?」


「ん……」


「少し休憩したいのですが、下りても?」


「ん……」


 目を擦りつつ、先生の言葉に頷く。きっと、先生もお腹が空いてるだろうし、お茶菓子、分けてあげよっと。どれにしようかな? ごそごそと背負いカバンを漁る。その間にも、先生はゆっくりと高度を落としていった。


 先生が下り立ったのは、森の中の小さな泉のほとりだった。人の姿に戻った先生が、小枝を拾い始める。私も! そう思って、先生の後をくっ付いて歩き、小枝を見つけては、我先にそれを拾った。


「これだけ集まれば大丈夫ですかね」


 そう言った先生の手には、結構な量の小枝。おかしい。先生よりたくさん拾おうと思って頑張ったのに。圧倒的に、先生の持ってる小枝の方が、量が多い。


「どうしました? そんな、むくれた顔をして」


「先生、たくさん拾ってる!」


「そうですか?」


「ん。ズルい!」


「そう言われても……」


 困ったなって言うように、先生が眉を下げた。と思ったら、何か閃いたように、パッと顔を明るくした。


「では、この枝はアイリスに譲ります。どうぞ」


「ん! ありがと!」


 先生が拾った小枝を受け取る。どっさり集まった! わ~い!


「少し、そこで待っていて下さい」


 そう言って、先生が向かった先には一本の木。私の腕が回るか回らないかくらいの太さしかない。その木を確認するように触っている。そして、満足そうに一つ頷くと、魔法陣を展開した。あの魔法陣は……防御障壁? 先生が発動言語を呟くと防御障壁が展開された。何故か平面で。普通、ドーム状に展開するものなのに。


 興味津々で、先生の次の行動を見守る。どうするの? 何するの? ワクワク!


 先生は平面で展開した防御障壁を木の幹に打ち立てた。と、簡単に木の幹が折れて木が倒れる。おお~! 防御障壁であんなことも出来るのかぁ。一つ勉強になった!


 持ちやすい大きさに切った丸太を二本、先生が小脇に抱える。何気に、先生って力持ちだ。何でも無い顔であんな重そうな丸太を持てるんだから。私だったら、一個で動けなくなるか潰れるかすると思う。そんな事を考えながら、先を歩く先生にくっ付いて行った。


 先生が泉のほとりの砂地に丸太を向かい合わせに横たえ、その一つに腰掛ける。どうするのかと思ったら、椅子の代わりだったのか。納得。私は真ん中に小枝を置くと、もう一つの丸太に腰掛けた。


 先生が肩掛けカバンを漁り、小さなポットとフックが付いた三脚みたいな道具、金属製のカップを二つ取り出した。ポットの中に魔術で水を溜め、三脚とフックを使ってポットを小枝の山の上に置く。


「フランメ」


 先生が火属性の初級魔術をを使い、小枝に火を入れた。魔術って本当に便利。だって、魔石が無くても、こうして水と火に困る事は無いんだもん。


「泉で手を洗いましょうか?」


「ん!」


 二人連れ立って泉に向かう。泉の水は、底が見えるくらい透き通っていた。触ってみると、ひんやり冷たくて気持ち良い。泳ぐには冷たすぎるかな? でも、入って遊びたい。ウズウズしちゃう!


「アイリス? どうしました?」


 先に立ち上がった先生が、なかなか立ち上がらない私を不思議そうに呼ぶ。いけない、いけない。私は何でもないと首を横に振って立ち上がると、先生と共にたき火へと戻った。


 しばらくすると、ポットの水が沸いたのか、その口から湯気が出てきた。先生がお茶の準備をしてくれている間に、私は背負いカバンからお茶菓子を取り出す。


 今日のお茶菓子は、お芋の焼き菓子。潰したお芋に、スイギュウの乳と砂糖を入れて練り、焼いただけのお菓子。シンプルなお菓子だけど、私はこのお菓子が大好き。お芋、最高!


「熱いですから気を付けて」


 そう言って、先生がコップを差し出す。私はこくりと頷くと、それを受け取った。そして、交換するように、お芋のお菓子を先生に差し出す。


「朝ごはん!」


 私がそう言うと、先生が目を丸くした。と思ったら、クスクスと笑いだした。


「ありがとうございます。こういうのも悪くないですね。朝食は到着してから食べると伝えてありますが、持って出ても良かったですね」


「ん!」


「昼の軽食は持って出ましょうか?」


「あのね、今日ね、お魚釣りしたいの!」


「魚釣り? ……ああ。離宮で出来なかった事をするのですね。では、今日の昼は釣った魚ですね」


「ん!」


 そんな事を話しながら短い休憩を終えると、後片付けをして、私達は再び大空へと飛び立った。風を切って目的地を目指す先生の背中に寝っ転がり、明るくなった空を見つめる。


 あ! あの雲、ドラゴン姿の先生みたいな形してる! 空に先生が二人! くふふ。面白~い!

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