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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第三部

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治癒術師見習い 2

 竜王城に戻ると、何故か、部屋に押し込められてしまった。お祝いの準備をするからって。私も手伝うのに。


 う~。暇だ。やる事が無い。治癒術の勉強は明日からだし、部屋の掃除だって朝の準備が終わってからこまめにしてるしなぁ。こうして、いきなりお休みを出されるとちょっと困るんだよなぁ。思わず、溜め息が漏れる。


 何処か遊びに行っちゃまずいよね、流石に……。せめて、話し相手でもいたらなぁ。スマラクト兄様、今、忙しいかな? きっと忙しいよね……。ミーちゃんはこの時間、お城の中をお散歩してて、どこにいるのか分からないしなぁ……。


 ごろんとベッドに横になり、ボーっと天井を見つめる。しばらくそうしていると、何だか眠たくなってきた。もう、このままお昼寝しちゃおう……。準備、出来たら、起こして……くれる……よね……。


 ゆっくり目を開くと、私は空中庭園の真ん中に立っていた。花壇には、色とりどりの花が咲き乱れている。もうすぐ冬なのに、変なの。……あ。そっか。これ、リーラ姫の! そう思い、辺りを見回すと、隅っこのベンチにリーラ姫が腰掛けていた。駆け寄ると、リーラ姫がにこりと笑う。


「初級魔術教本、もう終わったのね。おめでとう」


「ん! 私ね、明日から治癒術師見習いなの!」


「無理はしていない?」


「無理って?」


 首を傾げた私の手を、リーラ姫がそっと取る。心配そうに眉を落とすその顔は、ちょっとだけ先生と似ていた。顔つきは竜王様に似てるのに、作る表情は先生によく似ている。


「徹夜なんてしていないでしょうね?」


「母さんと暮らしてた時よりは寝るのがちょっと遅くなったけど、ちゃんと寝てるよ」


「なら良いけど。一つの道を究めるのは果てしなく長い道のりなんだから、絶対に無理したら駄目よ?」


「ん! あ。そうだ! それ、ウルペスさんにも言ってあげて。徹夜まではしてないみたいだけど、最近、遅く寝て早く起きる生活してるみたいなの!」


「そうなの? あのウルペスが? 寝るのが大好きなくせに?」


「ん!」


「そう……」


 「ふふふ」と笑ったリーラ姫の顔は、どこか嬉しそう。何で……? あ、そっか。自分の為に、ウルペスさんが必死になってくれてるからか。私だって、先生が私の為に必死になってくれる事があったら、とっても嬉しくなると思う。だから、リーラ姫の気持ちは分からないでもない。でも、それで好きな人が体調崩したら悲しくなるよ?


「ちゃんと、ウルペスさんに早く寝るように言いに行ってよ? ウルペスさんが倒れたら大変だよ!」


「分かってる。近いうちに顔を出してくる」


「絶対だよ? 約束だよ?」


「ええ。約束」


 絶対だからね。約束だからね。あんまり無理しちゃ駄目だって、リーラ姫が言ってくれたら、いくらウルペスさんだって早く寝るようになると思うんだ。だから――。


「約束……」


「アイリス?」


 呼ばれてハッと目を開くと、不思議そうに私の顔を覗き込む先生と目が合った。何で先生が! 飛び起き、キョロキョロと辺りを見回す。そこは見慣れた私の部屋で……。はっ! そうか! お昼寝、してたんだった!


「外からいくら呼び掛けても返事が無かったので……」


 先生が申し訳なさそうに眉を落とす。私はブンブンと首を横に振った。悪いのは先生じゃなくて、起きなかった私。そう伝えたいのに、言葉が出ない。


「準備が出来ましたので、顔を洗って行きましょうか?」


 こくこくと頷き、慌ててベッドから下りる。そして、洗面所へ逃げるように駆け込んだ。


 は~。ビックリした。目が覚めたら、先生の顔が間近にあるとか心臓に悪い。冷たい水で顔を洗い、手ぬぐいを取る。ふと鏡を見ると、そこには見慣れた私の顔。クルクルの赤毛に丸い顔。つり上がり気味の目はクリッと大きいけど、それが変に子どもっぽさを際立たせている。大人っぽくて綺麗なリーラ姫とは全然違う。私とリーラ姫、全然似てないと思うんだけどな……。先生、どこをどう見て、私とリーラ姫を重ね合わせたの?


「アイリス? まだですか?」


 コンコンと洗面所の扉がノックされる。そうだった! こんな、考え事してる暇なんて無いんだった! 慌てて顔を拭き、洗面所を後にする。そして、先生と手を繋ぎ、部屋を出た。


 先生が足を向けたのは、私の部屋の斜め向かいの部屋。私の部屋がある階で、ただ一部屋、空いている部屋だ。こんな所でお祝い?


 ガチャリと先生が扉を開く。その先には、アオイ、ローザさん、竜王様、ブロイエさんが待っていた。


 部屋の奥には大きな机と本棚と作業台。作業台の上には、薬の調合に必要な道具が並んでいた。元々あっただろう家具類はどこかに出してしまったらしく、元は私の部屋と同じ造りのはずなのに、雰囲気が全然違う部屋になっていた。


「この部屋が、我々からの祝いだ」


 そう言ったのは竜王様。その隣では、ブロイエさんがうんうんと頷いている。この部屋って……? すぐ隣に立つ先生を見上げると、先生が優しく微笑んだ。


「研究室ですよ、アイリスの」


 研究室? 私の? まさかだ。こんなもの、もらえると思ってなかった!


「勉強部屋とも言うね。アイリス、こっち見て」


 ブロイエさんが悪戯っぽく笑い、ちょいちょいと手招きした。指差したのは、壁の一面を埋める本棚。ぎっしりと本が詰まっている。


「図書室の蔵書と僕の蔵書から、アイリスの役に立ちそうな本を選んだんだよ。あと、こっちの呪術関連の本はノイモーントからで、薬草学の本はフォーゲルシメーレから」


 治癒術関連の本だけじゃなくて、呪術や薬草の本まで! 凄い! 凄~い!


「机と本棚はヴォルフが作ってくれたからね。今度、彼らに会った時にでもお礼言うんだよ?」


 ブロイエさんの言葉にこくりと頷いた。みんなからのお祝いに、胸の奥がポカポカする。


「それにしても、この短時間でよく準備が終わったよねぇ。予め、ヴォルフが机と本棚を作ってくれてたお蔭だね」


「ですね」


 ブロイエさんが苦笑すると、先生も頷き、苦笑した。きっと、アオイが緩衝地帯から飛んで帰って来たのは予定外だったんだと思う。もしかしたら、今夜にでも、この部屋の準備を整えるつもりでいたのかもしれない。


「アイリス! 今度はこっち!」


 アオイにグイッと腕を引っ張られ、連れて来られたのはキッチンの扉の前。見ると、扉にブロイエさん作らしい、空間操作術の魔法陣が描かれていた。この扉はどこか別の場所につなげたらしい。ドキドキしながら扉を開くと、独特の臭いが鼻を突いた。中を見なくても、臭いだけでどこだか分かる。病室の隣にあるこの部屋にも、何回か来た事があるから。薬草保管室だ!


「フォーゲルシメーレがここを使う事はもう殆ど無いだろうし、研究室と繋がってた方が、何かと便利でしょ?」


 そう言って、アオイがウィンクする。薬草保管室の奥には調剤室があるが、そこへ繋がる扉を私の研究室へと繋げたらしい。調剤室には薬草保管室に繋がる扉しか無かったから、実質、調剤室を潰した形になるけど、その代りに私の研究室が機能すれば問題無いという判断なんだろう。何気に、責任重大だ。私に、フォーゲルシメーレさんの代わりを務めろって事だもん。頑張らねば!


「これ、鍵ね」


 そう言って、アオイが三つの鍵をくれた。ん? 三つ……? 研究室と薬品保管室。あと一つは何の鍵? 手の中の鍵とアオイの顔を交互に見る。と、アオイが悪戯っぽく笑った。


「病室の鍵。見習いとはいえ、治癒術師なんだから。病室くらい持ってないとね」


 病室まで! 胸の奥がポカポカを通り越して、ジンと熱くなる。何だか目も熱くなってきた。


「ありがどーごじゃーまずうぅぅっ……!」


 みんなに向き直り、頭を下げてそう言った私の声は、自分でも分かるくらい涙声だった。でも、誰一人として、それを笑ったりはしなかった。それどころか拍手までしてくれて、何だか余計に泣けてきた。泣きじゃくる私をローザさんが抱き上げ、背中をトントンしてくれる。


「さぁて。あっちもそろそろ準備出来ただろうし、移動しよう!」


 そう言ったのはブロイエさん。珍しく転移魔法陣を使わないで移動するつもりらしく、部屋の扉へと向かった。それもそのはず。目的地は私の研究室のお隣、ローザさんとブロイエさんのお部屋だった。


 ローザさんとブロイエさんのお部屋には、たくさんのお料理が準備されていた。色々な大皿料理。そのどれもが、何かしらの形でお芋が使ってあった。酒盛りを始めたブロイエさんと竜王様を横目に、私と先生、アオイ、ローザさんの四人はお芋づくしの夕ごはんにに舌鼓を打つ。こんな盛大にお祝いをしてもらったんだから、一日も早く立派な治癒術師になって、みんなに恩返ししないと! 頑張るぞ! お~!




 次の日、研究室の本棚の本を確認していると、扉がコンコンとノックされた。待ってましたとばかりに扉に駆け寄り、勢い良くそれを開く。扉の先にいたのはノイモーントさん。朝ごはんの時、先生に、今日はノイモーントさんが研究室に来るから研究室で待ってるようにって言われて、今か今かと待っていた。いよいよ、今日から治癒術の勉強が始まる! そう思うと、自然と顔がにやけてしまう。


「ノイモーントさん、呪術の本、ありがとうございました!」


「いえいえ。どう致しまして」


 ぺこりと頭を下げると、ノイモーントさんも頭を下げた。と、その時、研究室の正面の扉が開く。姿を現したのは先生だ。何で? そう思って首を傾げると、先生がにこりと笑った。


「今後の計画をアイリスと共に聞いておこうと思いまして。構わないですよね、ノイモーント?」


「ええ。もちろんです」


 ん~と……。先生も一緒にいてくれるって事? それは心強い。でも、良いのかなぁ? 先生、忙しいんじゃないのかな?


「先生、お仕事大丈夫?」


「大丈夫ですよ。急ぎの仕事は今のところありませんから」


「そっか」


 なら良いか。どうぞと二人を研究室の中に招き入れるも、ふと、ある事に気が付いた。ここ、椅子が一個しかない! ソファだって無いし、座れるの、一人だけだ! どどど、どうしよう!


 慌てる私を余所に、ノイモーントさんが本棚をざっと見回し、次々と本を選んでいく。その様子を、先生が興味深そうに見つめていた。私はというと、何か座れるものが無いか、あっちを見たり、こっちを見たり。でも、何も見つからない!


「どうしました?」


 部屋の中をウロウロする私に気が付いた先生が首を傾げる。その手には、いくつかの本。ノイモーントさんが持ちきれない分を持ってあげているらしい。先生が荷物持ちになってる! あわわっ!


「こんなものでしょうね」


 そう言ったノイモーントさんの手にもいくつかの本。本棚の抜けたところを見る限り、治癒術関連の本が大半で、いくつか薬草の本もあるみたい。


「思っていたより少ないですね……。では、こちらへ」


 先生がそう言って、扉に向かう。ノイモーントさんも当たり前のようにそれに続いた。どこに行くの? 置いて行かないで! 私も慌てて二人の後を追った。


 先生が向かった先は、私の研究室のお向かい、先生のお仕事部屋だった。ここならソファセットもあるし、ゆっくりお話が聞ける。先生は、初めからここでお話を聞くつもりでいたらしい。


 私と先生がお隣同士に座り、ノイモーントさんが私達の正面に座る。と、ノイモーントさんが本の山から一冊の本を出し、私の前に置いた。


「これが、ラインヴァイス殿の目を治せる可能性がある術の魔道書です」


 ノイモーントさんが差し出した本は、私の掌くらいの厚さがあった。今まで使っていた初級魔術教本とは、比べ物にならないくらい分厚い魔道書だ。


「『再生』の術。千切れた手足を繋げる事も可能な、治癒術最高位魔術の一つです」


「これが……」


 呟き、魔道書を手に取る。それはずっしりと重くて、この魔道書がそれだけ複雑で難しい事を現していた。


「その術を習得する為、最短の課程を組むと、回復系の一部を後回しにする事になります。ただ、そもそものアイリスの目的を考えると、それも致し方ないと、私は思っておりますが――」


 「どうでしょう?」とばかりに、ノイモーントさんが先生に視線を送る。先生はゆっくりと頷き、口を開いた。


「そのあたりはノイモーントに任せます」


「分かりました。では、治癒系の術と、回復系も体力回復系の術に絞って学んで行きましょう」


 にこりと笑ってそう言ったノイモーントさんに、真面目な顔で頷き返す。まさか、回復系の一部とはいえ、後回しにしても良い術があるとは思ってもみなかった。簡単な術から順番に習得して、だんだん難しい術に進んでいくのかと思ってたんだもん。


 治癒術には大きく分けると、治癒系と回復系がある。治癒系は傷を治す術。『再生』の術は、その特性からして、治癒系の術だと思う。そして、回復系は体力を回復させる系統の術と、身体の異常を治す系統の術に分けられる。ノイモーントさんが後回しにしようと言ったのは、後者の術だろう。


 『再生』の術さえ習得出来れば、先生に恩返し出来る。先生の目を治してあげられる。この術さえ習得すれば……! 私は『再生』の術の魔道書をギュッと抱きしめた。




 ノイモーントさんに治癒術の基礎をおさらいをしてもらって、その日は解散となった。ノイモーントさんにもお仕事があるから、付きっ切りで私の勉強を見る事は出来ない。だから、たんまりと宿題を出された。次に緩衝地帯に来るまでにやっておきなさいって。分からないところはいつでも聞いて良いって、ブロイエさんにもらったらしい連絡用の護符を掲げてたけど、それにしたって……。


 私は先生のお仕事部屋のソファで腕を組み、残された宿題を見つめた。ざっと、魔道書三冊分。中級の魔道書は、初級魔術教本と違って、載っている魔術は一つだし、厚さだってかなり薄い。でも、初級の術とは違って、内容が結構複雑だ。そんな術を三つ……。終わらなかったらどうしよう……。


「どうしました? 難しい顔をして」


 先生が私の前にティーカップを置く。そして、自分のは手に持ったまま、私の正面の席に腰掛けた。


「次行く時までに、全部終わるかなって……」


「あえて多めに出したのだと思いますよ? 緩衝地帯に行くまでに、全て終わってしまわないように」


「そうなの?」


「ええ。あまりにも早く終わってしまったら、時間が無駄になりますから」


 そっか。言われてみればそうだ。アオイが次に緩衝地帯に行くのがいつになるか分からないけど、終わるのが早すぎたら、数日だけど暇になっちゃう。


「それと、アイリスへの期待も篭っているのではないですか?」


「期待? 私に?」


「ええ。頑張り屋だと、以前、褒めていたので」


 褒めて……? そっか。私がいないところでは、褒めてくれてたんだ。勉強見てくれてる時は意地悪な事ばっかり言うのに。ふふふ。そっかぁ。


「ただ、集中力が無いとも言っていたんですよね……。年齢的なものなのか、性格的なものなのかは分からないけれど、すぐにあちこちに気がいってしまう、と」


 うう……。返す言葉が無い。ガックリ項垂れていると、先生がクスリと笑った。


「その顔は、自覚があるようですね」


「ん……」


「そこで提案なのですが、今日から、ここで勉強をしませんか?」


 ここって……。先生のお仕事部屋で? 驚いて顔を上げると、先生が私を見つめ、優しく微笑んでいた。


「人の目があった方が、集中出来る場合もありますから。ただ、今までのように、分からなところを僕が教えるというのは難しいですけどね」


「お仕事の邪魔にならない?」


「なりませんよ。逆に捗るくらいです」


「本当?」


「ええ」


 まさか、先生からこんな提案があるなんて思ってもみなかった。笑顔で力一杯頷くと、先生もにこりと笑って頷き返してくれた。


 この日から、明るいうちは先生のお仕事部屋で勉強をして、アオイの寝る前のお世話が終わってからは研究室で勉強をするようになった。人の目があった方が集中出来ると先生が言った通り、研究室で一人ぼっちで勉強をしている時より、先生のお仕事部屋で勉強をしている時の方が魔術の理解が早い気がする。


 最初のうちは、先生のお仕事部屋のソファで勉強をしていたけど、部屋の隅に小さな椅子と机が用意されて、そこが私の勉強スペースとなった。お仕事部屋に訪ねて来たヴォルフさんがソファで勉強する私を見て用意してくれたんだもん。使わなかったらもったいない。


 今日も私は先生のお仕事部屋で魔道書を広げている。先生はお仕事机でお仕事。書類と睨めっこをする先生を時々盗み見て、また魔道書に目を戻す。


 疲れたら一緒にお茶をしながら少しおしゃべりをしたり、気分転換にお散歩をしたりして過ごしている。もう一緒にいられないと思ってたから、こうやってまた一緒にいられる事になってとっても嬉しい。今なら、先生が私の事をリーラ姫の代わりって思ってても、「まあ、いっか」って思えるかもしれない。

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