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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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お披露目 3

 お披露目の開会が近づき、大ホール二階の渡り廊下と一階へ下りる階段、大ホール一階から大広間へ続く赤絨毯の両脇に上級騎士団員の人達が整列した。ノイモーントさんが大ホール二階で、フォーゲルシメーレさんが階段に差し掛かる辺り、ヴォルフさんが階段下辺り。渡り廊下にバルトさんやウルペスさん、イェガーさんがいるところを見ると、第一連隊を先頭に、第二連隊、第三連隊って順で並んでいるっぽい。


 ノイモーントさんの正面に、一人分の空きがある。あそこが先生の場所だ。先生は今、渡り廊下の奥で待機しているはず。この後、アオイと竜王様が先生と一緒に入場してきて、先生が脇に避けるようにあの空きスペースに並んで花道が完成する。そして、花道をアオイと竜王様が並んで歩いて、大広間で待機しているブロイエさんの元に行って、ブロイエさんが開会宣言、と。


 は~。何だか私が緊張してきた。アオイ、大丈夫かな? 転んだりしないかな?


「アオイ、大丈夫か? 転んだりしないか?」


 あ。フランソワーズが私と同じ心配してる。やっぱりそう思うよね? アオイって一見しっかりしてそうに見えるけど、実はそうじゃないもんね。


「きっと大丈夫ですよ。竜王様も一緒ですし」


 ミーナが苦笑しながらそう答える。と、その時、渡り廊下に先生が姿を現した。そのすぐ後ろを、真っ白い衣装に身を包んだアオイと竜王様が腕を組んで歩く。待ってましたとばかりに、ドッと歓声と拍手が巻き起こった。


「ほう。あの方がアオイ様か。存外、噂は当てにならんな」


 そう言ったのはスマラクト兄様だ。渡り廊下を静々歩くアオイを、興味津々の目で見つめている。


「噂?」


 首を傾げ、スマラクト兄様を見る。すると、兄様が口を開いた。


「ああ。気が強くてじゃじゃ馬、と。しかし、ごく普通の女性のようだ」


 普通……。確かに、今日のアオイはスマラクト兄様の言う通り、普通の女の人に見えなくも無い。こんな大勢の人に注目されていれば、いくらアオイでも緊張して大人しくもなる。


 でもね、スマラクト兄様。普通の女の人は、竜王様の事、怖がると思うんだ。そんな相手と結婚しようなんて、絶対に、天地がひっくり返っても思わないと思うんだ。


 それに、普通の女の人は御前試合に出たりしないんだよ。他にも、アオイがじゃじゃ馬と言われても仕方が無いような事が、次々と浮かんでくる。


「何だ、その顔は? この兄に、言いたい事があるのか?」


「ん~……」


「言いたい事があれば何なりと言うが良い。遠慮はいらぬ。我々は兄妹なのだからな!」


「ん! スマラクト兄様、見る目無い」


「ぐはっ!」


 スマラクト兄様が奇声を発し、胸の辺りを押さえてのけぞった。と思ったら、「ふふふ」と低く笑いながら私を見た。兄様のほっぺが赤くなっているように感じるのは、私の気のせい?


「良い……。良いぞ、アイリス! 僕はますます、君の事が気に入った!」


 両腕を広げ、高らかに宣言するスマラクト兄様。それを見て、ミーナがフランソワーズにこそっと耳打ちをした。


「変態さんって、私、初めて見ました」


「時々いるな、ああいうの……」


 フランソワーズが乾いた笑い声を上げる。そっか。スマラクト兄様は、時々いるタイプの変態さんなのか。変態さんって、もっと気持ち悪い人なのかと思ってた。でも、スマラクト兄様は気持ち悪いって言うより面白い。からかいたくなるタイプだ。


 兄様をからかおうと私が口を開きかけたその時、「お父さん!」というアオイの叫び声が響き、辺りがシンと静かになった。これじゃ、流石に口を開けない。兄様をからかうのはしばらくお預けだ。ちぇ。


 花道の方を見ると、アオイと竜王様が足早に階段を駆け下りて来るところだった。二人の視線の先にはアオイのお父さん。アオイのお母さんに引っ張られるように、花道の方へ向かっている。二人が進む方向は人垣が割れ、新たに出来た花道のようになっていた。


 アオイがお父さんの元に駆け寄ったかと思うと、お父さんにガバッと抱き付いた。小さい子みたいに、おいおいと声を出して泣くアオイの頭を、お父さんがよしよしと撫でる。


「おとうさぁん!」


「泣くな。良い大人が……」


「だってぇ! 来てくれないかと思ったんだもん! もう、勘当されたのかと思ったよぉぉぉ!」


 かんどう……? かんどうって何だ? スマラクト兄様の袖をくいくいと引っ張る。と、兄様が「何だ?」って顔で振り返った。そんな兄様にこそっと耳打ちする。


「かんどうって? 何?」


「縁を切る事だ。大方、アオイ様の父上は、この結婚に反対しておったのだろう」


「そうなの?」


「何だ。アオイ様から何も聞いておらんのか?」


「ん」


「そうか。要らぬ心配を掛けまいとしておったのだろうな……」


 そう言って、スマラクト兄様がアオイ達に視線を戻した。私もそれにつられるように視線を戻す。


 アオイのお父さんは、少し離れてアオイとアオイのお父さんを見守っていた竜王様の元に行くと、竜王様の肩を掴んで何か耳打ちした。すると、竜王様がにやりと笑って頷く。アオイのお父さん、何言ったんだろう? うむむ……。あ! アオイを幸せにしろよとか、そんな事かな?


「実に面白い父上だ」


 スマラクト兄様がそう呟くと、「くくく」と低く笑った。興味深そうに竜王様とアオイのお父さんを見つめているけど、さっきと違ってちょっと悪い顔になっている。


「兄様、今の聞こえたの?」


「ああ。獣人種は耳が良いからな」


「そっかぁ。兄様、地獄耳」


「ぐはっ!」


「で? 何て言ってたの?」


「後で一発殴らせろ、と」


 ええ~! アオイのお父さんってば、何てこと言ってるの? もっとこう、言う事あるでしょ?


「竜王様が殴られる姿など、以後、見られるものではない。今夜が楽しみだ」


「そんなんで喜ぶなんて、悪趣味だね、兄様」


「ぐふっ!」


 スマラクト兄様は変な声を上げ、両手で胸を押さえて蹲った。笑っているのか、肩がプルプルと震えている。うん。やっぱり、兄様をからかうと面白い!


 アオイの方へ目を戻すと、竜王様を腕を組み、花道を歩き始めていた。アオイのお父さんが、そんなアオイを見つめながら泣いている。大泣きしている。引くくらい泣いている。何故か、周りの人達まで泣いている。もう、訳が分からない。


 大広間の扉が開け放たれると、部屋の真ん中あたりにブロイエさんが待機していた。普段は絶対に見られない、大真面目な顔をしている。いつもああいう顔してれば格好良いのに。でも、そうなると取っ付き難い、か……。やっぱり、ブロイエさんはいつも通りが良いや。


 ブロイエさんの前にアオイと竜王様が行き、振り返ってみんなにお辞儀をする。そして、竜王様がみんなに挨拶をした。手短に終わらせるところが竜王様らしい。その後、ブロイエさんが開会宣言を行い、お披露目パーティーが始まった。


 大広間の中央を空けるように大きな丸テーブルが設置してあり、そこに色んなご馳走が用意されていた。私達が普段食べているごはんより、ず~っと手が込んでいるのが一目で分かる。


「お芋、お芋!」


 合流した先生と手を繋ぎ、ルンルン気分でご馳走を見て回る。お芋はどこかなぁ? どんな風になってるかなぁ? むふふ。


「こんな日でも芋ですか?」


「ん!」


 だって、今日のご馳走、見た事が無い物ばっかりなんだもん。どんな味なのか分からないもん。美味しいのか、そうじゃないのか。その点、お芋なら美味しい保証があるんだもん! 呆れたような顔で私を見る先生に頷き、お芋探しを続けた。


 お芋、無いなぁ……。ここのテーブルはお肉料理ばっかりだし。あっちのテーブルはお野菜のお料理ばっかりだったし。向こうはクラーケン料理ばっかりだったし、もっと向こうはお魚料理ばっかりだった。どのテーブルも色とりどりのお料理が並んでいて、とっても華やか。でも、どれもこれも食べたいとは思わない。私はお芋が食べたい!


「今日は芋を諦めて、普段は食べられない物を食べませんか? 明日、お腹一杯芋を食べれば良いじゃないですか」


「う~……」


 そりゃ、明日だって明後日だって、お腹一杯お芋食べるけどさ。でもでも! 今日もお芋が食べたいの!


「あれぇ? 二人とも、まだ何も取ってないの?」


 振り返ると、ブロイエさんとローザさん、それにスマラクト兄様がお皿を手に立っていた。兄様は口いっぱいに食べ物を頬張り、もぐもぐしている。それは良い。それよりも、兄様のお皿の上――。


「スマラクト兄様、それ――」


「ん? キッシュか? これがどうした?」


 口の中の食べ物を飲み込んだ兄様が、不思議そうに首を傾げる。そうか。この、焼き菓子みたいなお料理、キッシュって言うのか。それよりも――。


「どこにあったの?」


 身を乗り出す勢いで聞いた私に、流石の兄様も引き気味。でも、そんな小さな事、気にしてられない。だって、食べたい物が見つかったんだもん!


「あのテーブルだったか?」


「いや、あっちでしょ?」


「え? あそこではなくて?」


 スマラクト兄様、ブロイエさん、ローザさんがそれぞれバラバラのテーブルを指差す。要するに、詳しく覚えてないんだ……。


「何だ? アイリスはこういう料理が好きなのか?」


「いえ。中身ですよ、それの」


 がっくり項垂れ、半泣きの私に代わり、スマラクト兄様の問いに先生が答えてくれる。そう。先生の言う通り。キッシュの中身。それが食べたいの。


「中身? 燻製肉か?」


「いえ。肉ではなく芋の方です」


「そうだったのか。分かっていれば、覚えておったのになぁ……。そうだ。代わりに良い事を教えてやろう」


 良い事? 何だろうと顔を上げると、兄様がにやりと笑った。どうでも良いけど、兄様のこのちょっと悪い感じの笑い方、竜王様にそっくり……。


「これが置いてあったテーブルには、他にも芋料理があったぞ。いや、違うな。正しくは、芋料理ばかりだった」


「ホント?」


「ああ。何やら芋料理ばかりだなと思ったから間違いない。芋が好きならば、探してみると良い」


「ん! ありがと!」


「礼には及ばんよ」


 スマラクト兄様に手を振り、先生の手を引いて歩き出す。目指すはお芋のテーブル。どこかな? どこかな?


 手始めに、スマラクト兄様が指差していたテーブルに向かった。でも、お芋のあるテーブルじゃなかった。次に、ブロイエさんが指差していたテーブルに向かうも、そこも違った。最後に、ローザさんが指差したテーブルに向かったけど、それも違った。う~! 三人とも、いい加減な方向を指差したな!


「お? ラインヴァイス様、はっけ~ん! アイリスちゃんも!」


 振り返ると、そこにはウルペスさん。手にはお皿を持っている。木の実が入った料理ばかりってところが、とってもウルペスさんらしい。


「二人とも、まだ料理取ってないの?」


「ええ、まあ……」


 先生が困ったように眉を落としながら頷いた。そんな先生を見て、ウルペスさんが不思議そうに首を傾げる。


「何かお困り?」


「それが……。スマラクト様が芋料理ばかりのテーブルがあったとおっしゃっていたのですが、場所を覚えておられなくて……」


「あ~。あのテーブルね。うわぁって思ったから、よ~く覚えてるよ。こっちこっち!」


 ウルペスさんが手招きをして歩き出す。まさか、ウルペスさんが覚えていたなんて! 私はルンルン気分でその後に続いた。


 因みに、お芋料理のテーブルは、スマラクト兄様、ブロイエさん、ローザさんが指差した方向とは全然違う場所にあった。いい加減にも程があると思うよ、三人とも……。

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