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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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お披露目 1

 アオイのお披露目を明日に控え、私は早めにベッドに潜り込んだ。目が覚めたらお披露目当日。先生がくれたドレスをやっと着られると思うと、楽しみで仕方ない。


 お披露目が始まるまでの間、アオイのお世話はローザさんがしてくれるらしい。私はいつもお通りアオイと竜王様の朝ごはんのお世話をして、その後は自由時間の予定。ノイモーントさんの工房でドレスに着替えて、会場に行って――。ああ、楽しみ! 楽しみ過ぎて、全然眠くない。でも、寝ないと明日、起きられない。でも、眠くない。


 寝返りを打ちつつ、ここ数日の事を思い出す。メーアが襲撃してきた時はどうなる事かと思ったけど、そのお蔭で、アオイはお母さんとお父さんに会う事が出来た。しかも、アオイのお母さんがリーラ姫を連れて来てくれて、そのお蔭でアオイの記憶が戻って……。でもなぁ。アオイ、何だか元気が無い気がするんだよなぁ。お母さんとお父さんのお部屋に行った後、決まって泣きそうな顔をして戻って来るし……。そんな事を考えながら、私は再び寝返りを打った。


 そう言えば、アオイのお披露目にメーア達を出席させるってブロイエさんが言ってたけど、大丈夫なのかな? 明日、騒ぎになったりしないかな? せっかくのお披露目なんだし、騒ぎを起こしそうな人達なんて呼ばなければ良いのに。ガイさんだけで十分だと思う。


 ガイさんは今日の夕方、ミーちゃんがお迎えに行ってくれた。明日のお披露目にも出席するらしく、アオイのお母さんとお父さんが寝泊まりしている南東の塔にお部屋を一つもらって、今日はそこに泊まっている。


 ガイさんが中央神殿の偉い人を説得するには、流石に時間が足りなくて、偉い人からの祝いの品は持って来られなかったらしい。でも、個人的にって、祝いの品を持って来てくれた。ミーちゃんと一緒に旅をしている間に、路銀稼ぎの為に潜った迷宮で見つけたという貴重な書物を。でも、その書物、アオイの手に渡っていない。何でも、禁術――錬金術が書かれた書物だったんだとか。


 アオイが見るべきものじゃないって、その書物の中身を確認した竜王様が、図書室の奥に封印してしまったらしい。アオイには、ガイさんからとっても珍しい書物をお祝いでもらったって伝えただけ。アオイはアオイで、書物の中身に興味が無かったらしく、「ふ~ん」って聞き流していた。


 この世には、禁術と呼ばれる「失われた知識」があるらしい。魔法とか、錬金術とか。魔法は魔術の元になっているし、錬金術は薬湯とか特殊な金属を作る技術として一部は残っている。それに、竜王様みたいに、禁術が載っている書物をいくつか持っている人もいる。でも、大半は失われてしまった。と言うと無くなったみたいに聞こえるけど、遺跡とか迷宮とか呼ばれる場所に隠されているらしい。ガイさんが見つけた書物は、そのうちの一つだろうって先生が言っていた。


 禁術は、何で封印されて失われてしまったのか。先生にその理由を聞いても教えてくれなかった。知らなくて良いって。そう言われると、余計に知りたくなるんだけどなぁ。また今度、それとな~く聞いてみようかな……。




 目を覚ました私は、大慌てで着替えを済ませ、部屋を出た。今日はいよいよお披露目だ! 楽しみだな。美味しい物、あるかな? 楽しい出し物とかあるのかな? パーティーなんて出るの、初めてだからなぁ。そんな事を考えつつ、先生のお仕事部屋に繋がる扉をノックする。すると、中から先生の声が聞こえ、いつもの白い騎士服を着た先生が部屋から出て来た。まだ灰色の騎士服は着ていない。あれはお披露目用の特別な服なんだな、きっと。


 いつも通りに朝ごはんを食べ、アオイと竜王様の朝ごはんのお世話をする。そして、後片付けを終えると、先生と一緒にノイモーントさんの工房に向かった。


 先生がノイモーントさんの工房の扉をノックすると、中からノイモーントさんの返事が聞こえた。先生が扉を開く。そこには、ノイモーントさんとフォーゲルシメーレさん、ヴォルフさんの隊長さん三人組。そして、フランソワーズ、リリー、ミーナがいた。


 みんな既に着替え終わっている。隊長さん三人組は赤い騎士服を着ていた。フランソワーズは、光の加減で金色掛かって見える緑色のドレスを着ている。リリーは真っ赤なドレス。髪もアップに結い終わっていて、準備万端。ミーナは茶色地に金色の模様が描いてあるドレスを着ていた。彼女も髪をハーフアップに結い終わっていて、準備万端だ!


「ほぉ~! みんな、きれー!」


「ノイモーント様が髪を結って下さるから、アイリスも早く着替えて来なさい」


 ミーナがそう言い、飾るように置いてあった私のドレスを指差す。……髪?


「ああ~!」


 突然叫んだ私を、みんな驚いた顔で見つめている。それはいい。それよりも、すっかり忘れてた。


「リボン……忘れちゃった……」


 先生にもらったリボン……。特別な日の、特別なリボン。今日はお披露目なのに。特別な日なのに……。じわりと目に涙が滲む。


「リボンて、御前試合の時に付けてたリボン?」


「ん……」


 ミーナの問いに、こくりと頷く。うっかりしてた。ドレスが着られる事に浮かれてた……。今から取りに行って間に合うかな……。


「アイリス」


 呼ばれて顔を上げると、先生が私を見つめ、優しく微笑んでいた。


「今日はこれを」


 先生が私の前に片膝を付き、手を出す。そこには、光を受けてキラキラと輝く銀色の髪飾り。先生の顔と髪飾りを見比べる。


「せっかくのお披露目ですから準備しました」


「もらって良いの?」


 私は、先生の手の中にある髪飾りをジッと見つめた。ユリみたいなお花を模っていて、細かい所まで作り込んである。私のお小遣いじゃ買えないくらい高い物だって、一目で分かる。


「ええ」


 先生が満面の笑みで頷く。すると、ヴォルフさんが「ひゅ~」と口笛を吹いた。そんな彼をミーナが肘で小突く。「んも~!」って顔で。それを見たヴォルフさんが「すまん、すまん」って顔で後ろ頭を掻いた。この二人、良い感じで仲良くなってるな。そんな事を考えながら二人を見ていたら、それに気が付いたミーナがにこりと笑った。


「アイリス、良かったわね。髪飾り、大事にしないとね」


「ん!」


 笑顔で頷き、先生から髪飾りを受け取る。それは、今まで見たどんなアクセサリーよりも光り輝いていた。


 急いでドレスに着替えて衣装部屋を出ると、私と入れ替わるように先生が衣装部屋に入っていった。ふと見ると、鏡の前に用意された椅子に座ったフランソワーズが、ノイモーントさんに髪を結ってもらっていた。ちょっと照れくさそうにしているフランソワーズが何だか可愛い。それに、二人の間には温かい空気が流れていて、何だか良い感じ。


 リリーとフォーゲルシメーレさんも、ミーナとヴォルフさんも仲良さそうに話をしている。……あれ? 私、独りぼっち……。ぽつんと取り残された私は、手持ち無沙汰にあっちを見たり、こっちを見たり。色んな布があるなぁ。これ、全部アオイのドレスになるのかな? 糸も色んな色がある。あれで刺繍をするのかな? 刺繍って時間が掛かりそうだけど、ノイモーントさんが全部やってるのかな?


 そんな事を考えながら工房の中をウロウロしていると、着替え終わった先生が衣装部屋から出て来た。灰色の上着と黒いズボン。いつもよりずっと大人っぽくて、キリッとしていて、ちょっと取っ付き難い感じがして……。


 きっと、この取っ付き難い感じが、私と先生の本来の距離感なんだ。だって、先生は竜王様の実の弟で、近衛師団長で、このお城で三番目に偉い人だもん。遠い……。先生が……。


「アイリス?」


 私の視線に気が付いたのか、先生が不思議そうに首を傾げながら私を呼んだ。何でも無いと首を横に振り、笑顔を作る。すると、先生が私を手招きした。今度は私が首を傾げる番。


「髪、結いましょう」


 先生がそう言い、鏡の前の空いている椅子を指差した。工房の中をウロウロしている間に、フランソワーズの髪は結い終わっていたらしい。頷き、おずおずと椅子に座る。すると、先生がノイモーントさんから櫛を受け取った。あれ?


「先生が結うの?」


「嫌ですか?」


 嫌って言うより、驚いた。だから、私はフルフルと首を横に振った。


 いつも通り二つに結っていた髪を、先生が丁寧に解く。そして、優しい手つきで髪を梳き始めた。何だか、頭、撫でられてるみたい。気持ち良いな。


「本日はどの様な髪型に致しましょうか、お嬢様?」


 そう言って、先生が悪戯っぽく笑う。お嬢様ごっこだ! こういう遊び、先生としてみたかった!


「とっても可愛くて、ちょっと大人っぽい感じ!」


「かしこまりました」


 さっき先生がくれた髪飾りを差し出すと、先生が恭しく頭を下げてそれを受け取った。それが何だかとっても面白い。本物のお嬢様になった気分。そう思ってニコニコしていると、髪飾りを脇のテーブルに置いた先生が私の髪束を手に取り、グッと上に引っ張り上げた。痛っ! 痛たたたたッ!


「少しの間、我慢していて下さいね、お嬢様」


 先生が真剣な顔でそう言いつつ、私の髪をまとめていく。こうして本格的に髪の毛を結ってもらったのって初めてだけど、こんなに頭の皮が引っ張られるなんて知らなかった。お嬢様ごっこ、しばらくいいや……。くすん……。


 少しの間、頭の皮を引っ張られる痛みを我慢していると、先生が髪飾りを手に取った。そして、結いあげた髪にそれを付けてくれる。完成?


「思った通り、アイリスの髪色に良く映えますね」


 先生が満足そうに笑う。ちゃんと、私の髪の色に合うか考えて選んでくれたの? 何だか、とっても嬉しい!


「この髪飾り、大事にする! 宝物にする!」


「ええ」


 先生がとっても嬉しそうに笑いながら頷く。その笑顔を見て、胸の奥がポカポカと暖かくなった。やっぱり、私は先生の笑顔が大好きだ。笑っている先生が好き。先生が……大好き……。

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