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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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メーア 2

 夕ごはんを食べ終わり、二人でお茶をしながらくつろいでいると、先生が竜王様に呼ばれたらしく姿を消した。そして、すぐに姿を現す。


「アオイ様がお目覚めになりました。夕食の準備に取り掛かりましょう」


「ん!」


 頷き、椅子から立ち上がる。そして、先生と二人でキッチンへと向かった。


 大慌てで夕ごはんの準備をし終えた私と先生は、アオイと竜王様がごはんを食べている姿を見守った。アオイの左手の甲には、リーラ姫の紋章。ついつい、紋章に目がいっちゃう。本当は、アオイの様子をしっかり見ておかないといけないのに。と思っていたら、アオイが手を止めた。ん? もうお腹一杯? と思ったけど、違かった。アオイが真剣な顔で口を開く。


「ねぇ、シュヴァルツ。私、やりたい事があるの」


「何だ」


 答えた竜王様も食べる手を止める。そして、腕を組み、椅子の背もたれにもたれ掛かった。アオイの話をゆっくり聞くつもりらしい。


「あのね、私、この国だけでも変えたいの。魔人族と人族が手を取り合えるように」


「ほう」


 竜王様が目を細め、アオイを見つめる。私も、興味津々でアオイを見つめた。


「魔人族って、人族に誤解されてるでしょ? 怖い人達だとか、悪い人達だとか」


「仕方が無い。人族にとって、我々は異形の者らしいからな」


 竜王様がそう答えると、アオイがムッとしたように顔をしかめた。


「仕方なくない。何でもっと魔人族の事を知ってもらおうと思わないの? 何でチャレンジしようとしないの? 何で仕方ないって諦めちゃうの?」


「我々は、人族に恐怖しか与えられない」


「そんな事無いよ。少なくとも孤児院の子達は、竜王城の人達の事は信頼してるんだよ。確かに、魔人族自体は怖がっているけど、竜王城の人達には親しみを感じているんだよ。その証拠に、ノイモーントだってフォーゲルシメーレだってヴォルフだって、孤児院の子達には受け入れてもらえてるじゃない! 訪ねて行ったら、歓迎してもらえるじゃない!」


 確かに、私もこのお城に来る前は、魔人族は怖い人達だと思っていた。人族の女の子を攫って食べちゃう人達なんだ、と。だって、母さんがそう言ってたんだもん。でも、このお城の、上級騎士団の人達は違った。人族とそんなに変わらないって知った。それからは、二つの姿を持っていても、人族と違う見た目をしていても、それはその人の個性なのかなって思えるようになった。


「しかし、そういった者達は、人族の一握りにも満たない」


 竜王様の言う事も分かる。大半の人族は、魔人族を怖がっている。魔人族を怖がっていない人族を探す方が、この国、いや、この世界全体でも難しいと思う。だから、メーアは魔人族をどうにかしたかったんだ。


 私はメーアのやろうとした事を、間違っているって胸を張って言える。だって、私は魔人族と人族がそんなに変わらないって知ってるんだもん。でも、魔人族を知らない人達は、メーアの方が正しいってなっちゃうんだろうな……。


「たった一握り。されど一握りなの! 誤解していない人を増やす努力をするの!」


 アオイが叫ぶ。しかし、竜王様は眉ひとつ動かさない。ジッとアオイを見つめながら口を開いた。


「して、方法は」


「う……」


 アオイってば、具体的な方法、何も考えてなかったな。それよりも、アオイの話を聞いていて思った。アオイの記憶、戻ってない? もしかして、リーラ姫が戻って来た事が、記憶を取り戻す切欠になった? 先生のマントをクイクイ引っ張ると、先生が不思議そうな顔でこちらを向いた。


「アオイの記憶、戻ったの?」


「ええ」


 先生が頷き、アオイを見つめる。その顔はとっても嬉しそうで。その顔を見て、私の胸の奥にズキリと痛みが走った。アオイの記憶が戻ったのは嬉しい。でも――。


「緩衝地帯!」


 少しの間、難しい顔で何かを考えていたアオイが、思い付いたとばかりにそう叫んだ。それを聞いた竜王様が眉間に皺を寄せ、口を開く。


「緩衝地帯、とな」


「そうだよ! ほんの少しで良いの。敢えて魔人族と人族の生活圏が被るところを作るの。小さな、小さな村で良いの。何なら、食事処一つでも良い。そういう場所を作るの」


 魔人族と人族の生活圏が被る場所……。魔人族と交流したいって人族を集めるつもりなのかな? でも、そんな人、いるのかな? 孤児院の子達なら、竜王城の人達と交流出来るってなったら、とっても喜びそうだけど……。


「良い考えだと思いますよ」


 そう言ったのは先生だ。優し気な笑みを浮かべている。アオイの案に賛成らしい。先生が賛成するって事は、絶対に実現出来ない訳じゃないのかな? 現実的な案なのかな?


「ほら! ラインヴァイスもそう言ってるし! 出来ない事じゃないと思うの!」


「竜王様。がっこうの件、私はその緩衝地帯に創りたく存じます」


 先生の発言に、竜王様が先生に視線を移した。睨むように先生をジッと見つめる竜王様。でも、これは真剣な眼差し、だと思う。


「読み書きが出来ない幼子の多くが、アイリスのような人族の子らです。そういった幼子に学を与える。これは国の上に立つ者の務めかと」


「学を得たいという人族を集める気か」


「はい。人族、魔人族、双方平等に機会を与えるべきではないかと、常々考えておりました」


「がっこうの件はお前に任せてある。好きにしろ」


 竜王様はそう言うと、ごはんを再開した。好きにしろって事は、良いよって事なのかな? アオイも同じ事を思ったらしく、窺うように先生へ視線を移した。すると、先生が微笑みながら頷く。アオイは嬉しそうに笑うと、ご機嫌にごはんを再開した。


 ……私、こんな話、聞きたくなかった。だって、緩衝地帯にがっこうを創るって事は、先生も緩衝地帯に行っちゃうって事だもん。がっこうが出来たら、先生とお別れになっちゃうって事だもん。先生、私、そんなの寂しいよ。ずっと、先生と一緒にいたいよ……。


 その日の夜、何だか無性に寂しくなった。ベッドの上で膝を抱え、声を押し殺して泣く。こんな夜は、ローザさんと一緒に寝ようかな……? でも、泣きながらローザさんの所に行ったら、どうしたのか聞かれそうだな……。先生まで私を置いて行っちゃうんだよって言ったら、先生が悪いみたいだし……。でも……でもぉ……!


 ローザさんの所にも行けなくて、ひとりぼっちで泣き続けていると、お尻の辺りに暖かい何かが触れた。驚いて、すぐ後ろを振り返る。すると、ミーちゃんが私にピッタリ寄り添いながら丸まり、顔だけ上げて私を見つめていた。


「ミーちゃん、先生が……先生が……!」


 いなくなっちゃうの。私を置いて行っちゃうの。そんなの嫌だよ。寂しいよ。悲しいよ。


 ミーちゃんは「にゃあ」と小さく鳴くと、眠るように目を閉じた。このまま、一緒にいてくれるのかな? そっと掛け布を捲り、ベッドに潜り込む。そして、丸まるミーちゃんの背中におでこをくっ付けた。その間も、ミーちゃんは身動き一つしなかった。


 お日様の匂いとミーちゃんの体温。それを感じたら、何だか安心して、急に眠くなってきた。


 何も、先生はすぐにいなくなる訳じゃ無い。がっこうが出来るのはずっと先の事。目が覚めたらいなくなってる訳じゃ無いんだから、泣く必要なんて、なかっ……た……。

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