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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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襲撃 2

 しばらくの間、アオイの部屋で大人しくしていると、部屋の真ん中に青白い魔法陣が広がった。これ、転移魔法陣だ。もしかして、ミーちゃん? それとも、ブロイエさん? どっちでも良い。アオイが無事なら何でも良い!


 ローザさん、イェガーさんも注目する中、転移魔法陣がカッと光り、中心に人影が現れた。アオイと、アオイの足元にミーちゃん。アオイの隣に竜王様。彼らの正面に全然知らない人が二人いる。男の人と女の人だ。誰だろう?


 一拍遅れて、先生も姿を現した。ミーちゃんに置いて行かれたんだと思う。本当に、この二人は仲が悪いな。と言うか、ミーちゃんが一方的に先生を嫌ってるんだな。先生はミーちゃんに意地悪するような人じゃないし、何で嫌われちゃったんだろう?


 パッと見て、みんな、怪我なんかはしていないっぽい。良かったぁ。敵襲かと思ったけど、違かったのかな? それにしては、先生もバルトさんも、血相を変えて飛んで行った感じだったけど……。


「とりあえず、座ろうか?」


 口を開いたのはアオイだ。引き攣った笑顔で、男女二人組にソファを勧める。あの様子、アオイの知り合いなのかな? そう思って先生のマントをクイクイと引っ張ると、先生が私を見てにこりと笑った。


「アオイ様のご両親ですよ」


 ほぉ~。アオイのお父さんとお母さんだったのか! 言われてみれば、男の人、アオイと顔が似てる。特に、不機嫌そうな口と眉の上がり方がそっくりだ!


 そっかぁ。アオイはお父さんとお母さんに会えたのか。あれ? でも、アオイって別の世界から来たはずなのに。もしかしなくても、アオイのお父さんとお母さんも別の世界から来たって事だよね? という事は、アオイ一家が異世界から召喚された勇者って事になるのかな?


 そんな事を考えながらアオイのお父さんとお母さんを眺めていたら、お母さんと目が合った。にこりと笑った顔が、どこかローザさんと似ている。優しそうなお母さん……。良いな。アオイはお母さんと会えて。私も母さんに会――。


「アイリス」


 呼ばれて顔を上げると、先生が私を見つめていた。


 私、今……。私には、お母さん代わりのローザさんがいるんだもん。アオイの事、羨ましくなんてないんだもん!


「一つ、仕事を頼まれてくれませんか?」


 先生の言葉に、こくりと頷く。先生は優しく微笑むと、お仕事の説明をしてくれた。


 先生に頼まれたお仕事は、ローザさんと一緒に西の塔のお部屋を三つ、お掃除する事だった。何でも、アオイのお父さんとお母さんと一緒にお城に侵入した、中央神殿の巫女頭メーアとその側近二人が使う予定らしい。やっぱり敵襲だったんだ、さっきの。


 西の塔には初めて入ったけど、そこは牢屋がある場所だった。牢屋とは言っても、おとぎ話に出てくるような暗くてジメジメしてておっかない場所じゃない。塔の各階に、私の部屋より少し狭いくらいの部屋が幾つも並んでいるだけだったりする。


 まあ、部屋の窓には鉄格子があるし、扉には除き穴があるし、扉の鍵は外からしか開け閉め出来ないし、トイレには衝立しかないし、簡単には逃げ出せないように魔術の罠もある。……よく考えたら、「だけ」なんて言ったら駄目だな、これは。立派に牢屋だ。


 西の塔の中ほどの階のお部屋を、ローザさんと手分けして掃除する。床を掃いて、モップをかけて、ベッドのシーツをかけて、テーブルを拭いて――。忘れた事は、何か無いかな……? そう思ってぐるりと室内を見回す。


 ……あ! お水! しばらく流しておいてって、ローザさんに言われたんだった! お水汲んで、そのまま蛇口閉めちゃった! 失敗、失敗。トイレ脇の洗面台の蛇口を捻って水を出し、もう一度室内を見回す。これで大丈夫かな……?


「アイリスちゃん、終わった?」


 ローザさんが出入り口から顔を出す。私は頷くと、蛇口を閉めた。ずっと使っていなかった場所だったからか、埃がたくさんあって掃除が大変だった。でも、見違えるほど綺麗になったと思う。埃でくしゃみが止まらなくなる事も無いはずだ。お水はあんまり出しっぱなしに出来なかったけど、きっと大丈夫。うん、大丈夫、大丈夫。駄目でも、お水飲んだらお腹が痛くなるだけだと思う。お腹が痛くなったら頑張れば良い。この部屋を使う人が。


「じゃあ、戻りましょうか?」


「あれ? もう一部屋は?」


「終わったわよ?」


 何と。私が一部屋掃除する間に、ローザさんってば、二部屋の掃除を終わらせていたらしい。いつも思うけど、ローザさんっておっとりしてそうに見えて、テキパキとお仕事するんだよなぁ。私も見習わねば!


 手を繋ぎ、二人並んで階段を下りる。ローザさんの手、温かくて柔らかいな。母さんの手も、こんな感じだったな……。母さん……。


 駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ! 母さんの事は、忘れなくちゃいけないんだ。私を捨てた母さんなんて、大嫌いなんだもん! 嫌いなんだもん。嫌い、なんだもん……。


「アイリスちゃん?」


 呼ばれて顔を上げると、ローザさんが微笑みながら私を見つめていた。その顔と、思い出の中の母さんの笑顔が重なる。


「抱っこしてあげましょうか?」


 そんな、小さい子みたいな事……。でも……。私が小さく頷くと、足を止めたローザさんが屈み込み、私の両脇に手を入れた。


 ローザさんの首元に腕を回し、ギュッとしがみ付く。母さんとは少し違う、甘い匂いがする。今日はそれが何だか無性に悲しい。


「アイリスちゃんは偉いわね」


 私を抱えて歩き出したローザさんがそう言いながら、私の背中をトントンしてくれる。


「寂しくても泣かないものね。偉いわね」


 ローザさんはずっと、偉いわね、凄いわね、強いわねと、私を褒めてくれた。目を瞑ってそれを聞いていたら、何だか、母さんに褒められている気がした。声だって話し方だって、思い出の中の母さんとは全然違うのに……。母さん……。


 そうしてローザさんに抱っこされながら東の塔に戻る途中、ばったりと先生に出会った。ローザさんと抱っこされる私を見て、先生は少し驚いた顔をしたけど、すぐに納得したとばかりに優しく微笑んだ。そして、私の頭を撫でてくれる。


「今日は部屋に戻って休みますか?」


「んーん。先生、どこ行くの?」


「南東の塔へ。アオイ様のご両親の部屋を準備しなければならないので」


 そっか。そうだよね。普通に考えて、アオイのお父さんとお母さんだって、お城にお泊りするよね。あと少しで、アオイと竜王様のお披露目もあるし。それに出るはずだもん。


「私も行く! お手伝いする!」


「無理しなくても良いのですよ?」


「ん! 大丈夫。私、元気だもん!」


 そう言って、ローザさんの顔を見る。すると、ローザさんはにこりと笑って頷くと、私を下ろしてくれた。そして、口を開く。


「私もご一緒します。ご家族のお話し合いに、水を差したくはありませんし」


 そう言ったローザさんと手を繋ぐ。反対側の手を先生と繋ぎ、私達三人は南東の塔へと向かった。


 南東の塔に入ったのも初めてだけど、ここは東の塔と造りは変わらなかった。一番上に一番豪華な部屋があり、そこをアオイのお父さんとお母さんが使うらしい。ここも西の塔と同じく、ずっと使っていなかったからか、埃で全体的に汚れていた。ここを先生一人でお掃除するんじゃ大変だった。お手伝いに来て良かった。そんな事を考えながら、ローザさんと手分けして窓を開け、はたきで埃を落としていく。そうしてあらかた埃を落とし終わったら、今度は拭き掃除だ。家具に掛かっていた埃除けの布を全て取り、テーブルや椅子、ベッドの支柱などなど、雑巾で拭ける物を全て拭いていく。


 は~。このお部屋は広いから、お掃除が大変だ。それに、西の塔のお掃除より丁寧にしなくちゃいけないし。何たって、ここはアオイのお父さんとお母さんが使う部屋だもん。お掃除がいい加減だと、アオイが恥ずかしい思いをするんだもん。アオイのメイドとして、頑張らねば!


 そうして部屋の掃除が半分くらい終わったところで、水回りのお掃除をしていた先生が洗面所からお部屋に戻って来た。もう終わったらしい。お部屋のお掃除が終わったら、お手伝いしようと思ってたのに。先生、仕事が早すぎるよ。


「階段を掃除し終わったら、アオイ様のご両親を呼びに行っても大丈夫でしょうか?」


「ええ。お願い致します」


 先生とローザさんが言葉を交わす。掃除用具を手に廊下に出た先生の背を横目で見送り、私はせっせと拭き掃除を続けた。


 部屋の掃除が全て終わり、掃除用具を片付けると、私とローザさんも東の塔に戻る事にした。途中、アオイのお父さんとお母さんを先導する先生と出会った。ローザさんと一緒に廊下の脇に避けて道を譲る。すると、先生がちらりとこちらを見た。その目が何か言いたそうにしている。でも、お仕事中だからか、すぐに何でもない顔になった。どうしたんだろう? 何かあったのかな? でも、追い掛けて、どうしたのか聞く訳にもいかないし……。


「アイリスちゃん?」


 不思議そうに私を見つめるローザさんに何でもないと首を横に振ると、私達はアオイの待つ東の塔へと向かった。


 アオイの部屋に戻ると、何故かアオイが眠っていた。ベッドに横たわり、死んだように眠るアオイを見て、ちょっと不安になってしまう。


 もしかして、私達がいない間に何かあったのかな? 怪我してないように見えたけど、そうじゃなかったのかな? それとも、また、魔力を使いすぎたのかな?


「あの、どうなさったのでしょう……?」


 アオイが寝ているベッド脇の椅子に座る竜王様に、ローザさんがおずおずと問い掛ける。すると、竜王様が口を開いた。


「リーラの世界に誘われたのだろう」


「リーラ姫の……? それでは――」


「ああ。アオイの母上が中央神殿で回収したらしい。部屋を去る間際、置いて行った」


 アオイのお母さんが、リーラ姫を、回収した……。じゃあ、リーラ姫は無事だったって事? あれ? じゃあ、ウルペスさんはメーア大陸に行かなくても良くなった?


「アイリス」


「は、はい!」


 竜王様に呼ばれ、私はビシッと背を伸ばし、慌てて返事をした。そんな私を見て、竜王様がニヤリと笑う。


「アオイが目覚めるまで、お前に暇をやる。ラインヴァイスと共に行くべき所があるのだろう」


「はいっ! ありがとうございます!」


 私は竜王様にぺこりと頭を下げると、くるりと背を向け、駆け出した。さっき、先生が何か言いたそうにしてたのはこの事だったんだ! リーラ姫が戻って来た。消えてなんていなかった! 早く、ウルペスさんに教えてあげなくちゃ!

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