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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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苦手な物

 アオイが謁見でブタイノシシの燻製肉をもらってからというもの、一般の人達からのお祝いの品がブタイノシシの燻製肉や腸詰という事が増えた。アオイはブタイノシシの燻製肉が大好物らしいという噂が、国中に流れているみたいだ。今日の祝いの品も、ほとんどがブタイノシシの燻製肉や腸詰だったらしい。


 一日、何十個もブタイノシシの燻製肉や腸詰をもらっても、アオイと竜王様だけでは食べきれない。だから、アオイは私や先生、ローザさんなどなど、交流がある人達に「食べて」って配って回った。寝る前に摘まむには丁度良いかなって喜んでいたけど、毎日食べたら飽きてしまった。それなのに、今度は食堂のごはんにまでそれらが出るようになった。アオイが配って歩くだけじゃ全然減らないどころか、ストックが増える一方だからだ。上級騎士団員までストックを減らすお手伝いをする事になった。


 食堂に並ぶ料理を一つ一つ見て回ると、何かしらの形で燻製肉や腸詰が使われている。ここのところ、ごはんはずっとこんな感じ。こうでもしないと、ストックが増えていくんだろうなぁ。それは分かってるけど、飽きたものは飽きた。私はブタイノシシの腸詰を取らないよう、慎重にお芋だけを拾ってお皿に乗せた。それを見た先生が苦笑する。


 先生だって、ブタイノシシの燻製肉は飽きているはずだ。アオイにもらった燻製肉を食べていたはずだし、ここ最近は毎日毎日、食堂のごはんに燻製肉が入っているんだもん。


 その証拠に、私が燻製肉を避けてお芋を取っても、先生は何も言わない。流石に、先生は私みたいに燻製肉を避けてごはんを取るなんて事はしないけど、気持ちは分かってくれているんだと思う。


 今日のスープは何かな? うわっ……。細かい燻製肉がたくさん入ってる……。これ、避けられるかな? 上に浮いてるし、流石に無理かな? う~ん……。とりあえず、かき回してみるか……。


 スープが入っているお鍋をお玉でぐるぐるかき回し、具を均等にしてみる。すると、下の方からお野菜が浮き上がり、燻製肉が少しだけ目立たなくなった。まあ、これくらいなら……。そう思い、スープをカップに入れる。すると、湯気と共にフワリと燻製肉の香りが立ち上った。この匂い、もう飽きた。普通のごはんが食べたいよ。くすん……。


 ごはんを取り終わり、先生と二人並んで席に向かおうとすると、キッチンに繋がる扉から一人の若い料理人さんが出て来た。両手に一つずつお皿を持って。


 料理人さんは右手のお皿を私のお盆に、左手のお皿を先生のお盆の上に置いた。これは……。思わず、先生と顔を見合わせる。


「料理長から、珍しい腸詰との事です」


 料理人さんは頭を下げてそう言うと、キッチンへと戻っていった。腸詰……。珍しい……腸詰……。こんなのいらないのに! イェガーさんなんて嫌いっ!


 先生と私は向かい合わせに座ると、複雑な顔で見つめ合った。流石に、腸詰を先生に食べてもらう気にはなれない。だって、私が燻製肉や腸詰に飽きてるのと同じように、先生だって飽きてるはずだもん。しょうがない……。そう思い、私はフォークを握り締めると、腸詰にグサッとそれを突き刺した。そして、齧り付く。先生もナイフとフォークで一口大に切った腸詰を口に入れた。


 プリッとした食感に続き、ジワリと肉汁が口の中に広がる。燻製されているお肉独特の香りが鼻に抜ける。珍しいと言っていた割に、普通…………じゃなかった!


 ひぃ~! 口の中が大火事だ! 痛い! 痛い! 慌ててお水に手を伸ばす。先生も珍しく慌てた様子で、コップに手を伸ばしていた。


 唇が痛い。口の中も痛い。辛いって知ってたら食べなかったのに! 口がヒリヒリするよぉ! 痛いよぉ!


「これは……食べられそうにありませんね……」


「ん……」


 二人一緒に溜め息を吐く。先生の反応を見る限り、先生も辛い食べ物が苦手らしい。よく見ると、先生ってば涙目になってる。くふふ。ちょっと可愛い。


「何です? 嬉しそうな顔をして」


「ん~ん。何でもな~い」


 涙目の先生が可愛かったなんて、口が裂けても言えない。私は首を横に振り、ごはんを再開した。先生も首を傾げつつ、ごはんを食べ始める。


 ごはんを食べながら、ふと、お料理が置いてあるテーブルの方を見ると、バルトさんがごはんを取っていた。お仕事がひと段落して、ごはんにする事にしたのかな? 一人ぼっちでごはんを取るバルトさんを見て、私はある事を閃いた。これはチャンス!


「先生!」


「どうしました?」


「これ、バルトさんに食べてもらおうよ! 丁度、今、一人だし!」


 言いつつ、激辛腸詰が乗ったお皿を指差す。先生は腸詰のお皿とバルトさんを見比べ、渋い顔をした。


「人に頼むのは――」


「残したらもったいないよ。私達じゃ食べられないんだし、食べてもらおうよ!」


「しかし……」


 先生は、苦手な物を誰かに食べてもらうの、嫌みたいだな。変な所で頑固なんだから。んもぉ~!


「大丈夫! 先生が残したって言わないから!」


 私は腸詰の乗ったお皿を先生の手元から回収し、私の分の腸詰が乗ったお皿にその腸詰を移した。こんもりと腸詰の山が出来上がる。でも、きっと、二人分あるって言わなければ分からないと思う。うん。分かんない、分かんない。私はお皿を手に立ち上がった。


 一人ぼっちでごはんを取るバルトさんの元に向かう。すると、それに気が付いたバルトさんがこちらを向いた。そして、不思議そうに首を傾げる。


「何か用か?」


「バルトさんにね、これ、あげる」


 バルトさんにお皿を差し出すと、彼はお皿の上の山盛り腸詰を見て目を丸くした。と思ったら、フッと笑った。


「料理長から追加されたのか」


「ん。でもね、辛くて食べられないの」


「辛い、ね……。この量、二人分だろう?」


 ぎくっ! バルトさんってば鋭い。


「ち、違うもん! 一人分だもん!」


「団長はまだ刺激物が苦手なのか……」


「違うもん! 先生はちゃんと全部食べたもん! これは私のだもん!」


「そうか。なら、そう言う事にしておいてやろう」


 バルトさんはそう言うと、私の手からお皿を取った。何だかんだ言いながら、食べてくれるらしい。冷たそうに見えて、案外優しいよね、バルトさんって。ミーちゃんが懐くのも分かる気がする。


「今回は特別だからな。あまり好き嫌いをしていると大きくなれなくなる」


「大丈夫だもん! すぐ大きくなるもん!」


「だと良いがな」


 バルトさんはほんの少し口の端を持ち上げると、私に背を向けた。ごはん、取り終わったのかな?


「バルトさん、バルトさん」


 呼ぶと、バルトさんが不思議そうな顔で振り返った。


「どうした? まだ何かあるのか?」


「一緒にごはん食べようよ。一人ぼっちだと美味しくないでしょ?」


 私がそう言うと、バルトさんが驚いたように目を丸くした。と思ったら、私が座っていた席の方を見た。そして、苦笑する。


「いや。遠慮させてもらう。一人の方が気楽だからな。ほら。団長が心配している。もう戻れ」


「ん。分かった。またね、バルトさん。腸詰、ありがと」


「ああ」


 バルトさんは一つ頷くと、空いている席に向かった。私もバルトさんに背を向け、先生の待つ席に戻った。


 一人が気楽って、私にはよく分からないなぁ。私だったら寂しくて、美味しいごはんも美味しく感じなくなっちゃう。バルトさんはエルフ族で、他の部族の人と必要以上に関わらないようにしてるから慣れっこなのかな? ん~……。


「アイリス? バルトに何か言われました?」


 私が椅子に座ると、先生が口を開いた。どこか心配そうな顔をしている。エルフ族は人族が嫌いだから、先生が心配するのも仕方ない。ローザさんやアオイに対して、バルトさんがとっても冷たいの、先生も知ってるもんね。


「あのね、腸詰が辛いから食べてってお願いしたらね、二人分だろうって言われたの。でもね、ちゃんと一人分だって言ったんだよ。そしたらね、受け取ってくれたの。今回は特別だって。好き嫌いしてたら大きくなれないからって。それでね、バルトさん、ごはん取り終わったみたいだったからね、一緒に食べようって誘ってみたの。そしたらね、お断りされちゃったの。一人の方が気楽なんだって」


「食事に誘ったのですか? バルトを?」


「ん。だってね、一人ぼっちは寂しいでしょ? それにね、一人だと、美味しいごはんも美味しく感じなくなっちゃうんだよ。だからね、一緒にどうかなって」


「そうでしたか。バルトを、ね……」


 先生は呟くようにそう言うと、一人でごはんを食べるバルトさんの方を振り返った。何か思うところがあったのかな? はっ! もしかして、誘っちゃ駄目だったのかな? 先生とバルトさんって、あんまり仲良くないのかな?


「先生、怒ってる? 勝手に誘ったの……」


「いえ。ただ――」


「ただ?」


 私が首を傾げると、先生がこちらを向いて微笑を浮かべた。


「バルトを食事に誘うなど、他の者ではなかなか出来ない事だなと思って」


「そうなの?」


「ええ。バルトはエルフ族の中でも特に気難しいですし、断られる事が目に見えていますからね。しかも、嫌味付きで」


「へ~」


「嫌味、言われた事はありませんか?」


「ん~……。ない!」


「あれも、アイリスには気を遣っているのでしょうかね……」


「あのね、ミーちゃんがね、バルトさんにね、私と仲良くしないと絶交だよって言ってくれたんだって。バルトさんが言ってたの。私、ミーちゃんの妹分なんだって!」


「それ、嬉しいですか……?」


 先生が微妙な顔で口を開く。先生はミーちゃんが苦手だから仕方ない。でも、私はミーちゃんに妹分って言ってもらえて凄く嬉しいんだよ、先生。


「ん! 嬉しい! だってね、ミーちゃんはアオイの家族なんだよ。だからね、ミーちゃんの妹分の私も、アオイの家族みたいなものなんだよ!」


「ああ……。そういう事でしたか」


 先生は納得したように頷くと、優しく微笑んでくれた。

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