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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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リーラ 5

 アオイの元に、他国の王様から次々とお祝いの品が届き始めると、先生は大忙しとなった。アオイが鎧が欲しいって言ったからだ。しかも、あえて王様一人につき、鎧一部分に分けて注文したらしい。だから、鎧がバラバラに届く訳で。私やローザさんじゃどこに着ける物なのか分からないから、祝いの品が届く度に、先生が付ける場所とか付け方とかを教えてあげている。鎧が全部届いたら、またいつも通りになるのかな?


 カリカリ、カリカリと、私がペンを走らせる音が静かな図書室に響く。今日も先生はアオイの所に行ってしまった。私を置いて。でも、今日は先生の代わりにノイモーントさんが私の勉強を見てくれている。先生に置いて行かれて大泣きした次の日から、ノイモーントさんとフォーゲルシメーレさんが交代で、先生の代わりに私の勉強を見てくれるようになった。


 ノイモーントさんは呪術を、フォーゲルシメーレさんは薬の基礎を私に教えてくれる。本格的に魔術の勉強が始まったらこの二人に勉強を教えてもらう事になるから、その準備みたいなものらしい。先生がそう言ってた。


 誰かがいてくれると気が紛れる。だから、先生に置いて行かれてもそんなに寂しくはない。けど、何か違う! 違うんだよ、先生! そういう事じゃないんだよ!


「アイリス。考え事も良いですけど、ここ、間違えていますよ?」


「え? ああぁ~!」


 あと少しで完成だったのに。最初からやり直しになっちゃった……。くすん……。


「集中力がありませんねぇ、アイリスは。幼子だからでしょうかねぇ?」


 そう言って、ノイモーントさんはほっぺに手を当て、呆れたように溜め息を吐いた。む~! どうせ、私は子どもですよぉ! そんな風に、幼子って強調しなくても分かってますよぉだ! そう思ってむくれていると、ノイモーントさんが「ふふん」と鼻で笑った。


「幼子と言われて悔しいのでしたら、ラインヴァイス殿が戻って来るまでに、魔法陣の一つでも完成させてみせなさい? 一応、呪術の適性があるのでしょう?」


 今、一応を強調したな! 馬鹿にしたなっ! きぃ~! 悔しい! 絶対に、先生が戻って来るまでに魔法陣、描き終わってやるっ! 私は写本の新たなページを開くと、再びペンを走らせ始めた。


 ノイモーントさんは、先生と違ったやり方で私のやる気を引き出そうとする。さっきの嫌味な言い方もその一つ。私が悔しがる事を分かっていて、あえてそういう言い方をしているらしい。「ノイモーントさんが意地悪言うんだよ!」って先生に言いつけたら、そう教えてくれた。


 先生はとにかく優しくて、たくさん褒めてくれて、それでやる気を出させるタイプ。ノイモーントさんは、私の負けん気を引き出そうとするタイプ。フォーゲルシメーレさんは、質問に質問を返したりして、私が色々考える様に誘導するタイプ。こうやって考えてみると、人によって教え方って全然違う。


「アイリス。また同じところで間違えていますよ」


「ああ~!」


「学習能力が低いのでしょうかねぇ?」


 ノイモーントさんがわざとらしく溜め息を吐き、「やれやれ」とでも言うような顔で首を横に振った。


 ノイモーントさんに馬鹿にされるのは悔しい。でも、先生との勉強とは違った楽しさもある。だって、馬鹿にされればされるほど、魔法陣が完成した時、「どうだ! 参ったか!」って気になるんだもん。見返してやったぞって思えるんだもん。


 先生との勉強は楽しい。でも、ノイモーントさんやフォーゲルシメーレさんとの勉強も悪くないなって思う。早く初級魔術を習得し終わって、本格的に治癒術の勉強がしたいって、前以上に思うようになった。


 何度か魔法陣を描き直し、今日の課題がやっと終わった。と思った直後、先生が図書室に戻って来た。先生が戻って来るまでに魔法陣を描き終わるという目標も、ギリギリだったけど達成! 私だって、やれば出来るんだから!


「先生、見て!」


 書き終わった魔法陣を先生に掲げる。すると、先生は驚いたように目を丸くした。


「もう描き終わったのですか?」


「んっ! 凄い~?」


 凄いでしょ? 凄いよね? 私、頑張ったんだよ。ジッと先生を見つめる。すると、先生が優しく目を細め、私の頭を撫でてくれた。


「ええ。今日もよく頑張りましたね」


 わ~い! 褒められた! 嬉しくなってにんまり笑うと、先生も笑顔を返してくれた。


「ノイモーント、今日もありがとうございました」


「ありがとーございました!」


 先生がノイモーントさんに頭を下げる。それを見て、私も一緒に頭を下げた。


「いえ。こうして幼子に魔術を教えるのも、たまには悪くありませんから」


 また幼子って言った! む~っとほっぺを膨らませると、ノイモーントさんがクスクスと笑った。


「存外、気が強くて負けず嫌いのようで、いじめ甲斐もありますしね」


「程々にして下さいね。まだ幼いのですから」


 が~ん。先生にまで幼いって言われた……。


「あ。そう言えば」


 ノイモーントさんが思い出したように口を開く。すると、先生が不思議そうに首を傾げた。


「どうしました?」


「お披露目用の騎士服とドレス、昨日仕上がりました。手直し箇所が無いか、一度チェックさせてもらいたいのですが……。もし、この後お時間があるようでしたら、一緒に工房まで来て頂けないですか?」


 おお! もうドレスが出来たの? ついこの間、アオイの真っ白いドレスが出来上がったばっかりなのに。それに、毎日竜王様が持って来るアオイのドレスだって作ってるはずなのに。ノイモーントさんってば、仕事が早いね! でも、よく考えてみると、恐ろしい早さだ。ノイモーントさんってば、いったい、一日何着くらいドレス作れるんだろう? 二、三枚は作れるのかなぁ?


「分かりました」


 先生が笑顔で頷く。こうして、私達三人は連れ立って、ノイモーントさんの工房へと向かった。


 ノイモーントさんの工房に入ると、五着のドレスと、灰色の上着の騎士服が飾られていた。灰色の上着の騎士服は、言わずもがな、先生の騎士服。青いドレスはきっと、ローザさんのドレスだな。他は……。血のように赤いドレスと深緑色のドレス、茶色地に黄色い模様のドレスとオレンジのドレス。大きさ的に、オレンジが私のだ!


「おお~! きれ~!」


 私のオレンジ色のドレスには、胸元に黄色、じゃないな、金色の大きなリボンが付いていた。ドレスもリボンもツヤがある、凄く綺麗な布が使ってある。


「光の加減で地色が金に変わる布地を使っています。とは言っても、こちら程は目立たないですけど」


 そう言って、ノイモーントさんが深緑色のドレスを目で示した。言われてみれば、深緑色のドレスは全体的に金色掛かっている。それに、光が当たっているところは金色が濃い気がする。何だか、ノイモーントさんの目の色みたいだ。面白い!


「同じ製法で作らせた布ですが、アイリスのドレスは地色がオレンジですからね」


 そう言いつつ、ノイモーントさんが私を手招きする。私から着るの? ドキドキ! ワクワク!


「衣装部屋で着替えてきて下さい」


「は~い!」


 元気に返事をし、ドレスを受け取る。そして、ノイモーントさんが開けてくれた扉をくぐった。


 初めて入った工房の衣装部屋は、一言で言うと凄かった。何が凄いって、ドレスの数。アオイのクローゼットとは比べ物にならない。思わず見とれてしまいそうになって、ハッとなった。先生達、待ってるんだった! 慌てて着替え、衣装部屋から出る。すると、そんな私を見て、先生が優しく微笑んだ。


「よく似合っていますね」


 えへへ。先生の褒められると何だか照れるなぁ。照れ隠しに後ろ頭を掻いていると、ノイモーントさんが私のすぐそばにしゃがみ込んだ。不思議に思って首を傾げながら見つめる。すると、ノイモーントさんがスカートの裾を少し摘まみ、織り込むようにピンで留めていった。


 あれぇ? スカート、短くされちゃった。最初の長さの方が、足がすっぽり隠れて、ドレスって感じで好きだったのに……。


「寸直しが出来るように長めに作りましたが、裾はこれくらいでしょうか?」


「ですね」


 ノイモーントさんに問われ、先生が頷く。このドレスは、足が隠れるくらい裾の長いドレスじゃなくて、膝が隠れるくらいの長さのドレスって事?


「う~……」


「どうしました、アイリス?」


 先生が屈んで私の顔を覗き込む。私は口をへの字に曲げ、不服を露わにした。


「気に入らないのですか?」


「……短いの、やだ……」


 私だって、裾の長いドレスが着たいんだもん。おとぎ話のお姫様みたいな恰好がしたいんだもん。これじゃ、お姫様じゃないんだもん……。


「ロングドレスは裾の扱いに慣れが必要ですから」


 そう言って、先生が困ったように笑った。ノイモーントさんも苦笑している。二人して、私を子ども扱いして!


「嫌! 長いのが良い! お姫様みたいなドレスが良い!」


「しかし――」


「長いのぉ!」


 私だって、私だって……! ジワリと目に涙が滲み、先生の顔が歪んで見えた。泣いたら先生が困るって分かってるのに。先生を困らせたくないのに……。でも、悲しい気持ちの方が勝ってしまった。私だってお姫様みたいなドレス、一回くらい着てみたい。特別な日の、特別なドレスなんだんもん……!


「……分かりました」


 そう言ったのはノイモーントさん。真剣な顔で私を、いや、私のドレスを見つめている。


「せっかくのドレスですからね。アイリスの好きなように作りましょう」


「ですが……」


「分かっています。裾の扱いがしやすいように、少々改良します。アイリス、それで良いですね?」


「んっ!」


 やったぁ! 私も裾の長いドレスが着られる! そう思うと、自然と笑みがこぼれた。それを見た先生とノイモーントさんが顔を見合わせ、可笑しそうに笑う。笑う事無いのに!


 私がドレスからいつものメイド服に着替えると、今度は先生が騎士服を着る番となった。灰色の上着と黒いズボンを手に、衣装部屋へと入っていく。白以外の色の服を着てる先生を見るの、初めてだからちょっと楽しみ!


 しばらく待っていると、着替え終わった先生が衣装部屋から出て来た。灰色の上着と黒いズボン姿の先生は、見慣れないからか、ちょっと変な感じがする。


「サイズはどうですか? 大きすぎませんか?」


「大丈夫そうです」


 二人のやり取りを聞きつつ、ジーッと先生を見つめる。灰色の服の先生は、ちょっと大人っぽくて格好良い。でも……。


「どうしました?」


 私の視線に気が付いた先生が首を傾げる。私は難しい顔で口を開いた。


「いつもの先生の方が良い」


「似合わないですか?」


「ん~ん。でも、ちょっと怖いの」


「え……」


 先生が驚いたような顔で動きを止めた。それを見たノイモーントさんが押し殺したように笑う。何で笑うの? そう思ってノイモーントさんを見上げると、彼は私と視線を合わせるように屈み込んだ。


「アイリス、怖いというのは?」


「だってね、いつよりキリッとしてるんだもん。白い上着の方が優しいの」


「灰色は取っ付き難いですか?」


「ん!」


 そう。それそれ! いつもよりキリッとしてるから、ちょっと話しかけにくい気がする。先生は、白い服の方が絶対に良い!


「だそうです、ラインヴァイス殿。その騎士服は、お披露目以外で着る機会は無さそうですね」


「ええ……」


 ノイモーントさんの言葉に頷いた先生は、しょんぼりしたような顔をしていた。もしかして、先生は灰色の騎士服、気に入ってたのかな? 私、余計な事、言っちゃった?


 数日後、完成した私のドレスは、裾のところに芯が入っていて、足に纏わり付かないようになっていた。これで裾を踏んで転ぶ心配は無いらしい。多少なら、飛んで跳ねて走っても大丈夫だって、ノイモーントさんが言っていた。でも、いくら私でも、ドレスを着て、飛んで跳ねて走ったりなんてしないもん。失礼しちゃうなぁ、もう!


 このドレス、仕舞う時に気を付けないといけない事がある。芯が折れないようにしないといけないらしい。芯が折れるとスカートがボコッと凹んじゃうから、お披露目の日までノイモーントさんの工房預かりになってしまった。私だって、ちゃんと折れないように仕舞えるのに……。


 鏡の前で、色々な方向からの姿を確認する私を、先生とノイモーントさんが目を細めて見つめている。あんまり見られると照れる。でも、もう少し。確認、確認。


「こうしていると、リーラ姫がお元気だった頃のようですね」


「ええ。新しいドレスが出来上がると、ここでこうして試着をして……。必ず、そのまま着て帰っていましたね」


「そうそう。リーラ姫のドレスは手直しをさせてもらえないので、仕立てには神経を使っていました」


 先生とノイモーントさんが、昔を懐かしむような顔で話を続ける。私はそれを聞き、ギュッと拳を握りしめた。


 先生が私に優しくしてくれるのは、リーラ姫と私を重ね合わせているから。そんなの、とっくに分かってる。でも、他の誰でもない、先生にだけは私を見て欲しい。リーラ姫の代わりなんて、私、嫌だよ、先生……。

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