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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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アオイ 4

 とぼとぼと廊下を歩き、キッチンへと向かった。お茶を持って来るって自分で言ったのに、手ぶらで帰ったら変に思われちゃうもん。だから、キッチンまでちょっと遠いけど我慢、我慢。


 溜め息を吐きながら廊下の角を曲がる。とたん、ドンと何かにぶつかった。驚いて顔を上げると、目の前にはウルペスさん。私とぶつかったのは彼だったらしい。ウルペスさんも驚いた顔で私を見ていた。


「驚いたぁ。大丈夫だった? 痛いところ、無い?」 


「ん。ごめんなさい。ウルペスさんは大丈夫?」


「俺は丈夫だから大丈夫!」


 二カッと良い顔で笑うウルペスさん。ちょっと前だったら、思わず意地悪言いたくなったような笑顔だ。でも、今はそんな気になれない。


「そっか。良かった。私、急いでるから。またね」


 そう言ってウルペスさんに手を振り、キッチンを目指す。だって、ウルペスさんと必要以上に話したくないんだもん。というか、顔を合せ難いんだもん。どんな顔をすれば良いのか分からないんだもん……。


 ウルペスさんは、リーラ姫がアオイから引き剥がされた事を知らない。アオイを助けに中央神殿に行った時、ウルペスさんは夜間警備明けの状態で、しかも、寝たと思ったら叩き起こされていた。誰だって、寝不足の状態じゃ、注意力が無くなるもん。そんな状態で、一瞬見ただけでアオイの左手の紋章が消えてるなんて、気が付くはずが無い。


 だから、ウルペスさんには、アオイもリーラ姫も無事って事にしているらしい。リーラ姫は、アオイの記憶を取り戻そうと頑張っているって話したって、先生が言っていた。ウルペスさんはウルペスさんで、アオイと会う機会も無いし、先生の言った事を素直に信じているらしい。それだけ、先生を信用してるんだと思う。


「アイリスちゃ~ん! 待ってよぉ!」


 呼ばれて振り返ると、アオイがこちらに向かって走って来ていた。私を追い掛けてきたの? どうして? 立ち止まって首を傾げる私の前まで来たアオイが、私に手を差し出す。


「私の部屋でお茶しようよ! 荷物はラインヴァイス君に頼んだから。アイリスちゃん、ずっと勉強してて疲れたでしょ?」


「……ん」


 差し出されたアオイの手を握ると、アオイがニコッと笑った。前と変わらない笑顔。それなのに、アオイは私との事をほとんど覚えていない。私を助けてくれた事も。似顔絵をくれた事も。私が魔術を習えるように、竜王様にお願いしてくれた事も。みんな、みんな忘れてしまった。


 でも、アオイはアオイだ。性格だって考え方だって、前とちっとも変わってない。だからなのかな? 余計に、アオイが私の事を覚えてない事が寂しくて悲しい。


 手を引かれて歩く私の足に、突然、フワリと何かが触れた。驚いて足元を見ると、ミーちゃんがすぐそばを歩いていた。さっきのは尻尾? 私が見ている事に気が付いたミーちゃんがこちらを見て「んにゃ」と短く鳴く。わざわざ、私達の所に転移してきたのかな? ミーちゃんなら、図書室から直接アオイの部屋に転移して帰れるのに……。私の為、なのかな?




 その日の夜、アオイの夕ごはんのお世話をしていると、アオイが思い切った顔で竜王様を呼んだ。顔を上げた竜王様はいつも通りおっかない顔をしている。


 竜王様は、見た目といい、雰囲気といい、とっても怖い。けど、アオイが竜王様に怯えるような事は無い。アオイは、私や先生、ローザさんに接するように、普通に竜王様に接している。竜王様は前以上にアオイに優しくしているし、アオイを大切に想っている気持ちが通じてるんじゃないかなって思っている。そうじゃなかったら、普通、怖くて話なんて出来ないと思う。


「私、そろそろお披露目の準備したい」


 アオイがそう言うと、竜王様が驚いたように目を見開いた。と思ったら、フッと笑った。初めて見るような、とっても嬉しそうな笑い方だ。竜王様でも、こんな顔をするのか。大発見!


「そうか。では、明日より始めるか」


「うん!」


 アオイも嬉しそうに笑って頷く。竜王様に気を遣っている感じはしないし、アオイは本当にお披露目の準備がしたくなったんだと思う。


 まさか、アオイから「お披露目の準備したい」なんて言葉が出るなんて……。そろそろ準備を始めても大丈夫じゃないかなってくらいアオイの心は落ち着いたけど、準備をしても大丈夫になるのと、準備をしたくなるのとじゃ、全然意味が違う。アオイってば、竜王様を大切に想っていた事、思い出したのかな?


 ローザさんを見ると、彼女は嬉しそうに笑っていた。アオイがお披露目に前向きなのが素直に嬉しいらしい。私もアオイがお披露目に前向きなのは嬉しい。でも、先生の気持ちを考えると、胸の奥がモヤモヤしてきた。だから、すぐ隣に立つ先生の顔が見られなかった。


 アオイと竜王様の夕ごはんも終わり、先生が食器を片付けに行ってくれた。その間に、アオイとローザさんと竜王様が明日の打ち合わせ。私はお風呂を沸かして、アオイの着替えの準備を整えておく。この準備、ローザさんが竜王城に来てからというもの任せっきりにしてたから、すごく久しぶりにやった。けど、忘れた物は無いはず。……たぶん。


 明日からのお披露目の準備は、まず初めにアクセサリーとドレス選びからする事になった。綺麗なアクセサリーとドレスをアオイに選ばせて、アオイの気持ちをもっと上向きにさせようというローザさんの作戦っぽい。それに、ローザさんはアオイにお披露目の準備を楽しんでもらいたいんだと思う。竜王様もローザさんの作戦は分かっているらしく、明日のアオイの予定はすんなりと決まった。


 予定が決まると、アオイは寝る準備。私が沸かしたお風呂に入り、私とローザさんと一緒に寝る前のお茶をしてからベッドに入った。使った食器を回収し、ローザさんと一緒にアオイの部屋を出る。そして、一緒にキッチンに行ってティーカップを返し、ノイモーントさんの工房へと向かった。


 廊下の角を曲がり、階段を下りて廊下を進む。突き当りに差し掛かり、私達は立ち止まった。次、右? 左?


 ノイモーントさんの工房はキッチンがある所とは別棟だから、あまり来る機会が無い。ローザさんも同じらしく、右の廊下と左の廊下を見比べ、首を傾げている。


「ローザさんも、どっちに進むか分からない?」


「ええ……」


 むむむ。二人で迷ってしまったぞ。こんな時に限って、廊下を歩く人もいない。う~む。どうしたものか……。一回キッチンに戻って、イェガーさんに道を聞こうかな? それとも、ローザさんにブロイエさんを呼んでもらう? ちらりと、ローザさんの左手中指に嵌っている指輪を見る。


 中心に青い石がはまった指輪は、ローザさんとブロイエさんの契約印だ。契約印は夫婦の証らしい。アオイは竜王様の契約印をずっと前からつけてたから、恋人の証なのかと思ってたけど、違うってローザさんが教えてくれた。この契約印、旦那さんに奥さんの居場所が分かったり、旦那さんの寿命と奥さんの寿命が同じになったりするらしい。これもローザさんが教えてくれた。他にも、居場所が離れ過ぎてなければって条件はあるけど、奥さんの声が旦那さんに届くという便利な効果がある。


 ローザさんが呼べば、ブロイエさんならすぐに飛んで来てくれる。例えじゃなくて、本当に転移で飛んでくる。きっと、血相を変えて。ローザさんに何かあったんじゃないかって。


 う~ん……。ブロイエさんを呼ぶのは最後の手段にしておこう。今はそこまで急ぎじゃないし、ブロイエさんだって忙しいだろうし。


 ローザさんと二人で頭を捻っていると、廊下の先から人の声が聞こえた。あっちに人がいるっぽい。これで道が聞ける! そう思い、私は声がした方に向かって駆け出した。私の後を、ローザさんも早足で付いて来る。


「――何とか言えよっ!」


 あれ? 怒鳴り声? 足を止め、ローザさんを振り返る。ローザさんも今の怒鳴り声がしっかり聞こえたらしく、立ち止まり、怪訝そうに眉をひそめていた。

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