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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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アオイ 3

 一月ほど経っても、アオイの記憶は完全には戻っていない。思い出せることもあるみたいだけど、あやふやな事が多くて、詳しい事はなかなか思い出せないらしい。そんな中でも、アオイと竜王様が夫婦になったお披露目の準備は進んでいる。


 アオイが攫われた前の晩、アオイと竜王様は夫婦になっていたらしい。アオイが攫われるなんて大事件が無かったら、すぐにでも教えてもらえた事らしい。でも、あんなこんなで話す機会が無くなってしまって、アオイが竜王城に戻って数日が経った頃、少し落ち着いてから教えてもらえた。


 アオイが攫われる前は、一月ほどしたら――丁度今頃、お披露目のパーティーをする予定でいたらしい。ブロイエさんがローザさんからの第一報で、真夜中なのに他国の王様達に連絡してしまったのが原因だ。アオイと竜王様が竜王城に戻って来てから、落ち着いて連絡すればよかったのに。


 そんなこんなで、アオイが中央神殿から無事に竜王城に戻って来た時には、アオイのお披露目は、アオイが記憶を失ったからといって中止にする事は出来なくなっていた。だから、準備期間という事で、少しの間延期になった。初雪がちらつくあたりって予定になったから、あと三月足らずでアオイのお披露目パーティーがある。


 お披露目の準備は、アオイに気が付かれないように、少しずつ、少~しずつ進めている。ノイモーントさんにアオイのドレスのデザイン画を描いてもらったり、パーティー係りの人に、会場のデザイン画を描いてもらったり。お披露目の進行を、竜王様とブロイエさんと先生とパーティー係りの人で打ち合わせしたり。イェガーさんにパーティー料理を考えてもらったり。アオイがお城の中をふらりとしても、絶対に気が付かれない所から手を付け始めた。お披露目まで少しだけ時間があるから、アオイの気持ちが落ち着いて、お披露目の準備を本格的に始めても大丈夫そうだなって感じになるまで、本格的な準備はしない予定だ。だって、お披露目の主役はアオイだから。主役が乗り気じゃないんじゃ、準備なんてはかどらないもん。


 私は初級魔術教本から目だけ上げ、斜め前の席に座るアオイを盗み見た。アオイは真剣な顔で、テーブルの上で丸まって眠るミーちゃんの絵を描いている。こうして図書室で過ごしていても、一緒に勉強した記憶は戻っていないみたい。


 竜王城に戻って来てからというもの、アオイは、午前中は竜王様と農場を見て回って、午後からは今みたいに私達と一緒に図書室で過ごしたり、お部屋でお茶をしたりして過ごしている。魔術と剣を竜王様から習っていた頃のアオイとは比べ物にならないくらい、のんびりとした生活を送っている。


 アオイは魔術や剣を習っていた記憶も失ってしまっている。だから、先生も竜王様もブロイエさんもローザさんも、そして私も、アオイが魔術と剣を使えるんだよって教えていない。だって、そのままその事を忘れていれば、戦う術を失くしたアオイは、戦になっても戦場に出る必要は無いんだもん。


 アオイが魔術と剣を使えた事を黙っている事が、良い事なのかどうかは分からない。でも、記憶を失ったアオイを、みんな、守ってあげたいんだ。アオイがこれ以上、辛い思いをしないように。


 そして、もう一つ、アオイに気が付かれないようにしている事がある。私はちらりと、アオイの左手を見た。紙を留めてある板を持つ、アオイの左手の甲はまっさらで何も無い。攫われる前は確かにあった、リーラ姫の紋章が消えてしまっている。


 ブロイエさんの話では、中央神殿の人達は、アオイの精霊であるリーラ姫が邪魔だったらしい。だって、忘却の術を使っても、リーラ姫が色々とアオイに教えられるから。何が嘘で、何が本当なのか。だから、中央神殿の人達は、アオイからリーラ姫を無理矢理引き剥したらしい。浄化術に、そんな事が出来る術があるとか何とかって話だった。


 リーラ姫がどうなったのか、私達には分からない。でも、ブロイエさんが言っていた。消滅してしまってもおかしくないって。浄化術はそういう術だからって。


 出来れば、アオイにはリーラ姫の事は忘れたままでいて欲しい。だって、傷つくのはアオイだもん。それに、アオイの事だ。リーラ姫を探しに行きたいって言い出すかもしれないもん。そこまで馬鹿じゃないって思いたいけど、時々突拍子も無い事を言い出したり、したりするのがアオイだもん。そのお蔭で、私はこうして魔術の勉強出来てるんだけどさ……。私が小さく溜め息を吐くと、それに気が付いたように、ミーちゃんの顔がこちらを向いた。


 ミーちゃんは、アオイが元々飼っていた「ねこ」って獣らしい。ミーちゃん的には「ねこまた」だって、通訳のバルトさんが言ってた。でも、私には違いがよく分からないし、アオイが「ねこ」って言ってたから、ミーちゃんは「ねこ」なんだと思っている。


 獣の本を調べてみても、この世界に「ねこ」はいなかった。ワーキャット族の獣化した姿が「ねこ」に一番近いけど、ミーちゃんはワーキャット族みたいに人の姿にはなれない。だから、ミーちゃんはワーキャット族じゃなく、ただの獣って事だ。ただ一つ気になるのは、ミーちゃんが「今は人の姿になれない」って言ったと、バルトさんが言っていた事。今はって事は、そのうち出来るようになるの?


 ミーちゃんはアオイの大切な家族だ。ずっと会いたがっていた家族の一員。だから、世話係が必要だろうって事で、ミーちゃんの専属世話係兼通訳はバルトさんがなってくれた。というか、バルトさんが強く希望したらしい。「是非とも、世話係にして下さい!」ってミーちゃんと竜王様、先生に一生懸命お願いしたらしい。必死過ぎてちょっと怖かったって、先生が言ってた。


 バルトさんのエルフ族は、あの長い耳のお蔭で獣の言葉が分かるんだよって教えてくれたのはブロイエさんだ。エルフ族には獣好きが多くて、みんな、農園の放牧場やユニコーンの厩舎で働きたがるんだよって。獣とずっと一緒にいる生活は、エルフ族の夢らしい。


 バルトさんは、獣好きのエルフ族の中でも飛びぬけて獣好きだ。これは、竜王城では結構有名な話みたい。ミーちゃんの通訳を頼もうと、バルトさんの行方を捜して色んな人に尋ねて回ったら、「あぁ~。あの、獣狂いね……」ってみんな言ってたもん。すご~く微妙な顔で。


 ミーちゃんが竜王城に来てからというもの、ミーちゃんと一番触れ合っているのはバルトさんだ。そのバルトさんが言ってた。ミーちゃんは不思議な獣だって。普通の獣よりずっと頭が良いし、人の気持ちには驚くくらい敏感だって。言われてみれば、私が寂しい時とか悲しい時とかには必ず、姿を現して一緒にいてくれる。それに、アオイが不安そうにしてると、そ~っと近寄って、さりげな~く身体をくっつけている。ミーちゃんは異世界から召喚された獣だから神獣ってくくりになるはずだし、転移魔術なんかの空間操作術が使える以外にも、不思議な力があるんだと思う。


 ミーちゃんは「よっこいしょ」と重たそうに起き上がると、テーブルの上をトコトコと歩いて私の所まで来た。と思ったら、何故か初級魔術教本の上に寝そべってしまった。これじゃあ私、勉強出来ないよ!


「ミーちゃん、どいて」


 そう言ってみるも、ミーちゃんはどいてくれない。それどころか、私を遊びに誘うように、仰向けに寝そべって前足をちょいちょいと動かし始めた。


「う~。勉強出来ないよぉ。先生ぇ!」


 先生に助けを求めると、先生は困ったように眉を下げた。先生は、ミーちゃんが苦手っぽい。絶対にミーちゃんに触ろうとしないし、ミーちゃんが近づくと、ビクッてなる事がある。それどころか、知らない間にミーちゃんがそばにいた時なんか、声を出して驚くくらいだ。二人、じゃなかった、一人と一匹にいったい何があったんだろう?


「アオイぃ!」


 今度はアオイに助けを求める。アオイは苦笑しながら「ミーちゃん」と呼んだ。でも、ミーちゃんはどいてくれない。


「う~! ミーちゃん、どいてよぉ!」


 グイグイとミーちゃんの身体を押し、何とか初級魔術教本の上からどかした。と思った次の瞬間、ミーちゃんが素早い動きで教本の上に戻る。


「あぁ~! もう! ミーちゃん!」


 怒ってみても、ミーちゃんは動じない。「みゃ~みゃ~」と可愛く鳴きながら、前足を動かしている。


「アイリスちゃんと遊びたいみたいだね。ラインヴァイス君、そろそろ休憩にしない?」


「そうですね」


 アオイと先生が微笑みを交わす。その姿を見て、胸の奥がギュッとなった。前から、二人が仲良く笑って話している事なんてよくあった。そう思うのに、この場所にいたくない。二人を見ていたくなかった。


「わ、私……お、お茶、持って来る!」


 そう言ってガタリと椅子から立ち上がると、ミーちゃんが驚いたように飛び起きた。それに構わず、走って扉へと向かう。


 アオイ、変に思ったかな? 大丈夫かな? 先生の気持ちは、私だけの秘密なんだから。誰にも知られちゃいけないんだから。じゃないと、先生の立場が悪くなっちゃう。まだお披露目が終わってなくても、アオイは竜王様の奥さんなんだもん。そんな人を好きだなんてみんなに知られちゃったら、最悪、先生は竜王城にいられない。そんなの、絶対に嫌だもん……。

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