表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/265

離宮 2

 もごもごという微かな音に続き、ごっくんという音と衝撃に襲われ、私は驚いて飛び起きた。な、何? 何があった? きょろきょろと辺りを見回しても、音と衝撃の原因は見つからない。


「アイリス、おはよー! もう少しで離宮着くってよぉ!」


「あ。アオイ、おはよー! 分かったぁ!」


 真っ黒くて大きなドラゴン姿の竜王様の上で、アオイがこっちに向かって手を振っている。私はアオイに挨拶を返し、落ち着いて辺りを見回した。


 さっきの衝撃は、私を起こす為の何かだったのかな? でも、ちょっと心臓に悪い起こし方だ。ビックリして心臓が口から飛び出すかと思った。


 山の間からお日様が顔を覗かせ、周囲を照らしている。夜明けが過ぎたばっかりなのか、お日様の位置はまだまだ低めだ。いつもは夜明け前に起きているから、夜明けなんて見飽きている。と思ったけど、見逃したら見逃したでちょっと残念。


「ちぇ。夜明け、見逃しちゃった……」


「見たかったのですか?」


「ん。空から見るの、初めてだもん。特別だもん」


「では、明日、一緒に見ましょうか。空からの夜明け」


「ん!」


 わ~い! 離宮での楽しみが一つ増えた。早く明日にならないかなぁ。そうだ! 今日は早く寝ないと! 寝過ごしたら大変だもん。夕ごはん食べたらすぐに寝よっと!


 先生がゆっくりと高度を落としていく。しばらくすると、森の向こうにキラキラと輝く湖が見えた。あの湖の近くに離宮があるはず! 目を凝らすと、湖の向こう側に真っ白い建物が見えた。


「先生! あの白い建物が離宮?」


「ええ」


 離宮は、思っていたよりちょっと小さめのお城だった。竜王城よりずっと小さいし、高さも竜王城よりずっと低い。小ぢんまりとした可愛らしいお城だ。あのお城で五日間も過ごせるなんて。私、幸せ!


 お城に近づいていくと、庭先に人影が見えた。青いドレスを着ていて、母さんと同じ赤毛に近い金髪。言わずもがな、ローザさんだ。ローザさん、ずっと待っててくれたのかな? 先生の背中の上から手を振ると、ローザさんも手を振り返してくれた。


 先を飛んでいた竜王様が離宮の中庭に降り立つと、その後に続いて先生も中庭に降り立った。竜王様がアオイを尻尾の上に乗せ、地面に下ろしてあげる。私はというと、出発の時と同じく、先生の尻尾に巻かれて下ろされた。落っこちないようになんだろうけど、私もアオイみたいに下ろしてもらいたい……。


「お疲れ様でした」


 ローザさんが微笑みながら、私達に頭を下げた。つられるように、私とアオイも頭を下げる。その横では、先生と竜王様がいつの間にか人の姿に戻っていた。


「竜王様。少しお休みになられますか?」


「いや、先に朝食を。その後で休ませてもらう」


「かしこまりました」


 竜王様の返事に、ローザさんが微笑みながら頷いた。そして、「どうぞ」と言うように手で方向を示し、歩き出す。私達四人もその後に続いた。


 案内された離宮の食堂には、大きな長い、長~いテーブルがあった。短辺の席の一つに竜王様が座り、その斜め横の長辺の席に先生が座る。私は先生のお向かいの席に案内された。アオイはというと、何故か食堂の入り口で足を止め、ぼ~っとしている。


「アオイ様?」


 ローザさんが首を傾げながらアオイを呼ぶと、アオイはハッとしたように私達を見た。そして、ローザさんが椅子を引いて待っている席、竜王様の隣に小走りで移動した。


 こうして四人でごはんをするのは初めてだ。私と先生はいつも食堂で食べてるし、アオイと竜王様のごはんのお世話は私達の仕事だし。ちょっと不思議な感じがする。


「失礼致します」


 一礼をして、食堂に人が入って来た。きっと、私達のごはんのお世話をしてくれる人なんだろう。そう思って入って来た人を見る。おや。バルトさんじゃないか。そっか。バルトさんも第一連隊だったんだ。


 アオイがじ~っとバルトさんを見つめる。どこか見覚えがある人だけど、この人誰だっけ的な顔で。すると、その視線に気が付いたバルトさんが、アオイをぎろりと睨んだ。


 バルトさんは、御前試合でアオイが霜と氷柱塗れにしたものだから、その後、風邪を引いてしまって、結構長い間、フォーゲルシメーレさんの病室でお世話になっていた。アオイの為に魔力回復薬の作り方を教えてもらっている数日の間はもちろん、その後も、薬草をもらいに行ったり、飲みやすい薬湯を作る方法を聞きに行ったりする間もずっと、ベッドで寝ていたから、かなり悪かったんだと思う。現に、御前試合の時よりも、げっそりとした顔になってしまっている。アオイが一目見て、バルトさんだって分からなかったのも仕方ないと思う。私だって、病室のバルトさんを見てなかったら、この人がバルトさんだって分からなかった気がするもん。


 むっつりとした顔で、バルトさんが料理を配ってくれた。エルフ族は人族が嫌いだから、こうして人族のお世話をさせられて、不機嫌になるのも仕方ない。分かってるけど、ちょっと悲しい。


 エルフ族は、人族に迫害されて住む土地を追われたって、先生がくれた本に書いてあった。エルフ族は元々メーア大陸に住む部族だったけど、人族に村を焼き払われたり、一方的に殺されたりして、大きく数を減らしてしまったらしい。そして、一部のエルフ族は、メーア大陸を捨て、魔大陸に逃れてきた。でも、住んでいた場所を捨てて逃げてきたエルフ族に対し、魔大陸に元々住んでいた部族からの風当たりも強いらしく、エルフ族はエルフ族同士で固まって行動する事にしたらしい。つまり、エルフ族同士の結束は固いけど、他の部族との交流はあまり持ちたがらないって事だ。だからか、竜王城の食堂でも、エルフ族の人達は、エルフ族同士で固まってごはんを食べているか、独りで食べている事が多い。


「あの人、本当に愛想が無いよね!」


 アオイがそれを言う? 御前試合の事、忘れたの? 先生もそう思ったらしく、思わずといったように苦笑を漏らした。


「エルフ族は人族嫌いですからね。アオイ様とアイリスも例外ではないのでしょう」


 特にアオイはね。嬲り殺されるようにいたぶられたら、誰だって嫌いになるもん。でも、それを言わないのが先生らしい。


「知ってる! 御前試合の時もあんなんだった!」


「次の食事は、別の者に給仕させましょう。それよりも、彼、御前試合の時にアオイ様へ暴言など吐いていないですよね?」


 先生が小首を傾げ、にこりと笑みを浮かべた。純真無垢な笑みを浮かべる先生。でも、その顔を見たアオイの口元が、ほんのちょっとだけ引き攣った。何故?


「別に? 何も言われてないよ?」


「本当ですか? 嫌味も?」


「うん。な~んにも言われてない」


「そう、ですか? 珍しい事もあったものですね」


 先生は顎に手を当て、納得出来ないって顔で呟いた。それを見たアオイが苦笑を漏らす。これは……。アオイ、バルトさんに何か言われたな。それを隠してるんだ。まあ、言われた本人が隠す分には問題無いよね。それよりも、お腹空いたし、ごはん、ごはん。私はテーブルの上に置かれたお皿を引き寄せた。


 朝ごはんを食べ終わり、食後のお茶を飲みながら寛いでいると、ノイモーントさんが慌てたように食堂へ駆け込んできた。挨拶もそこそこ、竜王様に何か耳打ちをしている。ここからじゃ、遠くて何を言ってるのか聞こえない。でも、先生の席からだったら聞こえているらしい。先生の顔色がちょっと変わったぞ。


「どうしたの? 何かあったの?」


 アオイが問い掛けると、ノイモーントさんが気まずそうに下を向いた。竜王様は腕を組み、先生に向かって顎をくいっとする。先生は真面目な顔で一つ頷くと、席から立ち上がった。そして、私の傍らに立つと、手を差し出す。先生の手と顔を見比べると、先生が優しく微笑んで頷いた。行こうって事らしい。先生の手を握り、私達は食堂を後にした。


 先生に案内されたのは、今日からお泊りするお部屋だった。お客さん用のお部屋らしく、離宮に到着した時に降り立った中庭に面している。大きな窓からは柔らかな日差しが入り、とっても明るい。一階のお部屋だから、直接中庭にも出られるようになっている。


「おお~! すご~い!」


 ベッドには天蓋があって、アオイの部屋のベッドみたい! ソファセットまである。試しにと、ソファに座ってみる。ふかふか! アオイの部屋にあるソファみたい! はっ! あの扉は何だ! 扉に駆け寄り、勢い良くそれを開く。扉の先は洗面所だった。アオイの部屋の洗面所みたいに広い! 奥はトイレとお風呂ね。こっちもアオイの部屋みたいに豪華!


「気に入りました?」


「んっ! 先生! お散歩! お散歩しよう!」


 中庭に続く窓に駆け寄って先生を手招きすると、先生がクスクスと笑った。さっき、ノイモーントさんが竜王様に何を言っていたのかも気になるけど、今一番気になるのは湖の水! 冷たくなかったら泳ぐんだもん!


 と思っていたけど、触ってみた湖の水は、ビックリするくらい冷たかった。ここの湖は、一年を通して泳げるような温度にはならないらしい。湧き水の関係だとか何とか。でも、そのおかげで透き通るような綺麗な色をしているし、水が湧き出ているすぐ近くなら飲んでも良いらしい。試しに飲んでみた水は、とっても冷たくて、とっても美味しかった。けど、私は、見たり飲んだりするよりも泳ぎたかった……。くすん……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ