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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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離宮 1

 ラインヴァイス先生から離宮行きの話があってから半月ほど。とうとう明日、離宮に行く。長かった。アオイの体調が回復するまで、離宮行きはお預けになっちゃったからなぁ。


 今回の離宮行きには、アオイと竜王様も一緒に行く事になっている。敢えて、私と先生が離宮に行く日に合わせたらしい。お世話をしてくれる人達の都合だとか何とか。二人を二回もてなすのと、四人を一回もてなすのだと、四人を一回もてなす方が人の都合が付きやすいという大人の事情があったみたいだ。先生は出発がお預けになる事とか、竜王城にいる時とあんまり変わらない事とかを申し訳なさそうに話してたけど、私はアオイとローザさんもいる方が嬉しい。


 おもてなし部隊は、第一連隊が抜擢された。第一連隊は知っている人が多いから、それも嬉しい。ノイモーントさんでしょ、イェガーさんでしょ、ウルペスさん!


 彼らは今日、ブロイエさんの転移魔法陣で一足先に離宮に行き、私達が過ごしやすいように準備をしてくれている。きっと、今日は建物中の掃除をしてるんだと思う。


 私は、離宮行き用にとノイモーントさんが作ってくれた背負いカバンをクローゼットから取り出した。ラッセルボックという、耳が長くて角のある可愛らしい獣を模ったカバンだ。アオイのを茶色の夏毛色、私のを白の冬毛色で作ってくれて、二つは色違い。このカバン、空間操作術で中を広げてあり、見た目はそんなに大きくないけど、凄くたくさん物が入る。しかも、どんなに物を詰め込んでも、何も入っていないくらいに軽いまま。空間操作術って、こういう時に便利。


 ノイモーントさんは私とアオイに、掛け布とクッションのお休みセットも作ってくれて、それも持たせてくれた。こっちもラッセルボック柄。ノイモーントさん的に、可愛い獣といえばラッセルボックらしい。


 私は背負いカバンの中身をベッドの上に並べた。そして、先生が書いてくれた持ち物メモを机の上から取り、ベッドの上に並べた品々と見比べる。お休みセットよ~し。洗面用具一式よ~し。替えの下着よ~し。手ぬぐいよ~し。イェガーさん特製お茶菓子よ~し。あ。一応、傷薬も持って行こっと。メモには書いてないけど、誰かが怪我したら使えるもん。ああ! 香油! 特別な日だし、雨じゃなくてもつけよっと!


 一通り準備が終わると、私はベッドに潜り込んだ。離宮には、明日の夜に出発して、明後日の朝早くに着く予定。そして、私のお休みは明後日から。明日は普段通りにアオイのお世話をしないといけない。だって、ローザさんも第一連隊の人達と一緒に、一足先に離宮に行っちゃってていないんだもん。こんな日こそ、私がしっかりせねば!


 次の日、私はアオイのお風呂まではいつも通りにお世話をし、自分の部屋へと戻った。そして、いつも通りお風呂に入る。お風呂から上がると、髪によく香油をなじませ、風の魔術で乾かした。髪の毛が良い感じになったら、クローゼットからフリフリのメイド服とエプロンを取り出し、それを着る。腰に杖を差し、髪の毛をいつも通りに二つに結って、先生にもらったリボンを付けて完成! 後は出発するだけ! ガチャリと部屋の扉を開き、はたと気が付いた。背負いカバン、忘れてた!


 慌ててクローゼットから背負いカバンを引っ張り出して背負う。他に忘れ物は無いかな? 一応、ぐるりと部屋の中を見回す。うん、何も無いな。


 私は廊下に出て扉に鍵を掛けると、お隣の部屋の扉をノックした。この扉は、先生のお仕事部屋と繋がっている。今日、先生とはお仕事部屋で待ち合わせをした。だって、先生のお仕事部屋の方が、私の部屋からよりも、出発場所の空中庭園に近いらしいんだもん。因みに、アオイと竜王様は別行動。二人はたぶん、転移で空中庭園に来ると思う。見送りのブロイエさんも。


 中から先生が扉を開けてくれる。そして、「どうぞ」と言って手で中を示した。そう言えば、先生にこうしてお部屋に招き入れてもらうの、初めてだ。ちょっとドキドキする。


「お、お邪魔します……」


 入り口でぺこりと頭を下げ、おずおずと中に入る。先生は、ソファセットの脇のカートの上に用意してあったティーセットでお茶を淹れ、私の分のお茶をローテーブルの上に置き、自分のを手に持ってお仕事机の椅子に腰を下ろした。


「処理する書類がまだ残っていまして。少し待っていてもらっても良いですか?」


「ん」


 私はこくりと頷くと、ラッセルボックの背負いカバンを下ろし、お茶を置いてくれた席に着いた。そして、背負いカバンからイェガーさん特製お茶菓子を取り出し、書類整理する先生を観察しながらお茶をする。


 先生は真剣な顔で書類と睨めっこをしていた。一通り文章を読み終わったところで、サラサラと書類に何かを書き込む。そして、次の書類を手に取った。一瞬、先生の眉間に皺が寄る。けど、すぐに何でも無い顔に戻った。


 先生って、結構表情豊か、というか感情が顔に出やすい気がする。さっき、眉間に皺が寄ったのは、字が汚かったか何かで、読みにくい書類だったんだと思う。興味深い内容が書いてあるっぽい書類を読んでる時は、「ふむふむ」って顔になるし、面倒なのか急ぎじゃないのかよく分からないけど、書類を脇に避けた時は「う~ん」って難しい顔になってる。


 先生を観察していて、ふと、ある事に気が付いた。先生、もしかして、私との約束通りに髪を伸ばしてくれてる? 前髪が目にかかって邪魔なのか、それとも癖になっちゃったのか、さっきから何回も前髪を掻きあげてるような……。ごめんね、先生。でも、髪が耳にかけられるようになれば、邪魔じゃ無くなると思うんだ。もうちょっと髪が伸びるまで我慢してね。


 しばらくして、書類整理が終わったのか、先生が顔を上げた。私を見て微笑む先生に笑顔で答える。先生はポケットから時を知らせる魔道具を取り出すと、時間を確認して立ち上がった。


「集合時間にはまだ早いですが、空中庭園に行きます?」


「んっ!」


 私が頷くと、先生はお仕事机の上を綺麗に片付け、窓の鍵を確認した。そして、私が入って来た扉の鍵を閉め、ティーセットの乗ったカートを廊下に出す。部屋の明かりを消して廊下に出ると、部屋の扉に鍵をかけ、先生が私に手を差し出した。その手を握り、二人で廊下を進む。


 先生のお仕事部屋がある場所は、お城の中でも作りが一際豪華な一角だった。ここはきっと、竜王城の中心なんだと思う。もしかしたら、竜王様のお部屋もこの近くにあるのかもしれない。ローザさんとブロイエさんのお部屋も。竜王城の中は広すぎて、まだまだ知らない場所が多い。先生と逸れたら迷子確定だな、これは。


 あれ? そう言えば、先生ってば、荷物持ってない! もしかして、部屋に忘れた?


「先生! 荷物! 忘れてるよ!」


「え?」


 先生が不思議そうな顔で私を見た。と思ったら、「ああ」と納得したように頷いた。


「大丈夫ですよ。昨日、ウルペスに頼みましたから。竜化するのに邪魔でしょう?」


 今度は私が納得する番だった。確かに、竜化したら荷物って邪魔だ。だって、口で咥えるか、首に掛けるか、背中に置くかしないといけないもん。あ。首に掛けるのはやっぱり駄目。竜化すると身体が大きくなっちゃうから、ぐえってなっちゃうもん!


 優勝賞品は「豪華馬車で行く離宮の旅」だったけど、竜王様が竜化して行くって言い出したから、「空を飛んで行く離宮の旅」に変更になった。先生はそれも申し訳なさそうにしてたけど、私、それはそれで楽しみなんだ。だって、竜化した先生の背中に乗せてもらえるんだもん。空を飛ぶってどんな感じなのかな? ワクワク!


 空中庭園に着くと、アオイと竜王様、ブロイエさんはまだ来ていなかった。だから、約束の時間まで、誰もいない空中庭園を二人でお散歩する事にした。夜空に浮かぶ二つの月が両方とも満ちて、今日は結構明るいな。これなら、明かりを灯す必要は無いと思う。空を飛んで行くには丁度良さそう。


「寒くはないですか?」


「これくらいが好き!」


 夏も終わり、夜は少し気温が下がる。でも、寒いって程じゃない。涼しくって、これくらいが過ごしやすい。


「アイリスはこれからの季節に強そうですよね」


「そうかなぁ?」


「春先、岩の上でお昼寝してませんでした? 雪がまだ残っているのに」


 言われてみれば、そんな事もあったような……。冬でも、日差しさえあれば暖かいなって感じるんだけどなぁ。普通の人は違うのか。知らなかった。


 他愛のない話をしながら二人でお散歩をしていると、ブロイエさんが空中庭園の真ん中に姿を現した。そろそろ待ち合わせの時間になるのかな? 先生と一緒にブロイエさんの下へ向かった直後、アオイと竜王様も姿を現す。


「早く! 早く出発しよう!」


 アオイが竜王様を急かす。そんなアオイを、竜王様は腕を組み、無言で見つめていた。竜王様の顔が憂鬱そうな気が……。朝からずっと、あんな顔してるけど、何で?


 こそっと先生にそれを聞くと、驚くべき答えが返ってきた。竜王様、アオイに竜化した姿を見せるのが初めてで、アオイが怖がるかもしれないって理由で気分が下降中らしい。でも、アオイの性格を考えたら、怖がったりなんて絶対にしない。そんな可愛い性格じゃない。むしろ、興味津々で撫で回すくらいするはずだ。


 イライラし始めたアオイをブロイエさんがなだめ、やっと出発の気配! 竜王様の足元に真っ黒い魔法陣が広がり、その姿が、黒い光としか表現出来ない光に包まれる。光が消えた後には、真っ黒くて目つきが悪くって大きなドラゴンが姿を現した。すると、私の予想通り、アオイが感心したような顔でドラゴン姿になった竜王様のお腹の辺りを撫で回し始めた。と、そんなアオイをブロイエさんが注意する。でも、それも仕方ない。だって、姿が変わっても竜王様は竜王様だもん。好奇心に負けて、撫で回したら怒られるのは当たり前だもん。


 竜王様が尻尾を差し出すと、アオイがその上に横座りした。すると、竜王様が器用に尻尾を操り、アオイを翼の付け根あたりに下ろす。


「あ! 忘れる所だった! アオイさん、これ持ってって!」


 ブロイエさんが叫び、竜王様の背中に乗ったアオイに何かを投げる。アオイが無事にキャッチしたと思ったら、ブロイエさんが追加でもう一個投げた。


「これはシュヴァルツの!」


 これも無事にキャッチし、アオイは先に受け取った物を首に掛け、もう一つを私と色違いのラッセルボックの背負いカバンに入れた。


「これ、何の護符ですか?」


 首に掛けた物をまじまじと見ながら、アオイが問い掛ける。すると、ブロイエさんが満面の笑みで口を開いた。


「連絡用! 試しに作ってみたんだ。魔力流して呼び出したい人の名前を呼べば、その人の護符に繋がるから! もし、何かあったら連絡ちょうだい! すぐ行くから!」


「試してみても良いですか?」


「良いよ!」


 アオイが護符に魔力を流すと、アオイの手元の護符が光った。そして、「ブロイエさん」と名前を呼ぶ。すると、ブロイエさんの手元のにある護符が光り出した。ブロイエさんがそれに魔力を流すと、護符の中心の魔石にアオイの顔が映る。きっと、ここからは見えないけど、アオイの手元の護符にもブロイエさんの顔が映ってるんだと思う。顔を見ながら話が出来るなんて、とっても便利。私も欲しい!


「凄~い! 便利!」


 アオイが叫ぶ。すると、ブロイエさんがえっへんと胸を張った。


「でしょでしょ? 護符なんて作ったの初めてだったから、結構時間掛かったんだよ。一人一つずつあるからねぇ」


 そう言って、ブロイエさんが私と先生にも護符を一つずつ渡してくれた。やったやった! 私ももらえた! 連絡用の護符! いそいそと護符を首に掛ける。ふと、先生を見ると、先生は困ったように護符を見つめていた。


 この護符は、首から掛ける用。そして、先生はこれから竜化しなくてはならない訳で。それ用の加工がされた鎖じゃないっぽいし、ぐえってなっちゃうね。困るよね、それは。


「先生、私が持っててあげる!」


「お願いします」


 先生から護符を置け取ると、私はラッセルボックの背負いカバンにそれを入れた。大切な預かり物だから、失くさないように気を付けなくっちゃ!


「じゃあ、行ってらっしゃい! ローザさんによろしくね~!」


 ブロイエさんがアオイに向かって手を振ると、竜王様が翼を羽ばたかせて空に舞い上がった。置いてかれちゃうよ! 先生に目でそう訴えかけると、先生が苦笑しながら頷いた。


 先生の足元に白い魔法陣が広がっていく。先生の姿が光に包まれ、だんだんその光が大きくなる。そして、光の消えたその後には、真っ白いドラゴン姿の先生が。雪狼から助けてくれた時と同じその姿を見て、胸の奥がギュッと苦しくなった。


 もし、あの時、先生とアオイが通りかかって助けてくれなかったら、私はきっと雪狼に食べられてしまっていた。でも、私の命を助けたが為に、先生は左目の光という大きな犠牲を払った。先生は後悔していない? 私を助けた事……。


「アイリス?」


 心配そうな声が頭の上から降ってくる。見上げると、ドラゴン姿になった先生が、ジッとこちらを見つめていた。人の姿の時と違って表情が分かり難いけど、きっと、とっても心配な顔をしてるんだと思う。


「どうしました?」


「ん~ん。何でも無い」


「そうですか? なら良いのですが……。動かないで下さいね」


 先生がそう言い、私のお腹辺りに尻尾を優しく巻いた。そして、私の身体をゆっくりと持ち上げる。そうして翼の間に私を下ろすと、先生はブロイエさんにぺこりと頭を下げるような仕草をし、大きく羽ばたき、空に舞い上がった。飛び立つ直前、私の周りに防御障壁を展開してくれるところが、とっても先生らしい。


 みるみるうちに竜王城が小さくなっていく。竜王城の近くには、小さな明かりや少し大きめの明かりが見えた。あれらはきっと、人族の村だ。竜王城のすぐ脇の小さな小さな明かりは孤児院かな?


 少し大きめな明かりでも、私の生まれ育った村より小さそうだな。みんな、竜王城の近くには住みたくないのかな? そういえば、竜王城の近くって、魔人族の町が無いなぁ。おとぎ話では、お城のすぐ近くには必ず町があるのに。う~ん……。あ! 竜王城にはたくさんの人が住んでるし、お城自体が一つの町なのか!


 しばらくの間、先生の背中の上から景色を眺めていると、大きい明かりが見えてきた。小高い丘の上に薄らと砦と城壁の影っぽい物も見える。城壁の向こう側って事は、きっと、あの大きな明かりは魔人族の町だ。


 この国には、と言うか魔大陸には、城壁で囲まれた領域がたくさんある。そして、その中で人族が暮らしている。魔人族が人族に悪さをしないように、ず~っと昔に作った城壁らしい。おとぎ話にそんな話があった。人族に悪さばっかりする魔人族に頭を悩ませた魔人族の王様が、どうしたら良いか部下たちに相談して、一人の賢い部下が「城壁を作って人族と魔人族の住む場所を分けましょう」って王様に提案する話。魔人族や人族からの大反対があったけど、色々と悪知恵を働かせて両者を納得させるって話だった。題名、何だったかなぁ? あんまり好きな話じゃないから忘れちゃった。今度、図書室で探してみようかなぁ。


 大きな明かりにぐんぐんと近付いたと思ったら、あっという間にその上を通り過ぎてしまった。キラキラしてて綺麗だったな。この先、もっと大きな町があったら良いな。そう思い、立ち上がって遠くを見るも、進む方向に光の塊は見えなかった。ちぇ。つまんな~い!


「アイリス。そろそろ寝なさい」


 先生が前を向いたまま口を開く。でもね、先生。そうは言っても、目、冴えちゃってるんだよ。いつもは寝てる時間だけど、全然寝る気にならないんだよ。


「え~! 眠くない!」


「明日、たくさん遊ぶのでしょう? 横になっていれば、そのうち眠れますから。寝る支度をなさい」


「は~い……」


 私はむくれ面で返事をすると、背負いカバンからお休みセットを取り出した。掛け布を被ってごろんと横になり、クッションを頭の下に敷いて目を閉じる。


 明日、何して遊ぼうかな? 湖の水、もう冷たいかな? 水遊びくらいだったら出来るかな? 泳ぐのは流石に無理かな? 出来れば泳ぎたいな。そんな事を考えながら寝返りを打つと、ふわりと先生の香油の匂いが私の鼻をくすぐった。


 何だか、前におんぶしてもらった時に似てるな。先生の背中が温かくて、先生の匂いがすぐ近くにあって。


 ねえ、先生。私、先生の事、特別好きなんだよ。そう言ったら先生、ビックリする? 困る? 「冗談は嫌いです」って怒る? それとも笑う? 私が大人になったら、本気だって、思って……もらえる……の……かな……。

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