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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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御前試合本戦 2

 御前試合も順調に進み、二回戦は先生、ヴォルフさん、ノイモーントさん、アオイが勝った。隊長さんのフォーゲルシメーレさんに勝てるとか、アオイ、凄いな。でも、アオイは無茶な戦い方のせいで魔力を使い果たして倒れてしまったから、たぶん、この後の試合には出られない。という事で、ノイモーントさんが一足先に決勝進出決定だ。


 私は、戦い続ける先生とヴォルフさんを見つめた。先生は白銀の鎧に身を包み、ヴォルフさんは獣化している。何度目になるか分からない攻防の後、互いに距離を取る二人は、肩で息をしていた。


 ヴォルフさんはたぶん、戦士スタイルの戦い方なんだと思う。攻撃のメインはあくまでも剣。魔術は、剣での攻撃の補佐的役割。でも、その魔術の使い方が厄介だった。魔術を全く使わない人なら、先生だって防御障壁で対応出来るけど、ヴォルフさんは剣に風を纏わせている。それで防御障壁をかいくぐったり、先生の剣を受け流したり。風の刃を飛ばして、先生の隙を作ろうとしたり。そんな戦い方だから、先生は防御障壁を使うのを諦めたようで、結界術の最高位魔術である絶対障壁を使って戦っている。絶対障壁は、物理攻撃と魔術攻撃を両方とも防げる万能な結界だ。でも、最高位魔術だから魔力の消費が激しい。先生の顔に、疲れの色が滲んでいた。


 現在、先生が圧倒的に優位。だって、ヴォルフさんの攻撃は先生にほぼ当たってないけど、先生の攻撃は浅くだけどヴォルフさんに当たってるもん。でも、私は先生の魔力切れの方が心配。このままヴォルフさんが粘ると、先生、魔力が無くなってアオイみたいに倒れちゃうもん。それに、ヴォルフさんには切り札があるし。


 ヴォルフさんのワーウルフ族には、固有魔術の肉体強化がある。それを使うと身体機能が大きく向上する代わりに、敵を倒す事しか考えられなくなるって本に書いてあった。先生が魔力切れになってからそれを使われると、流石の先生でも負けちゃうと思う。


 ヴォルフさんが地を蹴った。手にした剣を振り被り、先生に斬りかかる。先生は絶対障壁を展開し、ヴォルフさんの攻撃を防いだ。と思ったら、それをすぐさま解除し、ヴォルフさんに斬りかかる。先生の剣がヴォルフさんの腕を浅く薙いだ。


「またしても、ラインヴァイス選手の攻撃が入ったかぁ!」


 私の実況でどっと歓声が上がる。その間も、二人の攻防は続いていた。先生の剣が薄らと光り、ヴォルフさんの剣を受け止める。あれはたぶん、魔力障壁を剣に纏わせているんだと思う。それでヴォルフさんが剣に纏わせている風の魔術を吸収してるんだ。風は空気の流れだから私には見えないけど、たぶん、今のでヴォルフさんの剣の風は無くなったと思う。


 ヴォルフさんは舌打ちをすると、先生と距離を取ろうと大きく後ろに跳んだ。しかし、先生が追い縋り、剣を振るう。ヴォルフさんは辛うじて先生の剣を全て止めつつ、じりじりと後ろに下がっていった。リンクの際まで追い詰められたヴォルフさんが大きく上に跳ぶ。


「ヴォルフ選手、跳んだぁ!」


 先生の剣が空を切る。ここまでの展開だと、先生とヴォルフさんは距離を取って、魔法陣の展開をしながら相手の出方を窺うはず。でも、先生はここで決めるつもりらしく、既に魔法陣の展開を始めていた。


「ラインヴァイス選手、魔法陣の展開をしています。これは……防御障壁……?」


 あれぇ? この場面で防御障壁? 絶対障壁じゃなくて? 何で? と思ったけど、すぐに理由は分かった。展開速度重視なんだ! ヴォルフさんがリンクの真ん中あたりに着地した瞬間、先生の防御障壁が完成した。何故か、ヴォルフさんの真上に。……もしかして、防御障壁で押しつぶす気?


 轟音と衝撃に続き、リンクの一部が陥没した。一瞬前、ヴォルフさんがいた所だ。ヴォルフさんは間一髪、逃れるように横に跳んでいて直撃は免れたらしい。けど、足が巻き込まれたのか、痛みに顔を歪め、立ち上がれないでいる。たぶん、護符が無かったらヴォルフさんの足、潰れてたんじゃないかな、なんて……。ちょっとゾッとする。


 先生はそんなヴォルフさんにゆっくりと歩み寄ると、大きく剣を振り被った。そして、鈍い音に続き、ヴォルフさんの護符の魔石が砕け散る乾いた音が響き渡る。


「勝者、ラインヴァイス!」


 ブロイエさんの試合終了の合図の直後、大歓声が会場を包み込んだ。リンクの上で優雅にお辞儀をする先生だけど、顔色が悪い。今の戦いで、魔力、ほとんど使い切っちゃったんじゃ……。リンクから下りてきた先生に慌てて駆け寄ると、先生が優しく微笑んだ。でも、無理して笑っている気がする。


「先生、もしかして魔力――」


「心配いりません。後、一試合だけですから……」


 ちょっとふらつく足取りで会場を後にする先生の背を見送る。この後、ちょっと休憩を挟むし、先生の言う通り、あと一試合だけど……。でも、相手はノイモーントさんなんだよ? それに、決勝だよ? 魔術が使えない状態で戦うの? 先生……。


 少しの休憩を挟んだ後、御前試合決勝戦が始まった。先生はドラゴン族の固有魔術である防具錬成も使えない状態らしく、いつもの白い騎士服のまま試合に臨んでいる。ノイモーントさんが魔術を使ったら、先生に防ぐ手は無い。圧倒的に先生が不利な試合だ。


 と思っていたけど、ノイモーントさんはこの試合、魔術を使うつもりは無いらしい。幾度目になるかの攻防の後、二人は互いに距離を取った。円を描くように移動しつつ、じりじりと間合いを詰める。


「互いに出方を窺って――ノイモーント選手が仕掛けたぁ!」


 私が叫ぶと、観客の皆さんから大歓声が湧き上がる。この試合、魔術の打ち合いにならないから盛り上がりに欠けるかと思いきや、これはこれで観客の皆さんへの受けは良い。攻防がある度に、大歓声が会場を包み込んでいる。


「ああっと! ノイモーント選手の剣が、ラインヴァイス選手の腕をかすめたかぁ!」


 観客席は何度目になるか分からない大歓声に包まれた。先生は空いている方の手で二の腕を押さえ、片手で剣を構えている。


 二人とも、護符の魔石がボロボロだ。護符が無かったら、二人とも血まみれなんだと思う。護符があって良かった。だって、血まみれの先生なんて見たくないもん。


 先生は一気にノイモーントさんとの間合いを詰めると、手にした剣を振り下ろした。それをギリギリでノイモーントさんがかわし、先生の顔目掛けて鋭い突きを放つ。見えない左側からの攻撃だったからか、先生の動きが一瞬遅れる。ピシリと、先生の護符の魔石に亀裂が入ったらしき音が、私の耳に届いた。それに構わず、先生が剣を横に一閃させる。ノイモーントさんは後ろに飛びのいて攻撃をかわした。と思ったけど、ピシリと、ノイモーントさんの護符の魔石にも亀裂が入ったらしき音が聞こえた。


「ラインヴァイス選手の攻撃がノイモーント選手に入ったぁ! 流石はラインヴァイス選手! 近衛師団長の肩書は伊達ではありません!」


 本当は、実況は公平にしないといけない。予行演習の時、ブロイエさんから「公平に実況してね」って言われたもん。でも、先生が押されてるなんて言いたくないんだもん。後でブロイエさんに怒られちゃうかな? でも、怒られても良いもん! 頑張れ先生、負けるな先生!


 先生とノイモーントさんが斬り結ぶ度に、護符の魔石に亀裂が入る音が聞こえてくる。怪我の積み重ねでも護符の魔石は砕けてしまう。もう、どっちが先に砕けてもおかしくないんじゃ……。そう思った瞬間、ノイモーントさんの動きが止まった。


「ああっとぉ! ノイモーント選手の動きが止まったぁぁぁ! これを見逃すラインヴァイス選手ではありません!」


 と言ったけど、先生は一瞬、戸惑った顔をした。何が起きたのか理解出来ないって顔だ。先生の死角だもんね。でも、私には見えている。ノイモーントさんが目を奪われたもの――マントのフードが取れたフランソワーズが。今日のフランソワーズは髪の毛を下ろしていて、とっても綺麗。ノイモーントさんがデレッとした顔で見とれたくなるのも、分からなくはない。


 先生はすぐに気を取り直したよう顔になると、隙だらけのノイモーントさんとの間合いを一気に詰めた。そして、渾身の力で剣を振り下ろす。肩からバッサリなんて……。乾いた音が響き渡り、ノイモーントさんの護符の魔石が粉々に砕け散った。隙だらけの相手にも容赦しないのね、先生。


「勝者、ラインヴァイス!」


 ブロイエさんが叫ぶと、会場を割れんばかりの拍手が包み込んだ。先生は剣を鞘に納め、四方に頭を下げている。でも、その顔は晴れない。もし、ノイモーントさんがあそこでフランソワーズに見とれなかったら、勝負の行方は分からなかった訳で……。そう考えると、運に恵まれた感じだ。でも、運も実力の内だもん! 先生が強いから、運が味方したんだもん!


「先生!」


 リンクを下りた先生に駆け寄る。先生は私を見てにこりと笑った。そして、頭をポンポンしてくれる。でも、私と話すつもりは無いらしく、フラフラとした足取りで控え場に消えてしまった。


 先生、大丈夫かな? 相当無理したんじゃないのかな? 倒れたりなんて、しないよね? 心配になる。でも、先生を追う訳にはいかない。だって、この後、まだ仕事があるんだもん。休憩の後に表彰式があるって、アナウンスしないといけないんだもん。


 私はリンクに上ると、表彰式についてのアナウンスをした。これで私の仕事は終わりだ。走って控え場に戻ると、ウルペスさんとイェガーさんが隅っこのテーブルでお茶をしていた。何故?


「あ。アイリスちゃん、お疲れ~!」


 ウルペスさんが満面の笑みで私を手招きする。私も一緒にお茶して良いの? おずおずとテーブルに行くと、イェガーさんがいつも通りのおっかない顔で、ずいっと籠を差し出した。


「腹減っただろ。食え」


 イェガーさんから籠を受け取り、上に掛けてあるピンクの布を捲って中を見る。籠の中身は、一口サイズより少し大きめの焼き菓子だった。予選の後の休憩の時、イェガーさんがくれたキャロトの焼き菓子に似ている。でも、決定的に違うのは――。


「お芋!」


 焼き菓子の上に、小さな角切りのお芋が乗っていた。お芋のお菓子食べたいって言ったけど、こんなに早く作ってくれるなんて! わ~い!


 私はいそいそと椅子に座ると、早速お茶菓子を一つ手に取った。お芋の焼けた良い匂いが私の鼻をくすぐる。と同時に、私のお腹がぐぅっと鳴った。御前試合の間は実況に夢中で気が付かなかったけど、とってもお腹が空いている。いただきま~す! ぱくりと一口。フワフワの食感の中に、お芋のホクホク感がある。それに、しっかりお芋の味がしてる!


「おいしぃ~!」


 ん~。幸せ。イェガーさんの作るお菓子って、何でこんなに美味しいの? むふふ。もう一口。ん~! 夢中でお菓子を貪る私の前にコトリと、ティーカップが置かれた。


「そんなに急いで食べて、喉に詰まらせないでよ?」


 ウルペスさんってば、私を子ども扱いして! そんな、間抜けな事しな――んぐ。喉じゃなくって胸に詰まった! 慌ててお茶を飲み、胸につっかえたお菓子を流す。それを見ていたウルペスさんが、フッと笑みを浮かべた。それはどこか、寂しそうな笑い方で……。


 もしかして、リーラ姫の事、思い出したのかな? ウルペスさん、こうして、リーラ姫と一緒にお茶してたりしたのかな? 先生と一緒に。


 先生も私を見て、リーラ姫の事、思い出したりするのかな? もしかして、先生が私の面倒を色々とみてくれるのは、リーラ姫と私を重ね合わせてるからなのかな? 私は先生が好き。でも、先生は……。そんな事を考え始めたら、とっても美味しかったはずのお菓子が、全然美味しく感じなくなってしまった。

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