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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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御前試合休憩

 休憩の間、やる事が無いからと控え場に戻ると、笑顔のウルペスさんが迎えてくれた。ウルペスさんってば、自分の試合が終わった後もずっとここにいたらしい。それは良いとして、何故か控え場の隅っこに丸テーブルと四脚の椅子、ティーセットが用意されているんですが……。


「どしたの?」


 ウルペスさんが私を見て、不思議そうに首を傾げる。私は部屋の隅のテーブルを指差した。そこには、ゆったりとお茶を飲むイェガーさんが。この休憩が終わったら、先生と試合なのに……。


「ああ……。気にしたら負けだよ」


「そうなの?」


「そうなの」


 そういうものなのか。ふ~んと頷く私を尻目に、ウルペスさんは当たり前のようにイェガーさんの正面の席に着いた。そして、私に向かって手招きする。一緒にお茶しても良いの? おずおずとテーブルに向かうと、ウルペスさんがお茶を淹れてくれた。席に着くと、テーブルの真ん中に置いてあったお茶菓子のバスケットを、イェガーさんが私の目の前に置いてくれる。


「ありがと」


「いや」


 ん~? イェガーさんの様子がおかしい。普段からおしゃべりなわけじゃないし、顔もおっかないけど、ここまでつっけんどんじゃない。もしかして、余裕そうに見えて、実は緊張してたりして。


「イェガーさん、緊張してるの?」


「アイリスちゃん、それ聞いちゃう?」


 ウルペスさんが苦笑する。イェガーさんはというと、一瞬驚いた顔をしたと思ったら、フッと笑った。この笑っててもおっかない顔。これこそ、いつものイェガーさんだ。


「料理長も俺も、一回戦の対戦相手、最悪だからねぇ」


「ああ」


 ええっと、ウルペスさんの対戦相手は……。ウルペスさんはアオイの前の前の試合だったから――。


「ウルペスさんは、フォーゲルシメーレさんと試合?」


「そだよ。あの人、戦い方がえげつないんだよ! 試合、出たくないよぉ!」


 ウルペスさんはテーブルに顎をつき、む~っと頬を膨らませた。そんなウルペスさんを諫めるように、イェガーさんがおっかない顔をする。


「あんまり我がまま言ってると、夕飯、根菜だけにするぞ」


「そんなぁ!」


 ウルペスさんはが~んって顔をすると、テーブルに伏せた。そんな彼からしくしく、しくしくと泣き声が聞こえてくる。でも、嘘泣きっぽい、なんとなく。ウルペスさんってば、嫌だって言ってる割に余裕だ。そんな彼を横目で見つつ、私はお茶菓子を一つ、口に運んだ。今日のお茶菓子は一口サイズのフワフワの焼き菓子だ。中にジャムが入ってて甘……ん? んーっ!


 私はお茶菓子の入ったバスケットをイェガーさんの方にずいっと押した。私もウルペスさんも、これはいらない。イェガーさんが食べるべきだ。


「今回は自信作だったんだがな。中のジャム、青臭さもなくなって甘いだろう」


「でも、あんまり美味しくない」


「そうか。嬢ちゃんのキャロト嫌いは筋金入りだな」


 イェガーさんは笑うと、お茶菓子を一つ頬張った。イェガーさんの最近のブームなのかな? キャロトを使ったお菓子作り。普通のお菓子の方が美味しいのに。普通じゃないお菓子を作るなら、お芋のお菓子にしてくれたら良いのに。


「私、お芋のお菓子食べたい」


「そうか。今度作ってやる」


「やったぁ!」


 言ってみるものだ。わ~いと喜んでいると、ガバッとウルペスさんが跳ね起きた。キラキラ輝く目でイェガーさんを見つめている。


「料理長! 俺も!」


「何だ? 芋の菓子、食うのか?」


「違う! 俺にも木の実の菓子、作って!」


「良いぞ。次の試合で勝てたらな」


「よっしゃぁ!」


 メラメラと闘志を燃やすウルペスさん。やる気が出て来たらしい。イェガーさんも緊張が解けてきたみたいで、ウルペスさんを見つめて微笑んでいる。


「私も! 二人が次の試合勝てたらね、何か作ってあげる!」


 とは言ったものの、料理なんてした事ないんだけど。でも大丈夫。私には強い味方がいるもん! 言わずもがな、ローザさん。ローザさんならきっと、美味しいお料理、作れるもん。ローザさんに教えてもらえば大丈夫!


「ははは。団長に勝てたら、か。なかなか難しいが、頑張ってみる価値はあるな」


「先生って、やっぱり強いの? 見た目はイェガーさんの方が強そうだよ?」


「あの人は、強くなることに貪欲だからな」


 イェガーさんの言葉に、ウルペスさんがうんうんと頷いた。先生と仲の良いウルペスさんが頷くって事は、イェガーさんの言う事は間違ってないんだと思う。でも、あんまり先生のイメージじゃない。だって、先生、優しいもん。


「自分は、誰よりも強くなくちゃいけないって思い込んでるからね。ラインヴァイス様には、剣なんて必要無かったのに」


 ウルペスさんは頭の後ろで手を両手を組むと、椅子の背もたれに寄りかかった。何かを思い出すように、遠くを見つめている。


「団長は優しすぎる。時に非情に徹しなければならない魔剣士には向かないと、先代様はそう思っていたんだろう? だから、魔術師になる事を勧めた。団長の長所を活かせるように、と」


「そうなんだよねぇ。それなのに、何を勘違いしたのか、自分は愛されていないんだって。だから剣を教えてもらえないんだって。弱い息子はいらないんだなんて……」


「疎外感だろうな。竜王様やリーラ姫が剣の稽古をつけてもらっているのに、自分は仲間に入れてもらえない。寂しかったのだろう」


「だからって普通、竜王様に教えてもらおうと思う? 竜王様も竜王様で、ラインヴァイス様に剣、教える?」


 ほうほう。先生は、お父さんに剣を教えてもらえなかったから、お兄さんである竜王様に剣を教えてもらったのかぁ。でも、それってお父さんと喧嘩にならないのかな? あ。でも、二対一の喧嘩になるから勝てる……かも。


「それに、俺までとばっちりで剣、習わされたしぃ!」


「それは仕方ないだろう。お前は団長の遊び相手兼従者だったんだから」


「でも、竜王様、厳しいんだよ! 先代様より怖いんだよ! 俺、何回も殺されるって思ったんだよ!」


 ウルペスさんが涙目で訴える。すると、イェガーさんが豪快に笑った。


「確かにな。竜王様の威嚇は強烈だからな。獣人種の我々には、少々きついな」


「でしょでしょ! ラインヴァイス様とはまた違うんだよ! ラインヴァイス様は例えるなら冷気だけど、竜王様は業火みたいな! もう、触れたが最期、骨も残らないみたいな――!」


 私の頭に、ふと、ある疑問が浮かんだ。二人の種族って何? さっき、イェガーさんが獣人種って言ってたけど、獣人種にも色んな部族がある。


「ねーねー! 二人は何族?」


 そう問い掛けると、ウルペスさんもイェガーさんも驚いたように私を見つめた。と思ったら、二人同時にポンと手を打った。


「そっか。アイリスちゃん、俺らの部族、知らなかったか!」


「そういやぁ、嬢ちゃんに教えた事、無かったな」


 魔人族には本当に色々な部族がある。一部族につき一ページの説明が乗っている本でも、かなりの厚みがあった。あれを今日までに全部書き取りしたんだから、私、偉い!


「俺はねぇ――」


 ウルペスさんが言葉を切り、ムンと気合を入れた。すると、頭の上に毛でフサフサのとんがり耳が、背中側にはフサフサの尻尾が生えた。耳も尻尾も髪の色と同じ銀色だ。


 耳の形はヴォルフさんの耳と似ている。でも、尻尾がヴォルフさんとは全然違う。特にボリューム。ヴォルフさんの尻尾の二、三倍くらいのボリュームがある気がする。


「これで分かる?」


 ウルペスさんが問う。私は腕を組み、う~んと頭を捻った。とんがり耳とボリュームのある尻尾の部族……。毛の色は銀色で、瞳も銀色。という事は、ヴォルフさんのワーウルフ族より色素が薄いって事で……。


「分かった! ワーフォックス族!」


「おお~! 正解!」


 ウルペスさんがパチパチと手を叩く。私はえっへんと胸を張った。先生に貰った本を全部書き写した甲斐があったってものだ!


 ワーフォックス族は、ワーウルフ族にとても近い部族だ。本には、どちらの部族も俊敏性に優れ、身軽だって書いてあった。でも、ワーウルフ族は毛の色や瞳の色が濃いのに対し、ワーフォックス族は色素が薄いらしい。それに、身体もワーウルフ族より少し小さい。そして、大きな違いはその尻尾。ワーフォックス族の尻尾は、獣人種の中でも特にボリュームがあり、フッサフサのモッサモサだ。ちょっと触ってみたい気もする。でも、我慢。だって、ワーフォックス族とかワーウルフ族とか、尻尾の長い部族のそれは、彼らにとって尊厳の象徴であり、弱点なんだもん。掴まれると力が抜けちゃうんだもん。


「次、イェガーさん!」


「ああ」


 イェガーさんがフンと気合を入れる。すると、頭にちょこんと丸い耳が生えた。耳の色は髪と同じ黒。ふと、イェガーさんの手元を見ると、手が黒い毛でフサフサモッサリしていて、長くて鋭い爪が生えていた。


「んも~! それじゃ、すぐに分かっちゃう! イェガーさん、ワーベア族でしょ!」


「正解。流石に、これじゃ分かりやすかったか」


 イェガーさんは苦笑すると、ポリポリと頬を掻いた。鋭い爪がある獣の手のままで。でも、自分の手だからなのか、鋭い爪でひっかき傷が出来る事は無い。


 ワーベア族は黒か茶色の毛の人が多いらしいけど、白い毛や銀色、金色の毛の人もいるらしい。それだけじゃ無く、模様がある人もいるらしい。一度、イェガーさんが獣化した姿、見たいなぁ。黒毛だけなのかな? 模様入りなのかな? とっても珍しい、白地に目の周りと耳と手足が黒い模様入りの人だったりして!


 あとは、力持ちの部族だって本に書いてあった気がする。自分の身体くらいの大きさの岩なら、軽々抱えられるくらいの怪力なんだって。先生、大丈夫かな? イェガーさんに力で負けたりしない?


「そんな不安そうな顔しないでも大丈夫だよ、アイリスちゃん」


「ん」


 私はちらりとイェガーさんを見た。イェガーさんは赤い騎士服の人。だから、とっても強いって事で……。


「俺が言うのもなんだが、団長は強いぞ。俺くらいの実力じゃ、足元にも及ばない。団長と互角に戦えるのなんて、今日出場している中だとノイモーント殿くらいだ」


 イェガーさんが苦笑しながら口を開く。すると、ウルペスさんがこくこくと頷いた。


「そそ。ラインヴァイス様は強いよ。最近は特にね。目標があるらしいから」


『目標?』


 私の声とイェガーさんの声が見事にハモる。ウルペスさんはそんな私達を見て、微笑みながら頷いた。


「うん。ラインヴァイス様、竜王様の最強の盾になりたいんだって。アオイ様の示してくれた道なんだってさ」


「団長は既に、竜王様の最強の盾じゃないのか?」


「だと思うんだけどねぇ」


 イェガーさんとウルペスさんが苦笑する。アオイの示した道……先生の目標……。私の心に、言葉では上手く言い表せない、モヤモヤとした黒い感情が広がっていった。

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