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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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御前試合予選 2

 順調に試合は進み、次々と本戦出場者が決まっていった。ヴォルフさんとノイモーントさんの試合も終わり、二人とも無事に本戦出場が決まった。流石、隊長さんだけあってとっても強い。あっという間に試合が終わってしまった。ノイモーントさんの試合なんて、始まったと思ったら次の瞬間には終わっていた。何が起こったのか分からないくらい、あっけない試合だった。


 次の試合のアナウンスを行うと、控え場から出て来た人達の中に見知った顔があった。次はフォーゲルシメーレさんの試合なのか。きっと、フォーゲルシメーレさんも勝つんだろうな。だって、隊長さんだもん。赤い騎士服着てるもん。


 今までの試合で、赤い騎士服の人はみんな勝っていた。赤い騎士服が強い証ってウルペスさんが言ってたけど、本当だった。


 突然、私のすぐ横に先生が姿を現した。普通、お城の中では転移出来ない。竜王様の結界があるから。転移をしようと思ったら、竜王様に結界の一部を解除してもらわないといけないらしい。よっぽどの事が無い限り、ブロイエさん以外は転移をしないって、先生、前に言ってたのに……。


「アイリス! 今すぐリンクから下りなさい!」


 先生が慌てたように私の腕を掴み、グイッと引っ張った。あ~れ~。抵抗する間もなく、先生にリンクから引きずり下ろされてしまった。


「先生?」


 先生を見上げる。でも、先生は何も答えず、竜王様達がいるらしき建物を見上げていた。


「では、試合開始ー!」


 ブロイエさんの合図が響き渡る。すると、フォーゲルシメーレさんがリンクにしゃがみ込んで手を付いた。途端にリンクが波打つようにうねりだす。そして、リンクのうねりが止まったと思った瞬間、リンクから錐状の岩が大量に突き出した。選手に当たった岩が崩れ去るのと同時に、選手の護符も砕け散る。


「ひん……!」


 恐怖で足が震えた。あれ、当たったら痛いじゃ済まないと思うの。現に、リンクの上に立っているの人はいない。護符が砕けて気絶している。フォーゲルシメーレさん以外は。


「勝者、フォーゲルシメーレ!」


 ブロイエさんの声が遠くに聞こえる。もし、先生が来てくれなかったら、私もリンクに倒れている選手達みたいに、あの尖った岩の餌食になっていた。きっと、フォーゲルシメーレさんが使った魔術は、尖った岩で身体を貫くようなもの。いくら護符があって怪我をしないからって、そんなものの痛み、体験なんてしたくない。心臓がバクバクして、冷たい汗が噴き出してきた。


「アイリス。後の試合は、リンクの外で実況しなさい」


 先生の言葉に、こくこくと必死で頷いた。そんな私の頭を、先生が優しく撫でてくれる。先生の手の感触で、ちょこっと恐怖が和らいだ。


 ボコボコになったリンクの上で、フォーゲルシメーレさんが優雅にお辞儀をすると大歓声がそれに答えた。観客の皆さんへの受けは良かったらしい。でも、先生受けはあまり良くなかった。先生は冷たい空気を纏いながら、リンクの上のフォーゲルシメーレさんの元へと向かった。


「このリンク、どうするつもりです?」


 先生がボコボコになったリンクを指差し、笑顔でフォーゲルシメーレさんに問い掛ける。すると、フォーゲルシメーレさんの顔が見事に引き攣った。


「すぐに元に戻せる自信があるから、あのような戦術を取ったのですよね?」


「は、はい! 勿論です!」


 必死にこくこく頷くフォーゲルシメーレさん。冷たい空気を纏った先生は、いくらフォーゲルシメーレさんが強くても怖いらしい。でも、仕方ない。だって、先生のあれは威嚇なんだもん。


 先生のドラゴン族やヴォルフさんのワーウルフ族みたいな獣人種の場合、攻撃前には必ず威嚇をするって本に書いてあった。威嚇とは、攻撃態勢に入りますよっていう合図みたいなもので、相手を怯ませる手段だ。因みに、自分より弱い部族には効果的だけど、強い部族にはあまり効果が無いらしい。でも、ドラゴン族は魔人族の中では特に強い部族な訳で。先生の威嚇があまり効かないのは、同じドラゴン族――竜王様やブロイエさんくらいなものだ。


 フォーゲルシメーレさんがリンクにしゃがみ込み、手を付いた。と思ったら、またリンクがうねりだした。そして、次の瞬間には真平らなリンクに戻る。イェガーさんが焦がしちゃったところとかも無くなっているから、フォーゲルシメーレさんの試合が始まる前よりも綺麗になった。新品同然! 先生もそれに満足したのか、冷たい空気を出すのを止めた。ホッとしたように、フォーゲルシメーレさんが息を吐く。


 ふと、先生が顔を上げた。視線の先には竜王様がいるらしき建物。もしかして、竜王様に呼ばれたのかな? と思った瞬間には、先生の姿は消えていた。


「それでは、第十四ブロック、予選を始めまーす!」


 アナウンスをすると、控え場の出入り口からわらわらと選手たちが出て来た。ウルペスさんもいる。先生の試合が終わった後も、ずっと控え場の出入り口の所から試合を見ていたウルペスさんだけど、やっと出番になったらしい。ウルペスさんは私と目が合うと、小さく手を振ってくれた。ウルペスさんってば、そんなに余裕そうな顔してて大丈夫なのかな? 手を振り返しつつ、ちょっと心配になってしまう。


「試合、開始!」


 ブロイエさんの合図と共に、ウルペスさんが腰の剣を抜いた。と思ったら、魔法陣の展開を始める。


 ウルペスさんの展開している魔法陣は、屍霊術の基本、ゴーストを呼び出す魔術のものだった。魔法陣の中心が淡く光を発し、白い煙みたいなものが、ぼんやりとその姿を現す。


 屍霊術は、あまり使える人が多くない。地味な魔術だからなのかな? 屍霊術師を目指そうという人は、変わり者って呼ばれて嫌われる傾向にあるらしい。そんなだからか、術者の多くは人里離れた所に住んでいる。ウルペスさんみたいな人は、屍霊術を使う人の中では特殊な例のはず。変わり者の中の変わり者、ウルペスさん!


 ただ、嫌われる傾向にある屍霊術だけど、使い方次第ではかなり強力な戦力となる。だって、屍霊術って、ゴーストとかゾンビとかスケルトンとか、そういう不浄の者達を使役する事が出来て、魔力媒介を使わない魔術展開をすれば、際限なくそういった者達を作り出す事が出来るらしいんだもん。


「ゴーストがリンクの中を縦横無尽に飛び――ああ! ゴーストに触れられた選手達が、次々と倒れていきます!」


 ゴーストに触れられると、生き物は生気を吸われて衰弱するって、魔法陣の本に書いてあった。ドレインって言うんだったかな? 実体が無いゴーストの、唯一の攻撃手段だ。


 ゴーストを倒す為には、浄化術で浄化させるか、闇属性か光属性の魔術で攻撃するしか手段は無い。魔人族は浄化術は使えないから、出場している選手達は、闇属性か光属性の魔術を使うしかないはず!


「数人の選手が、魔法陣の展開を始め――!」


 言い終わらないうち、ウルペスさんが、魔法陣を展開し始めた選手に斬りかかった。ウルペスさんってば、剣も強かったのね。


「ウルペス選手、ゴーストとの見事な連携を見せています! 魔剣士としての腕も確かなようです!」


 あっという間に、リンクの上に立っている人がウルペスさんだけになった。でも、ブロイエさんから試合終了の合図が出ない。何で……? そう思った瞬間、ウルペスさんがリンクの上に倒れている人に剣を振り下ろした。呻き声に続き、パキンという乾いた音が響く。


 ウルペスさんは顔色を変える事無く、倒れている選手達に次々と剣を振り下ろしていった。何が起きているのか理解出来ず、私は呆気に取られながらその様子を見守った。


「勝者、ウルペス!」


 しばらくして、ブロイエさんのアナウンスが響いた。ウルペスさん、無事に予選突破したらしい。それは良いとして、さっきのは何だったんだろう? リンクの上に立ってるの、ウルペスさんだけだったのに……。う~む……。あ、そっか。護符が砕けてなかったからだ! だからウルペスさん、止めを刺して回ってたのか!


 次の試合も赤い騎士服を着た人が勝った。そして、やっと予選最終ブロック。このブロックにはアオイが出るはずだ。何故か、私がドキドキしてきた! 大丈夫かな、アオイ。


「それでは、最終十六ブロックの予選を始めます。選手の皆さんは準備をして下さい」


 アナウンスをすると、控え場の出入り口から選手達が出て来た。その中には、薄紫色の騎士服を着たアオイ。長い黒髪を一つに結い、騎士服とお揃いの色のリボンを付けている。いつもはドレスを着て髪の毛を下ろしているけど、ああいうキリッとした格好も似合う。格好良い!


 アオイはリンクの上に立つと、孤児院のみんながいる方に向かって手を振った。そして、くるっと後ろを振り向くと、竜王様がいるらしき建物に向かって手を振る。アオイってば、あんな余裕そうにして……。大丈夫なのかな? そんな事を考えながらアオイを見守っていると、アオイが何かを思い出したようにこっちを向いた。と思ったら、タタタッとこっちに駆け寄って来た。


「アイリス、試合始まったら、目、瞑ってて! 出来たら、腕で目、隠しといて!」


 目……。こうやってアオイがわざわざ私に言いに来るって、きっと、意味があるんだと思う。だって、先生も、自分の試合とかフォーゲルシメーレさんの試合の時、リンクから下りなさいって言いに来てくれたもん。


「ん。分かった!」


「約束だからね! 絶対だよ! じゃあね!」


 アオイは私に手を振ると、リンクの中央に戻って行った。そして、光りに包まれて鎧姿になる。あの鎧は、アオイの精霊のリーラ姫が作り出しているはず。リーラ姫は元々ドラゴン族だもん。ドラゴン族には固有魔術の防具錬成があるって、本に書いてあったもん。アオイの手にはちゃ~んと魔力媒介の剣も握られてるし、準備万端! 頑張れ、アオイ!


「それでは試合、開始ぃ!」


 ブロイエさんの声が響いた瞬間、私はアオイとの約束通り、腕で目を覆った。ちゃんと目を瞑る事も忘れない。それに一瞬遅れて、アオイの声が響いた。


「リヒト!」


 リヒトは、アオイの得意魔術の一つだ。光属性の初歩中の初歩の魔術で、明かりを灯す魔術。攻撃力なんて無い魔術のはずなのに、「ぬおっ!」とか「ぎゃっ!」とかの悲鳴が上がる。


 恐る恐る腕を退け、目を開く。リンクの上ではアオイ以外の選手がのた打ち回っていた。みんな、「目がー! 目がー!」と叫びながら、目を押さえている。ぐるりと周囲を見回すと、観客の皆さんも目を押さえて叫び声を上げていた。さっきのリヒトでやられた? アオイってば、リヒトを大規模展開したんじゃ……。だとしたら、この状況にも納得がいく。


「アオイ選手! 強烈な閃光で出場者の目を焼きました! ああ! 観客席にも被害が広がっているようです! 観客まで巻き添えにする攻撃! 容赦ありません!」


 私の実況で、アオイがハッとしたように周囲を見回した。そして、観客の皆さんを見て、ちょっと焦った顔をする。アオイってば、観客の皆さんの事、全く考えて無かったな。


 アオイはある一点を見て、ホッとした顔になった。視線の先には孤児院のみんな。彼らの事も忘れていたらしい。でも、大丈夫。みんな、腕で目を庇った格好をしてるもん。彼らと一緒に試合を見ている隊長三人組の誰かが、アオイのしようとしている事に気が付いて、腕で目を覆うように叫んだっぽい。そのおかげか、彼らの周囲の観客も被害を免れていた。


 アオイは気を取り直したように手近な選手の下へ行くと、その胸に輝いている護符を毟り取った。他の選手の護符も次々と毟り取っていく。そして、全ての選手の護符を毟り取ったアオイは、リンクの上にそれらを並べると、手にした短剣で護符の中央の魔石を叩き割り始めた。


「ああっと! アオイ選手が護符を叩き割っていきます。これは……あり、なんでしょうか?」


 護符の魔石が砕けたら失格ってルールだけど、こんな割り方で良いの? それを口にすると、答えるようにブロイエさんの声が響いた。


「は~い。ありで~す!」


 そのアナウンスを聞いて、アオイはちょっとホッとした顔をしていた。アオイもありか無しか、自信が無かったみたいだ。物は試しにって感じだったのかな?


 ブロイエさんのアナウンスを聞いて慌てたのは他の選手達だった。目が見えない間に護符を奪い取られたと思ったら、次々に護符を割る音が響いてるんだもん。焦らない方がおかしい。選手達はそれぞれ、手探り状態でアオイを探し始めた。


「おおっと! 他の選手が手探りでアオイ選手を探しています。まるで墓場から這い出るゾンビのようです! 気持ち悪いッ!」


 両手を前に出して頼りなく歩く姿が、おとぎ話に出て来るゾンビっぽくて気持ち悪い。それを正直に口にすると、選手達がその場に崩れ落ちた。がっくりと項垂れて、シクシク泣いている人までいる。あ。あっちの人、地面をバシバシ叩いて大泣きしてる。大人なのに……。


「は~い。試合、終ー了ー! 勝者、アオイさーん!」


 アオイが護符を全部叩き割ったところで、ブロイエさんの声が響いた。アオイってば、予選通過しちゃった! すご~い! でも――。


 アオイがリンクの上でお辞儀をすると、まばらな拍手が響いた。何でまばらかなんて、考えるまでもない。アオイのせいで、観客の皆さんが拍手出来ない状態になってるからだ。


 アオイは再びぐるっと観客席を見回すと、逃げるように控え場に戻っていった。アオイの試合の後、御前試合が一時中断になったのは言うまでもない。

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