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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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御前試合予選 1

「アイリス、出番ですよ」


 先生はそう言うと、サッと立ち上がり、私に手を差し出した。先生の手を取ると、引っ張り上げるようにして立ち上がらせてくれる。私達に一拍遅れて立ち上がったウルペスさんと共に三人一緒に出入り口まで行くと、先生が私の背中をそっと押した。振り返り、先生とウルペスさんを見る。二人は優しく微笑むと、頑張れとでも言うように頷いた。私も二人に頷き返し、控え場から闘技場へと出た。


 闘技場の中央に設置されているリンクに向かう。周りはなるべく見ないようにして。だって、広い闘技場には、今まで見た事無いくらい大勢の人がいるんだもん。みんな、私の方見て――。あっ!


 いてて。転んじゃった。恥ずかしい……! でも、ここで慌てたら駄目。みんなに笑われちゃうもん。失敗しても何食わぬ顔でいるんだよって、予行演習の時、ブロイエさんに言われたもん。


 私はむくりと起き上り、リンクへと向かった。私、転んでなんてないんだもん。ええっと、目印、目印……。あった。私はバツ印の上に立ち、ぺこりと頭を下げると、アダマンティンの杖を掲げた。そして、課題で習得した、声を響かせる風の魔術を展開する。


「こ、これより、御前試合を始めます。まず、ルル、ルール説明をさせて、いたいた、頂きます!」


 うう~! 声が震える。胸がドキドキを通り越してバクバクしてる!


「ええっと、しょ、勝利者は、リリ、リンクに立っている者、一名となります。場外や、身代わりの護符が砕け散った場合は、し、しし、失格となります。戦闘不能の際はリタイアも認められていますので、そういった場合は、い、いい、意思表示をしてくだしゃい」


 うう……。今度は噛んじゃった。恥ずかしい。顔が熱い。思わず下を向きそうになる私の目に、控え場の出入り口の前に立つ真っ白い人影が映った。先生……。先生の隣には、銀色の髪と赤い服のウルペスさん。二人とも、口をパクパクさせている。ええっと……。が、ん、ば、れ? あ。頑張れ! 私が小さく頷くと、先生とウルペスさんもにこりと笑って頷いた。


「審判はブロイエ様が行って下さいます。皆さん、良い試合を期待しています」


 ぺこりと頭を下げると、割れんばかりの拍手が起こった。ちょっと失敗しちゃったけど、何とかなった。後は、試合を盛り上げるだけだ。頑張るぞ、お~!


「それでは、第一ブロックの予選を始めます。選手の方は準備して下さい」


 私がそう言うと、控え場から選手達が出て来た。わらわら、わらわら、と。先生もこの第一ブロックに出場予定だ。ゆっくりとこちらに向かって来る。


 もっと後のブロックに出場予定のウルペスさんは、控え場の出入り口に陣取ったままだ。きっと、先生の試合を間近で見ていたいんだと思う。だって、二人は友達だもん。心配なんだ、きっと。


「よく頑張りましたね」


 先生がにこりと笑い、私の頭をポンポンする。へへへ。褒められちゃった。先生が触れた場所を手で押させる。ふと、周りを見ると、みんな、おっかない顔をしてこっちを睨んでいた。戦闘準備万端らしい。


「危ないですから、この試合はリンクから下りていて下さい」


「ん。先生、頑張ってね」


 こくりと頷き、リンクを後にする。本当は、リンクの上で実況したい。でも、先生の言う事は守らないと! だって、先生に嫌われたくないもん。


 先生は、私と入れ替わるようにリンクの中央に立った。その先生を取り囲むように他の選手達が取り囲む。みんな、先生狙いなの? 先生が強いから? 全員で協力する気、満々?


「では、試合開始ー!」


 ブロイエさんの声が響く。試合開始と試合終了の合図は、審判であるブロイエさんが担当する事になっている。私は試合を間近で見て、盛り上げるような事を言う担当。例えば、魔法陣を見て、どんな魔術か説明するとか。


 ブロイエさんの合図と同時に、リンク上の選手達が動いた。そして、中央に立つ先生に飛び掛る。先生は余裕の顔で剣を宙に掲げ、魔法陣を展開中。


「シルト!」


 先生が魔術の発動言語を叫ぶと、半球状の薄い膜みたいなものが先生を守るように現れた。私は大きく息を吸い込み、口を開く。


「おおっと! ラインヴァイス選手が防御障壁を作り出しました! 三人が障壁にぶつかり、倒れています! 他の選手は警戒するように剣を構えています!」


 防御障壁は初級の結界術だ。パッと見、薄い膜みたいにしか見えない結界だけど、触ってみると凄く硬い。先生に初めてこの魔術を見せてもらった時、試しにと、アダマンティンの杖で叩いてみた。どのくらい硬いのかなって。でも、硬い音が鳴るだけで、どんなに叩いても破る事が出来なかった。防御障壁は、ブロイエさんの書いてくれた魔法陣の本の解説によると、ほぼ完璧に物理攻撃を跳ね返す事が出来るらしい。


 因みに、これの応用が物体強化魔術だ。防御障壁を物に纏わせ、強度を高める魔術が物体強化魔術。アオイはそれを使って「はりせん」なる武器を自作していた。その出来栄えを確かめる為に、「はりせん」で殴ってって言われたから頭を軽く叩いたら、アオイは大げさなくらい、のた打ち回って痛がっていた。紙を折って作っただけの道具が、魔術一つで凶悪な鈍器になるんだから、防御障壁って何気に便利。


 そんな防御障壁の硬い壁に猛スピードでぶつかった三人は、痛いじゃ済まなかったみたい。当たり所が悪かったようで、三人のうち二人の護符が砕けていた。残りの一人も、護符に大きな亀裂が走っている。


 ただ、防御障壁には弱点がある。魔術を使っての攻撃だ。防御障壁で防げるのは物理攻撃だけ。魔術攻撃には全く役に立たない。


 それを知っているらしい選手が数人、魔法陣の展開を始めた。と思ったら、先生が動いた。いや、正しくは、先生の周りの魔法陣が動いた。一瞬、魔法陣が揺らめくように光ったかと思うと、爆発的に防御障壁が広がっていく。


「ああ! 防御障壁が凄いスピードで拡大していきます! 防御障壁にぶつかり、選手が次々と弾き飛ばされています!」


 先生の防御障壁にぶつかった人達が、変な音を立てながらリンクの外に弾き飛ばされていく。それはまるで、とっても重くて硬い鈍器で殴られるような音で。


「最後の一人もリンクの外に弾き飛ばされましたぁ!」


「勝負あり! 勝者、ラインヴァイス!」


 私の実況に答えるように、ブロイエさんが終了の合図を行う。先生は剣を鞘に納めると、リンクの上で優雅にお辞儀をした。観客席から拍手と歓声が巻き起こる。やったやった! 先生が勝った! 期待してた戦い方じゃないけど、先生が勝った!


 先生は私と目が合うと、にこりと笑った。と思ったら、何かに気が付いたように顔を上げ、フッと姿を消してしまった。あれぇ? もしかして、竜王様に呼ばれたのかな?


 先生に限らず、上級騎士団員の人達は、お城の中ならどこにいても、竜王様に呼ばれたら分かるらしい。お城には代々の竜王様が管理する特殊な結界が張ってあって、それの効果だとか何とか。いつだったか、午後のお勉強の時に先生が教えてくれた。竜王様に呼ばれたら、すぐに飛んで行かないといけないんだって。例えじゃ無くって、本当に転移で飛んで行くんだから凄い。


 リンクの外では、負けた人達の回収作業が行われていた。後半の試合に出る人達が、負けた人達を控え場に引きずって行く。全員撤収が完了したら第二ブロック開始だけど、ちょっと時間が掛かりそうだな。だって、負けた人のほとんどが気絶してるんだもん。先生、やりすぎ。


 しばらくして、全員が控え場に撤収した。それをきっちり見届け、私はリンクの上に戻った。そして、大きく息を吸い込む。


「第二ブロック予選を始めます!」


 そう言うと、控え場から第二ブロックの選手達が出て来た。その中には見知った顔。髭ボーボーのおっかない顔は見間違えるはずがない。イェガーさんだ。ウルペスさんと同じ赤い上着を着ている。腰に剣を差してキリリとした顔をしているからか、いつも以上におっかない。


 イェガーさんって、ただの料理長さんじゃなかったらしい。この御前試合、上級騎士団員は全員参加だから、こうして姿を見せるって事は、イェガーさんも上級騎士団員って事だ。しかも、赤い上着は強い証拠だってウルペスさんが言ってたし、イェガーさんも強いんだ。人は見た目に寄ら――ううん。イェガーさんの場合、見た目通りだ。あの見た目で弱かったら、逆に変だもん。


 第二ブロックの選手達は、イェガーさんを除いて、みんな茶色い上着を着ていた。赤い上着の人は、一ブロックに一人なのかな? さっきの第一ブロックで赤い上着を着た人がいなかったのは、先生がその代りだったって事なのかな?


「試合、開始ー!」


 選手達が全員リンクに上がり、ブロイエさんが開始の合図をする。イェガーさんはそれを待っていたかのように剣を抜いた。と思った次の瞬間には、魔法陣が展開されていた。


「フランメ!」


 イェガーさんが使った魔術は、私でも使える火属性の初級魔術だった。勢い良く炎が噴き出す剣を、イェガーさんが他の選手に向ける。と、火に巻かれ、数人の選手が煙を上げながら倒れた。彼らの服は真っ黒焦げで、胸の護符は砕け散っている。


 イェガーさんはそのまま、炎が噴き出している剣を他の選手にも向けた。あちっ! あちちっ! こっちにまで熱風、来てるっ! 私は堪らず、リンクから飛び降りた。次の瞬間、すぐ頭の上を、炎が勢い良く通り過ぎていく。危なかった! 危機一髪っ!


 同じ魔術でも、私が使うのとイェガーさんが使うのでは威力が全然違う。私の場合、ボンって火が出てすぐに消えちゃうけど、イェガーさんのはごうごうと炎が噴き出したままだ。これは習熟度の差、なのかな? ただ使えるだけなのと使いこなすっていうのは、似ているようで全然違うらしい。


「ぎゃっ!」


 悲鳴が聞こえ、私は恐る恐るリンクを覗き込んだ。リンクの上は、火から逃げ回る人、熱さに耐え切れずにリンクから飛び降りる人でパニック状態だ。


 それよりも、水属性の魔術とか、魔力障壁とか、使える人いないのかな? あ。でも、この状況で精神統一して、魔法陣を展開するのは無理があるかも……。イェガーさん、嬉々として炎が噴き出す剣、振り回してるし。ちょっとでも火に触れたら、精神統一なんて途切れちゃうはず。だって、「あちっ!」ってなるもん。


 それにしても、焦げ臭い。護符で身体の怪我は防げても、服が燃えるのは防げないからなぁ。服が焦げる匂いと煙のせいで、ちょっと気持ち悪くなってきたぞ。


 あ。リンクから飛び降りた人、お尻に火が付いてる! お尻、丸出しになっちゃうよ! 早く消して、消して!


「勝者、イェガー!」


 リンクの上に立っているのがイェガーさんだけになると、ブロイエさんが終了の合図をした。私、この試合、ただ見てるだけになっちゃった……。うう。大失敗。もっと盛り上げる事、言わなくちゃいけなかったのに……!


 会場が、勝者のイェガーさんを称えるように歓声に包まれた。イェガーさんが勝鬨を上げると、それが更に大きくなる。私の実況が無くても勝手に盛り上がって……! きぃ~! 悔しいぃ!

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