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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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御前試合当日

 とうとう、この日がやって来た。そう。今日は待ちに待った御前試合! 急ピッチで進められた準備期間中にトーナメント表や優勝賞品が発表され、お城の中はその話題で持ち切りだった。特に、優勝賞品の「豪華馬車で行く離宮の旅」は目新しさもあり、みんなの注目の的だった。でも、私は出場しないし、それにはあんまり興味が無い。それよりも、先生が戦ってるところ、早く見たい!


 今日の為にと、ノイモーントさんが作ってくれた新しいメイド服に袖を通し、いつも通りに髪を二つに結う。そして、ホワイトブリムと真っ白いエプロンを付けて完成! 新しいメイド服は、いつも着てる服より全体的にフリフリが多い。今日の為の一張羅だ!


 ベッドの脇に置いてある杖を手に取る。数日前、やっと課題が終わり、返してもらえた大切な杖だ。返してもらえた日は嬉しすぎて、ピカピカに磨き上げて、大事に抱えて寝たのは私だけの秘密。


 コンコンと扉をノックする音が響く。きっと先生だ! 私は扉に駆け寄り、勢い良くそれを開いた。この後、先生と一緒に朝ごはんを食べて、一緒に会場に移動する約束をしてある。アオイのお世話はローザさん一人に任せきりになってしまうけど、私も先生も御前試合の準備があるから仕方ない!


 扉の先には、私の予想通り、先生が立っていた。優しく微笑む先生を見て、自然と顔がにやけてしまう。


「今日の服、良く似合っていますね」


 えへへ。褒められちゃった。嬉しいけど照れくさくって、後ろ頭を掻く私に、先生が一つの小さな包みを差し出した。何だろう? 先生の顔と包みを見比べると、先生が口を開いた。


「アイリスに似合うかと思って」


 包みを受け取り、中を確認すると、白いリボンが入っていた。取り出してみると、レースみたいに薄らと反対側が透けて見えた。とっても細い糸で織ってあるリボンだ。こういうリボンって、アオイのドレスの飾りでしか見た事が無い。とっても珍しい物の気がする。


「ほぉ~!」


「つけましょうか?」


「んっ!」


 先生にリボンを渡すと、先生は白手袋を取り、慣れた手つきで髪に付けてくれた。ちょっと恥ずかしい。背中の辺りがムズムズする。うぅ~!


 私達はいつも通り手をつなぎ、食堂へと向かった。今日は御前試合だからか、食堂は大混雑。みんな、先生と色違いの茶色い騎士服に黒いズボンという格好だ。普段は自由な服装をしてるから、同じ格好の人ばっかりってちょっと不思議。見慣れない。


「あ~! ラインヴァイス様、発見っ! アイリスちゃんも!」


 振り返ると、ウルペスさんが満面の笑みでこっちに駆け寄って来るところだった。ウルペスさんもちゃ~んと騎士服を着ている。不思議なのは、上着の色が赤い事。よく見ると、ノイモーントさんとかフォーゲルシメーレさんとかヴォルフさんとか、その他数人、ウルペスさんと同じ赤い騎士服の人がいた。何故?


「どしたの、アイリスちゃん? 不思議そうな顔して」


「みんなと服の色が違うの」


「ああ~。これはね、特別なんだよ。上級騎士団員の中でも、強い証拠の服なんだから」


 ウルペスさんが、騎士服の襟元をピシッと正す。「ふふん」と自慢げな顔をするウルペスさんを見て、ちょっと意地悪したくなった。


「ウルペスさん、強かったの? 全然、そんな風に見えなかった」


「がぁ~ん。俺、これでも副長付きなのに……」


 ガックリ項垂れるウルペスさんを見て、先生がクスクスと笑う。


「先生、副長付きってなぁに?」


「連隊長の副官の副官ですね。連隊長の下に副長が二人、その下に副長付きが一人ずついるんです」


「へ~。じゃあ、ウルペスさんって偉いんだ」


「偉いと言うよりは、先ほどウルペスが言った通り、強いと言った方が近いですね」


 そう言うと、先生はにこりと笑った。ウルペスさんと一緒にいると、先生、よく笑ってる気がする。ほんの少しだけ悔しい。これもヤキモチ?


「先生、それよりもお腹空いた!」


「せんせー、俺もっ!」


「はいはい」


 三人並んで朝ごはんを取り、一緒に食べる。そして、食べ終わると、三人で一緒に会場へと移動した。その間も、先生はずっとニコニコしてご機嫌だった。ウルペスさんがいるからかな? む~!


 会場に着くと、既にお客さんが入り始めていた。円形の会場には、階段状に観客席が設置されていて、その一部は建物みたいなもので区切られている。たぶん、あの建物は、竜王様が観戦する席だと思う。会場の真ん中に円形リンクが設置されていて、どこの席からでも試合が見やすいように工夫されている。


 先生が、私とウルペスさんを先導するように一歩前を歩く。席と席の間の通路を進み、真ん中あたりまで下りると、先生が足を止めた。そして、一点を指差す。見ると、そこには孤児院の子達。先生を見上げると、先生はにこりと笑みを浮かべた。


「皆、揃って来てくれたようですね。挨拶するでしょう? ここで待っていますから」


「ん」


「あと、この間、魔術を当てようとした子にきちんと謝ってきなさいね?」


「う~」


「アイリス?」


「は~い……」


 私はむくれ面で返事をし、孤児院のみんなの元へと向かった。私の姿に、真っ先に気が付いたのはフランソワーズだった。彼女は何故か、マントのフードを頭からすっぽり被っている。最近、涼しい日が多くなってきたとは思うけど、まだ暑いのに。今日は、汗ばむような陽気なのに。変なの。


「アイリス」


 こっちこっちと言うように、フランソワーズが手招きする。と、みんなも私の姿に気が付いた。みんな笑顔でこっちを見ている。う~。何か恥ずかしい。


「ええっと、今日は来て下さって、ありがとうございます」


 リリーの前に行き、ぺこりと頭を下げる。すると、リリーが頭を撫でてくれた。優しく笑うリリーの顔色は、今まで見た中で一番良い。きっと、フォーゲルシメーレさんの薬湯のお蔭なんだと思う。薬師としての腕は、やっぱり良いらしい。


「こちらこそ、お招き下さり、ありがとうございます」


 今日のリリーは濃いピンク色の服を着ていてとっても綺麗。服の色も、顔色を良く見せているんだと思う。それに、いつも着てる服よりお洒落。よく見ると、リリーだけじゃない。ミーナはいつもの三角巾とお揃いの色の、お洒落な赤い服を着ていた。他の子もとってもお洒落。変な格好はフランソワーズだけだ。


「みんなお洒落!」


「そいういうアイリスこそ」


 フランソワーズが口を開く。よく見ると、フランソワーズってば、フードの下、髪の毛下ろしてるような……。もしかして、フランソワーズもあのマントの下、お洒落な格好してるのかな? いつもと違って、スカートとかはいてたりして。ちょっと見てみたい。


「あのね、ノイモーントさんがね、今日の為に作ってくれたの!」


「だからそんなフリフリヒラヒラしてるのか。あいつ、本当にレースとかフリルとか好きだよなぁ」


 フランソワーズは呆れたようにそう言った。でも、何となく、親しみが篭った言い方だった。「ごうこん」の時に比べると、ちょっとだけ仲良くなったのかな?


「今日ね、私、実況するの! だから特別なの! 一張羅なの!」


「そうか。頑張れよ、アイリス」


「んっ!」


 こくりと頷くと、フランソワーズも頭を撫でてくれた。ちょっと照れくさくって、へへへと笑ってると、突然、誰かに髪の毛を引っ張られた。驚いてそちらを見る。すると、アクトが意地悪く笑っていた。その手には、さっき、先生から貰ったリボンが握られている。


「あぁ~!」


「変なリボン! 透けてる!」


「返して!」


「返して欲しかったら取ってみろよ! ほらほらぁ!」


 アクトが腕を振ると、ひらひらとリボンが風に揺られて踊った。何で? どうして私ばっかり……! 悔しくて、じわりと涙が滲む。


「アクトってば、またそんな意地悪して……。アイリスに嫌われるわよ?」


 アクトの死角から手を伸ばしたミーナがリボンを取り返してくれる。そして、私のすぐ横に屈むと、リボンをつけ直してくれた。


「ありがと……」


 涙を堪え、お礼を言う。すると、ミーナが優しく笑って頭を撫でてくれた。


「ごめんね、アイリス。あの子、馬鹿だから。よ~く言い聞かせておくから、嫌いにならないであげて?」


「馬鹿とは何だよ!」


 ミーナの言葉にアクトが叫ぶ。その声に驚いて、私はビクリと身を震わせた。アクトは嫌い。意地悪ばっかりするし、ああやってすぐ大きな声出すし。えばってるし、乱暴だし。


「アイリスと仲良くしたいなら、それなりの態度があるでしょう? それも分からないようじゃ、馬鹿って言われても仕方ないと思うわよ?」


 ミーナが立ち上がり、腰に手を当てて呆れたようにそう言った。すると、アクトの顔がみるみる真っ赤になった。


「だ、だだ、誰がっ!」


「あらぁ? 顔、真っ赤よ?」


「うっせぇ!」


「アクトの声の方がうるさいわよ? ほら。みんな見てる」


 大声で叫ぶアクトにミーナは一歩も引かない。やれやれといった感じで溜め息を吐き、ぐるっと辺りを見回した。ミーナの言う通り、アクトの怒鳴り声に驚いたように、まばらに入り始めているお客さん達がこちらを見ていた。


 ミーナは良いな。強くって。ああやって、言いたい事言えて。だから、ミーナは意地悪されないのかな……。


――反撃する意思を示す事が大事なの。


 ローザさんに言われた事が頭を過る。きっと、私が意地悪されるのは、私が弱虫で、言いたい事も言えなくて、反撃もしないからだ。だったら……!


「アクトっ!」


 ギュッと拳を握り締め、大きな声で叫ぶ。すると、アクトは突然の事に驚いたのか、ビクッと肩を震わせた。


「こ、この間、魔術当てようとして……その……ご、ごめん、なさい……」


「お、おう……?」


「私、謝った。だから、アクトも……あ、謝って。アオイを、馬鹿にした事……!」


 手が震える。足も震えている。怖い。それに、緊張する。もし、アクトに怒鳴られたらどうしよう。また意地悪な事、言われたら……。胸がドキドキする。喉もカラカラだ。それでも、目を逸らしたら負けだと、アクトをジッと見つめる。アクトも私を見つめていた。そして、先に目を逸らしたのはアクトだった。


「その……悪かった……」


 囁くような声。でも、しっかり聞こえた。じんわりと達成感が満ちてくる。


 この先、またアクトに意地悪をされるかもしれない。でも、今回みたいに言いたい事を言って、反撃する意思を示せば、そのうち意地悪してこなくなるかもしれない。もしかしたら、仲良くなれ――なくても良いや。だって、アクトの事、嫌いだもん。意地悪してこないだけで十分だもん。


 ウルペスさんと一緒に待つ先生の元に戻ると、先生が頭を撫でてくれた。アクトとのやり取りをちゃ~んと見てたらしい。ちょっと照れくさい。


「さっき、アイリスちゃんと話してた男の子、気に入らなーい!」


 ウルペスさんが口を尖らせる。先生は苦笑すると、そんなウルペスさんの肩をポンポンと叩いた。すると、ウルペスさんがニヤッと笑う。先生とウルペスさんは、あんまりお話しなくても分かり合えるらしい。ズルい! 頬を膨らませていると、先生が微笑みながら私に手を差し出した。膨れたまま、その手を取る。そして、三人一緒に、リンクがある一階部分の端っこにある部屋、控え場へと向かった。


 控え場には、沢山の人達が待機していた。みんな茶色い騎士服だ。この人達はきっと、先生と同じ第一ブロックの出場者。それぞれ思い思いの場所に座り込み、剣や杖、護符のチェックをしている。ふと、控え場の隅に視線を移すと、そこには魔法陣が用意されていた。魔法陣の本に載ってた物よりずっと複雑な魔法陣だ。まだ魔力は流されていないらしく、光ってないから発動はしてないっぽい。


「先生、あの魔法陣、何?」


「叔父上のゲートの片割れのようですね。大方、アオイ様の移動用でしょう」


「ふ~ん」


「それより、これを」


 先生が控え場の隅に用意されていた護符を首に掛け、もう一つ手に取ると、私に差し出した。私も護符、付けるの? そう思って、先生と護符を見比べる。


 この護符は、身代わりの護符だ。結界術と呪術を掛け合わせた術を発動させる事で、護符の中央に嵌っている魔石が、使用者の怪我を代わってくれる。命に関わる大怪我の場合、魔石は簡単に砕け散るし、怪我の積み重ねでも魔石が砕けてしまう。魔石を入れ替えれば再利用出来るし、作るの自体もそんなに難しくない護符らしく、訓練でよく使われている。もし、戦が起こったら、その時も使われるらしい。


 とっても便利な護符だけど、身体の痛みまでは取ってくれない。だから、剣術稽古が終わるといつも、アオイが文句を言っていた。「何で痛みまで引き受けてくれないのよ、この護符ッ!」って。


 御前試合では、出場者は全員、護符を付けなければいけない。怪我をしない為にと、判定をしやすくする為に。でも、私は出場しないよ?


「万が一が無いとは言い切れませんから」


 そっか。私にも魔術が当たるかもしれないのか。気を付けないと! 先生から護符を受け取り、キリリとした顔で頷く。先生がにこりと笑って頷き返してくれた。


「進行は覚えていますか?」


「ん」


「ルール説明は大丈夫ですか?」


「ん」


 先生ってば、心配性なんだからぁ! 昨日までに実況に必要な事は覚えたよ。ちゃ~んと進行だって出来るんだから。ブロイエさんと一緒に進行の予行演習して、合格貰えたの、先生、見てたはずなのに!


「ラインヴァイス様、心配しすぎ!」


 ウルペスさんがそう言って笑う。そうだ、そうだ。私がうんうん頷くと、先生が少しだけ眉を下げた。しゅんとする先生、ちょっと可愛い。


 しばらくの間、三人で座り込んでお話をしながら待っていると、ブロイエさんの声が響いた。それに続いて大歓声が巻き起こる。いよいよ、御前試合が始まる。う~! 緊張してきた! 失敗したら嫌だな。あ~! ドキドキする!

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