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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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御前試合準備 5

 私は、来る日も来る日も魔法陣の本の暗記に取り組んだ。だって、杖、早く返して欲しいんだもん。先生がくれた、大切な杖なんだもん。杖、持ってないと不安なんだもん。


「出来たー!」


 突然、静かな図書室にアオイが叫び声が響き渡り、私はビクッと身を震わせた。な、何? ビックリするから、いきなり大きな声、出さないでよ。


 アオイは描き終わったばかりの魔法陣を、得意げな顔で掲げていた。竜王様がその魔法陣を見て、一つ頷く。竜王様の合格が貰えたらしい。という事は、アオイはまた、新しい魔術を習得したんだ。羨ましい。


「それ、リヒト・シュトラール?」


 リヒト・シュトラールは光属性の上級魔術で、魔法陣から一本の光線が出て、それで敵を倒す魔術だったはず。因みに、これの上位魔術は、光線が色んな方向に向かって出る、光属性の最高位魔術らしい。使うな危険って、魔法陣の本に書いてあった。


 魔法陣の本は、ブロイエさんが書いてくれたものだからなのか、魔法陣の下にとっても分かりやくて面白い解説が付いている。解説だけ読んでいても飽きないし、字の勉強にもなるから助かる。


「おお~! アイリス、凄いじゃない! 魔法陣見ただけで分かるなんて!」


 アオイがパチパチと手を叩く。へへへ。褒められちゃった。何だか照れくさくって、私は後ろ頭を掻いた。


「だいぶ、魔法陣を覚えたようですね」


 先生がにこっと笑う。先生は、この魔法陣の暗記に関しては、凄いとか偉いとかは絶対に言わない。この課題は私への罰だから、一線を引いてるんだと思う。


「あとちょっとなの! 全部覚えるまで!」


「アイリス、頑張ってるもんね」


 アオイが「ねぇ?」というように、私に向かって頭をこてんと倒した。私もそれに答えるように、アオイに向かって頭をこてんと倒す。


 アオイはしょっちゅう、課題に付き合ってくれている。一緒に声を出して解説を読んでくれたり、解説の所を隠して、どんな魔術の魔法陣か問題を出してくれたり。アオイの寝る準備が終わった後の、私とアオイとローザさんの三人のお茶会では、必ず問題を出してくれている。


 アオイの協力はとっても助かる。だって、一人で魔法陣の暗記なんてやってたら、いつまで経っても覚えられないもん。心がポキッてなりそうだもん。


「では、もう少ししたら試験をしましょうか。合格出来たら、この課題は修了とします」


「わ~い!」


「但し、全問正解する事。一つでも間違えたら不合格ですからね」


 が~ん。全問正解って……。難しすぎるよ、先生。いくら罰だからって、厳しいよ。


「合格出来るまで、一日一回、試験を実施します。御前試合実施日までに合格出来ない場合、実況も出来ませんから、そのつもりで」


 この課題は、御前試合の実況の為のお勉強でもあるらしい。というか、元々はそのつもりで準備していたけど、私が馬鹿な事をしてしまったから、これを罰として利用する事にしたらしい。こっそり、ブロイエさんがそう教えてくれた。


「ん! 頑張る!」


 私が頷くと、先生も「頑張れ」っていうように頷き返してくれた。午後からは、もう一つの課題もやらないとだし、色々大変だ。でも、杖、返してもらう為なんだもん! 頑張るもん!


 午後からはもう一つの課題、風属性の中級魔術のお勉強。これは、風の力を利用して、声を響かせる魔術らしい。御前試合の時、みんなに実況が聞こえるようにする為に必要なんだって。これも、ブロイエさんがこっそり教えてくれた。先生が意地悪で、難しい課題を出してるんじゃないんだよって。


「ん~……んんっん~……ん~ん~」


「どこか分からないのですか?」


 先生が書類から顔を上げる。私はフルフルと首を横に振った。魔法陣の本のお蔭で、だいぶ字が読めるようになったから、書いてある内容は読めている、と思う。何で声が出ているのかというと、声を出さないと読めないから。昨日、アオイに指摘されて初めて知った。静かに読んでいるつもりでも、声が出てる事。


「分からなくて唸っているのではない、と?」


「ん。声、出ちゃうの。だからね、口、閉じてるの」


「ああ……。黙読が出来ないのですね。良いですよ、僕に気を遣わなくても」


「でも、先生、お仕事してるもん」


「唸り声の方が気になりますから」


 そう言って、先生がクスクス笑った。先生のお仕事の邪魔にならないように、一生懸命声を出さないようにしてたけど、逆に迷惑だったらしい。くすん……。


「それに、アイリスの元気な声を聞いている方が、仕事が捗りますから」


「本当?」


「ええ」


 先生がにこりと笑って頷く。へへへ。私の声で、お仕事が捗るだなんて! 照れるなぁ。もう~!


 今日の目標は見開き一ページ。それを大きな声で読む。先生はお仕事の手を止め、優しく微笑みながら聞いててくれた。そして、読み終わったところで口を開く。


「よく読めています」


 やったぁ! 褒められた! つい、顔がにやけてしまう。だって、課題に取り組み始めてから、先生に褒められる機会が減っちゃったんだもん。久しぶりに褒められたんだもん。


「識字に関しては、書き取りが出来るようになれば完璧ですね」


 そして、この日から私の課題が増えた。書き取りもしておきなさいって、先生から「部族基礎知識」なる本を渡された。


 この本は、色々な部族の特徴が詳しく解説されていて、内容はとっても難しい。けど、この本に書かれている事も、御前試合の実況で必要になるんだと思う。だって、先生が敢えて追加するくらいだもん。かなり重要な事なんだ、きっと。


 まずは、ドラゴン族のページから書き取る事にした。だって、先生はドラゴン族だもん。他のページより興味が湧いたんだもん。先生の事、もっと知りたいって思ったんだもん。

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