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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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御前試合準備 4

 その日の夜、私はローザさんのお部屋にお泊りをする事にした。だって、孤児院での事を話したら、ローザさんがお泊りしなさいって言ってくれたんだもん。


 二人で大きなベッドに横になる。ローザさんは好き。良い匂いするから。それに、柔らかくて温かくて、母さんと一緒にいるみたいだから。


「喧嘩で火を使ったのは良くなかったわね」


 ローザさんが優しく私の頭を撫でながら口を開く。私はむ~っと頬を膨らませた。


「でも、アクトがいけないんだもん。アオイの事、馬鹿にしたんだもん。痛い思い、すれば良いんだもん」


「そう? 意地悪をしたアクト君が痛いって泣いている姿を見たら、アイリスちゃんはスッキリしたの?」


「ん~……」


 アクトは嫌い。でも、泣いてたら可哀想って思ったかもしれない。でも、アクトの事は許せないし……。でも、痛いのは可哀想だし……。でも、アクトは嫌いだし……。でも、やっぱり可哀想な気もするし……。


「ちょっとだけ、可哀想って思ったかも……」


「そうでしょう? アオイ様を馬鹿にされて怒る気持ちも分かるけれど、一時の感情に流されて魔術を使っては駄目よ。だって、魔術は人を助ける為の力なのだから。今回の事、きちんと反省しなさいね」


「ん……」


「喧嘩なんてしないのが一番なのだけれど、それは出来ないのかしら?」


「アクト、意地悪ばっかり言うんだもん……」


「言い返す事は出来ないの? アイリスちゃんは口喧嘩、強くないのかしら?」


「ん……」


 意地悪を言われたら言い返せって、孤児院にいる時、何回もフランソワーズに言われた。でも、出来なかった。だって、悔しいとか悲しいとかで頭が一杯になっちゃって、言い返す言葉が浮かばないんだもん。「違うもん」って、大きな声で言うくらいしか出来ないんだもん……。


「使った魔術が水だったら、ラインヴァイス様もそこまで怒らなかったと思うのだけれど……」


「水? どうするの?」


「頭からかけるの。私も昔、近所の意地悪な子に井戸の水をかけた事があるし、それくらいなら、子どもの喧嘩の範囲に収まったと思うのよね」


「本当?」


「ええ。お説教はされるでしょうけどね」


「水かけたら、アクト、もう意地悪言わない?」


「こういう場合はね、反撃する意思を示す事が大事なの。私に手を出すと、痛い目を見るんだぞぉって」


 ほうほう。そっか。私に意地悪言うと、仕返しされるって思わせれば良いのか。そうしたら、アクトも意地悪してこなくなるかもしれないんだ。ちょっと勉強になった。でも……。


「先生に杖、取られちゃったから出来ないもん……。しばらくの間、魔術は使ったら駄目なんだもん……」


 昼間の先生の怒っている顔を思い出し、じわりと目に涙が滲んだ。それを隠すようにローザさんにギュッと抱き付く。すると、ローザさんが背中をトントンとしてくれた。


「ずっとではないのでしょう? アイリスちゃんが反省したら、きっと返して下さるわよ。今日、きちんと謝った?」


「ん~ん……」


 先生とは孤児院から戻って来た後、何も話をしなかった。夕ごはんの時も、ずっと二人黙ってごはんを食べた。こんな時、先生と仲良しのウルペスさんがいてくれたら良かったけど、ウルペスさんとは会えなかった。先生はきっと、今も怒ってる。明日も明後日もずっと……。


「そう。では明日、きちんと謝らないといけないわね」


「先生、許してくれるかな……?」


「許して下さるわよ」


 許してくれると良いな。許してくれなかったら悲しいな……。そう思いながら、私は静かに目を閉じた。ローザさんがそんな私の頭を優しく撫で続けてくれていた。




 次の日、私はいつもより早く起きた。まだ寝ているローザさんを起こさないようにそっとベッドから降り、自分の部屋へと戻る。そして、朝の準備をサッと済ませると、ベッドに腰掛けた。


 これから先生のお部屋に行って、謝らないといけない。それは分かってるのに、勇気が湧いてこない。もし、先生に嫌われちゃってたら……。杖、返してくれなかったら……。孤児院に戻されちゃったら……。そんな事が次から次に頭に浮かんでくる。


 私はフルフルと首を振った。昨日、ローザさんは大丈夫って言ってたもん。私がちゃんと反省したら、先生、杖返してくれるって。勇気、出さないと!


 廊下に出て、隣の部屋の扉をノックする。返事が無い。おかしいな……。もう一回。……あれぇ? 誰もいないのかな? う~む……。


 私はドアノブを捻り、そっと扉を開けた。薄暗いお部屋に、応接セットと、大きな机が置いてある。応接セットのソファには大きな塊が。毛布みたいなもので包んである。あれ、何だろう? と思ったら、塊がもぞもぞと動いた。そして、むっくりと起き上る。


 私が塊だと思ったのは、毛布に包まって寝ていたブロイエさんだった。私がローザさんの所にお泊りしてる時、どこで寝てるんだろうって思ってたけど、こんな所で寝てたのか。納得、納得。って、違う。ここ、先生の部屋のはずなのに。先生はいないし、ベッドも無いし、明らかに先生の部屋じゃない!


「ブロイエさん?」


 私が声を掛けると、寝ぼけ眼のブロイエさんがこちらを見た。と思ったら、にこっと笑ってちょいちょいと私を手招きした。入って良いの? お邪魔しま~す。パタンと扉を閉めた瞬間、何故か勝手に、閉めたばかりの扉が開いた。


「アイリス?」


 開いた扉の先には先生が立っていた。驚いた顔で私を見つめている。私も驚いて先生を見つめた。何で先生が、私が入って来た扉から入って来るの?


「扉が開かないと思ったら……。叔父上が呼んだのですか?」


「違うよ。起きたら覗いてたの。ラインヴァイスがそろそろこっちに来るかなぁって思ったから、招き入れただけだよ」


 う~んと……。もしかして、私が覗いていた扉が先生の部屋と繋がっていて、この部屋は先生の部屋と繋がってるって事? でも、そうすると、この部屋から先生の部屋に入れない気がするけど……。うむむ。あ。もう一個扉があるし、あれが廊下に繋がってるのかな? いったん外に出て、廊下の扉から部屋に入るのかな?


「それで……」


 静かに扉を閉めた先生がこちらを見る。昨日みたいに怒ってる感じは無い。けど、ご機嫌って感じでも無い。当たり前だけど。


「こんな早朝に何の用です?」


「昨日の事……。ごめんなさい……」


「反省はしたと?」


「ん……」


 こくりと頷き、先生を見つめる。先生も真っ直ぐ私を見つめていた。


「まあ、良いでしょう。今回の件は、課題消化をする事で不問とします」


「課題?」


「ええ。叔父上にも協力してもらいましたので、きちんとお礼を言っておきなさい」


 先生の言葉にブロイエさんへ視線を移す。すると、ブロイエさんがにこっと笑って頷いた。そんな彼に頭を下げる。


「ありがとうございます」


「いえいえ。どう致しまして」


 顔を上げ、再び先生を見る。課題って何? 何すれば良いの?


「今日から暫くの間、この課題をしてもらいます」


 先生が机の上に置いてあった本を取り、私に差し出した。それを受け取り、パラパラとページを捲って中身を確認する。これは……魔法陣? なになに? 炎の蛇が、うんたら、かんたら……。ええっと……。これで何をするの? そう思って先生を見つめる。


「ここに描かれた魔法陣を全て覚える事。そして、魔法陣を見て、どのような魔術かを答える事が課題です」


 本には私が勉強している初級の魔法陣も載っていたけど、大半がそれよりずっと、ず~っと複雑なものだった。きっと、複雑な魔法陣は、中級とか上級とか最高位とかのなんだと思う。これを全部覚えるってとっても大変。でも、これで許してもらえるなら頑張る!


「そして、こちらの魔術の魔法陣を正しく描く事。この二つの課題に合格出来たら、杖を返します」


 先生がもう一冊、薄めの本を差し出した。それを受け取り、パラパラとページを捲る。ちんぷんかんぷんだ。何、この魔術……。


「風属性の中級魔術ですから、魔法陣を描けるようになるまで、少々時間が掛かると思います」


 が~ん。中級魔術って……。初級魔術ですら、やっと魔法陣が描けるか描けないかってところなのに。杖、返してもらえるの、いつになるんだろう……。くすん……。


「今回の件は、これでも足りないくらいですが……。後でローザ様にもお礼を言っておかないといけませんよ?」


「ローザさん?」


「ええ。アイリスも反省しているようだし、まだ幼いのだから許してやって欲しいと、昨晩遅く、わざわざ僕の所に言いに来たのですから。これくらいの課題で済むのも、ひとえに彼女のお蔭ですからね」


「ん」


 そっか。私が寝た後、ローザさん、わざわざ先生の所に行ってくれたんだ。何だろう。ちょっと、ううん、とっても嬉しい! 後でお礼にお茶菓子持って行こうっと!

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