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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第二部

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御前試合準備 3

 ブロイエさんから御前試合の話があった数日後、私は先生とアオイと一緒に孤児院を訪ねた。先生は未だ、孤児院に入ろうとしないから、孤児院の中に入るのは私とアオイだけ。先生は外でお留守番だ。


 先生に、フランソワーズもリリーもミーナも怖がったりしないよって言っても、他の子が怖がるかもしれないからって言って譲らなかった。アオイも先生の説得は諦めているみたい。もしかしたら、アオイも今まで何回も説得したのかな? 先生ってば、見た目に寄らず頑固なんだから。


 私達が孤児院を訪ねた理由。それは、今度の御前試合、みんなに来て欲しいからだ。アオイが準備した招待状を手に、私はアオイの後にくっ付いて孤児院の談話室に入った。丁度休憩の時間帯だったらしく、談話室にはたくさんの子達がいた。フランソワーズやリリー、ミーナもいる。


「久しぶり!」


 アオイが挨拶をしながら、三人のいるテーブルに着く。私もアオイにくっ付いて行った。そして、招待状の束をテーブルへと置く。


「これは?」


 一人一人の名前が書かれた招待状の束を手に、リリーが首を傾げた。アオイがごくりと喉を鳴らし、緊張した顔で口を開く。みんなの反応が想像出来ないもんね。私まで緊張してきた。断られたらどうしよう!


「今度、竜王城で御前試合する事になったの。みんなにも来て欲しいな、なんて」


「御前試合って、あれか? 王の前で試合をする?」


 そう言ったフランソワーズが、自分の名前の書かれた招待状を手にする。アオイはこくりと頷き、三人の顔色を窺うように上目で見つめた。


「連隊長三人組も出るんだ。あと……私も」


「えぇ?」


 ミーナが驚いたように目を丸くする。そして、聞き間違いじゃないよねっていうように、リリーと顔を見合わせた。


「アオイもって……。大丈夫ですの?」


 リリーが心配するのも無理ないと思う。だって、アオイは魔術も剣も習い始めたばっかりだもん。でも、アオイは勇者だからなのか、みんなが驚くような速さで強くなっている。だから、心配無用……だと思う。


「うん。みんなに応援してもらえたら、勝てるような、勝てないような、そんな気がしてるの」


「勝てるような、勝てないようなって……」


 フランソワーズが呆れたように溜め息を吐いた。リリーとミーナは苦笑している。


「この件に関しましては、みんなで相談しますわね。そう言えば、この間――」


 アオイとフランソワーズ、リリー、ミーナの四人は、おしゃべりが大好きだ。こうやって話に花が咲き出すと、つい夢中になってしまうらしい。私の事も忘れて。んも~! つまんな~い!


 談話室を出て、外へ向かう。まだまだ日は高いし、いつもの岩場で薬草でも摘んでようかな、なんて。あの薬草を使った薬、何か無いか、お城に帰ったらフォーゲルシメーレさんに聞いてみよっと!


 外に出て、真っ直ぐ岩場へ向かおうとすると、私の行く手を遮るように、数人の子達が立ちはだかった。この子達、いつも私に意地悪言ってくる子達だ……。


「久しぶりだな、アイリス!」


 真ん中に立つ男の子が叫ぶ。このグループのリーダーのアクトだ。クルクルの栗毛と青い目の男の子で、乱暴者で意地悪だから嫌い。私はフンッとそっぽを向いた。


「お前、まだアオイ様の後、くっ付いて歩いてんのかよ! どうせ、何の役にも立ってないんだろ! 足でまとい!」


「そ、そんな事、無いもん。足手まといじゃないもん」


「へぇ~! じゃあ、何か役に立ってんのかよ! お前みたいなチビが!」


「チビじゃないもん!」


 ギュッと拳を握り締めて叫ぶ。アクトはおかしそうにお腹を抱えて笑っていた。何で意地悪ばっかり言うの? 私、何か悪い事した? じわりと、目に涙が滲んでくる。すると、それを見たアクトが私を指差した。


「泣くぞ、泣くぞ! かあさぁ~んって!」


 それを聞いた他の子達まで笑いだす。止めて! 笑わないで! そう叫びたいのに、喉が引きつって、上手く言葉が出て来ない。


「アオイ様も物好きだよな。こんな役立たずのチビ、引き取るんだから。何考えてんだか、なぁ?」


 今の……。私のせいでアオイまで馬鹿にされた? そう思った瞬間、カッと頭に血が上った。腰の杖を抜き、アクトに向ける。こんなヤツ、大っ嫌いだッ!


「フランメ!」


 私の使える魔術は、片手で数えられる程しかない。魔術を使う為には、魔道書に書いてある事を理解して、魔法陣を描かなくてはならないけど、魔道書の中身を理解するのが私にはかなり難しいからだ。字を習い始めたばかりだから仕方ないって先生は言ってくれるけど、初級魔術教本の終わりが見えてこない。やっと地水火風、エレメント属性の初歩中の初歩の魔術が使えるようになったばかりだ。


 私が使える魔術の中で、当たると一番痛そうな魔術がこのフランメだ。魔力媒介の杖の先端に浮かび上がった魔法陣から火が出るだけの魔術。でも、火は当たると痛いもん! こんなヤツ、痛い思いすれば良いんだもん!


「マギー・シルト!」


 唐突に、先生の声が響いた。そして、私の魔術の火がアクトに届く直前、薄ら光る壁のようなものに当たって散ってしまう。アクトはその様子に驚いて、腰を抜かしたようにぺたりとその場に座り込んだ。


「アイリス!」


 呼ばれて振り返ると、すぐ近くの木立から先生が姿を現した。おっかない顔で私を見つめ、真っ直ぐこちらに向かって来る。私はそれを呆然と見つめていた。何で先生が? 今、アクトを助けたの? 何で? どうして?


「杖を渡しなさい」


 私の目の前に立った先生が手を出す。私はその手と先生の顔を見比べた。先生はおっかない顔のまま、私を見つめていた。いつもは優しく細められている金色の目が、鋭く細められている。


「アイリス! 今すぐ、その杖を渡しなさい!」


 先生の口調が強くなる。私はビクリと身体を震わせた。先生、本気で怒ってる? いつもは大きな声なんて出さないのに……。私はおずおずと、手に持つ杖を差し出した。杖を取った先生が口を開く。


「人に向けて火を放つなど、何を考えているのですか!」


「だってぇ……」


 アクトが悪いんだもん。私の事だけじゃなくって、アオイまで馬鹿にしたんだもん。私、悪くないもん……。悪いの、アクトだもん……。


「だって、ではないでしょう! 最悪、人を殺めてしま――」


「悪いの、アクトなんだもん。アオイの事、馬鹿にしたんだもん!」


「理由はどうあれ、人を殺める可能性がある魔術を放つなど、魔術師として言語道断です。暫くの間、魔術の使用は禁止とします。異論は認めません」


「わだじ、わるぐないもん! わるいの、アクトなんだもん!」


 先生の分からず屋! 悲しくて悔しくて、声を上げて泣く私を残し、先生はフッと姿を消した。


「ぜんぜーのばかぁ! あああぁぁぁ!」


 私の泣き声が虚しく響く。でも、私がどんなに泣いても、アオイと一緒にお城に帰るまで、先生が私の前に姿を見せる事は無かった。

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