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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第一部

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叔父さん 1

 汗ばむ陽気が続くようになってきた頃、先生の叔父さんがお城に戻って来る日となった。アオイはその事を知らない。だって、誰も教えてないんだもん。私も先生に口止めされたから、アオイに話していない。


 アオイに秘密にしてる理由は簡単。先生の叔父さんの奥さんが、アオイのお世話係りになる予定なんだけど、アオイがそれを知ったら抵抗するだろうから。確かに、アオイの性格を考えると、先生の叔父さんの奥さんがお世話係りとか、絶対に嫌がる。だって、先生の叔父さんは宰相さんっていう、竜王様の次に偉い人になるらしいんだもん。そんな人の奥さんがお世話係りとかおかしいでしょって、アオイなら絶対に言う。それだけじゃなくって、竜王様や先生を説得しようとするはずだもん。


 変に揉めない為には、アオイは何も知らない方が良いって、先生が言ってた。凄く困った顔で。私は先生を困らせたくない。だから、アオイに何も言わない事にした。私、口硬いんだから! えっへん!


「はぁ~。終わった~……」


 アオイが溜め息混じりに呟き、図書室のテーブルにぐったりと伏せた。終わったって、何が? と思ったけど、初級魔術教本の勉強が終わったって事らしい。


 アオイはズルい。字が読めて、色んな魔術の適性があって。私の欲しかった治癒術の適性も、アオイにはあるらしい。私なんて、呪術の適性しか無いのに! 字だって、やっと簡単なおとぎ話だったら読めるくらいなのに!


「これで明日から中級の魔術、習えるんでしょ?」


 アオイが顔だけ上げ、先生に問う。すると、先生はにこりと笑い、大きく頷いた。


「ええ。しかし、アオイ様。どの魔術を専門的に学ばれるか決められたのですか?」


 先生がそう聞くと、アオイは姿勢を正し、キリリとした顔で頷いた。アオイの進みたい道はみんな知ってる。けど、あえて確認するところが先生らしいな。


 アオイは「魔剣士になりたい」って言うはずだし、その為の準備もしている。それの一つが、先生の叔父さんを宰相さんとしてお城に戻す事だ。


 先生には攻撃魔術の適性が全く無いから、アオイに初級以外の攻撃魔術を教えてあげられない。アオイには別の先生が必要なんだ。それを引き受けるのは、もちろん竜王様。でも、竜王様はお仕事で忙しい。だから宰相さんが必要なんだって、先生、言ってたもん。


「私、戦い方を知りたい」


「戦い方……。それは――」


「うん。一人前の魔剣士、目指したいんだ。リリーの事もあったし、初めは治癒術師も良いかなぁなんて思ってたんだけど、フォーゲルシメーレがちゃんと診てくれているし、アイリスが頑張ってこの国初の治癒術師になってくれるし。いざという時、私はみんなを守れるようになりたいし、シュヴァルツの力にもなってあげたいし。それにさ、適材適所でいっても、私は魔剣士を目指すのが良いんじゃないのかなって」


「アオイ様らしいですね」


 先生はそう言うと、優しく笑った。アオイの選んだ道、応援してるんだもんね。私も、アオイの選んだ道、応援する。だって、先生が応援してるんだもん!


「では、明日より竜王様に魔術をご教授願いましょう。それに、剣術も」


「うん。でも、シュヴァルツ、そんな時間あるの?」


「それでしたら、問題は無いかと思います。この度、宰相を立てる事になりましたから。竜王様の性格上、大半の業務は宰相に任せるでしょうし」


「宰相? 誰?」


「先代竜王様の弟君が任命されました。竜王様や私の叔父にあたるお方ですね。先代の時分に宰相をされていた経験もおありですし、これで竜王様もお時間に余裕が出来ると思います」


「へぇ。そうだったんだ。全然知らなかった。それに、叔父さんなんていたんだね」


「田舎の方に引き篭っておりましたから、アオイ様がご存知ないのも無理無い事かと……。本日、奥方様と共に竜王城へ戻って来られますので、アオイ様の元へも夕食後、ご挨拶に伺うかと思いますよ」


「きょ、今日!」


 叫び、アオイがアワアワと慌てだした。それを見た先生がクスクスと笑う。アオイはアオイで色々考える事があるんだから、笑わないであげて、先生。恋人である竜王様の叔父さんなんだもん。叔父さんの事は何も知らないから、竜王様の家族って、先生だけだと思ってたはずなんだもん。


「アオイ様、落ち着いて下さい」


「だって、今日でしょ! 今日なんだよ! 何も準備出来てないよ! ああ、どうしよう!」


「叔父上も奥方様も、大変お優しい方ですので……」


 先生。それは半分嘘でしょ? 先生の叔父さん、魔大陸の一部を消滅させた人なんでしょ? この前、そう言ってたよ? 怒らせたら怖いって、付け足した方が良いと思うよ?


「で、でも! シュヴァルツの叔父さんでしょ! 準備ってものが必要だよ! 何でもっと早く教えてくれないのよ!」


「はあ……? 特別、準備など必要でしょうか?」


「必要だよ! 粗相があったらどうすんの!」


 アオイは少しの間、先生に強い口調でまくし立てていたけど、すぐに今日の挨拶の準備に気が移ってしまったようだった。ほうほう。こうやって誤魔化せば、アオイが激怒する事も無いのね。いつも思うけど、先生ってアオイの扱い方が上手な気がする。


 流石は先生。掌の上でアオイをコロコロ転がしてる。でも、アオイが先生の叔父さんの奥さんの事を聞いたら、絶対に怒ると思うんだけど……。「何で黙ってたのよ!」って。


 先生、私、ちょっと怖い……。そう目で訴えかけると、先生は優しく笑って頷いた。先生には先生の考えがあるんだ、きっと。私は先生を信じるよ。私が先生に頷き返すと、先生がそっと頭を撫でてくれた。

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