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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第四部

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241/265

義眼 1

 癒しの聖女の研究者サンテさんに案内されてやって来たのは、妖精王様のお城の離れの一つだった。ここはサンテさんの職場兼研究室なんだとか。


 建物の中を簡単に案内してもらう。一階は、病室だったり調剤室だったり薬草保管庫だったり、現場仕事をするお部屋が並んでいる感じだった。二階は、書斎のようなお部屋が研究室。そして、そのお隣が凄かった。


「凄い……」


 思わず、ほぅと溜め息を吐いてしまった。研究室のお隣は書庫なんだけど、その蔵書のほとんどが癒しの聖女に関係するもの。いわば、癒しの聖女資料室。私、今日からここに寝泊まりして良いかな?


「長い年月掛けて集めましたからな」


 サンテさんはそう言って、顎髭を撫でながら上機嫌に笑う。


「それで、お嬢様はどのような事を調べに我が国へ?」


「癒しの聖女が作った、白騎士の義手。それを調べに参りました」


「おお。それでしたら、良い物がありますぞ。少し、隣の研究室で待っていて下さい。あ。ここにある資料はご自由に閲覧してもらって構いませんからね。気になる物があったら読んでいて下さい」


「ありがとうございます」


 私はサンテさんに頭を下げると、書棚の物色を始めた。そうして、なるべく、癒しの聖女の研究内容が書かれていそうな本を探し、それをバルトさんに持ってもらう。


「あ。あれも……!」


 書棚の一番上、「研究器具大全」だって! う~んと背伸びして手を伸ばしてみるも、私じゃ全然背が足りない! サンテさんだって私に負けず劣らず小柄なんだから、もっと低い書棚にすれば良いのに!


「どちらの本ですか、奥様」


「あれ! あの赤い本!」


 私が指差した本をヴィルヘルムさんが取ってくれる。背が高いって良いなぁ。踏み台も何も使わなくても、書棚の一番上の本が取れるんだから。そんな事を考えながらパラパラと本を捲る。ほうほう。あ。これ、私が使ってる調剤器具に似てる。こっちは、ウルペスさんの研究室で見た事がある器具だな……。


 ……ん? 私が注目したのは、それぞれの道具の挿絵の下、注釈だった。ルノアール第三迷宮より発見? こっちは、アルゼン大迷宮?


 ん~と……。これ、癒しの聖女が発見した宝物図鑑? ほ~。癒しの聖女って、こんなにたくさん、迷宮で新しい道具を発見したのかぁ。


「奥様。読まれるのなら隣のお部屋で」


「んー……」


 本を見ながら移動する。と、何かに躓いた。あっ……!


「っ!」


 転びそうになった私を慌てて支えてくれたのは先生だった。ふう。危なかった。


「アイリス。本を見ながらでは危ないでしょうに……」


「えへへ。ごめんなさ~い。でもね、この本、ちょっと気になったから」


「そんなに興味深い内容でした? もしや、研究内容が何か分かったとか……」


「ん~ん。そういう訳じゃ無いんだけど……。これ、癒しの聖女がね、旅の途中で潜った遺跡で見つけた宝物の一覧っぽいんだ。私が調剤する時に使う道具とかもあって、それを癒しの聖女が発見したっていうのがちょっと不思議な感じと言うかぁ……」


「感慨深い?」


「そうそう。それそれ!」


 今や多くの薬師が普通に使う道具の数々が、癒しの聖女が発見した物だったなんて。大発見した気分。くふふ。


「癒しの聖女は遺跡探索までしていたのか? 治療の旅をしながら」


 そう口を開いたのはバルトさん。その言葉に、思わず先生と顔を見合わせてしまった。


「言われてみれば……。路銀稼ぎか何かだったのかな? 遺跡から出た物って、高値で売れるんでしょ?」


「そう、かもしれませんねぇ……」


 一応、私の言葉に頷いた先生だけど、その顔は釈然としない感じで。


「先生……?」


「あ、いえ……。ただ、路銀稼ぎならば、他にもやりようがあったのではないかと……。もっと安全な方法があったのではないですかね……」


「例えば?」


「小型の魔物を狩って、その素材を売るとか。行商人の護衛をするとか。荷物や手紙の配達も需要があるはずです。一攫千金を夢見ていたり、先を急ぐ旅ならば話は別ですが、そういう訳では無かったのですから、探索が完了していない遺跡に入るなどという危険を冒す必要は無かったのではないか、と……」


 う~ん……。遺跡探索がどれくらい危険を伴うものなのか私には分らないけど、先を急ぐ旅じゃなかった癒しの聖女が取る行動としては不自然なのか……。しかも、こんな分厚い本に発見した物がまとまるくらいだから、探索した遺跡も、一箇所や二箇所じゃ済まないだろう。


「因みに、遺跡探索ってどれくらい危ないの? もし、私が癒しの聖女みたいに、遺跡に行ってみたいって言ったら、先生、どうする?」


「そうですねぇ……。探索が完了している遺跡ならば、百歩譲って入り口付近は許します。しかし、探索が完了していない遺跡ならば、絶対に中には入らせません」


「ヴィルヘルムは?」


「旦那様と同意見です」


「バルトさんは?」


「右に同じく」


「アードラーさんは?」


「俺じゃ、遺跡になんて同行出来ない! 絶対に無理!」


「そっか……」


 先生達の意見を踏まえると、私が抱いていた癒しの聖女のイメージって間違ってたのかな……? 育った環境もあれだし、治療と研究以外は何も出来ない人を想像してたんだけど……。小さい頃はお転婆だったみだいだけど、大人になってからもお転婆だった、とか……? アオイみたいに。


「サンテさんなら何か分かるかな?」


「どうでしょうかねぇ……。一応、後で聞いてみましょうか」


「ん」


 そんな事を話しながら私達は隣の研究室に移動し、来客用だろうソファに陣取った。ローテーブルに持って来た写本やペン、インク壺を出し、準備万端! さて、どれから写していこうか……。書庫から持って来た本に目を通していく。と、サンテさんが何か荷物を持って研究室に戻って来た。


 小柄なサンテさんが抱えるように持って来たのは、綺麗な装飾が施された、大きな宝石箱のような物だった。でも、全体的に埃を被っていて薄汚い。まあ、それは置いておいて、と。重要なのは中身だ。


「それは?」


 私の問いに、サンテさんがニヤリと笑った。そして、箱をテーブルの上に置き、それをゆっくり開く。う! 埃とカビ臭い!


「これこそ、私が癒しの聖女の研究をするきっかけになった物です! 私の曽祖父だか高祖父だかの遺品でして、足です!」


 足って……。まあ、見た目は確かに足ですね。膝から下の。でも、見た感じの質感は、本物の足とは程遠い。つるりとした見た目は、陶器に近いだろうか?


「私の家は、先祖代々妖精王様に仕えております薬師でして。癒しの聖女の時代の大戦に従軍していたそうなんです」


「では、その時に足を?」


 先生の問いに、サンテさんは深く頷いた。


「はい。仲間の懸命な治療のお蔭で一命は取り留めたものの、片足を失ったようです。一日の大半を椅子やベッドの上で過ごし、少しの移動でも杖が手放せず……。家の中を移動するだけでも苦労したと、手記には記されておりました」


「あの、これ、触っても……?」


 私はおずおずと口を開いた。もし、これが本当に癒しの聖女が作った義足だとしたら、何で出来ているのか、どうやって繋いだのか、何か分かるかもしれない!


「どうぞ。ただ、何分古い物ですので、所々脆くなっております。扱いは慎重にお願いしますね」


「は、はい!」


 緊張しながら義手に手を伸ばしたその時、先生が私の手に手を重ねた。驚いて先生を見る。と、先生は苦笑していた。


「手袋を。今、貸しますから」


 そうか。こういうのを触る時って、手袋が必要なのか。一つ勉強になった。先生がいつもしている白手袋を借りて、いざ!


 そっと触れた感じ、まるっきり陶器。見た目通りだ。接続箇所は、と……。あ。何か魔法陣があるな。消えかかってるからよく分からないけど……。ん~……。パターン的に、治癒術の魔法陣、なのかな……? うむむ……。考えられるのは『再生』の術なんだけど、こんな小さな場所に描ききれる魔法陣じゃない。それこそ、この義足全体に魔法陣を描くくらいの勢いで描かないと。あ。もしかして、これ、魔法陣の一部だったりして。本当は表面にも描いてあったけど、経年劣化で消えた、とか? いやいやいや。それにしたって、何も痕跡が無いのはおかしい。元々何も無かったとしか考えられないくらい、表面には何の痕跡も無い。


 魔法陣の謎、今は置いておこう。構造は、と。ふむふむ。球体関節人形に近いのかな? 足の指をコキコキ、足首をコキコキと動かしてみる。と、それを興味深げに見ていたバルトさんが口を開いた。


「リビングドールに似ているな、それ」


「リビングドール? 何、それ?」


「屍霊術の最高位魔術の一つだ。昔、一度だけ、ウルペスが訓練に持って来た事があった」


「あ~。ありましたね、そんな事。ウルペス君がまだ平隊員だった頃ですよね」


 相槌を打ったのはアードラーさん。懐かしむように目を細めているところを見ると、かなり昔の事らしい。


「へ~。そんなの、よく覚えてたね。構造まで」


 何度も見た事があるなら分かるけど、かなり昔に見て、一回で構造まで覚えているとは。バルトさんの記憶力、凄いな。


「その時の訓練が、一対一の実戦訓練でな。叩き壊したら、本気で泣かれた。それで、どれだけ作るのが大変な代物か、一つ一つ部品を見せられて説明された」


 苦労して作った物を叩き壊されたのか。そりゃ泣くし、詰め寄りたくもなるね。そして、泣かれた方もよく覚えているはずだ。悪気は無かったのに、いじめたみたいに責められたんだから。


「ほう。屍霊術ですか! それは盲点でした! 身近に屍霊術師などおりませんからな」


 そう言ったサンテさんの目は輝いていた。サンテさんにとっても、この義足は思い入れの深い物だからね。興味津々にもなるよね。


「しかし、屍霊術の知識なら、弟子にも再現出来たはずですよね?」


 うん。先生の言う通り。屍霊術の知識だけが必要なら、弟子の薬師にも再現出来たはずだ。でも、伝記には再現出来なかったとあった。だから、どこかに治癒術の知識も入っているんだろう。となると、やっぱり、接続部分の魔法陣が怪しいよなぁ……。でも、こんな小さな魔法陣で身体と繋ぐことが出来たとは思えないし、何かしらあるんだろう。う~ん……。全然分かんないッ!

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