表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第四部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

212/265

新居 2

 数日後、アオイのお供で緩衝地帯に行く途中、私と先生のお家の建設予定地の前を通ると、更地になったそこの端の方に、こんもりと土の山が出来上がっていた。思わず足を止める。何、あれ……? 何であんな所に山が……? 更地の前で動かなくなった私に気が付いたのだろう、アオイが振り返った。


「どうしたの? 何か気になる物でも――」


 途中で言葉を切り、アオイが首を傾げる。アオイも土の山に気が付いたらしい。無視するにはちょっと大きすぎるもんね。存在感あるよね、あれ。


「何、あの山……?」


 怪訝そうに眉を顰めたアオイに、私は首を横に振ってみせた。


「分かんない……」


「あそこ、場所的に庭だよね? 山まで作って、凝った庭園にでもするつもり?」


「そんな話、一言も聞いてないけど……」


「ラインヴァイスなら、あれが何か分かるかな?」


「どうだろう……」


「寄宿舎に着いたら聞いてみよっか?」


「ん」


 こうして私とアオイは真っ直ぐ寄宿舎に向かった。


 寄宿舎に着くと、先生は食堂でお茶をしていた。お仕事の合間に、ちょっと息抜きをしていたみたい。今日も小さい子達に囲まれている。


「先生、今、ちょっと良い?」


「ラインヴァイスに聞きたい事あるんだけど」


 大真面目な顔でそう言った私とアオイを、椅子に座っていた先生が不思議そうに見上げた。


「何でしょう? あ。ここで大丈夫ですか? 場所、移します?」


「いや、そこまで深刻な話じゃないんだけどさ。さっき、お屋敷の建設予定地の前を通ったらさ、変な山があったんだ。あれ、何なのかなって」


 そう言ったアオイに同意するようにこくこくと頷く。と、先生が「ああ」と呟き、にこりと笑った。


「あれも建築材料ですよ。魔術で固めてレンガにする予定らしいです」


「土なんてわざわざ集めなくても、そこら辺にあるじゃない」


 私は再びこくこくと頷いた。土なんて、わざわざ山積みにしなくても、その時々で使う分だけ森の地面を掘り返せば良いだけだ。


「あれは特別な土で――」


「特別? 何? あれで作ったら、お屋敷の壁の強度が上がるとか?」


「いえ。特段、強度は変わらないと思います」


「じゃあ、何が特別なの? あ! 見た目が良くなるとか!」


「見た目も、そこまで変わらないと思いますよ。言われなければ気が付かない程度でしょうね」


 ん~。強度も見た目も変わらないけど、特別って……。アオイと二人、首を傾げる。と、先生がくすりと笑った。


「あの土は、叔父上の領地の土なんです。ああいった建築様式の屋敷を建てるなら素材にもこだわりたいと、職人が取り寄せたようですよ」


『へぇ……』


 アオイと二人、感心してみせる。わざわざ遠くの地方から土をお取り寄せするとは、職人さん達のこだわり方が半端無い。


「アイリスがあの建築様式を選んだ理由を、職人達も知っていますからね。出来る限り本物に近づけたいと頑張ってくれているようです。流石に、人族の領域内にあるアイリスの故郷から土を取り寄せる事は出来ませんでしたが……」


 職人さん達のこだわりは、私に対する思いやりだった。ジンと目頭が熱くなる。


「大工さん達、憎い事するねぇ。……って、アイリス、泣いてんの?」


「な、泣いてないもん!」


 精一杯強がってみせる。けど、声は裏返り、震えていた。と、先生が苦笑しながら椅子から立ち上がり、そっと私の肩を抱く。


「アオイ様、アイリスを借りても?」


「え? あ。ど~ぞ、ど~ぞ」


 アオイの返事を聞くと、先生は私の肩を抱いたまま歩き出した。寄宿舎を出てからは手を繋いで歩く。今日は珍しく、いつも先生にくっ付いて歩いている小さい子達は付いて来なかった。何か思うところがあったのか、アオイが引き留めてくれたのか。思いがけず、先生と二人きりになれた。


 緩衝地帯を抜けて、お城に続く一本道を進む。そうして先生に手を引かれるまま歩いてやって来たのは、私と先生のお家の建設予定地だった。先生が更地の端の山を見て、クスクス笑う。


「建築開始が少し遅れているのも、あれの手配をしていたからだったみたいですよ。何度かに分けて届くそうです」


「そっか……」


「完成した屋敷、アイリスの故郷の匂いがしそうですね」


「ん。お家から出るの、嫌になっちゃいそう」


「良いですよ。ずっと家にいてくれて。その方が安心ですから」


「ん~。でも、アオイのお世話は続けたいかなぁ」


「そう、ですか……」


 ガッカリしたように先生が肩を落とす。先生的に、私には家にいて欲しいんだろう。何せ、先生はドラゴン族だ。


 ドラゴン族は、良く言うと過保護。悪く言うと独占欲が強くて嫉妬深い。太古の昔、それこそ巣穴を掘って生活していたような時代は、奥さんを巣穴に拘束していたっていう逸話があるような部族だ。家にいてくれた方が安心するっていうの、本能も関係しているんじゃないかなぁ。


「お家完成するの、いつくらいになるのかな?」


 寄宿舎の校舎を建てるのに、だいたい一年ちょっと掛かった気がする。建物一棟で一年ちょっと……。うちは寄宿舎の校舎よりも大きいし、使用人さん用の建物もあって二棟あるし、全部完成するのに何年くらい掛かるのかな……。


「そうですねぇ……。本館は、来年の冬には完成して欲しいですね」


「ん。来年の冬は、一緒に暮らしたいね……」


「ですね」


 本館さえ出来上がってしまえば、先生と一緒に暮らす事は可能だ。使用人さんとして住み込む子達もまだいないし、使用人さん用の建物は多少時間が掛かっても良い。だから、本館だけは早く建ててもらおうと、先生とは相談済み。だけど、早くて来年の冬かぁ。今年の冬もまた独りか……。


 冬は苦手だ。とは言っても、寒いのが嫌いな訳じゃ無い。生まれた村はこの辺よりもっと寒かったし、そんな中、外で遊んでいたくらいだから、寒さには強い方だと思う。


 冬はどこか物寂しくて、人恋しくなるから苦手。先生の顔を見ようにも、先生は緩衝地帯にいるし。ローザさんとだって一緒に寝るような年じゃないし。寂しい夜も独りで過ごさないといけない。だから、冬は苦手……。


「……ねえ、先生?」


「何です?」


「先生は暖炉で作ったスープなんて食べた事ある?」


「いえ。昔、物語で読んで憧れた事はありますが、実際にやった事はありませんね」


「じゃあ、暖炉で炙ったチーズ、食べた事ある?」


「ありません」


「じゃあじゃあ、暖炉で焼いた燻製肉は? 食べた事ある?」


「それもありませんね」


 やっぱり。先生の育ちを考えたらそうだと思ったんだ。先生はお城で、王子様として育てられたんだもんね。


「そっかぁ。じゃあ、私、暖炉の楽しい使い方、来年の冬に教えてあげるね!」


「それは楽しみですね」


 二人で顔を見合わせて微笑み合う。こうして一緒に暮らしてからのお楽しみを増やしておけば、今年の冬はそこまで寂しくならないんじゃないかなぁ、なんて。でも、待ち遠しくてどうしようもなくなりそうだ。と言うより、今から待ち遠しくなっちゃった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ