屋敷 3
そうしてやって来たのはブロイエさんとローザさんのお部屋。ローザさんが淹れてくれたお茶に舌鼓を打ちつつ、ブロイエさんが帰って来るのを待たせてもらう。ブロイエさんは今日、珍しくちょっと帰りが遅いらしい。
「土地の整備が始まったと聞いていたから、てっきり、間取りも決まっていると思っていたのだけれど……」
相談事の内容をローザさんに話すと、こんな答えが返って来た。
「先生の気持ちも分かるんだ。だから、どうにかしたいなぁって……。でも、なかなか良い案が思い付かないの」
「スマラクトには相談してみて?」
「兄様? ん~ん。してない」
「あの子、こういう事を考えるの、得意よ?」
「そうなの?」
「ええ。うちの人を待つ間、ちょっと話をしてみたらどう?」
「ん!」
ローザさんの連絡用の護符を借り、兄様を呼び出す。兄様はすぐに出てくれた。
「おお! アイリスではないか! 久しいな!」
「ん! 久しぶり、兄様」
護符に映った兄様がにんまりと満足そうに笑う。と、そんな兄様の後ろからぴょこっと、アベルちゃんが顔を覗かせた。
「あ~! アイリスちゃん! 久しぶり!」
「アベルちゃん! 久しぶりだね。元気だった?」
「うん! 僕は毎日元気いっぱいだよ!」
「こら、アベル! 邪魔をするでない!」
「え~! 僕もアイリスちゃんとお話したいよぉ~!」
護符の向こうから言い争う声が聞こえる。私とローザさんはそれを苦笑しながら聞いていた。喧嘩するほど仲が良い、なんてね。
「ねえ、二人とも。ちょっとお話聞いて?」
「何だ?」
「何何?」
兄様とアベルちゃんは、二人で押し合い圧し合いをしながら護符を覗き込んでいる。可愛らしい二人だ。
「ちょっと相談なんだけど――」
二人に使用人さん用の建物の事を話す。すると、兄様が眉間に皺を寄せた。
「つまり、建物の大きさを変えずに、部屋数を二倍にしたいという事か? それはいくら何でも欲張り過ぎではないか?」
「二倍に拘る訳じゃ無いの。ただ、もう少し、部屋数が増やせたら良いなぁって……」
「方法が無い訳ではない。が、増やせて二、三部屋くらいだぞ? それでも良ければ――」
「教えて! 兄様!」
「お、おお……」
私の剣幕に、兄様はちょっと引き気味。けど、気にしない。気にしたら負けだと思う。
「部屋をこうして、だな……」
兄様が紙にペンを走らせ始めた。どんな方法かな? ドキドキ、ワクワク!
「ここにベッドを置いて、と。こうだ!」
兄様が護符に紙を映した。そこには、鉤型を二つ合わせて四角にした図形。そして、鉤型が重なっている所それぞれに小さな四角が書いてある。
「何、これ……」
「部屋の断面図だ。この小さな四角がベッド」
「二段ベッド?」
「そうだな。それを壁で仕切っている。そうする事で、ベッド一つ分の広さが節約出来るという寸法だ」
二段ベッドを壁で仕切る? ん~? よく分からない。首を傾げる私を見て、兄様がちょっと難しい顔をする。
「部屋が二つ重なっているんだ。ベッドの部分で、な。元の部屋がどれくらいの広さで、どの程度の広さが節約出来るかは計算してみない事には、はっきりとは分からないが、これなら二、三部屋くらいは増やせるのではないか?」
部屋がベッドの部分で重なる……。ベッドの天井部分を低くして、その上に隣のベッドが乗るのかな? 穴ぐらみたいなベッドになっていて、その上は隣のベッドで……。上のベッドは、二段ベッドの上段みたいに梯子で登る感じ?
「ベッド部分の天井高が気になるのなら、部屋全体の天井を上げれば良い。そうすれば、部屋自体も広く感じるだろう」
「ほ~。流石は兄様。よく思い付くね、こういうの」
「これくらい、僕にかかれば朝飯前だ!」
兄様が胸を張り、得意げな顔をする。その隣では、アベルちゃんが面白く無さそうにむくれていた。発想で兄様に負けたのが悔しいのだろう。
「兄様もアベルちゃんもありがと! お屋敷完成したら招待するからね」
「おお。良い屋敷を作るのだぞ。楽しみにしておるからな」
「ん!」
「僕、アイリスちゃんの新居、絶対に行くからね!」
「ん! 待ってるからね、アベルちゃん」
手を振る二人に手を振り返し、護符の通信を切る。そして、護符から顔を上げると、ローザさんが微笑まし気に笑っていた。
「良い方法が聞けたようね?」
「ん!」
丁度その時、部屋の真ん中に魔法陣が浮かび上がった。おお。ブロイエさんが帰って来た!
「お帰りなさい、ブロイエさん!」
「ただいま~。……ん? アイリス?」
姿を現したブロイエさんが驚いたように目を丸くする。私はそんな彼を見てにんまりと笑った。
「どうしたの? 今日はうちにお泊まり?」
「ん~ん。ちょっとね、ブロイエさんに相談事」
「え~。何だろ? お父様を頼って来てくれたの~?」
私はブロイエさんの言葉を聞き流した。だって、肯定するのは恥ずかしいし、否定するのはブロイエさんを傷付けるから。私は何も聞いていない。
「兄様には、ブロイエさんを待っている間に相談したんだけど――」
私はソファに腰を下ろしたブロイエさんに、使用人さん用の建物についてざっと説明した。兄様が出してくれた案も併せて説明する。
「へ~。スマラクトも考えるねぇ。確かに、それなら部屋の面積の節約になる」
兄様の案を聞いたブロイエさんは、感心したようにそう言った。
「ブロイエさんだったらこういう時、どうやってお部屋の数増やす?」
「ん~。そうだねぇ……。小屋裏を作るとか?」
「こやうら? こやうらって何?」
「屋根裏部屋って言い換えた方が分かりやすいかな?」
「屋根裏部屋もお部屋にするの? でも、屋根裏部屋がお部屋になった子が可哀想……」
それなら、一階部分をお部屋にした方がいくらかマシだと思う。多少日当たりが悪いくらい、屋根裏部屋がお部屋になる事に比べたら我慢出来る範囲だ。
「違う違う。それぞれの部屋に屋根裏部屋を付けるの。んで、そこをベッドにする。屋根裏部屋なら廊下側にはみ出せるから、部屋自体が小さくても十分な広さを確保出来る」
「ん~?」
「アイリスはあんまり空間把握が得意じゃないのかな?」
ブロイエさんはそう言って苦笑すると、紙とペンを持って来た。そして、それにサラサラと図を描く。そうして描いてくれた図は、四角が二つ、少しずらして描いてあった。
「これ、部屋の断面図ね。こっちの大きい方が部屋で、小さい方が屋根裏部屋。んで、大きい四角から小さい四角がはみ出してる部分があるでしょ? そこの下が廊下。大きい四角の上に何も乗っていない部分は、実際にはこうして吹き抜けになる」
ブロイエさんが小さい四角と大きい四角を繋ぐように斜めに線を引いた。そして、そこに吹き抜けと書き込む。
「簡単に言うと、廊下の上も使って二階建てもどきの部屋にしようって事だね。デメリットは、夏、暑い事。温かい空気は上に行くし、焼けた屋根からの熱気もあるから。屋根裏部屋にも窓が無いと蒸し風呂状態になるだろうね。昔、とある砦で使っていた方法らしいけど、窓が無かったせいで居住者に不評だったみたい」
確かに、屋根からの熱気は馬鹿に出来ない。窓が無かったら寝ていられないかもしれない。
「あとは、収納型ベッドっていう方法もあるかな。壁に嵌るようにベッドを作って、寝る時だけベッドを下ろすんだ。それ以外の時はベッドを壁に嵌め込んでいれば、部屋が広く使える。これはある砦の地下牢で使われていた方法だね」
地下牢って……。そんな部屋、嫌かも……。
「他には、二段ベッドの下段のベッドをなくして、足の長いベッドにする。それで、下に机を入れちゃうって方法。僕が今思い付くのはこれくらいかなぁ……」
「そっか。ありがと。参考になった!」
「そう? それは良かった」
色々案が集まったし、この後、先生に連絡してみよっと! 間取りを考える参考になると良いな。




