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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第四部

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屋敷 1

 汗ばむ陽気が続くようになってきたある日、私はアオイと一緒に緩衝地帯へと出かけた。緩衝地帯に続く道を二人並んで歩く。辺りにはコーン、コーンという不可思議な音。歩みを進めるにつれて、だんだん音に近づいているようだった。


「この音、何だろうね?」


 何の気なしに、隣を歩くアオイに問う。と、アオイがにんまりと笑った。その表情を見る限り、アオイはこの音の正体が分かっているらしい。


「見てからのお楽しみだよ、アイリス」


 アオイが足取り軽く歩を進める。音の正体は分かっているけど、今は教えてくれないらしい。まあ、見てからのお楽しみって事は、見たら分かるって事だろう。私は、それ以上は何も聞かず、アオイと一緒に歩を進めた。


 そうして音の出所までやって来た。丁度、お城と緩衝地帯の中間あたり。そこで木を切っている数人の人達。まだ数本切った程度だから、昨日か今日から、木の伐採を始めたのだろう。


「これって……」


 ポツリと呟いた私の声をアオイが耳ざとく拾うと、ニッと笑う。


「アイリスとラインヴァイスの新居の為に、土地の整備を始めたんだよ。お屋敷の間取り、二人で相談して早く確定させてよ? じゃないと建物の着工出来ないんだから」


「ん……」


 アオイの言葉を半ば聞き流しつつ、辺りを見回す。鬱蒼と茂った森の一部分だけ、木や下草がなくなって、小さな小さな空き地のようになっていた。


 さっきから響いている音は、木に斧を打ち付ける音だったらしい。木の伐採を間近で見たのは初めてだけど、なかなか迫力があるものだ。アオイと二人並んで木の伐採を眺めていると、ミシミシと奇妙な音が響き始めた。


「倒れるぞ!」


 そう叫んだ人を見て、私の目が丸くなる。何でこんな所に?


「お二人は、もう少し離れて見ていて下さいね~」


 そう言って、私達を庇うように立った人を見て、私の目は更に丸くなった。何やってるの、二人とも……。お仕事はどうしたの、お仕事は。


 ズシンという、何とも言えない重い音を立てて大木が倒れる。アオイはそれを良く言うと感心したように、悪く言うと呆けたように見ていた。もしかしたら、アオイも木の伐採を見るの、初めてなのかもしれない。


「凄いねぇ、アイリス……」


「う、うん……」


 アオイの言葉に頷いてみせるも、私は、本来ならいるはずの無い二人の姿に気を取られていた。


 少しの間伐採を見学していたアオイは満足したのか、緩衝地帯へと足を向けた。私も遅れないよう、アオイについて行く。けど、やっぱり気になる。チラチラと後を振り返る。しかし、すぐに彼らの姿は木に隠れて見えなくなってしまった。


 緩衝地帯に着くと、アオイと一緒に真っ直ぐ寄宿舎に向かった。そして、寄宿舎に到着すると、アオイはすぐさま食堂へと入って行った。今日もサクラさんの手伝いをするんだろう。そんなアオイの背を見送り、私は先生のお部屋へと向かった。


 先生のお部屋の扉をノックし、中からの返事を待ってそれを開く。先生は丁度お仕事が一段落したところだったらしく、書類を机にトントンとしてまとめていた。


「先生! 聞きたい事があるんだけど!」


「土地の整備の件ですか? まだ屋敷の間取りも決まっていないのに気が早いと、竜王様には言ったのですが……」


「それもあるけど、そうじゃなくて! 働いてる人達の中に、アードラーさんとバイルさんがいたの!」


 さっき見かけた二人の事を報告する。この二人、本来ならお城の厩舎で働いているはずだ。あんな所で木の伐採を手伝っているはずがない。


「ああ……。アイリス、覚えています? アードラーが厩舎を辞めたがっていた事」


「え……」


 言われてみれば、そんな事もあったような……。調査団に怪我人がたくさん出た事とか、ブロイエさんの隠し事なんかでバタバタしてて、すっかり頭から抜け落ちていた。


「土地の整備を始めるにあたり、この間、アードラーと話をしたんです」


「厩舎を辞めて緩衝地帯で働かないかって?」


「まあ、そうですね。そこまではっきりは言っていませんが……」


 先生が苦笑しつつ、ソファを手で指し、座るように促してくれる。そして、私が座ったのを見ると、お茶を淹れ始めた。


「彼は厩舎の仕事自体は好きだったようなのですが、何と言うか、厩舎独特の空気に馴染めなかったようで……。決して内向的な性格ではないのですが、同僚で仲が良いと言えるのは、イェガーの親類の――」


「バイルさん!」


「ええ。彼だけだったみたいです」


「バルトさんは? バルトさんが入院している時、毎日、お世話手伝いに来てくれたよ?」


「バルトは彼にとって、良き上司だったのでしょう」


「ふ~ん」


 分かるような、分からないような……。ちょっと難しい顔をする私の前に、先生がティーカップを置き、自分の分は持ったまま私の対面の席に腰を下ろした。


「本当は、家畜を飼い始めてから雇う予定だったのですが、打診をしたら、せっかくなら牧場も自身の手で作りたい、と」


「それが何で、私達のお屋敷の土地の整備してるの?」


「牧場を作るには、大量に木材が必要になりますからね。その材料調達も兼ねて、土地の整備もお願いしてみました」


 そう言って、先生が悪戯っぽく笑った。ちゃっかりしていると言うか、しっかりしていると言うか……。無駄なく人の事使うの、先生って上手だね……。


「バイルさんは? アードラーさんのお手伝い?」


「まあ、そうですね。一人にすると何を仕出かすか分からないから自分も一緒に働きたい、と。心配なんでしょうね、友人として。彼ら二人は、土地の整備が終わったら牧場の整備に入る予定です。他の職人はそのまま屋敷の建築に入る予定。という事で、職人達の手が空かないよう、屋敷の間取りを決めましょうか?」


「ん!」


 こうして私と先生は、お屋敷の間取りの打ち合わせに入った。当初の図面では長方形だったお屋敷の形状は、何回もの打ち合わせで鉤型に変えた。南向きの建物は本館で、ちょっと小ぶりな東向きの建物は使用人さん用。こうした方が、どのお部屋も日当たりと風通しが良くなりそうだったからこうしてもらった。使用人さんと言っても寄宿舎の子達が住むんだから、あんまり日当たりや風通しの悪いお部屋にしたくなかったから。本館の方の間取りはほぼ決まっていて、目下の議題は使用人さん用の建物の間取りだ。


「やっぱり、一階のお部屋って日当たりも風通しも悪いと思う。お部屋に当たりとはずれがあるの、不公平だよ」


 私がそう言うと、先生が困ったように眉を下げた。


「アイリスの言う事も分かるのですが……。部屋数、足ります?」


 今度は私が眉を下げる番。一回のお部屋を無くすという事は、部屋数が半分になる訳で。男女それぞれ五部屋……。一階を使うとそれぞれ十部屋になるんだから、この差は大きい。


「部屋数を取ろうと思うと部屋の広さを半分にする訳ですし、ベッドを置いたらそれでいっぱいになってしまいますよ?」


「ん~……。あ、そうだ。いっその事、二段ベッドを置いて二人部屋にしちゃえば?」


「そうするくらいなら、一階も使うべきかと……」


「でもさぁ、一階にお部屋が無ければ、広い談話室と広い食堂と、広~いお風呂まで作れるんだよ? 私だったら、個室が広いよりもそっちの方が嬉しいなぁ」


「それも分かるのですが……」


 一人部屋である点とお部屋の広さは、先生の譲れないところらしい。キッチンや洗面、トイレ、お風呂といった水回りが共同だから、せめて居室くらいは良くしたいって事なんだろうけど……。


「じゃあさ、三階建てにすれば?」


「高さが本館と同じというのも……」


 三階建ても不可かぁ……。参ったなぁ。部屋数を取れて、一人部屋で、部屋を広く使える方法かぁ。一人部屋っていうのがネックなんだよなぁ。


「やっぱり二人部屋にしない? 全部のベッドが埋まるかどうかも分からないし、空きがあるうちは一人部屋にしてさぁ。二人部屋は二人部屋で、良い事だってあるんだよ?」


「それも分かっているのですが……。すみません。少し、考えさせて下さい……」


 今日も間取りは決定せず、だな。使用人さん用の建物は、寄宿舎の子達が住む寮なんだから、拘りたいっていう先生の気持ちも分かる。だから、私は何も言うまい。私はにこりと笑って頷くと、先生が淹れてくれたお茶に口を付けた。

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