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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第四部

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真実 1

 その日の夜、定期的に入院患者さん達の状態を見て回りつつ、独り魔術の勉強をしていると、病室の扉が控えめにノックされた。こんな深夜に訪ねて来る人の心当たりなんて一人しかいない。慌てて椅子から立ち上がり、足音を忍ばせつつも急ぎ足で扉へと向かう。そうして扉を開くと、予想外の人物が立っていた。


「何だ、ウルペスさんか……」


 先生だと思ったのに。ガッカリ……。


「随分な物言いだね……」


 ウルペスさんが乾いた笑い声を上げる。


「先生とブロイエさんは?」


「それがね、ちょ~っと困った事になってて……。一緒に来てくれない?」


 困った事? 困った事って何だ? 首を傾げる私を見て、ウルペスさんが苦笑する。


「急いでもらえると助かる。行けば分かるから」


 まあ、そうか。説明とも言えない説明に納得し、私はウルペスさんと共に病室を後にした。


 そうしてやって来たのは西の塔。牢屋がある場所だった。足早に階段を上るウルペスさんを必死で追い掛ける。速いよ、ウルペスさん。置いて行かないでよ、ウルペスさん!


 置いて行かれないように必死に階段を上っていると、上の方から怒号が聞こえてきた。今のって……。


「うぇ~……。本格的に拙くないか、これ……」


 ウルペスさんが心底嫌そうな声を上げる。私の心臓がドキドキしてるのは、きっと、階段を駆け上っているからだけじゃない。不安を押し殺しつつ、私はウルペスさんに着いて目的の階を目指した。


 階段を駆け上っていたウルペスさんが足を止める。やっと目的の階に着いたらしい。扉の奥から怒号と、狂ったような笑い声が響いている。


「えぇっと、心の準備、良い……?」


 ウルペスさんがおずおずと口を開く。私が真面目な顔でこくりと頷くと、意を決したような顔でウルペスさんが扉を開いた。


 扉の先、ずらっと並んだ牢屋が続く廊下に、見慣れた二人の後ろ姿。先生とブロイエさんだ。先生の足元には魔法陣が二つ、重なり合っていた。一つは、先生が竜化する時に見た覚えがある白い魔法陣。もう一つは、ブロイエさんが展開しているだろう魔法陣。ブロイエさんは魔術の展開を阻害するそれを維持しながら、先生を羽交い締めにしていた。そんな二人の奥、一つの牢屋から、狂ったような笑い声が響き渡っている。


「ははは! いつもすかしていたお前がそんなに取り乱すとはな! そいつが、お前がすべての罪を背負ってまで庇った小僧か!」


「黙れ!」


「愉快! 実に愉快! お前のそんな顔が見られただけでも、生きていた甲斐があったわ! は~ははははっ!」


「ラインヴァイス、落ち着くんだ。大丈夫、アイリスは無事だから。ね?」


「離せ! アイリスが! アイリスが――! ああああぁぁぁ!」


 私? 私が何? 助けを求めるように、隣に立つウルペスさんを見上げる。と、彼は困ったように眉を下げた。


「精神系に効く術、アイリスちゃん使えるよね? ラインヴァイス様、精神攻撃受けて錯乱状態なんだよねぇ……」


 精神攻撃って……。そりゃ、それ自体、呪術だから治癒術で対抗する事は出来る。でも、魔術耐性がある先生があそこまで錯乱する術って、そうとう高位のそれだったんじゃ……。


「初級のなら使えるけど……。でも、あんまり効果無いと思うよ? 一瞬、正気には戻るかもしれないけど、またすぐ錯乱すると思う……」


 私が使える精神系の治癒術は、それが回復系な事もあり、初級だけ。イライラとかストレスをちょっと和らげるくらいの効果しかない。それでも、ストレスで眠れないとか、そういう患者さんには効くはずだ。でも、今の先生みたいな人に使っても、一瞬、呆けたようになるだけだと思う。


「それで良いから使って。一瞬でも隙が出来れば、俺のゴーストちゃんでドレインして昏倒させられるから。あんなに興奮してると、ドレインすら出来ないんだよね……」


「う、うん……。分かった」


 とりあえず、今はこの状況を鎮めるのが先決だろう。事情は後で、ブロイエさんとウルペスさんに聞こう。私は杖を掲げると、ウルペスさんに指定された魔術の魔法陣を展開した。ウルペスさんもゴーストを作り出す魔法陣を展開させる。


「ルーエ!」


「ガイスト!」


 私の術で、一瞬、先生の叫び声が止む。それを見計らったように、ウルペスさんが呼び出したゴーストが先生に纏わり付いた。糸が切れたように、先生がぐったりする。そんな先生を抱きかかえたブロイエさんが深い溜め息を吐いた。その髪は、暴れる先生を押さえつける時に髪紐が解けたか切れたかしたのだろう、普段見る事のない下ろした状態で。髪下ろしてるの初めて見たけど、何となく竜王様に似てるような……。興味津々、普段見る事のないブロイエさんをジッと見ていると、私の視線に気が付いたように、ブロイエさんがこちらを振り返った。


「アイリス、助かった。ありがとね~。ウルペスもご苦労様」


「ねえ、ブロイエさん? 何があったの?」


「ちょ~っとね、罠に掛かっちゃってさ~。詳しい話はラインヴァイス寝かせてからにしよっか?」


「ん」


 色々聞かなきゃいけない事があるし、その方が良い。私が大真面目な顔で頷くと、ブロイエさんがにこっと笑った。


「ウルペス、監視でそのゴースト、残しておける?」


「へ~い。ついでに、あいつ、ドレインしておきます?」


「だね。あんまり騒がれて、誰かに見つかると厄介な事になるし」


「りょ~かい」


 ウルペスさんの声に反応するように、ゴーストが一つの牢屋に潜り込む。途端、物凄い大絶叫が廊下に響き渡った。


「るせぇ……。大袈裟なおっさんだな……」


 ウルペスさんが不快そうに耳を押さえて呟く。私もこくこくと頷いた。ドレインって痛みも何もないはずなのにね。そりゃ、いきなりゴーストが目の前に現れるって、ちょっとビックリするかもしれないけどさ。あんな、断末魔みたいな悲鳴、上げる事ないと思う。


「ゴーストちゃん、そのおっさん、見張っといてね。あと、起きそうになったら、ドレインして眠らせといてね~」


 ウルペスさんの命令に答えるように、空気が振動するような変な音が響く。たぶん、これがゴーストの声なんだろう。初めて聞いたけど、不思議な音だ。


「じゃあ、行こうか? ラインヴァイスの部屋で良いよね?」


「良いんじゃないですか? ベッドもあるし」


 ブロイエさんとウルペスさんのやり取りに、うんうんと私も頷いておく。とりあえず、ゆっくりお話しできる場所なら、私は文句も何も無い。


「んじゃ、ラインヴァイスの部屋までひとっ飛び~!」


 私達がブロイエさんの展開した魔法陣の上に乗ると、先生を小脇に抱えたブロイエさんが杖を掲げ、魔術を発動させた。立ちくらみのような感覚の直後、周りの景色が変わる。そうして私達は、先生の私室に降り立った。


 ブロイエさんが先生をベッドに横たえる。私はいそいそとその傍に寄ると、先生に掛け布を掛けてあげた。顔色の確認がてら、先生の手触りの良い髪を手櫛で梳く。先生の顔は穏やかで、悪夢にうなされている様子は無い。昏倒した事で、幻影から抜け出したのだろう。けど、念には念を入れて、と。


「ルーエ!」


 もう一回、精神系の治癒術を掛けておく。本当は、入院患者さん達の為に魔力を温存しておいた方が良いんだけど、さっきの先生の様子を見たら、そうも言ってられない気がしたから。あの様子はまるで、おとぎ話の――。


「アイリス。隣でお茶しよっか?」


 見上げると、ブロイエさんが笑っていた。でも、その目はちっとも笑ってなくて。たぶん、私がいつからいたのか、どこから聞いていたのか、私の様子で判断しようとしてるんだと思う。私が大真面目な顔で頷くと、先導するように、ブロイエさんは先生のお仕事部屋に続く扉へと向かった。


 そうして先生のお仕事部屋に入ると、私は三人分のお茶を淹れた。ソファで待つブロイエさんとウルペスさんにお茶を手渡し、自分の分は持って座る。そうして一口。ブロイエさんとウルペスさんもお茶を啜った。


「それで、何があったの?」


「それがねぇ――」


 ブロイエさんが語ってくれた内容は、簡単に言うとこうだった。遺跡の中でエルフ族の青年――今はおじさんだけど――を追跡して追い詰めたところまでは順調だったらしい。けど、その追い詰めた先が厄介で、罠だらけの場所だったんだとか。そのうち一つが精神攻撃をするような罠で、エルフ族の青年だったおじさんを何とか取り押さえた直後、それが発動したらしい。先生に向かって。こりゃいかんと、急いで竜王城に戻って来てエルフ族の青年だったおじさんを牢屋に叩き込んで、ウルペスさんが慌てて私を呼びに来た、と。


「後はアイリスが見た通り。錯乱中のラインヴァイスを押さえるの、ウルペスの腕力じゃ心もとなかったからね。僕が抑え役になってたの」


「そっか。大体の事情は分かった」


「そう? じゃあ、そろそろ寝よ――」


「ところで、ブロイエさん? さっき、あのエルフ族のおじさんが言ってた事って?」


 腰を浮かしかけたブロイエさんが私を見る。その目は酷く鋭くて。初めて見たかも、こんなブロイエさんの顔……。嫌な汗が私の背を伝う。


「さっき言ってた事って? 何?」


「ブロイエさんが全ての罪を被って庇ったって……。話せない事? 私、知らない方が良い事?」


「そうだね」


 ブロイエさんは声を低くしてそれだけ言うと、先生のお仕事部屋を出て行ってしまった。ちらりと斜め向かいに座るウルペスさんを見る。彼は悠々とお茶を飲んでいた。


「あの、ウルペスさん……」


「あ~。俺に聞いても無駄だよ。俺、何も知らないから」


 隠し事が下手なウルペスさんが慌てず騒がずそう言うんだから、本当に何も知らないんだろう。


「ただ――」


「ん?」


「予想は出来るかな……」


 そう言ったウルペスさんは眉間に皺を寄せ、難しい顔をしていた。ウルペスさんには心当たり、あるんだ!


「でも、聞かない方が良い話だと思うよ?」


「何で?」


「何でって……。そりゃ、当事者もその周りも、少なからず傷付く話だから。墓場まで持って行くつもりなんでしょ、ブロイエ様」


「誰かに話して楽になろうとは思わないの? ひとりで秘密を抱えるの、とっても苦しいと思うけど……」


「思わないんでしょ。まあ、ローザ様なら知ってるかもしれないけど……。黙っていてみんなが幸せに過ごしてくれる事を望んでいるんだよ。凄くブロイエ様らしいと思わない?」


「思う……」


 思うけど……。何だか納得いかない。だって、ブロイエさん、凄く損な役回りしてる気がするんだもん……。

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