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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第四部

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172/265

従者 5

 ゴーレムが吹っ飛んだ。私のじゃなくて兄様の。床に叩き付けられたゴーレムはごろごろと転がり、むくりと起き上る。


「先生!」


 間一髪、私のゴーレムを助けてくれたのは先生のゴーレムだった。私のゴーレムを守るように、先生のゴーレムは兄様のゴーレムと私のゴーレムの間に立つ。


「くっ! やるな、ラインヴァイス兄様! だが!」


 兄様のゴーレムが先生のゴーレムに向かって走る。そして、拳を繰り出した。と、先生のゴーレムがその拳を受け流す。そして、兄様のゴーレムが体勢を崩したと思った瞬間、見事に先生のゴーレムの膝蹴りが兄様のゴーレムの顔面に入った。ぱかんと良い音が響く。見ると、たった今膝蹴りを繰り出した先生のゴーレムの足が砕け散っていた。……え?


「メテオ・ファウスト!」


 兄様のゴーレムが間髪入れずに拳を繰り出し、先生のゴーレムが粉々に砕け散った。呆気に取られる先生に、兄様が「してやったり」と言いたげににやりと笑う。兄様のゴーレムは勝利に浸るように、腕を組んで高笑いを上げていた。


「どうだ! 僕のゴーレムは! 硬いだろう! は~はははっ!」


 兄様も腕を組んで高笑い。その姿はゴーレムと瓜二つ。ゴーレムって、作った人に行動が似るのか? とすると、私のゴーレムは……?


「隙あり!」


 ウルペスさんの叫びに呼応するように、彼のゴーレムが、未だ高笑いを続けている兄様のゴーレムの後頭部目掛けて跳び蹴りを繰り出した。ぱかんと良い音が響き、兄様のゴーレムの頭が粉々になる。いつの間にか、ウルペスさんのゴーレムは、アベルちゃんのゴーレムを倒していたらしい。


「あぁ~! 汚いぞ! ウルペス!」


「勝負に汚いも何もないですよ?」


「くそぉ!」


 悔しそうに地団太を踏む兄様を、みんなが生温かい目で見つめていた。こういう事でムキになるの、とっても兄様らしい。兄様のこういうところ、私、結構好きだったりする。


「ところでさ、アイリスちゃんて、身体動かすの、あんまり得意じゃないの?」


 ウルペスさんの言葉に、私は思わず彼を見上げた。身体を動かすのは嫌いじゃないし、運動音痴だと言われた事は今まで一度もない。だから、フルフルと首を横に振る。


「じゃあ、さっきのあれは、極端に操作に慣れてなかったからか……?」


 ウルペスさんが難しい顔で呟く。さっきのあれって……? もしかして、走り方が不格好だったり、すぐに転んだりした事かな?


「ゴーレムって汎用性高いから操作に慣れておいて損はないし、良い機会だから少し練習してみよっか?」


「練習……?」


「そ。アイリスちゃんは戦闘訓練受けてないし、手っ取り早いのは誰かの動きを真似る事なんだけど……。ラインヴァイス様の戦い方、思い出してみよっか?」


 先生の戦い方……。剣でって事? でも、ゴーレムは剣持ってないけど……。剣……剣……。


「お。良い感じじゃん」


 ウルペスさんの言葉に、ゴーレムに視線を移す。と、ゴーレムが剣を持っていた。と言うか、剣を持っているかのように腕が変形していた。


「ラインヴァイス様の動きをイメージしながら、剣、振ってみな?」


 ウルペスさんの言葉にこくりと頷く。先生が戦っているのを見たのは御前試合の時。あの時の先生の動きを思い浮かべながら、ゴーレムをイメージ操作する。と、ゴーレムが私のイメージ通りに剣を振るった。


「上手い上手い。滑らかに動くようになったじゃん!」


 ウルペスさんの言う通り、ゴーレムの動きは見違えるほど良くなっていた。ただ、体形は運動不足のおじさん体系のままだから、見た目と動きがちぐはぐな気も……。


「やはり、ゴーレムの操作もイメージが重要なのか」


 兄様の言葉に、ウルペスさんが一つ頷く。


「そうですね。どれだけ具体的に動きをイメージ出来るか、それが重要ですね。例えば、物を拾うってイメージと、しゃがんで物を拾うってイメージ、しゃがんで右手で物を拾うってイメージだと、最後のが一番滑らかに動きますよ」


「ふむ……。アイリスがやった、ラインヴァイス兄様の模倣は? 何故、動きが改善した?」


 真剣そのものって顔で兄様が問う。もしかして、兄様の研究してる事って、こういう事なのかな? 魔術を使う時、イメージがどう影響するか、的な。


「アイリスちゃんの中では、ラインヴァイス様ならどう動くか、具体的なイメージがあるんじゃないかなぁって思って。一番身近な人ですから」


「模倣をさせた理由は? アイリス自身の動きを再現するのでは駄目なのか?」


「アイリスちゃんは戦闘訓練を受けてませんから。戦うって事を具体的にイメージし辛いかなって。それに、自分の動きは見えませんからね。それを具体的にイメージするって、初心者には結構難しいんですよ」


「そうか。参考になった。礼を言う」


「いえいえ~」


「参考になったついでに、これを書いてもらいたいのだが。ラインヴァイス兄様も」


 兄様が上着の内ポケットから折り畳んだ紙を取り出した。たぶん、私に渡した紙と同じものだと思う。


 簡単に、紙に質問の答えを書く。そして、兄様に手渡した。先生、ウルペスさんも質問の答えを書いた紙を兄様に渡す。兄様はそれをいそいそと受け取ると、大事そうに上着の内ポケットに仕舞い込んだ。


「それで、魔術の再現性ってどういう事?」


 兄様に問う。すると、兄様がちょっと難しい顔をした。


「先程のゴーレムの戦闘、あれを見ていて、アイリスは不思議だとは思わなかったか?」


「何を?」


「ゴーレムの強度と運動性が、一人一人違う事だ」


 強度と運動性……。言われてみれば、先生のゴーレムが兄様のゴーレムを攻撃した時、先生のゴーレムの方が砕けてしまっていた。それに、運動性に関して言えば、私のゴーレムはまともに動けていなかった。確かに不思議だ。


「他の魔術でも同じ事が言える。同じ魔術であるはずなのに、ただ使える程度なのか、使いこなしているのかで、使う者によって威力や効果に大きな差があると思った事はないか?」


「ある、かな……」


「その差を、僕は魔術の再現性と定義した。再現性が高い程、魔術の威力、効果が上がる、と」


「ほうほう」


「では、再現性は何に影響されるのか。イメージか? 否。それでは説明が付かない事がある。それが適正だ。適性が全く無い魔術の魔法陣を、発動レベルまで持っていく事は非常に難しい。仮に、適性が無い魔術の魔法陣を、時間を掛けて発動レベルまで持っていけたとしても、発動しない事もある。逆に、適性が高ければ、魔法陣を自然と発動レベルまで持っていける。そして、イメージで補完するまでもなく、最高レベルの再現性を持って魔術を行使出来る。何故だ?」


「う~ん……」


 言われてみれば……。私は呪術の適性があるせいか、初級魔術を習っている時、呪術の魔法陣を描くのは得意だった。治癒術も、呪術に関係して考えているからか、得意な部類に入る。けど、他の魔術は、使う機会が少ないせいもあるだろうけど、得意だと思った事はほとんどない。


 見ると、先生もウルペスさんもバルトさんも難しい顔をしていた。私と同じように心当たりはあるけど、それが何故なのか、兄様に説明する事が出来ないからだろう。


「治癒術に関して言えば、何故、魔人族は使えない? ノイモーントやフォーゲルシメーレならば、治癒術の魔法陣を発動レベルで描く事は可能だろう。イメージ補完も出来るはず。なのに行使する事は出来ぬ」


 確かに。ノイモーントさんもフォーゲルシメーレさんも、私が描いた治癒術の魔法陣を添削してくれているのだから、発動レベルの魔法陣を描く事は可能なんだろう。けど、正しく発動させることが出来ない。魔人族だから。


 魔人族が治癒術を使えないのは、魔人族の魔力が濃すぎるからというのが一般的な考え方だ。濃すぎる薬は毒になるという、ね。


「一つ宜しいでしょうか、スマラクト様」


 先生が口を開く。その顔は真剣そのもの。兄様はそんな先生を見て、真面目な顔で頷いた。


「何だ?」


「その命題、既存の知識では解き明かせないのではないかと。スマラクト様も薄々気が付いておられると思いますが、魔術の元となった禁術――魔法に関わる命題です」


「やはりそうか……」


「ええ。どのようにして魔法から魔術が生まれたのか、それを解き明かせれば自ずと答えが分かるかと思います。しかし、あまり大々的に研究内容を公言しない方が宜しいかと。お立場的に」


「うむ。分かった。忠告、感謝する」


「いえ」


「まあ、ここにいる者達は大丈夫だろう? 何せ、同じ穴の狢なのだから」


 兄様の言葉に先生が苦笑する。見ると、ウルペスさんもバルトさんも苦笑いしていた。私も苦笑い。


 強かだね、兄様ってば。自分の研究が禁術に関係するって薄々分かってて、私達に協力させるんだから。確かに、私達は同じ穴の狢だよ。私達も禁術の研究に関わってるんだから。


「あ。そうだ、アイリス。先程約束した礼だが、八代目メーア――癒しの聖女の伝記などどうだ? ついこの間、屋敷の書庫で見つけてな。読んでみたのだが、こんな治療法もあるのかと目から鱗だった。アイリスも知見を広げる為に、読んでみた方が良いと思うぞ」


 へ~。そんな本がお屋敷の書庫にあったんだ。興味があるかないかと聞かれたら、興味がある。だから、私は一つ頷いた。と、兄様が満面の笑みを浮かべる。


「この後、屋敷に帰った時に父上に託すからな。忘れずに受け取るのだぞ?


「ん!」


「さて、そろそろ屋敷に帰るとするか。アイリス、また屋敷に遊びに来るのだぞ?」


「ん。行けたら行くね!」


「行けたら、か。いつでも歓迎するからな。アベル、行くぞ」


 そうして兄様とアベルちゃんは帰っていった。廊下に出て、そんな二人を先生と一緒にお見送り。去っていくその背を見ながら思う。アベルちゃん、すっかり兄様付きのメイドさんって感じ。一張羅メイド服をあげた甲斐があったってものだ!


「カインも苦労が絶えませんね……」


 そう呟いたのは先生。不思議に思って見上げると、それに気が付いた先生が小さく笑った。


「スマラクト様の研究とアベルの教育。頭痛の種が二つですからね」


「アベルちゃんの教育って……? アベルちゃん、メイドさんらしくなってたよ?」


「見た目は、ね。彼女、いやにゴーレムの扱いに慣れていませんでした?」


 そう言えば……。ウルペスさんのゴーレムの攻撃、普通に避けてたな……。戦ってるところをちゃんと見てないけど、ゴーレムの操作に慣れてないとそうはいかないだろう。


「彼女、たぶん、スマラクト様と同じレベルでやんちゃしてますよ」


 兄様とやんちゃするアベルちゃん……。うん。簡単に想像出来る。


「まあ、彼女はスマラクト様の護衛も兼ねているのですから、多少やんちゃでも良いのでしょうけど……」


「女の子としては駄目だね……」


 先生が濁した言葉を私が代弁する。アベルちゃんの立場的に、お淑やかになる必要はない。けど、やんちゃし過ぎも駄目だ。


「礼儀作法、その他諸々、教える事が多いだろうな、と」


「だね」


 私と先生は顔を見合わせて苦笑した。大変だね。カインさんも。


 その日の夜、兄様から預かったと、ブロイエさんが一冊の本を持って来てくれた。革の装丁が施された分厚い本だ。


 癒しの聖女。大昔、実際にいた治癒術師。私の目標。私は受け取ったその分厚い本を、ギュッと胸に抱いた。

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