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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第四部

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従者 4

 私とバルトさんが夕ごはんを食べ終わり、みんなでお茶を飲みながらくつろいでいると、兄様が思い出したように上着の内ポケットから折り畳んだ紙を取り出した。


「アイリスに少し協力して欲しい事があるのだが、良いか?」


「協力? 何?」


 反射的に問い掛ける。すると兄様がにやりと笑った。


「簡単な事だ。この紙に書いてある質問に答えてくれれば良い。もちろん、礼はする」


 そう言った兄様が紙を差し出す。私はそれを受け取り、目を通した。紙にはいくつかの質問が書いてあった。適性がある魔術と現在よく使う魔術、魔術を使う時にどんなイメージをするかなど、簡単な質問だ。


「これ、何に使うの?」


「僕の研究資料だ」


「兄様の研究って?」


 兄様って、魔術の研究してたの? 初耳なんだけど。


「簡単に言うと、魔術の再現性の研究だ。とは言っても、堅苦しいものじゃない。アベルと遊んでいる時に、ふと思いついてな。研究してみるかとなっただけだ」


「再現性って?」


 魔術の再現性と言われても、いまいちピンと来ない。と、兄様が少し難しい顔をした。


「何と説明したら良いか……。アイリスはゴーレムを作れるか?」


「ゴーレム? 小型で良ければ作れるけど……」


 小型ゴーレムの生成術は、屍霊術の初級魔術だ。ゴーレムの身体が大きくなればなる程、生成が難しくなり、掌サイズの小型ゴーレムで初級、子どもくらいの大きさの中型で中級、大人くらいの大きさの大型で上級、建物くらいの大きさになると最高位の魔術になる。


 初級魔術は一通り習ったから、小型ゴーレムだったら作れなくはない。ただ、材料として握りこぶし大の石か土が必要になるから、今ここで作るのは無理だけど……。


「ならばこの後、実験してみよう。因みに、僕はゴーレムの形成は得意だが、操作は苦手だ。アベルは形成は苦手だが操作は得意。アイリスは?」


「私は――」


 ゴーレムなんて、一応作れるだけで、ほとんど使わないからなぁ……。


「形成も操作もあんまり慣れてない、かな……?」


「ふむ……。あとは、形成も操作も得意な者がいればもっと分かりやすいのだが……」


 と、丁度その時、病室の扉がノックされた。今日は来客が多いな。慌てて病室の扉に向かい、それを開く。と、その先には先生とウルペスさん。


「やっほ~、アイリスちゃん。病室の周りウロウロしてる不審者がいたから連れて来たよ~」


 ウルペスさんがすちゃっと手を挙る。不審者って……。思わず先生を見上げる。と、先生が決まり悪そうに私から視線を逸らした。


「ウルペス! そなた、確か、屍霊術師だったな!」


「え? あ。スマラクト様。お久しぶりで~す」


 ウルペスさんがぺこりと頭を下げる。そんな彼に駆け寄った兄様が、その腕をむんずと掴んだ。


「石を拾いに行くぞ!」


「石? って! あ! ちょっと! 引っ張らないで~」


 「あ~」と叫ぶウルペスさんを、兄様が連行して行く。相手の都合お構いなし。そんなところも兄様らしさ。私は思わず苦笑を漏らした。


 先生も一緒にお茶をしながら兄様とウルペスさんの帰りを待つ事しばし。病室に戻って来た二人は、手に幾つかの石を持っていた。ウルペスさんが魔力媒介の剣を持っているところを見ると、彼の私室にそれも取りに行ったみたい。


「では、早速実験だ!」


 兄様が一人一つずつ石を配る。たまたま病室に来た先生とウルペスさんは、この実験に強制参加らしい。ただ、兄様は、バルトさんにだけは石を渡さなかった。バルトさんにまで石を渡していたら、問答無用で病室から追い出すところだったけど、その辺はきっちり弁えているようだ。


 兄様が小型ゴーレムを手慣れた様子で作る。アベルちゃんも慣れた様子で小型ゴーレムを作った。


 パッと見た感じ、アベルちゃんは魔力媒介のナイフを持っているようには見えない。けど、アベルちゃんは兄様の護衛も兼ねているのだから、魔力媒介のナイフをどこかに隠し持っているみたいだ。


「ほら、アイリスも!」


 兄様に促され、私も小型ゴーレムを作った。先生、ウルペスさんもそれに続く。


「こうして見ると、作った人によって、結構見た目が違うんだね」


 思わずそう零した私に、兄様が「うむ」と頷く。私のゴーレムは、何と言うか、運動不足のおじさんっぽい体形をしていた。ぽってりとしたお腹と短い手足。決して格好良い見た目ではない。


 一番格好良い、と言うか、凝った見た目をしているのは兄様のゴーレムだ。鎧を着ているみたいな装飾付きで、細部まで作り込んである。


「スマラクト様のそれ、見た目に拘り過ぎですよ」


 そう言ったのはウルペスさん。彼のゴーレムはお手本みたいな出来だった。無駄が一切ない。体形も、装飾も。


 先生のゴーレムもシンプルで、無駄な装飾は一切ない。けど、ウルペスさんのゴーレムよりも全体的に太めだ。例えるなら、力自慢のおじさん体形。アベルちゃんのゴーレムは、私と先生の中間くらいの見た目だろうか?


「では、これより実験を執り行う。内容は簡単だ。今作ったゴーレムで戦闘をする」


「兄様、ここ病室なんだけど。入院患者さんもいるんだけど!」


「良いではないか。退屈な入院生活だろう、バルト。たまにはこういう娯楽が欲しくはならないか?」


 兄様がバルトさんを振り返る。と、バルトさんが苦笑しながら頷いた。んもぉ! 二人して、入院を何だと思ってるんだ!


「心配せずとも、片づけはちゃんとするぞ。ウルペスが、な」


「え? 俺?」


 兄様の言葉に、ウルペスさんが目を丸くする。と、兄様が深く頷いた。


「この量の石、中型のゴーレムを作ればあっという間に回収出来るだろう? それで、窓の外に出して、術を解除すれば片付け完了だ」


「ええ、まあ……」


「屍霊術師であるそなた以上の適任者はおらぬではないか」


「いや、そうは言いますけどね。スマラクト様も、中型ゴーレムくらい作れるでしょ? 土の魔術師だって、俺、噂で聞いた事がありますよ?」


 え? 兄様って、土の魔術師だったの? 土系の最高位魔術まで使える? それは知らなかった!


「いかにも。ただ、ゴーレムの操作は専門外だ。僕がゴーレムに外に出ろと命令したら、たぶん、壁か窓を突き破って外に出るぞ? それでも良いか?」


 兄様がこちらを振り返る。私はブンブンと首を横に振った。


「駄目! 病室壊さないで!」


「だそうだ。ならば、そなたが適任ではないか」


「へいへい……」


 ウルペスさんが渋々といった様子で返事する。その顔には、「うわぁ。面倒臭い……」って書いてあった。


「では、始めよう!」


 兄様がバッと両手を広げ、高々と宣言する。もうね、何言っても聞かないな、これは。呆れ半分、諦め半分で、私は深~い溜め息を吐いた。


「バルトさん、あんまり興奮したりしないでよ? お腹の傷、開いたら嫌でしょ?」


 一応、バルトさんに釘を刺しておく。バルトさんの状態が悪化したら、大変なのは私なんだから。と、バルトさんが苦笑しながら頷いた。


「ああ。結果がどうなるのかは分かっている。心配せずとも興奮などしたりしない」


 なら良いんだけど……。ずっと入院してるのも退屈だろうし、これくらいの娯楽、偶には良いのかもしれない。その証拠に、バルトさんは興味深そうにゴーレム達を見つめている。私もさっき作ったゴーレムに向き直った。と、兄様が口を開く。


「ここは公平に、試合開始の合図はバルトに頼む事にしよう」


「はっ。では……始め」


 バルトさんの合図で、戦いの火蓋が切られた。


 真っ先に動いたのはウルペスさんのゴーレムだった。狙いは私のゴーレムらしい。一直線にこちらに向かって駆けて来る。逃げないと! 慌てて駆け出した私のゴーレムの動きは遅い。本当に、運動不足のおじさんみたい……。


 トテトテ走る私のゴーレムにウルペスさんのゴーレムが迫る。と、私のゴーレムが転んだ。転び方まで不格好だし……。


 そのすぐ上、一瞬前まで私のゴーレムの頭があったあたりをウルペスさんのゴーレムが通り過ぎた。跳び蹴りを繰り出したっぽいけど、転んだのが幸いした。危なかったぁ……。


 ウルペスさんのゴーレムは着地した瞬間、回し蹴りを放った。ウルペスさんのゴーレムの着地点にアベルちゃんのゴーレムがいたから。たぶん、最初から、私のゴーレムを飛び蹴りで倒したついでに、アベルちゃんのゴーレムに攻撃を入れるつもりだったんだろう。


 アベルちゃんのゴーレムは間一髪、その回し蹴りを後ろに跳んで回避した。おお! 凄い! アベルちゃんってば、ゴーレムの操作、手慣れてる感じ。


 わ、私だって! さっきのお返しだ! そう思って、ウルペスさんのゴーレムに向かってトテトテと走り出した私のゴーレムが、足をもつれさせてまた転んだ。命令に身体が付いて来ない感じ。うぅ……。ゴーレムの操作、難しいよぉ……。


「手こずっているようだな、アイリス!」


 兄様のゴーレムが、私のゴーレムの目の前に立ちはだかる。ま、まずい!


「この兄が手本を見せてやろう! 食らえ! メテオ・ファウスト!」


 兄様が必殺技っぽい名前を叫ぶ。それと同時に兄様のゴーレムが拳を繰り出した。未だ立ち上がれない、私のゴーレムに向かって。

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