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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第四部

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遺跡調査 6

 バルトさんが無事目覚め、彼の治療方針が変わった。目覚める前は容態の安定を第一に考えて体力回復しか行ってなかったけど、目覚めてからは傷の回復を早める為に、治癒系の術をかける事になった。とは言っても、治癒系の術は身体に掛かる負担が大きいから、一番身体に掛かる負担が少ない初級の術を使う。


「……どう? 少しは痛み、取れた?」


 治癒系の術を維持しながら、バルトさんにそう声を掛ける。と、ベッドに横たわるバルトさんが苦笑を漏らした。


「そう簡単に、傷、塞がらない、だろう……」


「そっかぁ……」


 そうだよね……。これ、初級の術だしね。切り傷とか擦り傷とか、極々浅い傷を治す為の術だもんね……。


「ただ、温かい……」


「温かいって、身体が?」


「ああ……。湯に、浸かっている、よう……だ……」


 そう言ったバルトさんは少し眠そう。これは……。私は慌てて魔術を破棄した。そして、中級の体力回復の術をかける。


「少し、寝る……」


「ん。お休みなさい」


「ああ……」


 バルトさんはふぅと小さく息を吐くと、その目を閉じた。彼の様子を見るに、今回も少し長く術をかけてしまったらしい。治癒系の術って、かける時間を調節するのが難しい! 毎度毎度、バルトさんが寝落ちするまでかけちゃうんだよなぁ。


 ただ、無理をさせているだけあって、少しずつ良くなってきている感じはある。温かいって感想、今回初めて出た。前までは、術をかけていても全然変わらないみたいだったから良い傾向だ。むふふ。


「ミーちゃん! バルトさん、少しずつ良くなってるよ!」


「あにゃ!」


「そっかぁ。それは良かった~」


 突然掛けられた声に驚いて、椅子から転げ落ちそうになった。そんな私を、声の主、ブロイエさんが支えてくれる。


「ふぅ。危ない危ない。僕がいなかったら怪我してたね~」


 いやいやいや。そもそも、ブロイエさんがいたから椅子から落っこちそうになったんだよ。そんな、私がひとりで、何の理由も無く椅子から落っこちそうになったみたいに言わないで欲しい!


「ブロイエさん、いつからいたの!」


「ついさっき。バルトが温かいって言ってたあたり?」


「んもぉ! 声掛けてよ!」


「え~。だってぇ。アイリスの治癒術師見習いの姿、見てたかったんだも~ん」


 だもんって……。じとっとした目でブロイエさんを睨む。と、ブロイエさんが苦笑した。


「まあ、冗談はこれくらいにしておいて、と。どう? バルトは?」


 ブロイエさんはそう口にしながら、空いている手近な椅子に腰を下ろした。真面目な顔をしているところを見ると、バルトさんのお見舞いと言うよりは、容態確認と言った方が正しいのだろう。たぶん、遺跡調査をどうするか、竜王様や先生と協議する為に、バルトさんの容態が知りたいんだと思う。


「少しずつ、良くはなってる」


「少しずつ、か……。一月二月での完治は見込めそう?」


「それは……。傷はふさがると思うよ? でも……」


「落ちた体力は戻らない?」


「ん……。元通りに動けるようになるには、もう少し必要だと思う……」


 寝たきりになっていると、体力や筋力が落ちてしまう。バルトさんは普段から身体を鍛えているだろうから、いつも通りの生活をするくらいまで回復するのにはそう時間は掛からないだろう。けど、剣を振るったり、魔術を使ったり、そういった身体に負担の掛かるような事が元通り出来るようになるには、それなりに時間が掛かると思う。


「そっかぁ……。遺跡調査、今年はもう無理かな……」


「バルトさんがいないと出来ないの?」


「ん~……。と言うよりは、そっちの子。その子がいないとまた初めからでしょ? 遺跡に入ってすぐに時間切れになっちゃうかなぁって」


 ブロイエさんは目でミーちゃんを指しながらそう言った。言われてみれば、ミーちゃんがいないと、お城からエルフの隠れ里まで旅をしないといけない。どんなに急いでも、隠れ里まで一月以上掛かる。そうして、そこから遺跡調査を再び行うとなると、大森林は冬になる訳で……。


「いくらウルペスが遺跡の中の地図を作っているって言っても、調査完遂には間に合わないかな……。まあ、バルトがいなくても遺跡に行ってくれるって言うなら話は別なんだけど?」


 ブロイエさんがミーちゃんに、「どう?」と目で問い掛ける。と、ミーちゃんは嫌々と言うように首を横に振った。


「だよね~。こんな状態のバルトを放っておいて行けないもんね? 分かってるよ~」


 ブロイエさんはにっこりと笑うと、ミーちゃんの頭をよしよしと撫でた。一瞬、ミーちゃんは警戒するように首を竦めたけど、先生やアードラーさんにするような塩対応はせず、されるがままだ。


「今年の調査はこれで打ち切りだね。ま、全く収穫が無かった訳じゃないし、良しとしないとね」


「収穫……?」


「そ。ウルペスから聞いたんだけど、バルトのこの怪我、見た事もない魔物にやられたんでしょ? 新種とか亜種とか、そういう類のものでもなかったみたいだし、それが収穫」


「そんなのが……?」


 思わず呟く。すると、ブロイエさんが意外とばかりに目を丸くした。


「おや。そんなのとおっしゃいますか、アイリスさん。これ、結構大きな収穫なんですよ~」


「何で?」


「逆に聞くけど、アイリスは、ホムンクルスって何だと思う?」


「何って……。肉体を作るような研究じゃないの?」


「たぶんそうだよ。ただね、その肉体って、人に限った話じゃないと思うんだ。もっと広義な……そうだなぁ……生命の研究って言った方が正しいんじゃないかと僕は思ってる」


 生命の研究……? 大きな収穫が見た事もない魔物で……。ホムンクルスの知識があると思われる遺跡……。


「もしかして!」


「そう。そのもしかして、だよ。バルトがやられた魔物、それこそがホムンクルス、人工的に作られた生命なんじゃないかなぁって僕は思うんだよね~。ま、これは僕の憶測でしかないし、蓋を開けてみれば、ただ単に、魔物同士で変に交配してたまたま誕生した新種の魔物って可能性もある訳だ」


 そりゃそうだ。ウルペスさんとバルトさんとミーちゃん以外、魔物の姿を見ていない訳だし。おとぎ話のキメラみたいに変な魔物だったって言われても、新種や亜種の魔物とどう違うのか、本物を見てない私達では判断出来ない。


「来年の調査ではキメラ(仮)の討伐もしないとだし、新たな疑問も出てきたし。今年の調査よりも戦力を揃えないとね。今年の二の舞にならないように、ね」


 そう言って、ブロイエさんはよっこらしょと椅子から立ち上がった。そして、杖を掲げ、魔法陣を展開しようとして、思い出したように口を開く。


「そうだ。今度、スマラクトが城に来るんだった。アイリスに伝えて欲しいって、スマラクトに頼まれてたの、すっかり忘れてた!」


「そうなの?」


「そうなの。アベルをね、ローザさんとシュヴァルツに紹介しに来るんだよ」


「もしかして、アベルちゃん、兄様の従者になるの? ローザさん、了承してくれたの?」


「そ。最初はアベルがエルフ族だからって、全然話を聞いてくれなかったんだけどね~。ついこの間、やっと話を聞いてくれて、アベルが女の子だって知ったら会ってみたいってさ~。女心ってよく分かんない」


 ブロイエさんは「ははは」と乾いた笑い声を上げると、魔法陣を展開した。そして、優しく微笑む。


「じゃあね、アイリス。バルトの治療、頑張ってね」


「ん! ブロイエさんもね? お仕事サボったら駄目だからね?」


「言い方、ローザさんの若い頃にそっくり!」


 ブロイエさんはそう言って苦笑すると姿を消した。


 そっかぁ。アベルちゃん、お城に来るのかぁ。楽しみだな。お城の中を案内するのは、バルトさんが入院中だから無理だろうけど、少しお話するくらいは……。はっ! いかんいかん。魔術への集中が疎かになってた! 私は慌てて気持ちを切り替えると、バルトさんにかけている体力回復の術へ、再び意識を集中した。

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