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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第四部

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遺跡調査 1

 エルフの隠れ里が見つかった一年後、ウルペスさんとバルトさんとミーちゃんはエルフの隠れ里近くにある遺跡の調査へと向かった。遺跡の調査が終われば、ホムンクルスの知識も手に入る。そう思うと、自然と顔がにやけちゃう。


「どしたの、アイリス? ニヤニヤしちゃって」


 アオイの言葉に、ハッと我に返った。いかんいかん。今はアオイとローザさんの三人で夜のお茶会をしてるんだった。キリリとした顔を作るけど、時すでに遅し。


「何~? もしかして、ラインヴァイスと何か進展でもあったのぉ?」


 アオイがニヤニヤとした顔でそう口にする。アオイはこの手の話――恋愛話が大好きだ。かく言う私も嫌いじゃない。けど、アオイは人一倍好きで、誰が誰を好きらしいとかそういう噂を聞きつけると、必ず首を突っ込んでいる。まあ、それで恋人同士になれた子も寄宿舎にはいるし、人に迷惑かけないなら良いかなとは思う。


「べ、別に、進展なんて……」


「え~。そうなのぉ? アイリス、前から可愛かったけど、最近は綺麗になったし、何かあったんじゃないのぉ?」


「な、何にもないって!」


 そりゃ、口付けくらいはするけどさ……。だって、私と先生は婚約者なんだもん。それくらいは許される……はず。


「婚約してるんだし、口付けくらい――」


「アオイ様。いくら前から比べて大きくなったとはいえ、アイリスちゃんはまだまだ子どもですよ? ラインヴァイス様ともあろうお方が、そんな、いかがわしい事をする訳ありませんわよ。ね?」


 ローザさんがアオイの言葉を遮るように助け舟を出してくれる。でも、その助け方が、何故かとっても棘があった。私と先生が口付けするくらいの仲になっているって知ったら、ローザさん、激怒しそう……。主に、先生に対して。


「そ、そうだよ。先生がそんな事する訳無いよ!」


 私の答えに、ローザさんが満足そうな顔を、アオイが疑り深い目を向けた。ごめんね、二人とも。嘘吐いたりして。でも、これも、みんなが気持ち良く一日を終わらせる為なの。だから許して。心の中で謝罪する。


 と、突然、ミーちゃんが部屋の真ん中に現れた。慌てた様子で何かを叫んでいるみたいだけど、バルトさんがいないから何を言ってるのか分からない。


「え? あれ? ミーちゃんって、今、遺跡調査に同行してるって……」


 呟いたのはアオイ。不思議そうに首を傾げている。私は慌てて席から立ち上がると、ミーちゃんに駆け寄った。たぶん、ミーちゃんは私を呼びに来たんだ。だって、アオイが言った通り、ミーちゃんは遺跡調査に出ているウルペスさんとバルトさんに同行してるんだから。二人に何かあったんじゃ……。心臓がバクバクと早鐘を打つ。


「ふ、二人とも、また明日――」


 言い終わらないうち、ミーちゃんが長く鳴いて転移魔法を発動させた。降り立ったのは見慣れた病室。でも、見慣れない物が床に広がっていた。


 血溜まり。その真ん中には、バルトさんとウルペスさん。床に横たわったバルトさんの胸の辺りを、元は上着だったらしき布でウルペスさんが押さえている。


「ア、アイリスちゃん! バルトさんが! 治療――!」


 呆然としていた私を引き戻したのは、ウルペスさんの切羽詰まった叫び声。私は慌ててバルトさんに駆け寄ると、つい最近習得したばかりの上級の体力回復の魔法陣を展開した。


「ベッセルング!」


 体力回復の術をかけながら、バルトさんの状態を確認する。胸からお腹にかけて、平行に走る四本の大きな裂傷。傷口付近の皮膚の変色を見る限り、魔力浸食もある。たぶん、魔物の爪にやられた傷だ。もしかしたら、内臓にまで達しているのかもしれない。出血量が多い。意識も無い。


「バルトさん! しっかり! 今、治してあげるから!」


 そうは言ったものの、私が習得している治癒系治癒術は中級まで。上級の術はまだ勉強すら始めていない。解呪の術を先に習得したいと思ったから。


 怪我は身代わりの護符で防げても、呪術は防げない。だから、必要になる事があるんじゃないかなって、先にそちらを勉強する事にした。それに、アオイが中央神殿に攫われた時と同じ思いを、もう二度としたくはなかったから。でも、それが裏目に出たかもしれない……。


 中級の術で、ここまでの大怪我に対応できるか怪しい。ただ、魔力浸食の治療と止血さえ出来れば何とかなる! しっかりしないと! 私なら出来る! そう自分を鼓舞しながら、中級の治癒系治癒術の魔法陣を展開する。


「べハンドルング!」


 魔法陣が淡い光を発し、バルトさんを包み込む。ゆっくりと、しかし着実に、傷口周辺の魔力浸食が消えていく。出血量も、たぶん、少なくなったはず。


「ベッセルング!」


 駄目押しで体力回復の術をかけると、バルトさんが小さく呻いた。でも、これで安心していられない!


「ウルペスさん! バルトさんをベッドに移動させるから手伝っ――」


 言い終わらないうち、ミーちゃんが長く鳴いた。と思ったら、床に横たわるバルトさんを中心に魔法陣が展開される。


「ウルペスさん、離れて!」


 叫びつつ、慌ててバルトさんから離れる。ウルペスさんも慌てたように後退った。とたん、魔法陣がカッと光り、バルトさんが一瞬ですぐそこのベッドに移動する。


「ミーちゃん、ありがと! ウルペスさん、お湯! お湯沸かして!」


「お、お湯……お湯……」


 ウルペスさんがキョロキョロと辺りを見回す。私は病室の奥を指差した。


「そっちに簡易キッチンあるから! お鍋とかやかんとかもあるから! 魔石も! たくさんお湯沸かして!」


「わ、分かった!」


 ウルペスさんが簡易キッチンに走る。それを横目で見つつ、私は首から掛けてあった護符を取り出した。連絡用としてブロイエさんがくれた護符。それで、今一番頼りたい人を呼ぶ。


「フォーゲルシメーレさん!」


 お願い! 出て! 心の中で必死に祈っていると、護符の中心に嵌った大きな魔石にフォーゲルシメーレさんの姿が映し出された。出てくれた!


「フォーゲルシメーレさん! 急患! 私の手に負えない!」


「容態は?」


「大量出血で意識が無いの。私の魔術じゃ、傷がふさがらなかったの!」


「分かりました。すぐにそちらに向かいます。体力回復の術を維持しながら、必要な物を準備。そして、出来る限りの応急処置を。出来そうですか?」


「やってみる!」


 私の返事に、フォーゲルシメーレさんが一つ頷いた。そして、護符の映像が消える。私は三度目となる体力回復の術の魔法陣を展開させた。


「ベッセルング!」


 魔法陣に意識を集中させ、術を維持する。初めてやったけど、フォーゲルシメーレさんが来るまで何とか維持出来そう。


 よし! 必要な物、準備しなくちゃ! まずは、清潔な布! 戸棚にしまってあった布をごそっと取り出し、カートの上に乗せる。あとは、薬! 薬棚に飛びつき、中を漁る。傷の洗浄用の消毒液をあるだけ出して……。止血剤と化膿止めも必要だろう。あ! 痛み止めも! あとは、あとは……。あ! 処置器具も出して、消毒しておかないと!


「ウルペスさん、これ、お湯で煮て!」


 どれが必要かを選んでいる時間も惜しくて、私は処置器具が入っている引き出しを引っこ抜き、ウルペスさんの元へと駆けた。その間も、魔法陣への集中は切らさない。


 ウルペスさんに処置器具を預けると、私は取り出した布や薬の乗ったカートを押して、バルトさんの元へと戻った。上手く術の維持は出来ているらしく、魔法陣が淡い光を発し続けている。でも、バルトさんの意識は戻らない。


 そんな彼の頭の横、顔を覗き込むようにミーちゃんがお座りしていた。しっぽをゆらゆら揺らしながら、「みゃーみゃー」と小さく鳴き続けている。たぶん、励ましてくれているんだろう。言葉は分からないけど、そんな雰囲気だ。今のところ邪魔にはなってないし、そのまま励ましていてもらおう。その方が、バルトさんも頑張れる気がする。


「バルトさん! ごめんね、服切るよ!」


 そう声を掛けつつ、バルトさんの服にはさみを入れる。急いでいるけど、慎重に。こんなので傷を増やしたら元も子もないもん!


 バルトさんの服を剥ぐと、傷の洗浄用の消毒液を布にたっぷり染み込ませ、優しく傷口を拭った。やっぱり中級の術じゃ、傷は完全にふさがらなかった。拭いた傍から、血が溢れるように流れ出している。


 もう一回、治癒系の術をかける? でも、そうすると、体力回復の術を破棄しないといけないし……。それで容態が悪くなるんだったら、今の状態を維持しておいた方が……。魔力浸食の治療は終わってるし……。でも、血が流れ過ぎると命に関わるし……。どうしよう……! どうしたら良い……?

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