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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第四部

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調査結果 3

 お仕事が終わり、私は秘密の研究室へと向かった。今日は急遽、先生がお城に帰って来る事になったらしい。まだ会ってないけど、研究室で会えるはず!


 足取り軽く隠し通路を抜け、最奥の隠し扉を開く。と、その先には――。


「先生!」


 椅子に座って書類を読んでいた先生に駆け寄る。すると、先生が書類から顔を上げ、優しく微笑んだ。他のみんなはまだ来ていない。先生が一番乗りで、私が二番だったらしい。いそいそと先生のお隣の席に腰を下ろす。すると、先生が口を開いた。


「思ったより早かったですね」


「ん! お茶会、早めに切り上げてきたの!」


「アオイ様との? 大丈夫なのですか?」


「ん。夜ごはんの時にね、竜王様がアオイに、今日は先生が帰って来るから早く帰してやれって言ってくれたの」


「そうでしたか。竜王様とアオイ様に気を遣わせてしまいましたね」


「ん。でもね、アオイと竜王様にお礼言ったら、そんな事気にしなくて良いって。先生にもそう言っておきなさいって。ねえ、先生? 明日、朝ごはん一緒に食べられる?」


「ええ。朝食の後、戻る予定です」


「やったぁ!」


 私がにんまり笑うと、先生も笑みを零した。予定外に、先生と一緒に朝ごはんを食べられる。たったそれだけの事が、こんなにも嬉しいなんて!


「明日、ちょっと早起きしよっと!」


「何故です?」


「だってね、そうすれば、先生と一緒にいられる時間が長くなるんだも~ん!」


 私の言葉に、一瞬、先生は目を丸くした。けど、すぐに嬉しそうに笑う。


「そうですね。明日は早く起きなければですね」


「ん! それでね、髪、結いっこしようね!」


「ええ」


 ふふふ。明日が楽しみ。早く明日になぁ~れ!


「お邪魔しま~す……って、あれ? 二人だけ? ウルペスとバルトは?」


 突然現れた魔法陣と聞こえた声。姿を現したのはブロイエさんだった。彼は室内をぐるりと見回し、首を傾げる。


「おかしいなぁ……。だいぶ前に出たんだけどなぁ……」


 ブロイエさんが呟いた丁度その時、研究室の扉が開いた。扉を開いたのはこの部屋の主、ウルペスさん。バルトさんとミーちゃんも一緒に来たらしく、三人連れ立っていた。


「とっとと報告会しましょ~か?」


 挨拶もそこそこ、ウルペスさんがそう言いながら椅子に座った。報告会とは言わずもがな、エルフ族の青年への尋問結果だろう。自然と、この場にいる全員の視線がブロイエさんに集まった。


「そうだね~。もう、アイリスが寝る時間も過ぎてるしね」


 ブロイエさんの言葉に、先生、ウルペスさん、バルトさん、ミーちゃんがうんうんと頷く。むむっ! みんなして、私を子ども扱いして! 私だって、あと少し起きてるくらい、訳ないんだから!


「結論から言うと、やっぱり、人族の領域内にエルフの隠れ里があるらしい。んで、その里のすぐ近くに遺跡があるってさ。僕の古い友人の話をしたら、該当する人物に心当たりがあるみたいだった」


 おお! 物語に出て来るエルフ族の青年に心当たりがあるって、これは間違いない!


「十中八九、僕の友人の故郷だろうね」


「遺跡に潜る事は出来そうですか?」


 そう尋ねたのはバルトさん。真剣な面持ちでブロイエさんを見つめている。


「すぐには無理。ただ、少し待ってもらえれば、堂々と潜れるよ。調査という名目で、ね。調査班の編成は、ラインヴァイスに一任する事になると思う」


「分かりました」


 先生がお仕事中の様な真面目な顔で頷く。先生が調査班の編成をするなら、ウルペスさんとバルトさんが選考に漏れる事はないな。うん。


「あと、一応、今後の対応を説明しておくね。エルフ族の里と未調査の遺跡を人族の領域の中にそのままって訳にもいかないし、領域の再編をする事になると思う。魔人族の領域が少し広がる事になるけど、まあ、未調査の遺跡があるような森を人族が惜しむとも思えないし、これはあまり問題ないかなぁと思ってる。問題が出たら出たで、どこかの領域を少し削れば良いし、その辺はシュヴァルツ次第だねぇ」


「抜け穴の件は?」


 そう問い掛けたのはバルトさん。調査に出た手前、抜け穴の存在は気になるのだろう。流石はバルトさん。真面目だ。ウルペスさんなんて、「ああ、そう言えばそんな話、すっかり忘れてた」って顔してるのに。


「うん。それに関しては、牢の中の子と取引する事にした。このまま牢に入れておくのも可哀想だしね。どうせ、君達が先に手を出したんでしょ? あの子もそう言ってたし」


 ブロイエさんがにっこり笑ってそう言うと、ウルペスさんが「うげっ」って顔をした。と思ったら、そっぽを向いて口笛を吹きだした。バルトさんは苦笑している。


「それは、宰相殿のご想像にお任せします。で? 取引とは? 抜け穴の場所を教える代わりに無罪ですか?」


「う~ん……。無罪と言うよりは、執行猶予かな? 僕としては、無罪でも良いと思うんだけど、後々を考えると、ねぇ?」


「ですね」


 先生が苦笑しながら頷く。それにしても、後々? 後々って何だ? 私がブロイエさんと先生の間で視線を彷徨わせていると、先生がくすりと笑った。


「遺跡調査。それに協力させるには、無罪にしてしまうとごねられる可能性がありますから、執行猶予の方が都合が良いのですよ」


「そうそう。寝食とか人員とか、彼らには協力してもらいたい事は山ほどあるからね。ま、僕を見て顔を青くしているような輩とそのお仲間に、協力要請を蹴る度胸なんてあるとは思えないんだけど。一応、ね」


 ほ~。そうか。そこまで考えての執行猶予か。一人感心していると、ブロイエさんがにこりと笑った。


「ところでアイリス? 君、あの牢の中の子に何か言った?」


 何か……? 何か、か……。うん。言った。けど、正直に言わない方が良さげ。だって、怒られそうだもん。ブロイエさんと先生に。


「い、言ってないよ?」


「ホント? 接触したんじゃないの? 怒らないから、本当の事教えて?」


「い、言ってない、もん……」


「そうなの? しっかりした良いお嬢さんをお持ちでって言われたんだけど、本当に接触してないの?」


「う……」


「孤児を引き取るなんて、なかなか出来る事ではありませんって言われたよ?」


「うぅ……」


「魔術を教えたのはお父様ですかって聞かれたけど? どうなの?」


「ご、ごめんなさい……」


 そこまで詳しく話を聞いていたとは……。ブロイエさんってば、私がした事とか言った事とか、全部把握してるな……。


「悪い事をした自覚があるなら、最初から素直に謝りましょうね?」


「はい……」


「相手は一応罪人なんだから、接触したいならしたいで、僕に一言相談する。君の身にもしもの事があったら、みんな悲しむんだからね? それに、一緒にいたバルトが責任を取らされるんだから。今後は軽率な行動をしないって約束して?」


「はい……」


 しょんぼり項垂れていると、お隣に座っていた先生が慰めるように私の頭をポンポンとした。顔を上げて先生を見る。すると、先生は苦笑していた。うぅ……。先生に呆れられた……。


「ただね、君の機転のお蔭で尋問がスムーズに終わったのも事実。だから、お礼を言わせてもらう。ありがとう、アイリス」


 そう言ったブロイエさんは、凄く優しい目をして私を見つめていた。もしかして、今、褒められた? おお! ブロイエさんに褒められた! 褒められちゃったよ、先生! そう思って再び先生を見る。すると、先生は「良かったね」と言うように、優しく笑ってくれた。

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