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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第四部

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調査結果 1

 秋の足音が聞こえ始め、先生のいない生活にもだんだん慣れてきた頃、ウルペスさんとバルトさん、ミーちゃんの一年目の旅が終わった。予定通りに帰還した三人は、竜王様とブロイエさん、先生に報告を終え、明日から通常通りの生活に戻る為の準備を始めた。


 私はウルペスさんのお店のお掃除をお手伝いする事にした。先生も一緒。今日は先生、お城にお泊りするらしい。嬉しいな。ご機嫌に鼻歌を歌いながら掃除する私を見て、先生がくすりと笑う。


「ご機嫌ですね、アイリス」


「ん! この後、先生と一緒にごはん食べるんだもん! それで、私のお仕事が終わったら、一緒にお茶するんだも~ん!」


「そこまで楽しみにしてくれていると、僕も城に来た甲斐があります」


 そう言って、嬉しそうに笑う先生。そんな風に笑ってくれるなら、私も楽しみにしていた甲斐があった!


「あ~。そこのお二人さん? 今日の夜、秘密の研究室に集合って事、忘れてない? 報告会はしなくて良いのかい?」


 呆れた声でウルペスさんが問う。私と先生は思わず顔を見合わせた。


「忘れてた。先生とごはん食べて、お茶するのだけで頭がいっぱいだった!」


「僕もです」


「やっぱり……」


 がくっとウルペスさんが項垂れる。でも、仕方ない。先生がお城に帰って来たの、お引っ越ししてから今日が初めてなんだもん。色々忙しくって、なかなか帰って来られなかったんだもん。


 そりゃ、緩衝地帯で一緒にお昼ごはん食べたりはしてたけど、お城で過ごすのとは訳が違う。小さい子達が先生に纏わり付いてて、二人っきりって感じじゃないんだもん。その点、お城では二人っきりなんだもん! 浮かれるなって方が無理だと思うの!


「ま。日を改めてでも良いよ? アイリスちゃんもラインヴァイス様も、久しぶりに二人っきりでゆっくり過ごしたいんでしょ? 俺とバルトさんも、明日から通常通りの生活に戻る為に、やらなきゃならない事、たくさんあるし」


「では、お言葉に甘えさせてもらっても……?」


 先生がおずおずと尋ねる。すると、ウルペスさんがニカッと良い顔で笑い、頷いた。


「もちろん。バルトさんとミーさんにもちゃんと言っておいてもらえば問題無いっしょ!」


「分かりました。バルトには、こちらから話を通します。叔父上にも」


「あと、報告会の日程、決めておいてよ? 俺はいつでも大丈夫だから。決まったら連絡ちょうだい」


「ええ」


 こうしてこの夜は、久しぶりに先生と二人っきりでゆっくりと過ごした。バルトさんもミーちゃんもブロイエさんも、嫌な顔せずに了承してくれたし、みんなに感謝感謝だ。


 そして十日後。先生が再びお城に帰って来たその日の夜、調査に関しての報告会を行う事になった。秘密の研究室に集まり、円座に並べた椅子に座る。


「では、これより報告会を始めます」


 ウルペスさんの開会宣言に、私とブロイエさんがパチパチと手を叩いた。先生は微笑みながら頷き、バルトさんはちょっと呆れたように笑っている。バルトさんの膝の上では、ミーちゃんが大あくび。


「え~、エルフの隠れ里の件ですが、俺たちが調査をした範囲にそういった集落は見当たりませんでした。今回の調査は、魔人族の領域側からの調査でしたので、人族の領域にあるらしいエルフの隠れ里が見当たらないのも、致し方ないとは思います」


 ほうほう。調査範囲の中に隠れ里はなかったのかぁ。まあ、ウルペスさんが言った通り、人族の領域の中にあるという話の隠れ里が見つからないのも仕方ないだろう。


「城壁の方に関しましては、ブロイエ様、ラインヴァイス様には先日報告をしましたが、切れ目らしきものは、目視では確認出来ませんでした。以上!」


 以上って、これで終わり? えぇ~! 収穫は? わざわざ調査に行ったんだから、何かしらあったでしょ?


「では、来年の調査の予定です。これもブロイエ様とラインヴァイス様には既に報告済みですが、次の調査では魔術探査を行い、城壁の罠の切れ目を探す予定です。これでも異常が見つからなかった場合ですが、非常に残念ではありますが、城壁の調査は打ち切りとなります」


 な、何だってぇ! それじゃ、何も収穫がない! エルフの隠れ里も、その近くにあるという遺跡も、遺跡の中にあるというホムンクルスの知識も、何も見つからないじゃないか!


「もっと調査出来ないの?」


 私がそう問うと、先生とブロイエさんが顔を見合わせた。


「無理だねぇ。この調査は元々、城壁に異常があるかを確認する為のものだったからさ~」


 そう言ったのは、私のお隣に座るブロイエさん。苦笑しながら私の頭に手を伸ばす。そして、なだめるように、よしよしと私の頭を撫でた。


「でもぉ!」


「俺らの調査はついでなんだよ、アイリスちゃん。隠れ里か遺跡が見つかったら儲け物なの。まあ、全く収穫がなかったわけじゃないし、調査が打ち切りになっても、ミーさんの力を借りれば継続して調査出来るんだから良いんだよ」


 ……ん? ウルペスさんってば、今、さらりと気になることを言ったぞ。収穫って何だ、収穫って!


「ウルペスさん! 収穫って? 何か手がかりでも見つけたの?」


「それは僕も気になるねぇ。何があったのかな? 勿体つけないで、サクサク報告しようか~?」


 にっこり笑ったブロイエさんの言葉にウルペスさんが苦笑し、バルトさんが小さく溜め息を吐いた。その後、口を開いたのはバルトさんだった。


「確証がないので、公には報告していなかった事が一つ」


「ん~? 何かな?」


「大森林へ調査に入って数日したあたりから、我々を見張るような気配が現れました。姿が見えず、何者かも分からなかったですが――」


「隠れ里の者の可能性が高い?」


「はい。大森林は、周囲に里のない辺鄙な場所ですし、おそらくは」


「そっかぁ。来年の調査で接触してくる可能性はあるかなぁ?」


「低いでしょうが、皆無ではありませんね。少なくとも、見張りには付くかと……」


「もうさ、いっそのこと、捕まえちゃえば? そうすれば城壁の抜け穴の場所だって分かるし、隠れ里の場所も分かる。一石二鳥じゃない?」


 え~。軽い。結構物騒な事を言ってるはずなのに、軽すぎる……。流石はブロイエさん……。


「許可が頂けるのなら」


「出す出す。いくらでも出したげるよ。ねぇ? ラインヴァイス?」


「え、ええ……」


 急に話を振られた先生が、困惑気味に頷く。と、ブロイエさんがにんまりと笑い、ドンと自身の胸を叩いた。


「シュヴァルツの許可は任せておいて。という事で、思う存分暴れてきなさい!」


「暴れはしませんよ……」


 バルトさんがため息混じりにつっこみを入れる。私と先生、ウルペスさんはそんなやり取りを見て苦笑いをしていた。


 そんなこんなで一年後。再び大森林へ調査に行ったウルペスさんとバルトさんとミーちゃんは、何と、出発してから数日でお城に戻ってきた。一人のエルフの青年を、縄でぐるぐる巻きにして捕まえて……。

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