引っ越し 2
「私、先生の誤解を解きたい」
「それは……。ラインヴァイスはこうと思ったら、真っ直ぐそれを貫く性格だよ? アイリスも分かってるんじゃないの?」
ブロイエさんの言葉に、私は口を尖らせた。先生が頑固なのは私も知ってる。きっと、先生は、私がどんなに近衛師団のみんなの気持ちを伝えても、本当の意味で納得はしてくれないと思う。
「でも、どうにかしたんだもん……」
「そっか……。うん。そうだよね。どうにかしたい問題だよね」
「ん……」
「良いでしょう。この僕が協力しましょ。で、何をしよっか?」
何をすれば、先生はみんなの気持ちに気が付くのか……。好意を伝える方法って、何があるんだろう? う~ん。何かあったような……。う~ん。あ!
「贈り物! 魔人族は、好意を伝える為に贈り物するって聞いた!」
良い事を思い付いた。と思ったのに、ブロイエさんはうぇ~っとばかりに顔を顰めた。
「確かに、贈り物は好意を伝える手段ではあるけど……。男同士でそれは……」
「何で? 男の人同士で贈り物したら変なの?」
「変だねぇ。贈り物が表す好意は、愛していますって事だから。例外は、見返りがある場合だけ。これあげるから何かしてよって時ね」
見返りかぁ。それじゃ、目的が違うなぁ。好意は見返りを求めるものじゃない。純粋に、気持ちの問題なんだから。
「じゃあ、魔人族の人達って、仲良くなりたい人とどうやって仲良くなるの?」
「う~ん。そうだねぇ……。僕は一緒に呑むかなぁ。お酒が入るとね、ぽろっと本音が出たりして、普通に話をするより仲良くなれるんだよ」
「でも、先生だって、そういう機会、今までにあったよね、きっと。一度も無かったなんて無いよね?」
「うん。まあ、そうだねえ……。でも、誤解したままなんだよねぇ……」
「ん。お酒を一緒に飲むだけじゃ駄目なんだよ、きっと」
近衛師団の人達と一緒にごはんを食べたり、お酒を飲んだり、楽しい時間を過ごしたり。そういう事は、きっと、私と出会う前から、頻繁ではないにしろあったはず。でも、先生は誤解したまま。そういう事じゃ、先生の誤解を解く事は出来ないんだろう。
しばらくの間、私とブロイエさん、そして、ローザさんも一緒に頭を捻っていた。でも、良い案は思い付かなかった。好意を伝えるって難しい!
だから、次の日から、私は色んな人に意見を聞いて回る事にした。先生に隠れてこっそりと。キッチンの人達や厩舎の人達、緩衝地帯の隊長さん達などなど。手当たり次第に聞いた。意外だったのは厩舎の人達。ダメ元で質問したら、何だかんだでみんな律儀に答えてくれた。先生とバルトさんの人望って何気に凄い。
聞いた意見の中で、一番多かったのはブロイエさんと同じ。一緒にお酒を飲むだった。次に食事。他にも、一緒に狩りや採集に行くとか、手合せをするなんて意見もあった。
そのどれもが、先生が一度はみんなとしていそうな事だった。これじゃ駄目なんだよなぁ。はぁ……。良い案ってなかなか見つからないなぁ……。
「どしたの、アイリス? 何か悩み事?」
小さく溜め息を吐いた私を、アオイが不思議そうに見つめている。いかんいかん。ついつい、良い案が出ないからって、アオイの前で溜め息を吐いてしまった。アオイの寝る準備が終わって、毎晩恒例のお茶会の最中だったのに。
アオイにはこういう姿、見せたら駄目なんだ。だって、私はアオイのメイドだから。アオイは私の事を妹みたいなものと言ってくれているけど、それにいつまでも甘えていたら駄目。その辺はきっちり弁えないと。先生みたいに。
「何でもない」
「いや。何でもなくないでしょ。今、溜め息吐いてたじゃない」
「つ、吐いてないもん」
「吐いてた。嘘吐かないの。で? 何を悩んでるの?」
ど、どうしよう……。ちらりとローザさんの顔色を窺う。すると、ローザさんは微笑みながら頷いた。
「ねえ、アオイ様? アオイ様は仲良くなりたい方がいらっしゃった場合、どういった方法で仲良くなろうとします?」
私の代わりに、ローザさんがアオイに質問してくれる。アオイは腕を組み、頭を捻った。
「それがアイリスの悩み? 仲良くなりたい子でもいるの?」
「いえ。仲を取り持ちたい方々がいるのですよ」
そうそうと、ローザさんの言葉に頷く。アオイは怪訝そうに眉を顰めた。
「仲を取り持つ? それは、恋愛関係の話?」
「いえ。男性同士での話です」
「先生と近衛師団の人達……」
おずおずと口を開く。すると、アオイは更に怪訝そうな顔をした。
「ラインヴァイスと近衛師団の人達って……。取り持たないといけない程、仲、悪くないでしょ?」
「近衛師団の人達は先生の事好きだし、一目置いてると思うの。でも、先生が……」
「ラインヴァイスが? 何? 嫌われてるとでも思ってるの?」
「そう……。いなくなったら清々する人もいるかもって……この間……言ってて……」
「ああ~。それで、仲を取り持ちたいって事なのね」
「ん……。先生の誤解、解きたいの。先生がお引っ越ししたら、今よりみんなと顔を合わせる機会が減るから……」
「確かに、誤解を解くなら今のうちかー」
そう言って、アオイが神妙な顔でうんうんと頷いた。
「会食とか飲み会なんてのは、今までだってあっただろうしぃ……」
アオイがぶつぶつ言いながら頭を捻る。アオイも一緒に、どうしたら良いか考えてくれるらしい。アオイは異世界生まれだから、もしかしたら、私達が思い付かないような、奇抜な案を出してくれるかも! 期待を込め、じっとアオイを見つめる。じっと。じ~っと。
「すっごい圧を感じる……」
私の視線に気が付いたアオイが苦笑した。ローザさんも苦笑している。
「だ、だって! アオイ、私の知らない事、いっぱい知ってるんだもん!」
「私の知らない事……? ああ……。異世界文化の事か……」
「ん! アオイの生まれた世界だと、仲良くなる為にどうするの? 何するの?」
「ええっと……。たぶん、こっちの世界と変わらないと思うよ。一緒に遊んだりごはんを食べたり、呑み行ったり……」
「そっかぁ……」
アオイの生まれた世界でも、その辺は変わらないのかぁ……。世界が違うと方法も違うのかなって、ちょっと期待したんだけどな……。
「あ。でも、引っ越しする人にあげる物だったらあったよ。私、小学生――小さい頃に作った事ある」
ん? 引っ越しする人にあげる物? あ。でも、プレゼントは駄目だ。変だって、ブロイエさんが言ってたもん。
「プレゼントは駄目なんだよ?」
「うん。まあ、そうなんだけど……。アイリスが取りまとめて、アイリスの手から渡せばそんなに変じゃないかもしれないし……」
アオイの言葉に、ローザさんが一つ頷き、微笑んだ。
「では、その辺りの事は、うちの人に確認してみますね。で、どういった物を渡すのです?」
「寄せ書きって分かります? 色紙っていう厚紙に、みんなで一言ずつ書くんですけど――」
アオイが寄せ書きについて一通り説明してくれる。何でも、アオイが小さい頃、引っ越しをする子がいるんで、「くらすめいと」なる友達集団で作って、一緒に過ごす最後の日にあげたんだとか。「元気でね」とか、「別の学校になっても友達だよ」とか、そう言う一言を、「しきし」なる分厚い紙に書き込むらしい。
それなら、近衛師団の人達にも書いてもらえる。早速ブロイエさんに確認して、変じゃなかったら「しきし」を商業区に探しに行こっと!




