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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第一部

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魔術

 ラインヴァイス先生は手にしていた本の束をテーブルに置くと、並んで座る私とアオイの正面に腰掛けた。やっと魔術の練習が始まる! ドキドキ! ワクワク!


「まず、何から始めるの?」


 アオイがラインヴァイス先生に問う。すると、先生はにっこり笑いながら一本の杖を取り出した。私の腕より長い杖だ。見た事の無い、ツヤツヤテカテカした金属で出来ている。先っぽに嵌った透明の石を守るように、蔦みたいな植物が絡み合った形だ。


「まずはこれを。アイリスに差し上げます」


「ん。ありがと」


 ラインヴァイス先生が私に杖を差し出す。私はそれを受け取り、部屋の明かりに掲げてみた。光を反射して、杖がキラキラと光る。とっても綺麗。それに、先っぽの石、先生の剣の石と同じみたい。お揃い、お揃い!


「私が幼少の頃に使っていた杖です。アイリスの魔力媒介には丁度良いと思います」


 魔力媒介? 何だろう? この後、教えてくれるのかな? そう言えば、アオイの杖は? 私ばっかり貰って良いのかな? と思っていたら、ラインヴァイス先生が口を開いた。


「では、アオイ様。魔鉱石の短剣を出して下さい」


「へ? 何で?」


「魔鉱石は魔力媒介として使えますので。使い方を説明します」


 アオイには、魔鉱石の短剣とかいうのがあったのか。ふむふむ。私は杖で、アオイは短剣なのか。ほうほう。でも、出して下さいって、どこから出すの? アオイ、短剣持ってるように見えないんだけどなぁ……。不思議に思ってアオイを見つめていると、アオイの左手の甲にある精霊の紋章が光った。そして、テーブルの上に一本の短剣が現れる。す、すご~い! アオイってば、何も無い所から短剣出しちゃったよ! ほぉ~!


 アオイの出した短剣は、薄らと光る、不思議な金属で出来ていた。私の杖はツヤツヤテカテカキラキラしてるけど、アオイの短剣はぼうっと光る感じ。あの光、何だろう? 不思議! 不思議! とっても不思議!


「では、魔力媒介の説明から――」


 ラインヴァイス先生が魔力媒介の説明を始める。私はアオイの短剣から先生に視線を移し、背筋を伸ばしてそれを聞いた。でも、ラインヴァイス先生の説明が難しすぎて、全然理解出来なかった。でもでも! 魔力媒介は、身体の中にある魔力を外に出す道具だって事は分かったもん。それに、魔力媒介が無いと魔術が使えない事も分かったもん! それだけ分かれば十分だもん。……たぶん。


「次に、魔術体系について説明します」


「どういう魔術があるかって事?」


「そうです」


 アオイが問い掛けると、ラインヴァイス先生が「良く出来ました」とでも言うように、にっこりと笑って頷いた。むぅ~! アオイばっかり褒められてズルい! 私も褒めて欲しいっ!


「魔術には、大きく分けると時空魔術、状態魔術、攻撃魔術の三つのカテゴリーがあります」


 三つ……。あれ? 治癒術はどこ行ったの? 呪術も。


「更にそのカテゴリーを細分化し、それを極めた者が、私のような結界術師でしたり、ノイモーントのような呪術師でしたりと、称号が付く訳です」


 ん~? カテゴリーを細分化? 呪術とか治癒術とかに、カテゴリーを細々と分けてるって事? それよりも、ラインヴァイス先生って、結界術師とかいうのなんだ。そう言えば、昨日、結界術が何とかかんとかって、アオイと話してたかもしれない。話して無かったかもしれないけど。昨日は魔術習えるかもって浮かれてて、ちゃんと聞いてなかった。あっはっは!


「では、時空魔術から説明しますね。時空魔術には、結界術、空間操作術、召喚術があります。結界術はその名のとおり、結界を張る魔術ですね。当初の約束通り、お二人には絶対に学んで頂きます」


『はーい!』


 私とアオイは声を揃えて元気良く返事をした。それを見たラインヴァイス先生がにこっと笑って頷く。


「空間操作術は転移術等の、空間を捻じ曲げるような魔術の行使となりますが、お二人にはあまり必要無いかと思います。また、制御に失敗すると周囲に与える影響が大きい為、結界術や召喚術の経験を積んだ者でないと、あまりお勧めも出来ません」


 空間操作術は危ない魔術なのかな? それに、とっても難しいみたい。治癒術師になるのには使わなそうだし、この魔術はあんまり勉強しなくても良いかなぁ?


「制御に失敗したらどうなるの?」


 アオイが首を傾げながら尋ねる。すると、ラインヴァイス先生が意味深な笑みを浮かべ、口を開いた。


「最悪の場合、消滅します」


「何が?」


「世界が」


「なななっ!」


「あくまでも最悪の場合ですから。最高難度の空間操作術を暴走させた場合ですから。そんな顔、しないで下さい」


 ラインヴァイス先生が、口をパクパクさせるアオイを見つめてクスクス笑った。アオイはまだ、陸に上がったお魚みたいに口をパクパクさせている。でも、それも仕方ないと思う。今の話、アオイがお魚もどきになるくらいのインパクトがあったと思うもん。この魔術を習うのは止めよう。うん。そうしよう!


「空間操作術を学ぶ際は、それほど危険な魔術だという事を覚えておいて下さいね。召喚術ですが、これは現世や異界から魔獣や神獣を呼び出し、使役する術式です。現在のメーアが召喚術師ですね」


 メーアの名前が出た瞬間、すぐ隣からヒヤリとした空気が漂って来た。恐る恐るアオイを見る。すると、アオイは俯き、おとぎ話に出てくる魔獣みたいな、とっても怖い顔をしていた。怒ってる? 怒ってるの? ビクビクしながらアオイを見つめる。ラインヴァイス先生も、私と同じようにアオイの顔色を窺っていた。


「アオイ、様……?」


「アオイ……?」


 ラインヴァイス先生と私が名前を呼ぶと、ゆらりとアオイが顔を上げた。そして、何故かアオイの目尻が下がる。怒ってない? もう、怒ってないの? 大丈夫?


「気にしないで。続けて、続けて」


「あ、はい……。状態魔術ですが、これは呪術、治癒術、屍霊術、浄化術があります。呪術は混乱や毒、石化等、生物の身体に状態異常を引き起こす魔術です。それに対抗するのが治癒術になります。治癒術は怪我や病気の治療だけでなく、解毒、混乱や石化からの回復などがあります。呪術を極める為には治癒術を知らなくてはならず、治癒術を極める為には呪術を知らなくてはならないと言われるほど、この二つは関係が深い魔術でもあります。ノイモーントとフォーゲルシメーレは、治癒術の行使こそ出来ませんが、知識だけでしたら竜王城でも一、二を争います」


「フォーゲルシメーレも?」


 アオイが問い掛けると、ラインヴァイス先生は深く頷いた。


「ええ。薬師も呪術や治癒術の知識が必要ですからね。フォーゲルシメーレは、ノイモーント程ではありませんが、呪術行使も出来るはずです」


 ほうほう。治癒術に詳しいのは、魔女っぽいノイモーントさんと、赤い目のフォーゲルシメーレさんなのかぁ。ラインヴァイス先生じゃないんだ……。


「アイリス。彼らにも色々と教えてもらうと良いですよ」


 私、教えてもらうならラインヴァイス先生が良いな。ラインヴァイス先生、優しいもん。ノイモーントさんとフォーゲルシメーレさん、怖いもん。


「でもさ、アイリスが独りでノイモーントやフォーゲルシメーレの所に行って大丈夫なの? 危なくない?」


 アオイの言う通り! 独りで行ったら食べられちゃうよ! だから、ラインヴァイス先生に教えてもらいたい!


「……大丈夫、だと思います」


 ラインヴァイス先生がそう答えると、アオイが疑り深い目で先生を見つめた。アオイの気持ち、分かるよ。だって、今、変な間があったもん。本当に大丈夫? 私、齧られたりしない?


「私が――」


「彼らの元へは一緒に行きましょうね、アイリス」


 アオイが何か言うより早く、ラインヴァイス先生がにこやかにそう言った。アオイは不満そうに先生を見ている。でも、先生はそんなアオイの視線にはお構いなしだ。


 へへへ。一緒に行きましょうね、だってぇ! 何か、嬉しいけど恥ずかしい~! 顔がポッポする! 私がこくりと頷くと、ラインヴァイス先生も笑って頷き返してくれた。そして、魔術の説明の続きをしてくれる。私はそれを上の空で聞いていた。だって、治癒術の説明、終わっちゃったんだもん。治癒術以外の魔術は、アオイの為の説明なんだもん。


 一通り魔術の説明が終わると、ラインヴァイス先生は二冊の本を私達にくれた。革の表紙の分厚い本と、中身が白紙の本だ。革の方を開いてみると、びっしりと何かが書かれていた。でも、私、字、読めない。これ、何が書いてあるんだろう?


「こちらは初級魔術が載っている魔道書と、お二人用の写本です。お二人には、この写本を使い、初級魔術を全て習得して頂こうと思っております」


 ラインヴァイス先生がテーブルの上の白紙の本を指差す。ふと隣を見ると、アオイが興味津々な顔で革の表紙を開いていた。パラパラと本を捲りながら、「う~ん」とか「ふむふむ」とか言っている。ふ~ん。アオイは字、読めるんだ。あれあれ? そうすると、字、読めないの、私だけ?


「あの……」


 本を捲る手を止め、ラインヴァイス先生を見る。字、読めないって言ったら、ラインヴァイス先生、どう思うかな? ガッカリするかな? 呆れるかな? でも、村でも孤児院でも、誰にも字、教えてもらえなかったんだもん……。


「どうしました、アイリス?」


「あの、あの……私、字、読めない……」


 字、読めない子はいらない? 魔術、教えてくれない? ジンと目が熱くなり、喉の奥が痛くなる。泣いたらラインヴァイス先生を困らせちゃう。アオイだって……。でも、でもぉ……!


 ラインヴァイス先生は少し驚いたように目を開いた。と思ったら、すぐにとっても優しい顔で笑った。


「そうでしたか。では、アイリスは識字からですね」


「でも、魔術も……」


「分かっています。急ぐ必要はありません。識字と魔術、二つを少しずつ学びましょう」


 目、治すまでに時間掛かっちゃうよ? それでも良いの? 怒らないの? ガッカリしないの? 先生は、相変わらず優しい顔で笑って私を見ている。その顔を見てると、何だか余計に泣きたくなってきた。でも、何とか涙を堪えて小さく頷く。


「では、今日はここまでとします。昼食のお時間になりますので、お部屋に戻りましょうか?」


「はい。ありがとうございました」


 ラインヴァイス先生が席から立ち上がると、アオイがぺこりと頭を下げた。私もアオイに一拍遅れて頭を下げる。なんか、アオイの真似っ子したみたいになっちゃったな。でも、違うもん。アオイに先越されただけだもん。明日は、私の方が先に頭下げるんだもん。負けないもん!

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