表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/265

デート 3

 ウルペスさんのお店に着くと、先生とカウンター前の椅子にお隣同士に座る。お店の奥へ一度姿を消したウルペスさんは、ホカホカと湯気の上がるティーカップが乗ったお盆を手に、すぐに戻って来た。いつだったか、ここで飲んだお花のお香りがするお茶だ。そして、お茶請けにと、ウルペスさんがカウンターの下からスミレの砂糖漬けと薔薇の砂糖漬けのビンを取り出し、小皿に取り分けてくれた。


 お茶を啜り、試しにと、スミレの砂糖漬けを一つ口に入れる。……不思議な味。不味くはないと思うし、お口の中がお花畑みたいでちょっと面白い。どれ、薔薇の方は、と。おお。お花畑感がより一層強くなった!


「アイリス」


 先生に呼ばれ、顔を上げる。すると、先生が包みを差し出した。さっきの魔道具屋さんで買った物だろう。包みを受け取り、今度は私が包みを差し出す。そうして、先生にもらった包みをいそいそと開け、中身を見た。


 包みの中身は小花のブーケの髪飾り。色は控えめな、くすんだ銅色。可愛らしい感じの髪飾りだ。せっかくだし、明日からはこれ付けよっと!


「ありがと、先生!」


「こちらこそ。この髪紐、大切にします」


「ん! あのね、明日から、先生の髪、それで私が結って良い?」


「是非」


 頷いた先生がはにかんだ笑みを浮かべる。そんな先生に私も笑みを返した。


「ところでさぁ」


 カウンターの奥の席でお茶を一口啜ったウルペスさんが口を開く。と、先生が小首を傾げた。


「はい? 何でしょう?」


「二人って、いつ結婚するの? そういう具体的な話、したの?」


 具体的な話……。そういえば、そういう話、全然してなかった。思わず、先生と顔を見合わせる。


「その様子だと、全然してなかったみたいだね……」


「ええ、まあ……」


「でも! 結婚するんだもん! ねえ、先生?」


 私が問うと、先生がこちらを向いてにこりと笑って頷いた。具体的な話をしていなくても、これだけは決定事項なんだもん。私も先生に笑みを返す。と、ウルペスさんが盛大に溜め息を吐いた。


「あのね、アイリスちゃん。ラインヴァイス様って変に気が長いと言うか、のんびりしたところがあるから、気が付いたらアイリスちゃんがおばあちゃんになってる、な~んて事もあるかもよ?」


「え……」


 それは困る。おばあちゃんになったら、先生と結婚出来なくなってしまう!


「具体的な時期、決めておいた方が良いよ、きっと」


「分かった! 先生、いつ結婚しようか?」


「あの……それは……その……。そ、そもそも、貴女は未だ、婚姻の意味も分かっていない訳ですし、そんな、急がずとも……」


「意味って?」


「それは……。あの……ローザ様に聞いて下さい……」


 最後の方は消え入りそうな声で先生が言う。見ると、先生の頬が薄らと赤くなり、目が泳いでいた。私、そんな、先生が照れるような事を聞いただろうか? うむむ……。


「ま、まあ、意味とかはとりあえず脇に置いといて」


 ウルペスさんが両手を脇に避ける仕草をする。ウルペスさんも意味、教えてくれないらしい。これは今晩あたりにでも、ローザさんに聞かなければ! 私だけ知らないのは、何だか悔しいもん。


「目安というか、目標というか、そういう時期を決めておいた方が絶対良いって!」


「いやに押しますね?」


「そりゃそうだよ! この間、こっちがどれだけヒヤヒヤイライラしたと思ってるの? あんなの、二度とごめんだからね!」


「それは……すみませんでした……」


「素直でよろしい」


 頭を下げた先生に、ウルペスさんが腕を組み、うんうんと尊大に頷く。付き合いが長い二人だからこそのやり取りだ。羨まし――くなんてないもん! 先生と結婚するの、私だもん! 先生は私の旦那様になるんだもん! 先生と一番仲良しなのは私なんだもん!


「せんせぇ! いつ結婚するのぉ?」


 先生の腕を掴み、ユサユサと揺する。すると、先生だけじゃなく、ウルペスさんまでもが苦笑した。


「ほらぁ。せんせーがはっきりしないから」


「そうは言っても……。僕が一方的に決めるのも違う気がしますし、アイリスが婚姻の意味を理解出来てから相談――」


「じゃあ、意味教えて! そしたら、今、相談出来るよ!」


 期待を込めて先生を見つめると、先生が視線を彷徨わせた。教えようかどうしようか迷っているというよりは、どう断ろうか考えてる感じ?


「それは……僕には荷が重すぎます……」


 先生が出した答えがこれ。私は頬を目一杯膨らませた。


「まあ、俺も、ラインヴァイス様の気持ちも分からなくはないんだよねぇ……」


 ウルペスさんが腕を組み、う~んと頭を捻る。ややあって、思い付いたとばかりにポンと手を打った。


「じゃあさ、二人で一つずつ条件出せば? そうしたら、ラインヴァイス様が一方的に決めた訳じゃ無くなるじゃない?」


「条件って? 例えば?」


 小首を傾げて問う。すると、ウルペスさんがニッと笑いながら、人差し指を立てた。


「アイリスちゃんの場合なら、治癒術師になれたら、とか?」


 ほうほう。治癒術師になれたら、先生と結婚かぁ。私も先生も、今より大人になってて――。お披露目はどこが良いかなぁ? お城? でも、アオイの時みたいな盛大なのは嫌だな。お世話になった人達だけの、内輪のパーティー的なものを開いてぇ……。それで、ドレス着て、目一杯お洒落してぇ……。アオイのお披露目の時みたいな、真っ白いドレス、良いなぁ。やっぱり、先生のお隣に並ぶなら、真っ白が良いと思う。それで、お披露目の当日は、私が先生の髪を結ってあげて、先生が私の髪を結ってくれてぇ……。


「お~い。アイリスちゃん、戻っておいで~」


「はっ!」


 危ない、危ない。妄想の世界に浸っていた。ウルペスさんが声を掛けてくれなかったら、延々と妄想し続ける所だった……。


「とまあ、こういう条件を一つずつ出し合って、二つの条件を満たしたら晴れて結婚、みたいな?」


「ん! 分かった!」


 条件かぁ。どうしようかなぁ? 大人になったら、とか? でも、大人になるって何だ? 何をもって大人になったって言えるんだろう? やっぱり年齢?


「では、僕の条件から。アイリスが十六歳になったら、で良いでしょうか?」


「何で十六歳?」


 小首を傾げる。ウルペスさんも不思議そうな顔をしていた。十六歳って、凄く中途半端だと思う。十五歳とか二十歳とかのキリの良い歳じゃなくて、何故十六歳……?


「ヴォルフの奥方、ミーナさんの婚姻年齢です」


「あ、そっか!」


 思い当たり、ポンと手を打った。言われてみれば、ミーナって、十六歳でヴォルフさんと結婚してた。ミーナの結婚年齢を最低年齢って考えて十六歳。なるほど、なるほど。


「考えたね、ラインヴァイス様。前例があれば、変な噂が立つ心配は無いもんねぇ?」


「ウルペス。余計な事は言わないように」


「へ~い」


 二人のやり取りを聞きつつ、私は腕を組んで頭を捻った。年齢は先生に取られてしまった。となると、やっぱり、私は治癒術師になれたらって条件かなぁ?


「私が治癒術師になれるのって、あと何年くらい掛かるかなぁ?」


「本来の意味での治癒術師ですと、あと十年は掛かるでしょうね」


 先生の答えに、私はギョッと目を剥いた。じゅ、十年! ウルペスさんも頷いているところを見ると、それが妥当なんだと思う。けど、そんなに掛かるなんて思ってなかった!


「でもでも! 私、次から上級の術、習うんだよ!」


「ええ。しかし、回復系の大半を後回しにしている事を忘れていますよ。治癒系、回復系、どちらも精通していてこその治癒術師でしょう?」


「じゃあ、私、先生の目を治す最高位の術を使えるようになっても、治癒術師じゃないの? 最高位魔術まで使えても、治癒術師を名乗ったら駄目?」


「それは……。治癒系特化の治癒術師という事になるのでしょうか……? そういった治癒術師も、いそうではありますね……」


「って事は、治癒術師、名乗っても良いのかなぁ?」


「どうでしょうかねぇ」


 先生と二人、腕を組み、う~んと頭を捻る。


「だあぁぁ! 治癒術師かそうじゃないかは、今は重要じゃないでしょ! 条件! 結婚の条件!」


 カウンターをひっくり返しそうな勢いでウルペスさんが叫ぶ。すっかり話が逸れていた。危ない、危ない。


「先生の目、治すまでだったら、あとどれくらい掛かる?」


「そうですねぇ……。五年前後といった所だと思いますよ」


 五年……。私がお城に来て、今、四年目で、私はもうすぐ十二歳。十二足す五で十七。先生の目を治す頃、私、十七歳前後かぁ……。先生の出した条件は、私が十六歳になったらだったし、この条件なら丁度良いかもしれない。うん。決めた!


「じゃあ、私の条件は、私が先生の目を治したら。そうしたら結婚しようね、先生!」


 私がそう言うと、先生が目を見張った。でも、すぐに嬉しそうに笑って頷いてくれる。そんな先生に、私も笑って頷き返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ