表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/265

隠れ里 1

 窓の外が夕日で真っ赤に染まり、そろそろ夕ごはんという頃、ウルペスさんとバルトさんがお屋敷に戻って来た。スマラクト兄様のお部屋でボードゲームをしていた私達に、使用人さんがそう教えに来てくれた。


「そうか。では、そろそろ夕食にしようか」


 兄様がソファから立ち上がり、ローテーブルの上のボードゲームを片付けようと手を伸ばす。私はそんな兄様の手をペチッと叩いた。


「まだ終わってないよ!」


「しかし、夕食後はウルペスで化粧練習をするのだろう?」


「ん。その後、この続きするの」


「だが、ウルペスとバルトもいるのだから、初めから――」


「ビリになりそうだからって、ずるいよ、兄様!」


 現在の順位は、一位先生、二位私、三位カインさん、ビリ兄様。一位から三位は接戦だけど、兄様は断トツのビリ。だから、初めからやり直したいのだろう。でも、そうはさせないんだから!


「わ、分かった。分かったから、そんな顔をするでない」


 分かれば良い。私が大真面目な顔でこくりと頷くと、兄様が苦笑した。


「アイリスは、勝負事には厳しいな」


「負けず嫌いなんですよ、こう見えて」


 そう答えたのは先生。こう見えての意味が気になる。けど、負けるのが嫌いなのは本当。だから、私は再び頷いた。


「そうだったのか。ならば、アイリスは研究者に向いているのかもしれないな」


「そうなの?」


「ああ。研究者の資質十分だぞ。負けず嫌いだし、意外に頑固なのだから」


「私、頑固じゃないもん!」


「自分の事を頑固じゃないと言う者ほど頑固だと、相場が決まっておるのだぞ?」


「兄様の意地悪!」


 私が頬を膨らませると、兄様が声を出して笑った。んもぉ! そうやって、すぐからかうんだから!


「まあまあ。頑固なのは悪い事ではありませんから」


 そうフォローを入れたのは先生。でもね、先生。それじゃ、私が頑固だって言ってるのと同じなんだよ! フォローになってないんだよ!


「叔父上も案外頑固ですし、優秀な研究者には必要な資質なんですよ……たぶん……」


 たぶんって……。しかも、消え入りそうな声で言わないでよ、先生。今ので一気に信憑性が無くなったよ。


 兄様の部屋を出ると、私達を先導するようにカインさんが前を歩く。私と先生は手を繋ぎ、兄様は私の隣に並んでその後に続いた。


「僕は父上のようにはなれんな。あんな風に過ごしていたら、頭にカビが生えてしまう」


「スマラクト様は研究ではなく、探索の方がお好きですか?」


 先生が首を傾げながら問う。すると、兄様が深く頷いた。


「うむ。出掛ける度に、新しい発見があるからな。遺跡にも一度入った事があるが、あれは楽しかった!」


 そう言って、満面の笑みを浮かべる兄様。そっか。兄様は研究より探索派なのか。お出掛け好きなのか。


「僕はどちらかと言うと、叔父上の様な過ごし方の方が性に合っていますね。アイリスは?」


 先生に問われ、私はう~んと頭を捻った。行った事の無い所に行くのは楽しいと思う。離宮、楽しかったし。でも、遺跡に入るのは怖い。それに、知らない人とお話するのは緊張する。それだったら、私はたくさんの本に囲まれて、研究室で過ごしていたい。


「私も。先生とブロイエさんと一緒!」


 先生と笑みを交わす。すると、兄様が面白くなさそうにフンと鼻を鳴らした。


「どうせ、僕は母上似だ。王族らしい過ごし方など、性に合わん!」


 あれれ。兄様が拗ねちゃった。それにしても、王族らしい過ごし方かぁ。ついつい忘れそうになるけど、兄様も、竜王様とは血縁関係がある王族だ。自由に方々を飛び回ったら駄目だ。みんなに止められるのは当たり前。でも、そう思わない人がいた。先生が不思議そうに首を傾げる。


「王族として、屋敷に留まるよう、誰かに言われました?」


「いや。だが、皆、城や屋敷に篭っておるだろう。父上だって、ラインヴァイス兄様だって、竜王様だって」


「叔父上と僕は、性に合わないからですよ。懸案事項は配下に見に行かせ、その報告を聞いて策を考える方が性に合っているだけです。竜王様は、流石においそれと城を空けるなど出来ませんが、フットワークは軽いですよ? アオイ様が中央神殿に攫われた際、メーア大陸に飛んで行く程に」


 竜王様はお城の結界の管理をしてるからね。おいそれとお城を空けられないから、普段はお城に篭りっきり。でも、アオイの時は対応が素早かった。その日のうちに、攫われたアオイを連れて帰って来るんだから。私も神妙な顔でうんうんと頷く。


「王などという立場になければ、それこそ、国中を飛び回るようなお方です」


「そ、そうだったのか……!」


「ええ。それに、王族らしいと言うのなら、国の情勢把握こそが最重要ではありませんか? スマラクト様が方々をその目で見て回り、知見を広げる事を、誰にも止める権利などありません。叔父上もよく言っていませんでした? 好奇心旺盛な事は好ましい、と。書物を読むだけでなく、方々を見て回る事も立派な探求だと、僕はそう思いますけど?」


「そうか……。そうだな。うむ。そうだ!」


 パアッと顔を輝かせる兄様を見て、先生が優し気に微笑んだ。と、前を歩くカインさんが深い――それはそれは深い溜め息を吐いた。


「ラインヴァイス様。あまり坊ちゃまを焚き付けないで下さいませ。坊ちゃまが自由に飛び回っては、私の寿命が縮みます。世話係りの身にもなって下さい」


「ははは。すみません。その時は、近衛師団からも人を送りますから」


「是非、そうして下さいませ」


 再びカインさんが溜め息を吐く。兄様のお世話係りも大変だ。兄様は、ブロイエさんとはまた一味違った自由人だから。苦労が絶えないんだろう。なんか、兄様のお世話係りをしているだけで、カインさんの寿命、短くなっちゃいそう……。


 そんなお話をしている間に、私達は食堂へと到着した。中へ入ると、既にウルペスさんとバルトさん、ミーちゃんが席に着いていた。私達も席に着く。


「本日分の成果です」


 そう言って、バルトさんが兄様に紙を差し出した。たぶん、明後日の登用試験の申込書だろう。昨日よりもずっと少ない。と言うか、一枚しかない。あれだけしか志願者が集まらなかったのか……。そう思ったのは私だけだったらしい。見ると、兄様と先生は目を丸くして、バルトさんが差し出した紙を見つめていた。


「エルフの里に志願者がいたのか?」


「はい。ただ――」


 バルトさんが言いよどみ、視線を彷徨わせた。報告しようかどうしようか、迷ってる感じ。


「何だ? 何か問題か? 性格や素行に問題があるのなら、竜王城に上がる前にじいに矯正させるから問題無いぞ?」


「性格と言うか、考え方と言うか……。その……同族にしては、かなり珍しいタイプではありました……」


 何だ何だ? 何でバルトさんってば、こんな言葉を濁してるんだ? 兄様も先生も不思議に思ったらしく、首を傾げている。と、一緒にエルフの里に行ったウルペスさんが苦笑しながら口を開いた。


「こんな小さな村に閉じこもって、じじばばに囲まれて暮らすのはもう嫌だ! その子、バルトさんにそう言ったんですよ。もう少し成長したら、里を出奔しそうな感じでした」


「エルフ族にしては、やけに自由人だな」


 兄様がそれを言う? 私は先生と顔を見合わせ、苦笑した。


「はい。ですので、規律に縛られる騎士に向いているかと問われたら、疑問符が付きます」


 そう答えたバルトさんは渋い顔。見ると、ウルペスさんも渋い顔をしていた。先生は先生で苦笑している。三人が三人とも、その人、騎士に向いてないよねって思ってるっぽい。私もそう思う。自由人には一番向かない職だと思うよ、騎士って。決まり事、多そうだもん。


「まあ、良い。どんな者なのかは会ってみれば分かる。こうして志願届を出したのだ。明後日の登用試験には来るのだろう?」


「と、思います」


 頷いたバルトさんに、兄様はにんまりと笑ってみせる。


「エルフの里からの志願者など、会うのが楽しみでしかない。さあ、食事にしよう!」


 ご機嫌な兄様を見ていて、私は不安になった。その人と兄様、意気投合したりして……。自由人同士、ありえない話ではないような……。




 その日の夜遅く、私達は先生が使っている客間に集合した。スマラクト兄様とカインさんには秘密。だって、ホムンクルス関連の話をするんだもん。いくら兄様が、ウルペスさんとバルトさんが禁術の研究をしているって気が付いていても、このお話し合いには入れてあげる事は出来ない。


 私達がホムンクルスの研究をしてるって露見した時、兄様にだけは迷惑を掛けたくない。みんな想いは一緒。だから、兄様が寝たかなって頃を見計らって、コソコソ集まっていたりする。


「それで、エルフの里はどうでした?」


 口を開いたのは先生。真面目なお話だからか、みんな真面目な顔をしている。だから、私も真面目な顔をしておく。


「件の物語に出て来る里ではないと思います。遺跡などは近隣にありませんでした」


「見て回ったのですか?」


「はい。小さな里でしたし、昨日とは違って志願者も少なかったので。自分は他の里についての情報収集を、ウルペスは森の探索を、時間が許す限り行いました」


「ブロイエ様並の探索は出来ないけど、うちのゴーストちゃんに探索させたから間違いないと思うよ。あの森に、遺跡は無い」


「そう、ですか……。遺跡などという魔力の乱れがある場所を、ゴーストが見落とすとは思えませんね……」


 先生が思案顔をしながら呟く。あんまり期待はしていなかったけど、物語に出て来る里じゃないってはっきりするとガッカリだよね。分かるよ、先生。


「他の里の噂は?」


「一箇所、あるにはあったのですが……」


 先生の問いに、バルトさんが渋い顔で答える。


「具体的な場所までは聞けませんでしたか?」


「はい。昔、他のエルフの里と交流があったという話だけで……。何でも、嫁いで来た女性がいたとか。しかし、この話をしてくれたのがかなりのご老体で、記憶自体があやふやになっているようで……」


「他に似たような話は?」


「いえ。まともに話を聞けたのがそのご老体くらいで……。いくら同族とは言っても、彼らから見れば自分は他所者ですから。警戒されて当然かと……」


 先生とバルトさん、ウルペスさんは腕を組んで難しい顔。おかしい。せっかく他の里の噂が聞けたのに。


「ねーねー。何で、みんなそんな顔してるの? せっかく、手がかり見つかったのに」


 私がそう尋ねると、先生が苦笑した。ウルペスさんとバルトさんも苦笑している。


「アイリスには少し難しいかもしれないが、これは手がかりと呼んで良い程の話じゃない」


 そう言ったのはバルトさん。何で手がかりって呼んだら駄目なの? そう思って先生を見る。すると、先生は優しく笑いながら口を開いた。


「手がかりと言うには、あまりにも情報が少なすぎます。嫁いで来た女性についてでしたり、その女性の出身の里についてでしたり、もう少し詳しく分からない事には、里を探しようがないでしょう?」


 言われてみればそうだ。昔はお嫁さんに来た人がいたんだよって話だけじゃ、里を探しようがない……! という事は、今日の収穫は……無し……。


「明日、また、そのご老体を訪ねてみようと思います。昔話をしていれば、思い出す事もあるでしょう。嫁いで来たという女性の縁者も探してみます」


 バルトさんがそう言うと、先生が深く頷いた。と、ウルペスさんがおずおずと手を挙げる。


「あのぉ、俺、一緒に行っても大丈夫なんですかね?」


「駄目だろうな。今日の里の様子を見ていれば分かるだろう?」


「ですよねー」


 腕を組んで溜め息を吐くバルトさんに、ウルペスさんが「ははは」と乾いた笑いを返す。今日の里の様子って……。ウルペスさん、不審者扱いでもされた?


「明日は、ここの書庫でも見せてもらえ。あの宰相殿の書庫だ。貴重な書物もあるだろう」


「へーい」


「返事ははい、だ」


「はーい」


「伸ばすな」


「はい。はいはいはいはい!」


「反抗期か。いやに遅いな」


 バルトさんがやれやれと首を横に振ると、ウルペスさんが口を尖らせてつーんとそっぽを向いた。この二人、仲が良いんだか、悪いんだか……。


 ウルペスさんとバルトさんって、根本的にタイプが違うからなぁ。ウルペスさんは色々な意味で大らかだけど、バルトさんは生真面目だし。でも、凸凹コンビって感じで、バランスは取れている、と思う……。たぶん、取れている。取れているよね? 実は、取れてないのかなぁ? う~ん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ