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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第三部

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訪問 1

 夏の暑い盛りを過ぎ、過ごしやすい日が続いてるなって思っていたある日。いつも通りアオイのお世話を終え、自分のお部屋に戻って扉を開く。と、そこに挟まっていたらしき何かがひらりと宙に舞った。これは……手紙? 床に落ちたそれを拾い、部屋に入る。そして、ベッドに腰掛けると、私はそれをまじまじと見つめた。


 表には、お手本のような綺麗な字で「親愛なるアイリスへ」とある。裏返してみるも、差出人の名前は無い。誰からだ? う~ん……。筆跡的に、先生でもブロイエさんでもなさそうだなぁ……。アオイとも何か違うし、ローザさんはもっと小さい可愛らしい字を書くし……。


 封筒に付いている赤い封蝋印は、竜王様の物と意匠が違う……。先生のとも、ブロイエさんのとも違う。でも、封蝋印って、王様とかの限られた人しか使わないものだし……。それに、この印、何処かで見た事がある気がするんだよなぁ……。どこで見たんだったかな? う~ん……。


 まあ、考えてても仕方ないし、開けてみよっと! きっと、中に差出人の名前くらい書いてあると思うし。ベリッと封を剥すと、見事に封蝋が砕け散った。ちぇ。スカートが蝋のカスだらけになっちゃった。ぺっぺっと蝋のカスを払い除け、封筒から手紙を取り出す。そして、それを読み始めた。


 結論から言うと、差出人はスマラクト兄様だった。封蝋印に見覚えがあったのは、きっと、ローザさんかブロイエさん宛ての手紙を、お部屋にお泊りした時にでも目にしていたんだと思う。無意識に覚えているとは、私の記憶力もなかなかのものだ!


 兄様からの手紙を要約するとこうだった。今度、騎士の登用試験を催すから、見学がてら遊びにおいで、と。


 前に、先生と一緒に遊びに行って以来、兄様に会ってないなぁ。時々、連絡用の護符でお話はするけど、兄様、元気かな? 思い立ったが吉日! 首に掛けてあった連絡用の護符を取り出す。


「スマラクト兄様!」


 護符に魔力を流し、兄様の名前を呼ぶ。そうして待つ事しばし。


『おお! アイリス! 久しいな!』


「ん! あのね、兄様、お手紙届いたよ!」


『そうか。思ったより早く着いたようだな。それで、遊びに来られるのか?』


「ん~。まだ分かんない!」


『何? どうしてだ! 前に、遊びに来ると約束したではないか! 時々来ると言ったきり、未だ一度も来ていないではないか!』


「だってぇ。私、お仕事あるもん」


『仕事と僕と、どちらが大事なんだ!』


「お仕事」


『ぐふぅ!』


 兄様が奇声を発し、護符の魔石に映る映像が大きくぶれた。でも、すぐに持ち直す。


『仕事が休めれば問題無いのだな?』


「う~ん……」


 お仕事を休めればって言うけど、私が休んだら、ローザさんと先生の二人でアオイのお世話をする訳で。あんまり二人に迷惑掛けたくないんだけどなぁ。


『僕が竜王様に話す。ラインヴァイス兄様が一緒に来ても大丈夫なのかも聞かないとだな』


「え~。でも、私も先生もいなくなると、ローザさんが大変だよ?」


『母上にも話をする!』


 そう言って、兄様は護符を切ってしまった。護符の魔石を見つめ、溜め息を一つ。兄様ってば、いつも強引で一方的なんだから。あんな必死にならなくても……。兄様の様子を思い出し、自然と口元が緩む。


 遊びに行くって約束、きっと、楽しみにしててくれたんだろうな。約束を破るのも嫌だし……。よしっ! 私は座っていたベッドから立ち上がった。


 向かった先は、先生のお仕事部屋。私の部屋の隣、先生のお仕事部屋に繋がる扉をノックする。でも、中からの返事が無い。お留守? 珍しいなぁ。この時間帯は、大抵、お仕事部屋にいるのに。どこ行っちゃったのかな? う~ん……。探しに行った方が早いかな? 待っていた方が早いかな? 護符で呼び出すって手もあるけど、先生、ちゃんと護符持ってるかな? いっそ、先にローザさんの所に行こうかな? でもなぁ……。


 廊下をうろうろしながら考えていると、私の足にフワフワとした柔らかい物が触れた。くすぐったい! 驚いて下を見る。すると、私の足元に、いつの間にかミーちゃんがいた。


 今の、ミーちゃんの尻尾? いやいや。それよりも、ミーちゃん、転移してきた? 私に何か用があるのかな? でも、バルトさんがいないんじゃ、ミーちゃんの言葉、分かんないよ。


 ミーちゃんをこのままにする訳にはいかないし……。しょうがないから、先にバルトさんんを探しに行こう。そう思い、ミーちゃんを抱き上げる。とたん、ミーちゃんが長く鳴いた。と同時に、足元に魔法陣が広がり、ぐらりと目の前が揺らぐ。直後、私は秘密の研究室に降り立っていた。


 研究室には先客がいた。この部屋の主、ウルペスさん。そして、ウルペスさんの共犯――じゃなかった、協力者のブロイエさんとバルトさん。そしてそして、先生。彼らは、部屋の中に丸く置かれた椅子に座っていた。


 んもぉ! 先生ったら、お仕事部屋にいないと思ったら、こんな所に!


「んじゃ、これで全員揃ったね」


 そう言ったのはウルペスさん。よく分からないけど、これから何か始まるらしい。先生へのお話は、これの後で良いか……。先生のお隣、空いている席に大人しく着く。とたん、ミーちゃんが私の腕の中から飛び降り、バルトさんの元へと向かった。そして、バルトさんの膝の上に飛び乗る。そんなミーちゃんの頭を、バルトさんがよしよしと撫でた。ミーちゃんが目を細め、満足そうにしている。


「これより報告会を始めます!」


 ウルペスさんの言葉に、ブロイエさんがパチパチと手を鳴らす。私も一緒に拍手してみた。そんな私達を見て、バルトさんが呆れたように溜め息を吐き、先生は苦笑している。


「え~、この度、めでたく、竜王様所有の禁術関連の書物、全てに目を通し終わりました!」


 お~。凄い。ウルペスさんってば、頑張った! それで、結果は? ホムンクルスは?


「結論から言いますと、竜王様所有の書物には、ホムンクルスの記述は殆どありませんでした! 名前がちょろっと出て来る程度でした!」


 な、何と……! 結果を知っていたバルトさんは何食わぬ顔だけど、先生とブロイエさんは驚愕の表情をしている。私もたぶん、同じ顔。みんなを集めたんだから、何か進展があったと思ったのに……!


「以上!」


「ちょっと、ウルペス! わざわざ呼び出して、まさかこれだけ?」


 ブロイエさんが焦ったように口を開く。私も同意。うんうんと頷く。


「現状報告は。次に、今後の方針を報告します」


「ああ……」


 納得いったとばかりにブロイエさんが頷く。私の隣では、先生がホッと安堵の息を吐いていた。私もホッとした。本当に、こんな報告の為だけに呼ばれたんだったら、どうしようかと思った。


「俺ら、ブロイエ様が書いた物語に出て来るエルフの隠れ里と、その付近にあるという遺跡に行こうと思います」


「心当たりがあるのですか?」


 先生がそう尋ねると、ウルペスさんが緩々と首を横に振った。


「だから、まずは情報収集から始める予定。という事で、バルトさん、説明お願いしまーす」


「ああ。エルフの隠れ里と一口に言っても、自分の故郷のように広く知られているものから、比喩ではなく本当に隠れて暮らしている集落まで千差万別です。物語の内容を鑑みるに、あの集落は他の部族から隠れて暮らしている集落だったと思われます。自分が知っているエルフの集落は国内に二箇所ありますが、そのどちらも広く知られている集落です。うち一箇所が自分の故郷ですが、その付近に遺跡があるという話は聞いた事がありません。同郷の者に尋ねても同じでした。他の部族の者への対応も、自分の故郷とは違いますし、別の集落だと思います。もう一箇所の集落に関しては、自分より宰相殿の方が詳しいかと……」


 バルトさんの話を聞き、ブロイエさんが腕を組んで、う~んと首を捻った。


「うちの領地の方かぁ……。僕だって、あんまり詳しくはないんだよねぇ。視察に行ったのだって、大昔に一度きりだし。僕が出向くより、向こうさんが来る感じなんだよねぇ。僕と繋がりは持ちたいけど、集落には来て欲しくないって感じ?」


「遺跡に関しては?」


 バルトさんが問うと、ブロイエさんは再び首を捻った。


「聞いた事が無いけど、それは僕がただ単に知らないだけかもしれないし、何とも言えないかなぁ……」


「そちらの集落出身の者は、城にいないのですか?」


 先生が問う。すると、バルトさんが小さく頷いた。


「自分の故郷とは、町と村ほどに規模が違います。城中を探せば一人くらいはいるかと思いますが、それを探すよりは直接訪ねる方が現実的かと思います。それに、直接訪ねれば、色々と話を聞く機会も作れます」


「という訳で、俺ら、この二つの集落に行って、他の集落の情報収集をしようと思いまーす! それで、ブロイエ様に折り入ってお願いがあるんですけどぉ」


 ウルペスさんは何かを誤魔化すような愛想笑いを浮かべ、無駄に明るくそう言った。バルトさんは硬い表情。二人の様子的に、結構無理なお願いっぽいな……。


「集落の人達に怪しまれないように、ブロイエ様の領地の方の集落へ、視察の手配してもらえません? 理由は、そうだなぁ……有能な人材を探している、とかどうでしょう?」


「確かに、優秀な人材を探し、竜王様に紹介するのも領主の仕事だね。でも、僕の一存で登用試験が出来ないの、君達も分かってるでしょ? あそこは今、スマラクトが治めてるんだから」


「そこを何とか!」


「いや、僕に拝まれてもねぇ……。スマラクトだって、領主代行としてのプライドがあるし――」


 ウルペスさんとブロイエさんのやり取りを聞きながら、クイクイと先生の上着の袖を引く。すると、先生が不思議そうにこちらを見た。そんな先生に兄様からの手紙を渡す。先生は黙ってそれを読むと、ブロイエさんにその手紙を渡した。


「おや、ま……」


 ブロイエさんが手紙を読んで苦笑する。そして、私の方を見た。


「アイリス、これ、いつ届いたの?」


「今日! さっき部屋に戻ったらね、届いてたの!」


「そっか。僕の所にも、今頃封書が届いてるのかなぁ」


「あのね、兄様ね、先生にも来て欲しいんだって!」


「そうなんだぁ。それにウルペスとバルトが便乗しても良いの?」


「ん! みんなで行く!」


 笑顔で頷くと、ブロイエさんがにこりと笑った。そして、彼はウルペスさんとバルトさんに向き直る。


「ホント、運があるね、君ら。僕からスマラクトに推薦しておくから、登用試験の参加者勧誘もちゃんとするんだよ?」


 ブロイエさんの言葉に、ウルペスさんの顔がパッと明るくなった。バルトさんもホッとした顔をしている。


 ふと、お隣の先生を見ると、先生は俯き、無表情に床を見つめていた。決して喜んでいるような感じに見えない。


 あれぇ? 先生、どうしたんだろう? もしかして、お出掛け、嫌なのかな? 私、余計な事言っちゃった……?

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