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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第三部

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ユニコーン 2

 二日後、勉強の合間に、私と先生は厩舎へと向かった。ベルちゃんのおやつのお芋の切れ端も忘れない。この間は、ベルちゃんを怒らせちゃったみたいだったからなぁ。交流、また一からやり直しかなぁ……。はぁ……。


 厩舎に着くと、ベルちゃんの寝床へと足を向けた。でも、ベルちゃんはお留守。きっと、放牧場に出てるんだろう。斜向かいの先生のユニコーンもいないし。


「そう言えば、先生のユニコーンって、お名前、何ていうの?」


「名はありませんよ。ユニコーンに名を付けているのは、アイリスくらいではないですか?」


「そうなの? 呼ぶ時、不便じゃないの?」


「指笛で呼べば来ますから」


「あ。そっか」


 言われてみれば、先生もバルトさんも、指笛でユニコーンを呼んでいた。きっと、ユニコーンは耳も頭も良い獣なんだろう。私には指笛の音の違いなんて分からないけど、彼らはちゃんと、自分を呼ぶ指笛の音を覚えて聞き分けられるんだもん。


「指笛出来ない人は? 練習するしかないの?」


 私も、出来るならみんなと同じようにユニコーンを扱いたい。そう思って聞いてみると、先生は少し考え、思い付いたように手を打った。


「リーラがそれ用の笛を持っていたはずです。アイリスになら譲っても、リーラは喜ぶかと――」


「い、いらない!」


 思わずそう叫んでいた。先生が足を止め、驚いた顔で私を見ている。私はハッとし、フルフルと首を横に振った。


「えと、あの、私、笛、使わない。ベルちゃん呼ぶ時、お名前で呼ぶ。だ、だから……」


「そうですね。せっかく名を付けたのですから、そうした方が良いかもしれませんね」


 そう言って先生は優しく笑い、私の頭を撫でてくれた。優しい手の感触に、胸の奥がズキリと痛む。


 先生、嫌な気分になったかな? リーラ姫の笛って聞いて思わず叫んじゃったけど、いらないなんて、あんな強く言う必要無かったのに……。先を歩き始めた先生の後を、とぼとぼと付いて行く。そうして厩舎を抜けて放牧場に出ると、出入り口のすぐ脇にバルトさんが立っていた。遠目にユニコーンの群れを見るバルトさんの表情はとても穏やかで、普段のちょっとだけ取っ付き難い雰囲気は鳴りを潜めている。こういう所も、彼が獣狂いと言われる由縁なのかもしれない。


「バルトさん、こんにちは」


 私がそう声を掛けると、バルトさんがこちらを向いた。ついさっきまでの穏やかな表情は一瞬で無くなり、鋭い目つきのいつも通りのバルトさんになっている。


「やっと来たか。待っていた」


 バルトさんの言葉に首を傾げる。すると、バルトさんはある一点を指差した。その先にはベルちゃん。いつも通り、先生のユニコーンと追いかけっこをして遊んでいる。でも、いつもと違う点が一つ。


「あれ? ベルちゃんの背中、鞍が乗ってる……?」


「あれに何か言ったか? 昨日から、鞍を乗せろと聞かないんだが?」


 え? 私、何も言ってない。フルフルと首を横に振ると、バルトさんの眉間に皺が寄った。


「本当に何も言っていないのか? 背に乗せろとか、一緒に出掛けようとか」


「い、言ってないよ。まだ挨拶だって出来てないんだもん。そんな事言えるくらいの仲になってないもん!」


 自分で言ってて悲しくなるなぁ。はぁ~……。私とベルちゃんとの仲は、そんな程度なんだよなぁ……。いつか、背中に乗せてもらいたいけど、そのいつかはいつになるんだろうなぁ……。


「なら良いんだが……」


 そう言ったバルトさんだけど、その顔はどこか納得出来ないって感じ。私、何も言ってないのに。濡れ衣だ!


「もしかして、なのですが……」


 先生が遠慮がちに口を開く。先生は何か心当たりがあるらしい。私とバルトさんが注目する中、先生が言葉を続けた。


「一昨日、アイリスが私のユニコーンで騎乗練習をしたのですが、アイリスのユニコーンがそれを邪魔するような行動をしていて……。背に乗せないと、アイリスが他のユニコーンに取られると思っているのではないですか? ユニコーンは主に対して忠誠心が篤いですし、ありえない話ではないと思いますが……」


 私とベルちゃん、挨拶もちゃんと出来ないのに。ベルちゃんは私を主だって思ってくれてるのかな? でも、先生がそう言うんだし……。


 先生の意見に、バルトさんは顎に手を当て、考え込む仕草を見せた。ややあって、バルトさんが指笛を吹く。その音に反応したのはベルちゃんだった。こっちを見たかと思うと、のそのそと歩いて来る。


 私達の元に来たベルちゃんが、指笛で呼んだバルトさんに鼻先をちょんとくっ付けた。ベルちゃんの頬の辺りを撫でようと手を伸ばしたバルトさんから逃げるように身を翻したベルちゃんがこちらを見る。少し首を竦めた警戒態勢でこちらに歩いて来たベルちゃんに、私はおやつのお芋の切れ端を差し出した。


 いつもなら、この辺で足を止めるはず。そう思いつつ、ドキドキとしながらベルちゃんを見つめる。ベルちゃんも私を見つめたまま、ゆっくりとこちらに歩いて来た。そして、私の肩の辺りに鼻先をちょんとくっ付けると、私の差し出すお芋を咥えた。


 恐る恐るベルちゃんの頬に手を伸ばす。逃げないでね。逃げないでよぉ……。そぉっと、そぉ~っと……。タッチ!


「さ、触れた! 先生、ベルちゃんが触らせてくれた!」


 思わず叫ぶと、ベルちゃんがビクッと身を震わせ、私に背を向けた。そのまま先生のユニコーンの元へ、逃げるように走り去る。


「あ~。逃げちゃったぁ……」


 残念……。でも、初めてベルちゃんと挨拶出来た。くふふ。挨拶出来ちゃったぁ!


「団長の予想、当っているみたいですね。あれが人の手から食べ物をもらうところなど、初めて見ました」


「今日まで諦めずに通った甲斐がありましたね、アイリス」


 先生がそう言い、にこりと笑う。私は満面の笑みを返した。


「ん! あのね、今日ね、ベルちゃんで乗る練習したい!」


「しかし、未だ互いに乗る事に慣れていないのですから、危険ですよ?」


 え~。そうなの? 危ないの? 先生がそう言うなら、今日は止めとこうかなぁ。先生のユニコーンで練習させてもらって、もう少しユニコーンに乗る事に慣れてからにしよう。と思っていたら、ベルちゃんがのそのそとこちらに近付いて来た。そして、私の脇に立つと、何かを催促するように右前脚で地面を掻く。何だ何だ?


「乗れと言っているな」


 バルトさんがベルちゃんの言葉を訳してくれる。ベルちゃんは乗って欲しいのかぁ。どうしようかな? 大丈夫なのかなぁ?


「ユニコーンの負担を考えて、普通ならもう少し成長してから訓練を始めるんだが、まあ、乗り手がアイリスならば負担も少ないだろう。それに、これの性格的に、急に動かなくなる事はあっても暴れる事は無いだろうし、アイリス次第なだ」


 乗り手が私だからって、私がチビだから、小さいベルちゃんでも乗せられる、と? ちょっと馬鹿にされた気がする。む~っと頬を膨らませ、バルトさんを横目で睨む。でも、バルトさんはそんな私を完全無視。


「どうする? 乗らないのなら、これをそのままという訳にもいかないのだが?」


「乗る」


「そうか。乗り方は? 分かるのか?」


「ん。先生のユニコーンでちょっとだけ練習したもん」


「ちょっとだけ、か……。少し待っていろ。団長」


 バルトさんが先生を呼ぶ。すると、先生は分かっているとでも言うように頷いて指笛でユニコーンを呼んだ。そうして二人と一頭は連れ立って、厩舎の方に行ってしまった。あれぇ? 私、置いてけぼり……。まあ、良いか。ベルちゃんと遊んでよっと!


「ベルちゃん、もっとお芋食べる?」


 そう聞くと、ベルちゃんがこちらを向いた。そんなベルちゃんにお芋を差し出すと、ぱくりと口に入れる。こちらをジッと見ながら、もしゃもしゃとお芋を食べるベルちゃんの何と可愛い事か。それ、もう一個。ほら、もっと食べて。ほらほらぁ~。お芋、美味しいでしょ?


 そうして二人で戯れていると、先生とバルトさんがそれぞれ自分のユニコーンに乗って現れた。ベルちゃんと二人、はぁ~とその姿を見上げる。先生もバルトさんも格好良いなぁ。


「乗る前に、基本的なユニコーンの扱い方から教える。団長と俺が手本を見せるから真似てみろ」


「アイリスのユニコーンは未だ一切の訓練を受けていませんから、二人で一緒に訓練を受けるつもりで練習しましょうね」


 思わず、ベルちゃんと顔を見合わせてしまう。私も訓練受けないといけないけど、ベルちゃんも訓練受けないといけないの?


「まずは、ユニコーンを引く練習からだ。手綱を右手で短く持って付いて来い」


 先生とバルトさんはひらりとユニコーンから降りると、それぞれのユニコーンの手綱を持って歩き始めた。私もベルちゃんの手綱を持って、その後に付いて行く。ただただひたすら付いて行く。そうしてぐるりと放牧場を一周すると、ベルちゃんが足を止めてしまった。疲れたのかな?


「アイリス。ユニコーンを歩かせて下さい」


 先を歩く先生に促され、ベルちゃんの手綱を引っ張る。のそのそと歩き始めたベルちゃんだけど、何となくその顔は不服そう。もう歩きたくないんだろうなぁ……。


「歩き始めたら褒めてあげて下さいね」


 先生の言葉に頷き、ベルちゃんの首をトントンする。


「偉いねぇ。ベルちゃん、お利口さんだね。もうちょっとだから頑張ろうね」


 おお? ベルちゃんの足取りが少しだけ軽くなった。褒めたらやる気が出た?


「思ったよりは信頼関係があるようだな。あの木まで引いたら、ユニコーンは休憩させる」


 バルトさんが指差した先には、他より少し大きめの木。その近くには数頭のユニコーン。再びベルちゃんの足取りが重くなる。もしかして、他のユニコーンがいるから、あっちに行きたくない?


「ベルちゃん、大丈夫だよ。怖くないよ。大丈夫、大丈夫」


 励ましつつ、目印の木に近付く。ベルちゃんの足取りは重いままだけど、今度は立ち止まる事無く、私が引くまま進んでくれている。頑張れ、ベルちゃん。負けるな、ベルちゃん!


 そうして目印の木まで来ると、ユニコーン達は休憩となった。引いていた手綱の束ね方と鞍への括り方を教えてもらい、ベルちゃんを放す。


 ベルちゃんは、一足先に休憩になっていた先生のユニコーンの元に行こうとして、その足を止めた。先生のユニコーンが他のユニコーン達に囲まれているからだ。先生のユニコーン大人気。それを遠巻きに見るベルちゃん、ちょっと寂しそう。


 ベルちゃんは少しの間、先生のユニコーンを見ていたけど、諦めたように背を向けた。そんなベルちゃんに気が付いた先生のユニコーンが、慌ててベルちゃんの後を追う。他のユニコーン達をその場に残して。そうして二頭は並んで歩き始めると、水場へと足を向けた。


「他のユニコーンとも交流を持ってもらいたいんだが、いつもあの調子でな……。なかなか頑固な人見知りだ。誰かさんと同じで」


 バルトさんが呆れたように溜め息を吐く。誰かさんって、私? む~っと頬を膨らませてバルトさんを横目で睨むも、バルトさんはまたしてもそんな私を無視。彼は上着のポケットからロープを取り出して私に差し出した。


「手綱の括り方を教える。これが出来るようになったら騎乗練習だ」


 騎乗練習! やっとベルちゃんに乗れる! そう思うと俄然やる気が出てきた。バルトさんかロープを受け取り、ユニコーンを柱や木に括り付ける時にするという手綱の結び方を教えてもらう。こっちがこうで、これをここに通して――。


「出来た!」


「もう一度」


「ん!」


 木に結わいたロープを解いて再び結ぶ。こっちがこうで、ここが……あれ?


「ここに通すのですよ」


 あ、そっか。先生に教えてもらった場所にロープを通して、ギュッと引っ張って、と。


「出来たぁ!」


「もう一度」


「ん」


 再びロープを解いて結ぶ。今度は教えてもらわなくても出来たぞ!


「出来た!」


「もう一度」


「ん……」


 延々とロープを結んで解いてを繰り返す。そうして何回も結び方を練習していると、「何やってるの?」とばかりに、ベルちゃんと先生のユニコーンが興味津々の様子でこちらにやって来た。


「丁度良い。アイリス、お前のユニコーンをこの木に括り付けろ」


「ん。ベルちゃん、ちょっとじっとしててね」


 ベルちゃんの背に乗っている鞍に括っていた手綱を取り、木に結わく。その間、ベルちゃんは大人しくしていてくれた。と言うか、初めての事にビックリ仰天して、動けなくなったんだと思う。その証拠に、今もベルちゃんの目は泳いでいるし、足が少し震えている。


「これからお前の主が背に乗る。少し重いだろうが我慢しろ」


 バルトさんがベルちゃんにそう声を掛ける。それは良い。きっと、ベルちゃんを落ち着かせる為だろうから。でもね、バルトさん。レディに対して重いって失礼だよ! 重くないよ、私!


「アイリス、早く乗れ」


 言われなくても乗りますよぉだ! ふん! 前に先生の教えてもらった通り、まずはベルちゃんの首の辺りをポンポンする。そして、鐙に足を掛け、ベルちゃんの背中に手を付き、グッと腕と足に力を入れた。ベルちゃんの背を跨ぎ、鞍にお尻を付いてから反対側の足も鐙に掛けて、と。おぉ~! ベルちゃんに乗っちゃったぁ!


「ふむ……。アイリスの事だから、足を間違えて後ろ向きに跨ぐかと思ったのだが……」


「わ、私、そこまで間抜けじゃないもん!」


 私とバルトさんのそんなやり取りを見ていた先生がクスクスと笑う。心なしか、先生のユニコーンも何か言いたげにこちらを見ているような……。


「そうか。既に間違えた後だったのか」


 納得いったとばかりにバルトさんが頷く。今のは、先生のユニコーンが教えたんだな! もう! 余計な事を!


「まあ、それは良いとして、少し歩いてみませんか?」


 そう言ったのは先生。自分のユニコーンの手綱を持ち、ユニコーンを引き寄せる。


「先導は私がします。バルトはアイリスの手綱を引いてあげて下さい」


「分かりました」


 返事をしたバルトさんが、木に括りつけてあったベルちゃんの手綱を解く。とたん、ベルちゃんが警戒するように頭を低くした。


「大丈夫だ。お前はあれに付いて歩けば良い」


 バルトさんが顎で先生のユニコーンを示す。すると、ベルちゃんの頭が少し上がった。先生のユニコーンの後に付いて歩けば良いだけだって分かって、ベルちゃん、ちょっと安心したのかな?


「ベルちゃん、頑張ろうね!」


 ベルちゃんの首をトントンすると、ベルちゃんがこちらを振り返った。なんとなく、ベルちゃんが目で「分かった!」って答えてくれたような気がする。


「では、出発しましょうか?」


 そう言った先生がユニコーンに跨り、ベルちゃんの初騎乗訓練が始まった。と言っても、先生のユニコーンの後に付いて歩くだけなんだけど。それでもベルちゃんにとっては勉強になるらしい。


 ぐるりと放牧場を一周し終わり、ベルちゃんから下りて、今日の訓練は終了になった。気のせいか、ベルちゃんが疲れたって顔をしてるような……。


「頑張ったね、ベルちゃん。今日は偉かったねぇ」


 ベルちゃんの頬を撫でながら褒めてあげると、ベルちゃんの目がキラキラと輝いた。ユニコーンだって、褒められたら嬉しいんだと思う。そういう所は人と一緒だ!


「また今度、一緒に頑張ろうね。今日はありがとうね」


 うりうり、うりうりとベルちゃんを撫でていると、ベルちゃんが頬擦りするように顔を寄せて来た。う~。ベルちゃんが可愛い!


「今日一日で、随分距離が縮まったな」


「ん!」


 バルトさんの言葉に笑顔で頷く。こんな可愛いユニコーンを選んでくれたバルトさんには感謝しかない。ベルちゃんが私に懐くまでにちょっと時間は掛かったけど、苦労した分、可愛さが倍増した気がする!

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